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3D 彩華の妖能変化

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 D-1  ニューヨーク喧嘩
 D-2  彩華の妖能 ミサイルを妖能力で消去
 D-3  パーティ 局長の息子ジョーと会う
 D-4  洞窟雪崩  中部地方
 D-5  幽体能力と妖体能力 能力の起源
 
 D-1  ニューヨーク喧嘩

この四月から高校生になり、祥生はプログラム解説書を出版した。
お陰げで、アメリカへ渡る頻度も増えた。今日は、プログラムの座談会にも出席をする。
「山雅さん、アメリカへも、瞬間移動で来れるんじゃないの?」
妖能力で、瞬間移動は可能だが、回数が増えれば、バレる恐れが増す。
「あれは、余程の緊急事しか使わない。」
「何故?  アメリカでも、往復30時間だよ。」
「こんな用事なら、普通の交通手段を使う。適度に普通の行動を取っておかないと、異能力が疑われる。瞬間移動がバレたら、大騒動だよ。」
「結局、そうなるか?」

その夜、彩華と祥生は、土産物を買いに出た。
二人が、ウインドウを眺めながら歩いていると、何人かの少年に声を掛けられた。
「君達は日本人か?」
「日本人ですけど、この辺りでは、珍しく無いでしょう?」
祥生は、英会話は不得意だが、翻訳アプリで対応している。イントネーションが、若干あやしいが、通じない訳では無い。
「それでは、この辺りで失礼します。」
「ちょっと待ってくれ、日本の事を知りたい。そこのレストランに行こう。」
「今日は時間が無いから、無理ですよ。」
「少しぐらい良いだろう?」
「断念ながら無理です。」
「そんなに時間は取らせないから、ちょっと付き合ってくれ。」
「申し訳ないのですが、他の人に頼んでください。」
「いいから!そこの店に入ろう。」
馬鹿らしくなった二人は、そこを離れようとした。それを、彼等は取り囲んだ。
「グズグズ言わずに付いて来い。」
「困ったもんだね、何処にも、理屈の通らないクズは居るか?」
「クズとは何だ、馬鹿にしやがって。アメリカ流の挨拶をしてやれ。」
祥生の前に居た奴が、突然殴って来る。祥生は、ヒョイとよける。
「逃げるな。」
横の奴も殴り掛かる。彩華は、興味深そうに眺めている。
祥生は、その手を掴み左へ捻った。そいつは、ストンと転ぶ。
「何をしやがる?  皆んなで掛かれ。」
「欝陶しい奴等だ。彩華、用心しててよ。」
右の奴が廻し蹴りを掛ける。祥生は受け流して、浮き加減の足を刈る。
「ぎゃっ。」
殴り掛かって来る左の奴も、出足を刈る。
「ぐっうー。」
前の奴も後の奴も、足で片付ける。祥生は大概、足だけで済ませる。
「彩華、バトンタッチだ。」
「もう、自分でやりなさいよ。」
祥生の言葉で彩華が前に出る。彩華にも経験を積ませて置きたい。
それが、祥生の想いである。
「舐めやがって、女が俺達の相手になるか?」
「騒いでないで、掛かって来なさいよ。」
彩華もその気になって、挑発をしている。
「くそっ。舐めやがって!」
一人の男が、彩華に殴り掛かった。彩華はその手を取り、内掛けを刈る。
そいつは、地に落ちる。
「ぎえっ。」
又、回し蹴りが来る。彩華は避けもせず、その脚を掴み、そのまま放り投げた。
「ぎやっ。」
その騒ぎは、路地を入った所だったが、そこへ、中年の紳士が現れた。
「何を騒いでいる。又お前等か?  旅行者に構うのは止めろ。」
そいつ等は、不満そうな顔をしていたが、渋々と路地裏に消えた。
「君達、迷惑を掛けたな?」
「いえ、大丈夫です。」
「ちょっと見て居たが、それにしても強いな?」
「まあ、喧嘩は慣れています。何処にも、あんな連中は居ますので。」
「彼奴等は息子の友達だ。しかし、最近は気が荒んでいる様だ。」
「有り難う御座いました。お手数を掛けしました。」
「警察が来ると、君達にも迷惑が掛かるので、止めさせて貰った。」


 D-2  彩華の妖能

「山雅さん、又、アフリカだよ。」
「アフリカで、何が有った?」
組織の話では軍絡みの誘拐事件だ。軍事演習の最中、軍の一部が叛乱を起した。そして将校を連れ去った。その将校の親は国の軍務大臣で有った。軍を動かす立場の要職で有る。叛乱軍は、それを承知の上で誘拐した。
「面倒な事になってるね?」
「もう一つ面倒な事は、反乱軍が敵方に寝返った事だ。」
その敵と言うのは、周囲の小さな国々からなる同盟軍で有った。
そこから、人質開放料を要求された。
「その将校の、開放依頼が来た。」
結局、彩華と祥生二人で行く。今回もアフリカ 支部から行く事にする。
「彩華、軍隊の中に、瞬間で跳べる所は無いか?」
「トイレの裏辺りなら、時間が取れそうだよ。」
「彩華、そこへ跳んでくれ。」
彩華は、妖視で眺めていたが、そこへ瞬間で跳ぶ。
「人質は何処にいる?  覗いてくれ。」
彩華は、周囲を覗いて居たが、人の居ない、良い場所を見つけた。
「側に寄って。私が瞬間移動で運ぶ。」
「着いたな? 強引に人質の側に跳ぶ。人質も見張りも記憶消去を行う。」
いささか強引な手段だが、軍隊の中では、ぐずぐずもして居れない。
「彩華、人質一人なら、見張りも少ない筈。そこへ跳んでくれ。」
彩華は、妖視で覗いていたが、部屋を確定した。
「ここへ寄って、部屋に跳ぶよ。見張りは一人だよ。」
部屋に着いた彩華は、見張りの、記憶消去を行なった。ここから人質を伴って、軍の外に跳ぶ。人質は、そこで記憶消去を行う。

「大臣、息子さんが無事戻られました。」
それを聞いた軍務大臣は、側に置いていた、赤いボタンを押し込んだ。
「卑怯な真似をしやがって、このままでは済まさんぞ。」

「山雅さん、ミサイルが、六機発射された。この近くからだよ。」
「せっかく助けてやったのに、余計な事をする奴が居る。」
「何なのよ?」
その軍務大臣は、息子を誘拐され頭に来ていた。幸い息子は助かった。
もう人質は取られていない。そこで、敵の各国にミサイルを放った。
「彩華、やれるな?  妖能で消滅させてくれ。」
「分かった、頑張ってみる。」
彩華は、妖体を飛ばし、ミサイルを追い掛ける。その速度は、ほぼ光速に近く、充分間に合う。祥生は、万が一見逃した時の為、待機している。
「後二機だ。頑張って。」
「大丈夫そうだよ。」
妖体は目的の物を追いかける。それは、他人保護と同じ機能をもたらす。
彩華たちの妖能力は、半径40米、直径にして80米の範囲に能力をもたらす。その範囲なら、その物質の消去も保護も出来る。ほどなく、ミサイル六機は消滅した。
「間に合った。無茶苦茶する国だな?」
「全くだね?  日本では考えられない状況だね?」
この小さな国では、それが限界だ。ミサイルの再配備には時間を要する。
暫くは、進展しないと思われる。結局、ミサイルは行方不明になって終わった。
「ミサイルは、敵の国共に届いたか?」
「まだ、報告は有りません。」


 D-3  パーティ

明日の午後、真奈美の案内で、パーティ用の服を借りに行く。
その日、昼食をホテルで取り、のんびりしている時、真奈美が現れた。
「行きましょうか?  今から行けば、ちょうど良い時間になります。」
服を着替え、会場に入ると、結構、盛大なパーティであった。
祥生は、PP 社の著者の中では隨分と若い。お陰で珍しがられている。
この年齢で、プログラム解説を書いたと言うのも、面白がられる理由だ。
「君、何処かで見た顔だな?」
何処かの、中年の紳士が声を掛けて来た。彩華も首を傾げている。
「何処かで会ったよね?  何処だったかな?」
服装が違うので、判別が付かない様子だ。
「昨日の喧嘩の時かな?  他の人と話をしたのは、あの時ぐらいだよ。」
彩華は、首を傾げて居たが、昨日の喧嘩の状況を、思い出した様だ。
「やっぱり、あの時の紳士だ。済みません、昨日の騒ぎの時ですよね?」
「そうだったな、何処かで会ったと思っていたら、あの時の少年か?」
「昨日は、お恥ずかしい所をお見せしました。」
「いやいや、頭デッカチの少年かと思っていたら、元気な事だな?」
「局長、知り合いでしたか?」
「ちょっとな?  昨日、偶然知り合った。」
あの喧嘩の相手が、この紳士の息子と知り合いらしい。
「息子とも、友達になって欲しいものだ。一応息子を紹介して置こう。」
「このパーティに、来て居られるんですか?」
その紳士は、直ぐ近くに居た少年を呼んだ。
「息子のジョーだ。こちらが、プログラム著者のヨシオ君だ。同じ歳だったな?」
「よろしく。日本から来た山雅祥生です。」
祥生は、自分を日本式に紹介した。しかし、通訳の真奈美が、修正をしている。
「昨日、ジミー達と揉めたのは君か?」
「昨日の騒ぎの相手は、貴方の知り合いだったんですか?」
ジョーに色々と聞かれたが、適当にぼやかした。
 

 D-4  洞窟雪崩

彩華と祥生の二人が、学校から帰っている時、彩華に電話が掛かった。
「山雅さん、中部地方の雪山で事故だって。」
スキー場から、少し離れた所で遊んでいた連中が、洞窟を見つけた。
その洞窟は谷の斜面に有り、危険な為、地元民は近づかない。
外部の連中が、洞窟の中で騒いで居ると、その振動で雪崩が起こった。
その辺りは、雪崩が起きやすい為、侵入禁止になっている。しかし、それを承知の上で入った様だ。洞窟の中に居たのなら、命は大丈夫の筈だが、危なくて、今は近づけない。洞窟の入口も雪崩で塞がれている。
「そう言う事情なら、行って見るしか無いが、彩菜は出られるか?」
「直ぐ電話をする。ちょっと待って。」
彩華は、彩菜に電話を入れた。
「彩菜、緊急だよ。出られる?  そう、家で待ってるから。」
彩菜も直ぐ帰れる様だ。用意をして、隣町の公園に行く。その公園に、ヘリが来ているので、そこまでタクシーに乗った。ヘリで現地に着いたのだが、まだ救助隊も揃って居なかった。
現地では、もう日が落ちる。彩華たちに取っては、その方が都合が良い。
「どうですか、様子は?」
「一人はトイレの為に、スキー場の方に戻って居ました。その時迄は、皆洞窟に居た様ですが、あの辺りは危なくて手の付けようが無いのです。」
「丈夫なロープは有りますか?」
「それは有りますが、雪崩が起これば、雪に埋って命が有りませんよ。」
「我々は慣れています。充分気を付けます。」
村の人達には、その様に言っておく。祥生達は雪崩ぐらいでは死なない。
「彩華、あの木にロープの先を縛りつけてくれ。」
「どうするのよ?  雪に埋まるよ。」
「僕は慣れている。そこは何とかする。」
祥生は、ロープの先に体を委ね、竹の筒を持って、そろそろと洞窟の方へ、這って行く。ここだ。生存者の気配がする。
洞窟の穴らしい場所を特定し、竹の筒を、そろそろと突っ込んでいく。抜けた。筒を挿し込む力が軽くなった。祥生は、筒の雪を吹き出し、小さな声で囁く。
「大きい声を出すなよ、雪崩が起きるぞ。小さな声で頼む。」
中の人間も気付いた様だ。
「分かった。声を下げる」
「そこに何人居る?  一人はこちらに居る。」
「五人居る。そちらの一人を合わせると全部だ。」
「分かった。一時間ほど待ってくれ。用意している。奥の方に居ろよ。」
そこへ、別の声が聞こえた。
「お前が何故、俺等に命令するんだ。人を代われ。」
「逆に聞くが、君は何故僕に命令するんだ?  そんな立場か?」
「うるさい。誰かに代われ。」
「こんな所へ誰も来ないよ。トイレに行った奴も、戻って来ないのに。」
「何でもいいから誰かと代われ。」
こいつ等はバカだろうか?  今迄に誰も来なかった事を、疑問に思わないのか?
「僕以外は誰も来ないよ。雪が溶ける迄待つか?  その内誰かが来る。」
「雪はいつ溶けるんだ?」
「四月になったら溶けるよ。」
「食料は、どうするんだ?」
「そんな事は知らん。」
「ちょっと待ってくれ。責任者を頼む。」
責任者が、直ぐ来れるのなら、今迄にもっと来ている。今迄誰も来なかったのが、まだ解っていないのか?
「今まで何を聞いていた。ここに来れるのは、忍者の僕だけだよ。元気でな?」
「そんな事で責任取れるのか?  後で後悔するぞ。」
「ボランティアに、そんな責任は無い。」
祥生は、しばらく捨て置いた。中で揉める声がしている。
「分かった、悪かった。何とか助けてくれ。」
「初めから、そう言え。要らん時間を取った。改めて用意をする。」
「初めに用意をするって、言ってたじゃ無いか?」
「君達が愚図々々言うから、止めてたんだよ。」
「誰かに代われ!」
「誰に代わるんだ?」
「お前以外なら、誰でも良い。」
「そう言って置く。何日後になるか分からんが、連絡はして置く。」
奴等は馬鹿なのか?  焦っているのは分かるのだが、今まで誰も来なかった理由を考えていない。来たくても来れなかった事に、思い至らない。
祥生は、しばらく返事をしないで放って置いた。中で揉めている様だ。
「おい、誰か居ないか?  返事をしろよ。」
それでも、祥生は返事をしない。
「どうするんだよ。帰ってしまったらしい。」
「そんな無責任な?」
祥生は一時引き上げる事にした。こんな奴と話しても、らちがあかない。
「じゃ元気でな。」
「早く助けてくれ、便所に行きたい。」
「そんな物、そこらで間に合う。これ以上付き合えない。生きてたら又会おう。」
祥生は本当にそこを離れた。周囲は薄明るい。祥生達はまだ動けない。
「おい、何とかしろ。おい、聞こえているか?  おい。返事が無い。」
「怒ってしまったんじゃ無いか?  どうするんだよ?」
流石に奴等も参ってしまった。結局、責任の押し付け合いだ。しばらくは、小声で言い合いをしていたが、疲れ切ってしまった様子だ。もう声も出せない。祥生は、皆んなの所へ帰って来た。
「五人は、生きてる様です。どうします?」
「どうにも危なくて動けない。救助隊員の命を掛ける訳には行かない。」
「雪崩を何度も起こして、雪を取り除いてしまえないですかね?」
「そんな事をしたら、あの洞窟だって、どうなるか分らん。」
「今のところは、元気そうですので、万全に考えましょう。」
救助隊も揃って居たのだが、手の付けようが無かった。救助隊側も、隊員達の命を護らなくてはならない。うっかりとは何も出来ない。
「山雅さん、どうするの?」
「彩華はどう思う?」
「いつもの、やり方しか無いわね?  瞬間移動も見せられないから、記憶消去も仕方が無いわね?」
「まあ、そう言う結論になってしまうな?  もうちょっと暗くなったら初めよう。」
彩華か祥生が、瞬間移動で中に入れば、一度で済むが、周囲がもっと暗くならないと、記憶消去の範囲が広くなる。記憶消去は五人で済ませたい。
記憶操作の出来る範囲も、そんなに広くは無い。妖能をもってしても、半径500mぐらいが限度だ。
「彩華、妖視で覗いてくれ。画像が必要だ。」
「わかった。山雅さんの頭に送る。」
「彩華、雪崩を一度起こして、歩けた様に誤魔化す。この林へ送る。」
「なるほど、瞬間移動を、無かった事にするのね?」
彩華と祥生は、瞬間移動で洞窟に入った。そして塞いでいる雪を除ける。
「君達はどうやって、ここに来た?」
「我々だって動けるんじゃ無いのか?」
「君達は、洞窟を探らなかったのかい?  こんな状況で。」
隙間が出来た雪の面は、上から崩れ、雪崩を誘発した。
「雪崩を起こして、どうするんだ?」
相変わらず、愚図々々と文句や質問をして来たが、二人は無視をする。
雪崩はまだ続いている。彩華は、林の中に五人を瞬間で移し、そこで記憶を消去した。
そして三人は、いつもの如く、忽然と姿を消した。
「君達、どの様にして、ここ迄来られたんだ?」
「雪崩が起こって、気が付いたら、林の中に居ました。」
彩華たちが、瞬間移動で送ったのだが、後の記憶消去の為、頭が霞む。
「危ない事をする。まだ雪崩は起こるぞ。助かったから良かったが?」
「誰か助けに行かなかったか?」
他の人が聞いている。
「誰かと、話した様な気がしたんだけど、よく覚えていない。」
今の状況では、瞬間移動しか方法が無い。それを隠すため記憶消去まで行った。この事件は、何ともスッキリしないまま、終った。


 D-5  幽体能力と妖体能力

「彩華、能力について整理をしてみよう。」
喫茶店で、祥生が彩華に話している。今日は彩菜も居る。
「基礎能力は、分かるな?  初めは基礎能力しか無かった。」
それが、いつの頃からか、幽体機能やら、妖体機能やらの能力が付いた。この地球で、それらの必要性が生じたからだろう。
人間以外の生物やら物理現象が、人間の脅威になって来たらしい。
中国ては龍、ヨーロッパではドラゴンと言われる怪獣の話も有る。何れも、物語りにしか出て来ない怪獣だが、そんな怪獣に似たモデルも有ったかも知れない。当然として、地球外生物の可能性もある。
「今となっては、証拠も無い話だが、基礎能力で対応仕切れ無かった。」
「それで、幽体能力や妖体能力が付いた訳なのね?」
「証拠は無いが、そう捉えるしか説明の付かない話だ。」
本来、必要も無い能力が、勝手に付く筈が無いのだ。
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