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3I 太平洋小島噴火

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 I-1  中学同級生と喧嘩 元体育委員の林
 I-2  太平洋側の小島噴火 島に取り残された人の救助
 I-3  再び林と闘争
 I-4  雑務屋から電話


 I-1  中学同級生と喧嘩

「山雅さん、大学入試の勉強もしなさいよ。」
「彩華は、今でも充分だね?」
「山雅さんはどうなのよ?」
「読書の合間に勉強はしてるけど、もう少しやって置きたいな?」
「それはそれとして、そろそろ紅葉を見に行こうよ。頭が満杯だよ。」
彩華も、まだ高校生でも有り、たまには、遊びに行きたい様子だ。
「じゃ、何処へ行くか考えて置いて。」
「分かった。調べて見る。」
二人は喫茶店を出た。そして彩華の冬服を買う為に、洋装店に寄る。
服を買い、通りを歩いて居ると、後から男の声がした。
「おい、君は山雅君だな?」
祥生が声の主を見ると、微かに見覚えが有る。顔は覚えて居るのだが、名前は思い出せない。
「何処かで会ったかな?  良くは覚えて居ない。」
彩華は、何か思い出した様で、祥生に小声で話した。
「中学の時の体育委員で、確か林君だった。」
「その通りだよ。僕は林だよ。」
「それで、何の用事かな?」
今頃、何故声を掛けてきたのか、祥生は疑問に思っている。
「ちょっと、助けて貰いたい。」
「それは無理だよ。そんな遊びに、付き合う暇は無い。」
それを聞いて居た、向うのグループの奴が怒った。そいつは祥生の強さを知らない。
「遊びとは何だ?  大人しく聞いていれば、馬鹿にしやがって。」
「仕方が無いよ。所詮は子供同士の喧嘩だろう?」
「手伝ってくれないのか?  君のお仲間にも迷惑が掛かるよ。」
「ふーん。」
「信じて居ないな?」
そいつは、後の奴に合図をした。後ろの奴が、路地の奥に手を振った。
路地から、女の子が二人連れて来られた。彩華が見ると彩菜と亜香里だ。
「彩菜、何をやってるのよ?」
「お茶を奢ると言われたので、ついて来た。」
彩華は、再び男達に対した。
「いいわよ、何をしても。」
「酷いよ、お姉チャン。私は何をされてもいいの?」
「いいわよ。いつまでも、お芝居をしていなさい。」
「何を勝手に喋ってやがる。服を一枚脱がせろ。」
男の一人が、彩菜の背中に手を回す。彩菜は、その手を掴んだ。そして、その手を引きながら、横へ捻った。男は宙に浮く。
「ぎやっ。」
怒った他の奴が、彩菜に殴り掛かった。この男も足を払われ、宙に浮く。
「ぐふっ。」
亜香里も、近付いてきた奴を、二人程投げ飛ばしている。
「吉岡さん頼みます。」
林は、後に居た男性に呼び掛けた。
「しようが無いな、面倒くさいけど?」
座って眺めていた祥生が、立ち上がった。
「彩菜、亜香里、休んでいて。」
祥生は、二人の女の子を休ませて、自分がやる積りなのだ。
「山雅さん、いいわよ。私が行くわよ。」
彩華が喧嘩を買って出る。
「分かった、任せる。」
それを聞いていた、吉岡が怒った。
「馬鹿にしやがって。俺の相手が女だと?」
「彩華、吉岡さん怒ってるぞ。優しくしてやりなよ?」
「分かってるわよ。」
実は、種族保護の能力が伝染った者は、身体能力が、倍加して居る。動体視力も上がって居る。吉岡が少々強くても、彩華で対応出来る。以前に絡んだ、白人達の方が大分強い。
彩華と祥生達の話を聞いて、吉岡は本気で怒った。
「くそっ、許さんぞ。」
吉岡は、彩華の正面から、突っ込んで来る。彩華は平気で待つ。
吉岡の手が、彩華にふれる瞬間、彩華が動いた。飛んでくる手を弾き、身体を潜り込ませた。そして足を掴んで、体を跳ね挙げる。吉岡は、彩華の後へ吹っ飛んだ。
「あーぁ、優しくしろと言ったのに。」
「彩華姉さんに、それは無理だよ。」
彩菜が、そんな風に解説している。さすがに男達も怖気づいた。こんな小娘に、吉岡が負けるとは思っていなかった。
「僕達は、一応これで引き上げるが、被害を被れば、どうなるか保証しないよ。」
その後、彩華が提案する。
「せっかく四人揃ったんだから、何か食べようよ?」
「賛成。」
四人は、しばらく歩いて、街外れのレストランに席を占めた。
「それでいいか?  注文するよ。」
料理が来てからは、皆んな大人しく食事をしている。
「ああ、お腹満腹。」


 I-2  太平洋側の小島噴火

ある日、彩華と彩菜、祥生の三人は、お茶を飲んでいた。
そんな時、彩華の携帯電話に連絡が入った。
「もしもし、彩華です。はい、詳細をメールで送って下さい。」
「山雅さん、メールが来るって。直ぐに転送するわね?」
その後直ぐに、彩華からメールが届いた。やっぱり組織からだった。
日本列島の東、太平洋側の小島で火山が噴火した。大半の住民は避難したのだが、数人の住民が取り残された。もう危なくて、船も近付けない。
彼らは、岩の陰に避難をしているが、溶岩が流れれば、それでも危ない。祥生は、組織にドローンの出動を要請した。
「彩華行けるか?  彩菜も行けるなら頼む。」
「二人共大丈夫。どこへ行くの?」
「近くの公園で良い。そこへ、ヘリをつける。このまま三人で行こう。」
ヘリで、ドローンの収納庫へ飛んだ三人は、ドローンの屋根に黒色の布を張る。その布は、他の人には、耐熱の特殊装備と説明をしている。
そして、島の近くの救難船迄、飛んだ。
「行くぞ。それらしい浜に着陸するから、住民を探して。」
「あの辺りの筈。岩の陰に避難しているから、周囲をよく見て。」
浜から少し上の、小さな岩陰に、五人の住民が見えた。その岩陰に、瞬間移動をした祥生は、岩をよじ登る。
「そこに居る人で、全部ですか?」
「全員居ます。そこへ行けば良いですか?」
「じっとしてて下さい。こちらから行きます。」
祥生は、岩の隙間にくさびを打ち込み、そこからワイヤーを垂らす。
「これから、どうするの?」
一旦、下に下りて、彩菜だけに説明する。
「彩菜、一人ずつ下ろすから、ドローンに跳んで。ドローンに、三人載せたら船に運ぶ。彩華に記憶消去を頼んで置いてね?」
「三人も乗せたら、重量オーバーだよ。」
「いや、あのドローンは新型で、四人乗れる。」
二回往復して、住民を船に運んだ。その時、火山が再び噴火した。祥生達の所にも、溶岩が降り注いだ。祥生と彩菜は黒い膜を被っている。それで何とか持ちこたえている、と他の人達には写っている。
そこへ、彩華がドローンを飛ばして来た。危ないから止めろと言われたのだが、仲間は放って置く訳には行かない、と強引に飛んで来た。
実のところ、彩華か祥生が乗って居る限り、ドローンに溶岩は届かない。ドローンは、概ね四角形で有り、彩華や祥生の保護範囲に入るのだ。
その点ヘリは縦長で、後の方が、保護範囲から、はみ出てしまう。
「さあ、乗って。早く帰らないと、インチキがバレるわよ。」
「それも困るな。彩華頼むわ。」
船に帰った三人は、船室に閉じ籠もった。火傷の治療と誤魔化している。
あまり、皆に顔を晒せないのだが、本島に帰るのに、五時間は掛かる。
ドローンに比べると、船では、何倍も時間が掛かる。祥生達は、本島に帰る迄は、閉じ籠もる積もりだ。陸地が近くなったら、ドローンで逃げる。
「あの膜は、本当に耐熱効果は有るの?」
「溶岩まで防げる布地は無い。そんな物が有れば、大儲けだよ。」
「やっぱりそうか?  結局は、私達の力で保ってる訳だね?」
「しかし、事件の度に、変装や偽装をするのは、面倒くさいよね?」
「我々の働きは、派手な動きだから、知られたら五月蝿い。」
「人気者になるんじゃ無いの?」
「そう、初めはエンタメ。最後は情報局。こんな呑気に暮せない。」
「駄目かぁ?」
彩華達三人は闇に紛れてドローンに乗った。そしてその儘、船を離れた。

次の日、彩華と祥生は、お茶を飲んでいる。
「昨日はヤバかったね?」
「全くね、溶岩まで降って来るんだものな?」
「もう少し遅れて居たら、五人共、焼け死ぬところだよ。」
今迄に、火砕流に巻き込まれた事件もある。そんな悲劇は見たくも無い。
何とか助けられて、一同、肩の荷を下ろした気分だ。
「いざとなれば、瞬間移動をするしか無かったな?」
「説明に、苦労するだろうけどね?  船の人全部に、記憶操作の必要が生じる。」
「それが無かっただけでも、幸運と思わないとね?」
そんな時、又組織から彩華に電話だ。
「はい、分かりました。早急に対処します。」
電話を切った彩華は、祥生に事件の内容を伝えた。
「山雅さん、島の人が二人足りない。自分の漁船で逃げると帰った儘、連絡が途絶えている。」
「ドローンを要請して。今はあれしか方法が無い。彩菜も出られるか?」
「彩菜と亜香里を、すぐ手配する。」
「公園に行ってくれ。直ぐヘリを呼ぶ。」
ヘリで、ドローンの格納庫迄行き、そこでドローンに乗り換える。
最近のドローンは性能が上がり、四人乗れる様になった。
ドローンの性能が上がって居なければ、彩菜か亜香里を残す所だった。
住民は、何処かに取り残されて居る。そろそろ水も切れる。祥生が急いで公園に行くと、三人はもう来ていた。
「遅くなりました。直ぐ出て下さい。」
ヘリは、直ぐに飛び立った。そして、ドローンの収納庫に向う。
彩華達は、ドローンに乗換え島に向かう。途中で燃料を補給して、島に向かった。島に着いてから、彩菜が妖視で気配を探る。
「あそこらしい。複数の気配がする。良かった、まだ生きていた。」
そこは、岩が庇の様になり、溶岩の直撃は避けられそうだ。しかし、降ってくる溶岩は避けられても、流れて来る溶岩では危ない。
現場は、まだ溶岩が降っているから、この前のように、ドローンの効果と誤魔化すしか無い。祥生は、人目が無い事から、直接、庇の下へ飛び、岩をよじ登る。
「大丈夫ですか、怪我は有りませんか?」
「お、来てくれたか?  大丈夫だけど動けなくて困っていた。水も切れているし。」
「彩菜と亜香里、庇の下に来てくれ。僕が下に降ろすから受け止めて。」
「それから、どうするのよ?」
祥生は、岩から下りて、二人に説明する。
「一人ずつ、ドローンに運んでくれ。ドローンの中は外から見えない。後は彩華に、記憶消去をして貰う。」
「分かった。記憶消去は、あの二人で済むわね?」
「そう、それから又、ここ迄、迎えに来て貰う。」
いつも面倒な事だが、一般人に能力を見せられない。記憶消去の能力が付く前は、誤魔化すのに、随分と苦労をした。


 I-3  再び林と闘争

「おい山雅君、ちょっと待ってくれ。」
学校からの帰り道、後から声を掛けられた。振り向くと、喧嘩相手の吉岡が居た。
「あれ、この間の人だよね、何か用事?」
彩華が先に反応した。
「お前は、何故あんなに強いのだ。納得が行かない。」
「私達は、忍者の系統なんでね、多分遺伝てしようね?  厳しい訓練も、やってたからね?」
「それでも、納得が行かない。」
「別に納得しなくていいわよ。」
彩華が答える。しかし、吉岡としては、納得の出来る答えが無いと、落ち着かない様だ。
「その道場は何処に有る?」
「そんな物は無いわよ。自主訓練だよ。忍者に道場なんか無いよ。」
吉岡は、胡散臭い顔をしていたが、何とか納得した。

ところが、林の方は納得していない。後日談になるが、又、別の奴を連れて来た。
「山雅、待て!」
誰かと思ったら、林である。吉岡の話を聞いて居ないのか?
「何の用事だ?」
「今日は、この前とは違うぞ。あいつより数段強いぞ。」
「又、別の奴を連れて来たのか、懲りない奴だね?」
「これに負けたら、俺達のグループに入って貰うぞ。」
「そんな事は出来ないよ。考え方が違う。」
「とにかく先輩、やっつけて下さい。」
その男は、有無を言わさず、回し蹴りを掛けて来た。さすがに速い。
祥生は左手で足を払う。その男は、バランスを崩して地に落ちる。
「まだだ。」
その男は立ち上がり、拳を振るう。祥生はそれを流す。今度は飛び蹴りが来る。祥生は、その足を取り地面に叩きつけた。祥生の技は制限が付いており、派手な割には、そんなに痛くは無い。保護モードが有る限り、真の攻撃は出来ない。
やはり、この男も技の理解が出来ていない。再び祥生に襲い掛かった。
祥生は、自保護モードを切った。そして相手を掴まえ、背負いを掛けた。
男の体は一瞬空に浮き、そのまま地に落ちた。今度は技が派手な上に、痛みも緩和されない。
「痛っー。何をしやがった?」
「ただの背負い投げだよ。少しは痛いかな?  制限を外したからね?」
「制限とは何だ?」
「今迄、痛く無かっただろう?  普通は打撃を制限している。」
男は理解出来ていない様子だ。再び殴り掛かる。祥生は、そいつを放り投げる。男は、背中の痛さで悶絶した。
林は、先輩と言った男を残して、コソコソと姿を消した。
祥生は自保護モードを戻した。自保護モードを切れるのは、このグループの中でも、祥生だけで有る。普通、他保護は切れても自保護は切れない。

「この間、一人で帰って居る時、林が、又違う奴を連れて来た。」
「その人は強かったの?」
彩華が尋ねる。
「大分強かったけど、少し痛め付けで置いた。」
「私達の技は、痛みが制限されるでしょう?」
「僕は、他の人には言えないけど、自保護モードも切る事が出来る。」
普通は、他保護を切れても自保護は切れない。自保護も切らないと、衝撃の制限は取れない。
「私達も、切れる様になるかな?」
「経験次第だろうな?  しかし、自保護モードを切ると、相手が強いと、こちらがやられる。彩華に、そんな危険な事を、して欲しく無い。」
「そうだね、山雅さんぐらい強くても、そんな事は初めてだものね?」
「しかし、彼奴はネチッコそうだ。あれで諦めたとは、思えない。」
「そんな感じだね?」
祥生は、彩華と亜香里の家に、ガードを付けた。組織には、個人ガードのシステムも有る。家族に迷惑を掛けるのは、絶対避けねばならない。
「場合によっては、彼奴本人に、痛みを感じてもらわねばならない。」
「山雅さん、ちょっと怖い。」
他人の家に、迷惑を掛けるのなら、その痛みは、自分も感じて貰わねばならない。それが祥生の考え方で有る。迷惑さえ掛からなければ、それは放って置く。二日後、祥生の勘は当たった。彩華の家を探っていた奴を、ガードが見つけた。其奴はガードに、こっぴどく脅されたが、亜香里の家にも別の奴が現れた。
そいつも、ガードに捕まって脅された。又別の奴が、祥生の家を窺っているのを、祥生自身が確かめた。そいつも捕まえて脅して置いた。ところが翌日、彩華と帰っている時、林が現れた。今度は大人を連れている。
「よくも子分を虐めてくれたな?  今度こそ承知をせんぞ。」
「そっちが虐めに来て、返り討ちにあっただけだよ。そこの人、解っているね?」
「そんな事は、俺には関係は無い。」
「彩華、相手をしててくれ。僕は林に話が有る。」
そして祥生は、林に対峙する。
「林君、君は弱い者の痛みを知るべきだね?  家の方に迄来られたら迷惑だよ。」
「うるさい。俺の言う事を聞かないからだ。」
そう言いながら、林が祥生を殴る。祥生は黙ってそれを受けた。
その時、祥生の足が動いた。林の足を刈ったのだ。林は宙に浮き、地に落ちる。
「痛ったー、何をしやがった?」
今度は自保護を切って、背負いを掛けた。林は悶絶した。今迄、直接の攻撃を受けた事が無いらしく、痛みには異常に弱い。
「彩華、代わろうか?」
「了解。」
彩華の相手に、祥生が代わる。
「馬鹿にしやがって。」
相手は祥生に殴り掛かった。祥生はその手を取り、足を刈る。そいつは、地に落ちた。それでも、起き上がって殴ってくる。
祥生は、自保護を切って背負いで放る。そいつは、まともに地に落ちた。
「いたっー。何をしやがった?」
「普通の背負いだろうが?  もっと痛い目に会いたいか?」
祥生はそう言いながら、みぞおちに当身の蹴りを放つ。そいつは悶絶した。祥生は、気絶から目を覚ました林に言った。
「今迄の音声や画像等は、全て収録している。我々プロは、不利な喧嘩はしない。いつでも出る所ヘ出る。ガードは当然だが、我々もプロだよ。」


 I-4  雑務屋から電話

そんな或日、彩華に電話が掛かった。何処か知らない電話だ。
「はい、彩華です。どちら様ですか?」
「山雅さんの電話と違いますか?」
「違いますが、YAグループの受付けです。内容を伝える事は出来ます。」
「直接、話は出来ますか?」
「私が内容を聞き、合議に依って決めます。」
「私の所の仕事を、やって貰いたいのですが?」
「どんな仕事ですか?」
「山雅さんに、直接話したいのですが?」
「この電話口に、直接出る事は有りません。」
「国連傘下の機関とは、電話されていると聞きましたが?」
「業務契約をしている所は有ります。そことは話せます。」
「分かりました。上司と相談します。」
彩華が、今受けた電話の主は、その組織の上司に報告をした。
「例の組織と業務契約をしているので、山雅も自由に話せる様です。」
「何故、直接話せない?」
「まず、受付が話を聞いて、内部で会議をして、初めて話せる様です。」
「何とかしろ。受付の女なんかに、話が出来るか?」
「この電話番号しか分からないので、どうにもなりません。」
「山雅で調べられるだろう?」
「番号は分かりますが、何段ものセキュリティが掛かっていて、繋がりません。」
電話が繋がったところで、話になるとは思えない。
この会社も、祥生のグループを、高校生と見て侮っていた。この組織も、SSS 関連の仕事をしているのだが、祥生のグループとは、仕事を受ける条件が異なる。この会社は、いわゆる何でも屋である。
以前に絡んだ組織は、危険事案請負会社で、祥生のグループと、同じであった。今度の組織は違う。今度の組織は、何でも屋であり、雑務屋と呼ばれている。その組織の受ける条件では、祥生のグループでは受けない。
その幹部は、国連傘下組織の担当者に話して見た。
「お宅と取引の有る業者と話したいのだが、何とかならないかな?」
「何と言う所ですか?」  
「日本のグループで、山雅と言う高校生が居る。」
「あそこは、使い勝手が良いのです。私が言ったのは内緒ですよ。」
「分かっている。秘密にして置く。」
その業者は、その担当者の端末から、電話をした。しかし繋がらない。
「繋がらないぞ。」
「おかしいですね?  繋がる筈でしたのに。」
その担当者は、自分で電話をしてみた。
「もしもし、彩華です。どうしたんですか?  もう担当じゃ無いでしょう?」
「山雅君はいるか?」
「今の電話からは、山雅さんには繋がりません。違反電話ですよ。」
「山雅に電話を繋げ。」
「無理ですよ。その電話からは、二度と繋がりません。」
「うるさい。山雅を出せ。」
彩華は、受話器を掛けた。
「もしもし、もしもし。切れてしまったぞ。もう一度掛けてくれ。」
その元担当者は、再度電話を掛けた。
「その電話は、繋ぐ事が出来ません。違反が有った為、無効にします。」
「駄目です。繋がりません。この電話は無効にされました。」

次の日、彩華は祥生に報告をする。
「山雅さん、組織から電話か有った。以前の担当者からで、下請けの業者が割り込んで来たので、切ってしまったんだけど、拙かったかな?」
「それで良い。双方から話を聞いて、納得がいった話ならともかく。」

再びSSS の事務所。
「山雅君に繋がるのは、一本になったぞ。迂闊な事をされたら困るよ。」
「組織が小さくて動きが早いし、成功率が高いので使いやすいのに。」
「山雅君は、下請けには使えないよ。うんとは言わないだろうし。」
「あのグループは、裏組織が有るとの噂も聞く。下手すると危ないぞ。」

SSSにも、情報通の社員が居た。
「少し前、あそこの吸収を図ったグループがあった。ところが少しやり過ぎた。暫くして、YAグループが動いた。そこの密動部隊の事務所が潰された。メモリーも完全に抜かれてしまった。その会社を潰そうと思えば潰せたが、そこまではしなかった。後はSSSに任せた。」
「それは、噂だけじゃなかったのか?」
「いや、本当らしい。その下請けも、それからは大人しくなった。」
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