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3M 龍のジャングル

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 M-1  龍のジャングル
 M-2  阿蘇山噴火 観測隊員の危機
 M-3  別府温泉 酔っ払いと喧嘩
 M-4  原子力研究炉 地震で建物崩壊
 M-5  由加里と雅 再び絡まれる  二人の開眼


 M-1  龍のジャングル

ある時、彩華が祥生に報告している。
「こんどは、龍の被害情報が出たよ。」
「今度は何処?」
祥生が彩華に聞く。
「アフリカのジャングルだって。」
ジャングルを、少し離れた所に村が有り、その辺りの家畜やら農作物に被害が出ている。
「あっちの方だったら、ドラゴンじゃないの?」
普通に言えば、ドラゴンなのだが、形から判断すれば、龍らしい。
龍は、空も飛ぶと言われて居る。アフリカに龍が居ても不思議では無い。
「要は、蛇の体に、足が何本か生えてる訳でしょう?」
「問題は。龍が住んでる場所が、古い遺跡らしいのよ。」
前にも、そんな事例が有った。その時はジャングルでは無く島だった。
「これは、ちょっと複雑だね?  遺跡を調べるには、龍が邪魔だね?」
彩華も、そんな風に感想を述べる。
今回は、アフリカ支部からの出張になる。六人全部でアフリカまで飛ぶ。
「現地に行って見なければ、何も分からないしね。」
「じゃ、飛ぶわよ。こちらへ寄って。」
彩華が、瞬間移動を起動した。
「あっちゃー、百体は居るよ。チョット尻尾を噛じってみる。」
彩菜が、他保護範囲で、消去を試みた。知性が有れば、消去は出来ない。
「知性は無さそうだね?」
「前の様に偽装が無いか調べる。、、、」
祥生は、意識を集中し、話し掛けて見たが、反応は無かった。
その龍たちは、人間の作物だとも解らずに、家畜や農園を荒らしていた。
人間に、直接の敵意は無いのだが、人間に仇なす存在に間違いは無い。
説得しようにも、知性が無いのでは、説得のしようも無い。
「見つかった。こっちへ来るぞ。念の為、二頭ほど倒してみる。」
「私が一匹引き受けるよ。」
彩華が言う。
「分かった。尻尾を大きく消去する。せーのっ。ハイ。」
その二匹の龍は、こちらに向かう。それに煽られて、他の龍たちも、一斉に攻撃を仕掛けて来る。意識の動きは無い様子だ。これで知能の無い事が判った。
「皆んな、頭の消去を図れ。瞬間機能で寄って消去する。」
これも、妖能力を全て使えば、もっと簡単に片付く。しかし、皆んなの訓練の為、瞬間移動だけ使用した。

「亜香里、その固まりを頼む。」
「彩華、そっちへ十匹余り行ったぞ。」
「山雅さん、大分そっちへ逃げたよ。」
「彩菜、その奥を、お願い。」
「雅、五匹逃げた。」
「由加里、上からも来るぞ。」
一同は、大騒ぎの末、百体余りの龍を片付けた。皆んなは、その辺りに残って居ないか、覗いて廻った。生き残った龍は居ないが、龍の体の断片、糞尿、体臭等がそこかしこに、残っている。
彩華は、妖体能力を駆使して、それら全体を、遺跡から消去した。

「彩華、念の為、妖視で広範囲を俯瞰して見てくれ。」
彩華は、周囲を俯瞰する。
「この辺りの、十キロ圏以内には残っていないよ。」

龍は、初めから、居なかった事にする。大量に始末したので、動物愛護団体に知られれば、煩い事に成りかねない。
「今度の件は、遺跡に居なかった事にする。二匹か三匹倒したら、逃げてしまった事にする。知性は無かったし、我々に良心の呵責は無い。」
「了解しました。」
「分かった。」
「了解。」
取り敢えず龍退治は終わった。しかし、こんな状況は勘弁して貰いたい。
悪さをしなければ、保存をして置きたい程の物件だ。


 M-2  阿蘇山噴火

彩華は携帯を切って、祥生の方を向いた。
「山雅さん、阿蘇山が噴火した。頂上付近の観測所に三人居る。」
「いつ迄保ちそうだ?」
「解らないけど、早い方が良さそうだよ。」
彩華は、何人かは行けると判断して、阿蘇の近くに居ると言っておいた。
それは嘘だが、そこ迄、瞬間移動で行く積りをしている。
「山雅さん、阿蘇山の近くに居ると言ってるので、内輪まで飛ぼう。」
「誰が行ける?」
「すぐ連絡して見る、ちょっと待って。」
彩華は、彩菜に電話を入れた。
「彩菜、何処?」
「やっぱり事件?」
「そうなんだけど、彩菜と亜香里はどうする?」
「そんなに離れていない。急いでいるの?」
「直ぐ合流して。」
それを聞いて、暫くして二人は現れた。
「阿蘇の内輪山迄飛ぶわよ。近くに寄って。山雅さん、お願い。」
祥生は三人を引き寄せ、阿蘇近くの、無人の森まで飛んだ。
「ドローンを呼ぶ暇は無い。観測所に飛ぶ。後で観測員の記憶を消す。」
彩菜と亜香里に、持って居た簡易テントを張って貰う。
そのテントは、折りたたむと超軽量で、リュックの片隅に入る。
そのテントの中なら、瞬間に移動して来ても、人に見られない。
「彩華、行くよ。」
現地に飛んだ彩華と祥生は、観測員を探した。三人は、観測室の机の下に逃げ込んで居た。
「他に人は残って居ませんか?」
「いや、これで全部だ。」
「データー類は大丈夫ですね?  急いで逃げますよ。」
その人達の話によると、必須データーのメモリーは、持って居ると言う。
それを聞いた祥生は、有無を言わさず、全員を連れて瞬間転移した。
テントの中には、彩菜達が待っている。
観測所の人達から、疑問が発せられる前に、数分間の記憶消去を施した。
そして二時間程眠って貰った。その後、祥生は記憶の再構成を試みた。
「大丈夫ですか?  倒れて居られたので心配しました。」
「特殊服を着けて、助けに行ったのですが、気を失って居られたので、ここまで、やっと運んで来れました。」
彩華と祥生が、交互に説明をする。
「ここは、何処ですか?」
「内輪山の外です。ここまでは、溶岩は飛んで来ない様です。」
怪我は大丈夫の様だが、組織に連絡をして、取り敢えず病院に送った。
あとの処理は組織に任せる。祥生達が、いつまでも居ると、嘘がバレそうなので、早々に引き上げる。

「記憶操作は山雅さんしか出来なかったよね。今は私や彩菜まで出来る。何故?」
彩華の問に祥生が答える。
「記憶消去や瞬間移動は妖能力の一部だ。その能力が僕から感染った。」
「普通は、そう簡単に伝染らないよね?」
「妖能力者の僕と居るから、自然に伝染ってしまったんだよ。彩華には、高校に入った頃に感染って居る。」
彩華の疑問に祥生が答える。能力者が気を許せば、かなり早くに伝染る。

今日は、時間に弾力性を持たせる為、別府温泉に一泊する。
今回の様に、瞬間移動とか記憶消去等は、やりたくは無いのだが、愚図愚図していると人の命が危ない。お陰で、時間調整に苦労をさせられる。
「今回の作戦は、かなりヤバかったね?」
「瞬間移動の距離の分、時間の誤魔化しも、やらないとならんし。」
「そうか、時間の問題も有ったんだよね?」
「同時に、二箇所に居たってのは、頂けないからな?」
国内だから、遠いと言っても知れているのだが、地球の裏側等になると、今日の様には対応出来ない。あまり、そんな場面が無い事を祈っている。


 M-3  別府温泉

「別府温泉は二回目だったね、前は喧嘩をした様な?」
「喧嘩は、よくするから、忘れてしまったよ。」
ホテルに泊まり、食事をした後、四人は、夜の散歩に出掛けている。
街でお茶を飲んだ後、そろそろ帰ろうかと、夜の道を歩いていると、何か声が聞こえて来た。近くの路地で、喧嘩をしている様だ。どうやら、直ぐ先の路地らしい。
四人は、その路地に踏み込んだが、既に乱戦の模様だ。二組の男達が、殴り合いをしている。少し前にも有った光景だ。彩華と彩菜は、その中に足を踏み入れた。
「止めなさいよ。大声を出してると警察が来るわよ。」
そう言いつつ、彩華が男達の拳を掴んで、両側に引き分けている。
「こら、邪魔をするな、女でも承知はせんぞ。」
中には、彩華や彩菜に、向ってくる奴も居る。その中に、目立って強い男が居た。その男には、彩菜もてこずっている。負けはしないが、相手を捉えきれない。祥生は、動画を撮って居たのを止めて、彩菜に近づく。
「彩菜、代わろう。」
彩菜と祥生が、位置を代わる。
「少しは強いんだろうな? 期待を裏切ってくれるなよ。」
相手の男が、そんな風に言っている。
「まあ、少しぐらいは働かないとね?」
祥生は答える。
「任せたよ、たまには仕事を頼むわね?」
そう言って彩菜は別の奴に向った。その男は突然回し蹴りを掛けて来た。祥生は腕で払う。次は突きが来る。それも手ではねる。次は飛び蹴りだ。祥生は、その足を掴んで捻る。もう一方の足が頭を狙う。祥生は、それを左手ではね退けた。男は、バランスを崩し地に落ちる。
祥生は、その腹に当て身を放った。
「畜生!何なんだ、お前達は?」
「それより、喧嘩の相手が、何処かへ消えてしまったよ。」
残った男達は、倒れた奴を引き起こし、路地の裏に消えた。
「あいつ等、割りかし強かったね?」
「空手らしいが、何段だろう?」
「そのぐらいでは、山雅さんには構えないか?」
「僕のはスポーツと違う。今時のスポーツの様なルールは無い。」
「そうだよね、山雅さんのは、人殺しの技だものね?」
祥生の能力は別にして、亜香里の能力が上がっている。
初めの頃は、自分しか護れ無かった。それが今では、他保護が付いた。他人でも、半径10米まで護れる。これで、彩華たち四人共、半径10米の人を護れる。妖能が無くても、普通は、それで通用する。
「皆んな基礎保護力が付いたね、これで安心だね?」
男達との喧嘩も終わり、彩華達四人は、旅館に帰り一風呂浴びる。次の日、皆んなは、地元の街に帰って来た。


 M-4  原子力研究炉

地元に帰った途端、携帯に組織から緊急連絡だ。
彩華に連絡が来たのだが、今度は東北地方の、日本海寄りの地域だ。
「山雅さん、東北地方の、原子力研究所で事故が起こった。」
「え、又原子力?」
制御室の研究員が、何人か部屋から出られない。制御室の外は、放射能が強くて、出て来れない。外部とは、廊下しか繋がりが無いのだが、普通の防御服では、機能が弱い。組織によると、東北地方で強い地震が有り、古い原子力研究炉で、制御系統の電気回路が壊れてしまった。悪い事に、二つ有った制御回路が、両方壊れた。燃料棒も冷却水も制御が出来ない。お陰で、その原子炉は、回復不能に陥った。
何年か昔、実際にそんな話が有った。その時は汚染水の処理に困った。
「冷却水が止まるなんて、何故そんな事が起こったのかな?」
日本の様に、地震の多い国では、二重防御だけでは万全ではない。

「技術的な事はさて置き、何人行けるかな?」
祥生は、彩華に尋ねる。
「このまま四人で行けば?  四人共行けるんじゃない?」
祥生を入れて四人は、地元には帰ったが、家には帰っていなかった。幸い別府温泉で時間を潰した。あれを無かった事にする。多少時間が合わないが、目を瞑る。
「彩華、組織には居場所は、言って居ないな?」
「それは、口にしていない。」
瞬間移動は組織にも秘密だ。今、瞬間で飛んだら時間が合わない。
始めから、向こうに居た事にする。
「今から電車で行ったら時間が掛かる。瞬間転移する。」
現地を妖視で見ると、現場事務所は、てんやわんやの状態だ。制御室以外の技術者は引き揚げている。警備の人間は居るが、目に付かない場所は幾らも有った。
「今回の移動は、彩華に任せた。彩菜、画像を彩華に送って。」
彩菜は、妖体を送って現場を探る。
「放射能のきつい所には飛べないし、裏の林にでも飛ぶしかないかな?」
「人の目が途絶えたら、即実行だ。」
「もうすぐ、夕食の時間らしい。その時がチャンスかな?」
そのうちに夕食が始まった。研究所から、大分離れた施設で、皆食事をしている。
「彩華、食堂の反対側に行く。そして、何気ない振りで出てゆく。」
彩華は三人を連れて、瞬間移動で飛んだ。
「このまま道に出て、迷った振りをして、食堂まで行こう。」
一行四人は、二分程歩いて食堂に着く。
「SSS から頼まれた彩華です。事故の有った原子力研究炉は、ここでしょうか?」
「えっ君達が?  若いな?  君達で大丈夫なのか?」
「一応、経験者ばかりが、登録されて居ますので。」
この四人は、保護能力が有るので、少々の放射線なら影響を受けない。
「何人か、閉じ込められて居ると聞きましたが、まだ大丈夫ですか?」
「部屋の放射能は弱いのですが、廊下に強い場所が有って、出られないのです。」
「平面図は有りますか?  簡単な物でいいです。」
「こんな物で良いですか?」
「それで解ります。他の部屋の壁を壊しますが、大丈夫ですか?」
「どうせ、後は使えないので、大丈夫です。一応、これが防護服です。」
「申し訳ないのですが、防護服は、二重に着て貰うので、同じ数を、もう一揃い貰えますか?」
「分かりました、用意します。」
彩華や祥生達は、自前の防護服を着て、対策を立てる事になった。
本当は、彩華や祥生達に、防護服は要らないのだが、一応特殊機能服を羽織る。
「僕と彩華で入る。彩菜達は入り口を守って。絶対誰も入れない様に。」
「分かった。投げ飛ばしてでも、中に入れない。」
二人は、部屋の壁に細工をしながら、研究者達が居る部屋の前に来た。
実際のところは、その部屋を通らず、瞬間移動で、出口に近い部屋に飛ぶのだが、通った様に細工をした。二人はドアを瞬間開け、中に入った。
「皆さん、この防護服を二重に着てください。多少放射能が防げます。」
「こんな物では役に立たない。それに、何故こんな子供が来るんだ?」
彩華が、皆んなに尋ねた。
「じゃ、一生ここに居ますか?  貴方方も専門家ですから、意味は解りますよね?」
「そうだよ。ここでも放射能に侵される。早く出て医者に掛ろう。それが一番可能性が有る。」
祥生は、帰り道の説明をした。
「近道の部屋の壁を壊して居ますので、多少は早く出られます。私も長居は出来ません。もう直ぐ行きます。ここに居たい人は残って下さい。」
「いつ助けが来るんだ?」
「そうですね?  一ヶ月もしたら来るでしょう。もっと掛かるかも知れませんが?」
「そんな無責任な?」
「私達は、防護服を届けるのと、通路の誘導を頼まれただけですので。」
そこで、一人の研究者が文句を言う。
「我々を放って行くのか?」
「私達には、選択肢が無いのです。あなた方と共倒れは御免です。」
祥生は、ドアを開けて、廊下に出ようとした。
「ちょっと待ってくれ。置いて行かないでくれ。」
優柔不断な奴には、いつも困らされる。祥生は、中に入りドアを閉めた。
「防護服を早く着て下さい。貴方は、皆を危険に晒しているのですよ。」
「解った直ぐ着る。」
「二重に着るのを忘れないで下さいね?  多少は放射能が減ります。」
祥生は、皆んなの同意を得た事で、そのまま部屋から瞬間移動をした。
出口に近い部屋に移動をした後、研究者の記憶を操作し外へ誘導した。
「大分放射能に触れているので、病院に連れて行って下さい。」
その後四人は、人の目を盗んで何処かへ消えた。
「あの人達は、放射能に、どのくらい触れたのかな?」
「僕達が行ってからは放射能は届いて居ない。」
「そうか、山雅さんと彩華姉さんの、保護範囲になって居たのか?」
「それなら、歩いて出ても、良かったんでしょう?」
「弱いとは言え、放射能を浴びている。早く病院に送りたかった。」
「山雅さんは優しいね? あんなボロクソに言われてたのに。」


 M-5  由加里と雅

彩華と祥生は、街で喧嘩を見ている。二人の女の子を、男達が取り囲んで居る。
「山雅さん、助けに行かないの?」
「いや、何か様子がおかしい。女の子が怯えていない。」
「本当だね、この場面では、女の子が怯えるのが普通だね?」
「あれは、由香里と雅だろう?  いつから、あんな風になったんだ?」
二人は、興味津々の様子で、その喧嘩を眺めていた。男の一人が、由香里に殴り掛かった。由香里は、余裕で手で止めた。雅を殴る奴も居た。雅も難なく手で止める。
「これは、伝染ってしまったかな?」
「そうだね、そんな様子だね?」
「騒ぎになる前に止めようか?」
「ちょっと行ってくる。」
彩華は、そう言って、喧嘩の側に行った。
「そろそろ、やめたら?」
「何だお前は?」
「あっ、彩華さん。ご無沙汰しています。」
気が付いた由香里が、挨拶をした。雅も頭を下げた。
「いつ迄もやってたら、警察が来るわよ。解散、解散。」
「お前が仕切るな。向こうへ行け。」
「知り合いだからね、そうも行かないわよ。」
男の一人が彩華を殴った。彩華は、そいつを掴み投げつける。
他の男も、由香里たちを捨て置いて、彩華に掛かって来る。
「仕方が無いわね?」
彩華は、瞬く間に数人を倒す。気が付いたら、立ってる奴が居なくなっていた。
「済みません。お手を取らせました。」
「放って置いても良いとは思ったんだけど、警察が来る前にと思って。」
そこへ、祥生が近づいて来た。
「君達、久し振りだね?」
「あっ山雅さん、恥ずかしい所をお見せしました。」
「いや、強くなったなと思ってね?」
祥生は、由香里と雅をお茶に誘った。もう少し、話がしたかったのだ。
「君達と会ってから、ほぼ四ヶ月か?  月日の経つのは早いものだね?」
「私もそのぐらいだったかな?  私は中学の同級生だったけど。」
「どう言う事ですか?  話が見えませんが?」
「喧嘩をしても、相手の動作が良く見えるでしょう?  殴られても痛くないし。」
「眺めているだけで、分かりましたか?」
由香里や雅には、能力の事は言っていない。なんか変だとは思うかも知れないが、常識的には説明が付かない。その辺りを祥生が説明する。
「おそらくだけど、君達に有る能力が付いた。一番分かりやすいのは、殴られても痛くない事だ。そして、相手の動作が遅く見える。つまり、動体視力が格段に良くなっている。こう言う現象に覚えが有れば、我々と同じ能力の状態だ。」
「何故そんな能力が、付くんですか?」
「分からない。我々と心が近い事、先祖に能力者が居た事等が要因らしい。」
「私も、彩菜も、亜香里も同じ状態だよ。」
「一番困る事は、人間の保護に限定されている、と言う事だね。」
それから、それに付随するらしい能力についても説明した。銃で撃たれても、届かない事、範囲内の人間を護れる事、等についても説明した。
祥生は、一度に言っても理解出来ないと思うので、そこまでにして置く。
何れにしても、もう少し観察の必要が有る。
一同は、喫茶店を出て、駅の方に歩いて行く。
間の悪い事に、先程の相手に出会ってしまった。そいつ等の人数が増えている。
「先輩、あいつ等です。生意気な奴等は。」
「お前達は、あんな小娘にやられたのか?  情けない。」
「だけど、あの年上の女は、強いですよ。」
「たかが女だ。俺が躾けてやる。そこの女、こっちへ来い。」
彩華は、一見すると可愛くて大人しやかだ。どう見ても強くは見えない。
「はいはい、分かりましたよ。だけど代役を出すわね。由香里と雅、頼むわね?」
「え、私達ですか?  自信が無いんですが?」
「大丈夫。私が保証する。失敗して殴られても、痛くもないから。」
彩華に押されて、由香里と雅は、男達に対峙する。
「舐めやがって。俺が躾けてやる。」
男の一人が雅を殴った。確かに、そんなに早くは無い。
「ふーん、そう言う事か?」
雅は、その腕を引き出足を払った。男が宙に浮く。
「ぎゃっ。」
由香里の方にも、男が掴み掛かる。由香里はその腕を掴み、背負いを掛けた。男がすっ飛んだ。初めての技が掛かったのだ。
「ぐえっ。」
残りの男達は、彩華が相手をしている。こちらは、もっと悲惨だ。彩華一人に、殆んど倒されてしまった。男達は腰がひけてしまっている。中の一人が逃げ出した。それに触発されて、全ての男が逃げて行った。由香里と雅は、顔を見合わせた。
祥生は、少し考えさせてから、改めて話す事にした。
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