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1F 尊敬の条件

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 F-1  サファリパーク
 F-2  WhDLと闘争 ナイフ 銃 奥義
 F-3  尊敬の条件 人格が問題
 F-4  頭の使い方 自分の心を制御する
 F-5  ネットの利用法 SNSは嘘も多い


 F-1  サファリパーク

賀生と瞳は、郊外のサファリパークに行く。
駅で待ち合わせた二人は、バスに揺られて、サファリパークに着いた。
入口からは、観覧車とジェットコースターが見えている。
観覧車に乗ったが、見えるのは、眼下のサファリパークと、野や山である。
二人は、回覧バスに乗る前に、昼食にする。
「美味しかった。ヤッパリ、外で食べる弁当は美味しいわ。」
「本当にね、空気も美味しいしね。」
食事の後、回覧バスで園内を見て廻る。そこには、思ったより多くの動物達がいた。
「あっライオンだ。豹も居る。猿が居た。」
瞳は、大騒ぎをしていた。それなりに楽しめて居る様子だ。
サファリで、一日を過ごした二人は、いつもの街に戻ってきた。
「楽しかったわね?」
「 珍しい動物もたくさん居たし。園内は広いしね。」
賀生は、広くて開放的な所が、大好きである。
今日は、サファリに行ったが、遊び過ぎていないかと、賀生は心配している。
瞳の親も心配して居るだろう?  遊ぶのは、ちょっと間を置こう。
「瞳、最近遊び過ぎと違うかな?  親も心配するだろうし。」
賀生が、そう提案すると、瞳は怪訝そうな顔をしている。
「え、お母さんは、安心しているわよ。」
「どうして?」
「今まで、勉強と護身術ばかりだったので、心配してたのよ。」
「急に、男と遊び出して、心配じゃないのかな?」
「成績は落としてないから平気だよ。山賀さんは大丈夫?」
「僕のやる事なんかに、親は口を出さない。」
賀生の家では、親から、勉強をしろ等とは言われた事も無いし、進学相談も無い。
当然就職相談も無い。そんな事は全て自分で決める。
「山賀さんは不思議だよね? あんなに本を読んでるのに、あの成績だから。」
「僕は、無駄をやらない主義だもの。覚える事を制限している。」
「覚える事を制限して、何故成績が上がるのよ?」
「大事な事しか覚えていないから、忘れる事が少ないんだよ。」
「何か、誤魔化されてる様な気がする。」
しかし、これは現実である。中間考査や期末考査では、教科書の比較的狭い範囲から出題されるので、細かい部分まで出題される。その点、卒業時の実力考査では、相当広い範囲から出題されるので、細かい所迄は出題されない。賀生は元々、大事な事しか覚えて居ない。覚える量が少ない分、忘れる量が少ない。
その結果として、実力考査の成績が上がるのである。


 F-2  WhDLと闘争

賀生はそのまま、本屋に向かった。今晩読む本を買う為である。
「少し遅くなった。急いで帰らないと。」
小説を買い、本屋を出たのは八時頃だった。バスの時間を待つより、歩いて帰る方が早い。今日は、近道をする為に、裏道りを帰っている。
賀生が、そんな路地を歩いていると、何だか雰囲気が、ざわついている。
そこから、もう少し歩いた所で、十数人の白人達に道を塞がれた。
「おい山香ヨシオだろう?  ちょっと待て。」
また外人達か、こいつ等が、何故こんな所に居るのだ?  こいつ等は、白人ばかりで構成されている。
「あんた達に会った事は無いんだけど、何か用事か?」
今日のこいつ等は数が多い。やはり、付けられて居たらしい。それで、雰囲気がおかしかったのか?  こんな路地では、付けられて居ないと遭遇しない。
「最近、プログラムの講習までしているな?  出しゃばるのは、やめて貰いたい。」
「やめたい所だが、契約に含まれているので、やむを得ず行っている。アメリカの偉い人に言う方が、早いと思うよ。」
「何度も言う様に、お前が行かなければ、問題はないだろうが?」
「契約上、こちらからは破棄出来ないんだよ。」
「先輩、議論をしても始まりませんよ。体に聞かせましょう。」
それを聞いていた大柄な白人が、前に出てきた。
「少年、悪く思うなよ。少しの間、動けなくなるだけだ。」
「うーん、困ったな?  急いで居るんだけど。」
「余裕だな?  こちらにも都合が有るのでな。我慢しろよ。」
その白人は、問答無用で蹴りを出す。賀生は、一度は避けてみた。再びその白人が、回し蹴りを掛けて来た。その足を、賀生は蹴り上げる。白人は肩から地に落ちた。
もう一人の白人が、アッパーを放つ。賀生は、微かに体を反らす。他の白人達も参戦する。しかし、賀生には届かない。
「時間が無い。とにかく潰せ。全部で掛かれ。」
それを聞いて居た、他の男達も掛かって来る。全部で15人は居た。
賀生は、そいつ等の間を動き回る。
「くそっ。何故当たらん?」
「奇翔流奥義天翔。」
賀生が奥義を唱える。突然賀生は、少し横に動く。ナイフが、賀生の脇をかすめて、後へ流れる。続けて横の奴のナイフが襲う。それと同時に賀生が動く。今度のナイフも賀生の脇を舐める。
「何故だ?  なぜ刺さらない。」
怒った一人が、後から拳銃で狙う。賀生は、その悪意を感じ取る。
「天翔!」
再び賀生が奥義を唱える。それと同時に賀生の身体が動く。弾は賀生を掠めて消えた。この武術と称するしろものは、本来のところ詠唱は要らない。危険を感ずれば、身体が勝手に動く。しかし、武術を強調する為、口にする。

「どうなってるんだ?  ナイフも全然刺さらん。銃もきかん。」
それからも、入れ代わり立ち代わり、次々と敵が襲う。拳やら、足蹴りやら、投げ技やら、四方八方から、賀生を襲う。ナイフや拳銃の攻撃も混ざるが、いずれも身体をすり抜ける。少し派手に動くか?  これでは、いつまでも誤魔化す訳には行かない。
賀生の動きが、いつもより速くなった。賀生の拳や蹴りが、腹に頭に足にと突きささる。相手の攻撃も、全方向から賀生を狙う。何発も当たった様に見えたが、賀生は平気な顔で攻撃を続ける。
「なんなんだ、こいつは?  全然倒れないぞ。何発も当たって居る筈だぞ。」
「そう見えたんだが、全然傷も付かん。」
「断念ながら、君達の攻撃は、一発も当たっていないよ。すべて外した。」
常識的には、そんな術はない。賀生の武術の方が変なのだ。
「そんな術が有ってたまるか?」
「まだやるかい?  いつまででも付き合うが、勝負にならないよ。」
「お前は何者だ。何故、そんなに余裕をかます。」
「断念ながら、攻撃は当たらないよ。それだけの武術が有るのだ。」
「嘘をぬかすな、そんな物が有る筈が無い。」
確かに有る筈は無いのだが、賀生達には、横や後の害意が感じ取れる。そんな武術も有るのだ。そして、身体が勝手に動く。銃弾は、スレスレに避けて居るので、当たった様にも見えている。
「歴史の古い国には、何かと有るんだよ。」
「お前は一体何なのだ?  こちらには巨大な裏組織も有るんだぞ。」
「君達の国と違って、歴史の古い国には、もっと深い所が有るんだよ。気の毒だが、諦めて貰うしかない。」
「いずれ後悔させてやる。WhDLをなめるなよ。」
「もうよせ!今回は退く。忠告して置くが、上は、これで済ませてくれんぞ。」
「忠告有り難う。覚えて置くよ。」


 F-3  尊敬の条件

賀生と瞳は、今日も御茶を飲んでいる。そんな時、瞳が尋ねた。
「山賀さんは、どんな人を目指してるの?  好きな有名人なんかが、居るでしょう?」
「居ないよ。本やテレビに出て来るのは、あくまで、絵の中の風景だ。」
「アイドルなんかは、興味は無い?」
「興味は無い。アイドルも画面の飾りだ。」
「そのアイドルを、追い回している人も居るのに。」
「僕は、そんな面倒くさい事に関わらない。」
賀生はそれ等を、テレビの風景としか認識していない。
「女の子は要らないの?」
「そうじゃない。可愛い女の子なら、周囲に幾らも居る。目の前にも居るし。」
「チャかさ無いの!」
「僕の感覚は、そんなものだよ。」
瞳は、不思議そうに賀生を眺めていたが、改めて問いかけた。

「じゃ、山賀さんは。どんな人を尊敬する?」
「尊敬する人は居ないよ。」
「尊敬する人が居ないって、何故なのよ?」
「簡単に尊敬と言うけれど、良い人ばかりが、発明や発見をするんじや無いよ。」
「それでも、尊敬する人は、少しは居るんじゃない?」
「業績は認めるけど、人格迄は分からない。だから尊敬のしようが無い。」
大体、尊敬をするとは、無条件に、その人の全てを認める事になる。
テレビや新聞の報道が、真実とは限らない。相当に美化して報道している。
だから、山賀賀生としては、尊敬する人は居ない、と答えるしか無いのだ。
「人格が分かれば、尊敬する人が居る可能性も、有る訳なのよね?」
「その可能性は有るんだけどね?  しかし、人格を評価出来る証拠が無い。」
山賀賀生は、難癖を付けるのも、揚げ足取りも、大得意なのである。
「その、変な理屈が、山賀さんらしいけどね。」
人はよく、尊敬すると言うけれど、何処まで分かって居るのだろうか?  
「今日は、このぐらいにして帰ろうか。そろそろ夕食だろうし。」
「そうだね? 今日は随分、難しい話しをしたわね?」
「僕はこんな性格だからね。話しをしている内に、変な理屈が湧いてくる。」
「まだ、警戒する程じゃ無いわよ。」

瞳と別れた賀生は、本屋に直行した。やはり本が無いと寂しいのだ。
しかし悲劇は嫌いなので、悲劇が有る小説を除くと、読む本が少なくなる。
だから、ある程度は我慢をして読んでいる。
最近は、瞳との遊びが多くなり過ぎた。瞳は大丈夫と言うが、会えば会う程、勉強の時間が削られる。二人が目指している大学は、試験が少し難しい。出来れば、などもう少し勉強を増やしたい


 F-4  頭の使い方

賀生は、尊敬する人が居ない等と言う、尊大な考えの持ち主だが、その賀生が読む本は、文学とは縁の無さそうな、娯楽小説ばかりである。瞳の親も、どんな男と付き合っているか、心配しているだろう。そんな事を考えて居る時、瞳から電話があった。この前から一週間目である。
これは、遠慮をして調節しているな、と思ったが、これは黙って置く。
「こんにちは、元気にしてる? 」
「元気だよ。今本屋に来た所。」
「私も近くに居るのよ。時間が有ればお茶しよう。」
「分かった。例の喫茶店に行けばいいか?」
「うん、私も十分後には行けるから。」
賀生は本を選び、直ぐに喫茶店に向かった。
喫茶店に着くと、瞳は既に来ており、相変わらずミルクティーを飲んでいた。
「僕はコーヒーを。」
「相変わらず本屋だねえ?、よくお金か続くね?」
「田舎に居た時は、お金が無かったけど、今度の父親は、まあ何とかね。それに、古本を沢山買っている。」
「今度の父親って、義理のお父さん?」
「そうだよ、母親の再婚先。言って無かったかな?」
「初めて聞いたよ。山賀さん、そんな雰囲気が無いから、気が付かなかった。」
賀生の家庭の事情を聞いて、瞳はしきりに感心をしている。賀生が、そんな雰囲気で無いのが、不思議な様だった。
瞳は、不思議に思うだろうが、賀生の雰囲気が暗く無いのは、小説のせいも有る。
小説を読んでいると、悩ましい事も忘れられるのだ。
賀生は、義理の子供を可愛がっている。お陰で義父は、賀生に気を使ってくれる。
「お父さんとは、うまくいってるの?」
「義父とは、うまくいっているよ。ただ、その義父の義理の母親が居るからね。」
「それ、凄っく複雑じゃない?」
「複雑だね。お祖母さんには、毎日、ぐちぐちと文句を言われるし。」
「良く精神が保っているわね?」
「僕も母親も、義理には慣れている。それに、父親は気を使ってくれる。だからこそ、こんなに本が買える。と言っても、今は僕もバイト代が入っている。」
「バイト代って、何をしてるのよ?」
「前に言わなかったっけ。プログラムの解説を書いている。」
「それは又聞くわ。この前、お母さんに、山賀さんの話しを、したのよね。」
「あまり、いい話しには、ならなかっただろう?」
「やっぱり、随分頭の良い子だねって。」

「僕にしては、以外と高評価だな?  ずっと義理の中で育って居ると、頭を使わざるを得ない。悪い方へ曲がらないように、自分を制御しなければならない。」
「自分を制御って、無茶苦茶に難しくない?」
「難しくても、やらなければならない。」
「それ、子供の考える事じゃ無いよ。」
「母親が再婚をした頃から、考え始めた。」
「それは余りにも、ませ過ぎだね?」
「中二の頃だけど、反抗期には、絶対ならないぞって、思ったのが最初だな。」
山賀賀生としては、あまり自分の事は、話して欲しくは無いのだが、瞳の親としては気になるところだ。だから瞳に、話すなとは言えないのだ。

尊敬する人が居ない等と言う、一見傲慢な話しを聞いた割には、マイナス評価で無いのが、不思議なところだが、瞳が一段、クッションを置いてくれたのだろう。
もちろん、評価を上げる為に、自分の考えを変えるような賀生ではない。
まだ若い身でも有るし、他人の評価を気にする時ではない。
「瞳ぐらい可愛い子なら、通学の時とかに、男が話しかけて来ない?」
「英子の男友達と、たまに話すんだけど、軽いんだよね? 」
「それが、普通の高校生だよ。僕が重いんだよ。」
瞳は、賀生の理屈を理解している。賀生の話しは、高校生らしくは無いけれど、瞳は充分ついて来ている。
「ねえ、週に二回ぐらいは、電話してもいいって言ってたね?」
「お茶を飲むだけなら、構わないよ。」
「良かった、これで暇が潰せる。会えるのも嬉しいし。」
人を尊敬しない等と言う、傲慢な高校生の話を聞くと、瞳の親も、警戒すると思うのだが、この先はどうなるのだろうか?
賀生は、複雑な家庭環境の割には捻くれていない。理屈は捻くれては居るが、あまり悪い方にではない。これは、外れない様に、自分を制御してきた結果だ。
「今日は、そろそろ帰るよ。又連絡するね?」
「わかった。」


 F-5  ネットの利用法

三日程して、瞳から連絡が有った。今日は、教師の休みで、余裕が出来たそうだ。
級友達とお茶を飲んで、駅前に居るという。
「もしかして、駅前に居る?」
「今日は古本屋に居る。駅前からは、そんなに離れていないけど。」
「会える?」
「あぁ十分程で行ける。」
「待ってるわ。」
賀生は少し遅れて、喫茶店に入った。瞳はもう来ている。
「山賀さんは、古本屋にも行くのね?」
「古本屋にも行くし、ネットでも買う。ネットで買うのは、古本とIC関係。」
「色々と、理屈を捏ねている割りには、ネットのような軽い事もやるのね。」
「ネットでは、買い物をするだけだから。」
「山賀さんは、ネット歴は長いの?」
「町へ来てからだから、二年ぐらいかな。」
最近は、ネットの信頼性も、大分上がって来ている。初めの頃は、お金を送っても、品物が届かない、等と言った事がよく有った。
最近、それは滅多に無くなったが、それでも、金額の高いものは避けている。
「SNSなどは、やってる? 」
「その中の、メール機能やら、無料電話なら使っている。」
「その手のツールは使っているのに、出会い系はやらないんだね?」
瞳が訝しそうに聞いてくる。
「あんなもの、嘘のつき放題だよ。  」
普通に会っていても、騙されたと言う子も多い。ましてや、ネットでの話しになると、表情も解らないし、嘘を付いていても分からない。
「そうだよねぇ、最近はあの手の事件が多いからね?」
「ネットでの話は、一応疑って見る必要が有る。何故直ぐに信じる?」
「人を信じるのは、悪い事では無いけど、難しい時代になって来たね?」
「SNSは、合うきっかけにして、会ってから、観測のやり直しだな?」
実際、ネットのトラブルは多岐にわたる。それだけ賢くなる必要が生じる。
「本当にね? 皆、出会いに飢えてるのかな?」
「ネットでは、実際の人間が見えないから、言葉だけで良い子になっている。」
「それで、直ぐ引っ掛かるのかな?」
「多分ね?」
「山賀さんは、そっちの方は、興味が無いのかな?」
「僕は、ネットでの言葉は信用していない。」
「ネットは信用しないの?」
「事にもよる。最近のネットショップは、かなり信頼性が出てきた。それでも怪しいサイトが幾らも有る。」
「以外だったね? 山賀さんが、ネット事情にも詳しいなんて。難しい事ばかり言ってるから、ネットなんて無視してるかと思ってた。」
最近は、ネットに、ニュースが沢山流れている。あれにも、嘘が沢山混じっている。基礎知識の無い者は危険だ。嘘を信じる奴も結構存在する。
「まあ、ネットにも、色々と使い道が有る。僕はパソコンも使っている。パソコンの、アプリケーションの入手と更新に、ネットは付き物だよ。」
「ふーん。アプリケーションって何?  」
「今では、簡略化してアプリと言ってる。昔はソフトと言ってた。」
「あぁ、携帯電話のアプリの事かぁ?」
「親の代は全てソフトと言ってた。アプリとソフトは少しズレが有るけど。」
「何故ソフトなの?」
「ハードウェアとソフトウェア、略してハードとソフト。パソコンの機械部分をハード、プログラム関係はソフト、アプリもソフトに入る。」
「ふーん、昔の事を良く知ってるね?」
「一応調べた。昔の本が残っているから。」
「そんな本を読むのなら、今の勉強をしなさいよ。」
「分かった、努力する。瞳は、親に僕の事も話すんだね? 照れない?」
「お茶だけならともかく、海などへも行っているから、話さない訳にはいかないよ。お弁当まで作っているんだから。」
「そうだったな、年頃の娘を持てば、親も気を揉むよな?」
「そんなに、心配はしていないと思う。行く時には話しているから。」
最近の二人は、週に二回はお茶を飲む。
「何か、行く所が、無くなってしまったな?」
「本当にね、二週間に一回ぐらいなら、食べ歩きも良いかもね?」

その日、瞳の家の夕飯時、山賀賀生の話題が出た。
「今度の日曜日、山賀さんの案内で、ハイキングに行くね。英子も一緒に行く。」
「何処へ行くの?」
「学校の駅から、バスで一時間余りの、標高千米の高原をハイキング。」
「瞳は、大丈夫そうだけど、英子さんは大丈夫?」
「バスが、上まで上がって居るから、大丈夫だそうよ。」
「山賀さんて、行動範囲が広いのね?」
「行動だけじゃないわよ。今はお母さんの再婚先で、苦労しているわよ。中学二年からだけど、その時に、絶対反抗期にならないぞって決心して、不良にならない様に、自分を制御して来たと言うのよ。中学生の考える事じゃ無いわよ。」
「その環境なら、グレてても不思議じゃないのに、凄いな?」
「グレないように、頭を使わざるを得ないってさ。」
「そんな事にまで頭を使うか?  初めて聞いたな?  心を頭で制御って。」
「何処までも理屈の人だよ。その癖、優しいのよね?」
「瞳も、しっかりしないと、置いて行かれるわよ。」
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