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1G 米主義と日本主義

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1G 米主義と日本主義

 G-1  初歩の解説書 雑誌と本の解説
 G-2  米主義と日本国粋主義 前と同じ主義者達?  ナイフ 銃 奥義
 G-3  高原を散策 標高900メートルの高原
 G-4  座談会出演オファー
 G-5  賀生はオタク?
 G-6  瞳がらみの喧嘩 幾つのグループが有るのだ?

 
 G-1  初歩の解説書
 
賀生は、中学生の頃から、プログラムに嵌っている。
プログラムコンクールに入賞した事から、初歩の解説書を書く迄になった。
プログラミングも面白いが、それでも、小説を読むのが大半を占める。
小説なら、書店に行けば幾らでも有る。賀生は今日も、自宅で小説を読んでいる。
そんな時、PC 出版から電話が掛かった。
「雑誌の原稿は出来ていますか?」
「大方出来ています。今、読み返していますので、少々待って下さい。」
「それは、助かりました。出来次第送って頂けますか?」
「分かりました。明日送ります。」
賀生の感触としては、解説書の初歩シリーズ三巻だけでは、実用版への理解は難しいと感じていた。賀生の本は、解りやすいのは抜群だが、その分、文章が長くなる。
結果的には、従来の初歩の本一冊が、賀生の本では、三冊以上にもなった。
流石に初歩は三冊が限度だ。内容は薄くなるが、初歩版は小冊子を三冊とした。
ところが、PC出版アメリカ本部の要請で、初歩上級編も出版する事になった。
プログラム初歩上級版は、日本支社の初歩版より、少し遅れて発売している。


 G-2  米主義と日本国粋主義

ある日の放課後、賀生と瞳は、男達の一団に声を掛けられた。男達は、白人と黒人と黄色系が混じっていた。おおよそ20人は居る。
「君は山香ヨシオだな?」
「そうですが、何か?」
「君は、アメリカの出版社で本を書いて居るな?  何故アメリカなんだ?」
「アメリカの出版社に依頼されたからだよ。無理に、国を選んだ訳では無い。」
「何故日本の出版社に、頼まないのだ?」
「僕が頼んだ訳では無い。ホームページを見て、出版社が頼んで来た。」
どうやら、この男達は、アメリカで出版したのが不満の様だ。しかし、日本の出版社は、声も掛けて来ていない。
まぁ、賀生のホームページは有名でも無く、ネットの奥深くに眠っていた。探してくれたのが、奇跡の様なものだった。
「ホームページに載せて居るのだから、誰でも見られる。出版が気にいらないのなら、その出版社に言ってくれるか?」
「全く生意気なガキだ。一発かましとけ。」
その中の日本人らしき男が、突然殴って来る。賀生は右手で止める。
「奇翔流奥義天翔!」
賀生が唱える。奇翔流の奥義を発動したのだ。詠唱しなくても、危険が及べば、勝手に発動するのだが、武術を強調する為、無理に声にする。
その日本人は、何の為に、こんな連中と混ざって居るのだ?  こいつは、日本の出版社に頼まなかったのが不満なのだろうか?  要は、アメリカの出版社に頼んだのが不満な奴と、日本の出版社に頼まなかったのが不満な奴の、混成部隊だと言う事だ。

次の奴の足払いが来る。賀生はそれも躱す。
「逃げるな!」
瞳の方にも、何人かの男が向う。
「奇翔流天翔」
瞳の口からも、その言葉が発せられた。瞳も奇翔流奥義を発動したのだ。
「女は捕まえて置け。逃げられたら拙い。」

瞳を捕まえに行った男は、瞳に背負いで放うられる。
「抵抗するか?  それなら容赦はせんぞ。」
その男は突然、瞳に殴り掛かる。拳が当たった様に見えたが、拳は瞳をすり抜ける。
「下手くそだね?  ちゃんと狙いなさいよ。」
瞳が挑発する。業を煮やした東洋人がナイフで襲う。それもスレスレに躱された。
「くそっ。どうなって居る?」
次々と何人かが、ナイフや銃で瞳を襲うが、何れも躱された。
「こいつ等は何なんだ?  どうして当たらないんだ?」
自分に向かった害意には、身体が勝手に反応する。賀生と訓練をした古武術の影響で有るらしい。賀生と瞳は、合同で古武術奇翔流の訓練をしている。
その時に、古武術の奇翔流奥義が感応した。

賀生の方にも何人か向かって来る。これも、瞳と結果は同じだ。今度は胸元を掴みに来た。全く煩い奴等だ。賀生は、その腕を取り背負いで放る。男は宙に舞う。
「ぎやっ。」
他の奴が、飛び蹴りを掛けて来る。賀生は、身を反らして避け、尻を蹴り上げる。
「いったー。」
次は、大柄の白人に替わる。その白人のアッパーが襲う。賀生は体を回し、そのまま、みぞおちに当身の蹴りを放つ。白人は飛び退いて避けた。その崩れた態勢の膝を、賀生の足が薙いだ。その白人は、一瞬宙に浮き地に落ちた。
「おのれっ。」
一人の黒人が、ナイフを出した。
「くそっ、死ね!」
ナイフは賀生の身体を襲う。ナイフは身体をスレスレに掠める。
賀生の古武術は、後の害意も感じ取れるのだ。意識を伴わない、物体の動きだけでも感知する。
もう一人の奴も、背中からナイフをふるう。
「これで、どうだ?」
そのナイフも、身体の脇をかすめる。
「何故だ?」
「今度は逃げられんぞ。」
そう言うなり、他の奴が拳銃を撃つ。瞬間、賀生の身体が反応した。身体が横にズレた。弾は、賀生の脇をすり抜ける。賀生の術は、どんな害意にも、瞬時に反応する。
「どうなっているんだ?  何故あれが当たらない?」
賀生がそれに答える。
「術が違うんだよ。僕には後の方も解るんだよ。」
「馬鹿な事をぬかすな!そんな術が有ってたまるか?」
「信じなくても良いが、もう退いた方が良いぞ。今の音で、警官が来る。」
「引けっ。」
その一団は、慌てて退いて行った。今回は、前の奴等と違うグループらしい。
リーダーは、武器を止めなかった。やはり、幾つかのグループが有る様子だ。
あの外人達は今迄と同じく、日本人の書いた本を、アメリカで 出版するのが気に入らないのは同じだが、グループが違ったらしい。しかし、あの中には、日本で出版しないのが気に食わない、日本主義らしいグループも居た。


 G-3  高原を散策

賀生は、明日、瞳とハイキングに行く。英子も一緒である。
これには、瞳の妹の爽香も参加する。そこは、この街から一時間あまりの高原だが、今はススキでいつぱいだ。おそらく瞳も満足するだろう。弁当は、瞳と英子が作ってくれている。現地で作るのなら賀生の出番だが、弁当なら賀生の出番は無い。
九時に、駅前で待合せて居るので、八時に起きて朝ご飯を食べた。
そして、ゆっくりと駅前に向かう。
「おはよう。弁当は出来てる?」
賀生は、約束の九時ぴったりに、時計台の下に着いた。
「美味しいのが出来たわよ。」
明るく、返事が返って来たので安心をする。
「高原迄、ここからバスに乗るからね。」
「一時間で、標高1000米の高原か? 私達は初めてだから、楽しみだわ」
「今の時期は、ススキが綺麗だよ。一面ススキヶ原だ。」
「それは、楽しみだね?」
「お兄さんは、行った事が有るんだよね?」
瞳の妹の爽香が、賀生に聞く。
「そうだね、三度ぐらいは有る。全て歩いて登った。」
「バス乗り場に行こうよ。もうすぐ出る時間だよ。」
瞳達が乗り込んで、暫くしてからバスは出発した。バスに乗ってから約一時間、既にバスは、山道に入っている。
「もう直ぐ着くよ。山道に入ったから、あと十分もかからない。」
「わぁ、ススキヶ原だ。凄い。だけど、弁当を食べる所は有るかな?」
「少し先に、小高い丘が有る。そこの芝生で、ススキを見ながら弁当にする。」
そうこうする内に、バスは終点に到着した。
「忘れ物が無いようにね。その大きい荷物は、僕が持つ。」
「お願いします。」
「昼迄に、二時間程有るから、一時間程その辺りを歩くか?」
「賛成。少し運動をしよう。」
他の乗客も、散り散りに散ってゆく。
ススキヶ原の小道を歩いて行くと、高原をぐるりと回って丘の下に着く。
「なんか、清々しいわね?」
「ここまで登ると、空気が澄んでいるからね?」
この丘の頂上は、標高約1070m程有る。
「この辺りで良いか? ススキも良く見えるし。」
「そうだね、ここで弁当にしよう。」
「ここから、バス乗り場迄は割合近いね。ぐるっと回って来たのね?」
「そうだよ、直で来ると近過ぎるので、回ってきた。」
「ここは、標高はどのくらい?」
瞳が尋ねる。
「この丘の頂上で、1070mだから、ちょうど1000mぐらいかな?」
「1000mか、このあたりでは、高い方だよね?」
「ずっと北部へ行くと1500m位の山が有るけど、この辺りでは、この程度だな?」
早速四人は弁当を拡げだす。昼には少し早いが、昼ご飯にする。
「美味しそうだね?」
「どうぞ、沢山作ったから、充分有ると思う。」
「私も手伝ったんだよ。美味しいよ。」
爽香も弁当を薦めている。
「うん、美味しい。自然の中で食べる弁当は、余計に美味しい。」
賀生は、満足そうに言った。
「こんな高原で食べると、一段と美味しいね?」
爽香も満足そうに言う。
「昔は、車道が無かったから、皆んな歩いて登ったんだよ。」
「そうだよね、昔の人は偉いね?」
「昔の人と言っても、僕達の祖父の時代だからね?  少し向こうには、畑の跡がある。小石を積んで、緩い斜面を畑にしている。」
「こんな高い所に畑が有るの?  歩いて登るのは大変でしょうに。」
「昔はそれだけ、食料が逼迫していたんだろうさ。」
おそらく、戦時中の話だろうが、こんな山の上に畑を作ると、肥料も道具も運び上げねばならず、大変な労力である。その労力は、全て人間自身が担っていた。
そうなのだ。昔はどこも、車道なんか付いていなかった。歩くのが普通だったのだ。
「どうする? ここで、のんびりするか、それとも少し歩く?」
「腹が満腹だから、ここに居ようよ。」
どうやら瞳は食べ過ぎたようだ。賀生は寝転んで、空の雲を眺めていた。
爽香や英子もひざを崩して、ゆったりとススキの海を眺めている。
賀生は、寝ころんで居たので、本当に寝てしまう所だった。
「山賀さん、気持ち良さそうだったね?」
「ほんと、空気は綺麗だしね?」
「気持ちいいけど、そろそろ帰らないとね?」
瞳は、そう言いながら、弁当を片付けている。
「バスは何時に有るのかな?」
「帰りは、二時半頃から有ったと思う」
「今からだと、ちょうど良い頃かな?  そうだ、写真を何枚か撮って置こう。」
今は、カメラを持ち歩かなくても、スマホと称する、携帯端末で写真が撮れる。
「そうだね?  私も少し撮って置くわ。」
帰り仕度をして、バス乗り場に着いたのは、バスが出る少し前だつた。
一時間余りで、バスは、いつもの駅前に戻ってきた。

「まだ少し早いわね? お茶して行く?」
「そうするか? 僕は大丈夫だけど。英子さんは大丈夫?」
「大丈夫、少し落ち着いてから帰りましょうか?」
喫茶店に入った四人は、それぞれの飲み物を注文する。四人は、瞳の学校の事、賀生と英子の学校の事等、雑談をして居る内に、帰る時間になった。
「お茶も飲んだし、そろそろ帰ろうか?」
「英子さん、爽香ちゃん、付き合ってくれて有り難う。良く休んでね。」
「山賀さん、私は?」
瞳が聞いて来る。
「 瞳は、体力も有りそうだし、大丈夫。」
「もう!」
そこで、四人は別れたのだが、賀生は相変わらず、古本屋に直行した。
やはり夜には、本が無いと寂しいのだ。賀生は、取り敢えず小説を買う事にする。


 G-4  座談会出演オファー

そんなある日、PC 出版ニューヨーク本部から電話が有った。
「こんにちは、山賀さんでしょうか?」
「山賀です。」
「実は、テレビ局から出演のオファーが有りました。当社が売っている、山香さんのプログラム解説書に興味が有る様です。プログラムは、今流行りでも有りますし、向こうも乗り気になっています。」
「私では、荷が重いような気がしますが?」
「今当社では、教務省の許可が降りまして、学校関係に、プログラムの初歩の本を、紹介しています。著者の山香さんは、歳が若いし、面白いと思われた様です。」
「教育絡みになると、断わりにくいのですが、私で無いと駄目でしょうか?」
「こちらとしましては、是非お願いしたいのですが?」
やむを得ないか?  PC 出版は、仕事絡みでも有るし、断わりにくい。
「期日はいつになりますか?」
「今月の二十日になると思います。」
「それなら大丈夫ですね。分かりました。しかし、私は英語を喋れませんよ。そっちの方が心配ですが?」
「それは大丈夫です。秋芳が通訳に就きます。詳細はメールで送ります。」
アメリカのテレビに出る事になってしまった。面倒な事になった。
しかし、アメリカのテレビなら日本では見られない。それが唯一の救いでも有った。


 G-5  賀生はオタク?

火曜日の朝、瞳から携帯に連絡が有った。
「山賀さん、おはよう。今日の放課後は暇?」
「暇は有るけど、朝から、どうしたの?」
「暇が有ればいいのよ。例の所で待ってるから。」
通学中らしく、慌ただしく携帯電話を切られてしまった。今日は、募金集めも終わっているので時間は有るが、何の用事なんだろう?  賀生は、そう思いながら、駅前の喫茶店に向かった。
「お待ちどうさま。早かったね?」
「私も少し前に来たところ。今日は予定が、ぽっかり空いちゃって。」
「朝の電話は、予定を断られたばっかりだったのか?」
「そうなのよ。ケーキを食べに行く予定だったのに。」
朝から電話をしてくると思ったら、そう言う事だったか?
「それなら、ここで食べたら?」
「又行くからいい。それより、山賀さんは、もっと勉強を頑張りなさいよ。」
「枝葉の知識を詰め込むと、大事な事も、一緒に散るんだよ。」
「なんか、屁理屈で誤魔化されてる気がする。」
瞳とひとしきり、漫才のような論争の末、賀生は日曜の事を質問した。
「日曜日は英子さん、迷惑じゃ無かったかな? 付き合わせてしまって。」
「大丈夫、面白がってた。爽香も喜んで居たわ。」
「もうすぐ冬だけど、瞳、スキーは出来る?」
「少しはするけど、山賀さんは?」
「僕は下手。だけどスキーは好きだよ。基本的に、広い屋外が好きだから。」
「山賀さん、本をよく読む人は、どっちか言うと、引き籠もりでオタクでしょう?」
「それは違うよ。引き籠もりが原因で、読書やゲームしか出来ない奴と、屋外が好きながら、読書も好きだと言う人と、本当のオタクが有るわけ。」
「成る程、山賀さんは、その真ん中だと言う事だね?」
「当然だね。」
「ところで、本当のオタクって何?」
「本来オタクは、お宅と書いて、趣味等で、家から余り出ない人の事だった。今の様に、ゲームしかやれない、引き籠もりの事では無い。」
「その意味のお宅か?  今迄、分からなかった。」
「ある意味、僕もお宅だった。家でラジオを作ったり、化学実験をしてたから。」
「やっぱり、オタクか?  だけど、今のオタクは、アニメを見たり、ゲームに嵌ってる人の事だよね?」
「そうだね、オタクと、片仮名で書きだした頃から、意味が変わった。瞳、そろそろ帰らないと、お母さんが心配してるよ。」
「山賀さんと会う、と言ったから安心してるよ。」
「本当かな? 親は結構心配性だよ。駅まで送るわ。」
「ありがとう」
瞳は機嫌良く改札を出て行った。
最近の賀生に、女の子の友達が出来るなんて、奇跡に近い話しではある。
いや、田舎の中学では、女の子とも、ジャレあって居た。しかし街に来ると、女の子達も大人びて居て、話しを遠慮する様になった。
その賀生も、瞳とは波長が合いそうだ。同じ大学へ行きたい、とも思っている。


G-6  瞳がらみの喧嘩

「今日も歩いて帰るか?」
賀生は、そう思って、自宅の方向へ足を向けた。自宅は、この駅前から約二十分程の所だ。早足で歩けば十五分で着く。その途中に古い城跡が有る。
そこを通らなくても帰られるが、道が広いので、大概そこを通る。
「おい、山賀やないか。」
城跡の傍に有る公園から、声がするので顔を向けると、見たような顔が有った。
そこには、十人近くの少年達が腰を落としている。
「ええっと誰だっけ?」
「三月まで、同じ中学だったろうが。」
「見た事が有るような気はするんだけど、思い出せない。」
「相変わらず神衣に会ってるな?」
「同じ組だったから、友達になっている。」
「それでも会うなと言っている。」
「神衣に確かめた?」
「お前に言ってるんだよ。」
「それ、僕には返事を出来ないよ。」
その者達は、無言で賀生を取り囲んだ。
他に人は居ないし、やるしか無さそうだな?  うっとうしい事だ。
「喧嘩はやめようよ。」
黙って、中の一人が胸元を掴みに来る。
賀生は体を開き、左手でその手を捻り倒す。
「ぎゃっ。」
右手で、次の奴の手を捻りながら、すつと輪の外へ体を逃がした。
「ぐぇっ。くそっ。」
腕の痛みで、次の奴も地べたに這う。
「頼む!」
そのグループのリーダーが、後の奴に叫んでいる。
後の方から、大柄の男が現れた。そいつは、かなり強そうだ。
「えーいっ。」
突然蹴りが来る。賀生は、後へかわす。後へ回り込もうとする奴が、目の片隅をかすめる。そいつに、横蹴りを放ち、牽制する。
「とぉー。」
賀生の腹に突きが襲う。それを右手で払い、左手で側頭部を打つ。
そいつは、後へ体を反り、それをかわす。重心がやや後へ崩れる。
「えっーい。」
賀生はそれを身逃さず、足を掛けながら、突きを出す。
そいつは、バランスを崩して、後へ倒れた。その乱れに乗じて当身を当てる。
「うっ。」
そいつは、しばらく立つ事が出来ない。
「ふぅー。負けた。空手でも無いし柔道でも無い。不思議な技だ。」
「まぁ、色々とね? だけど、こんな事に首を突っ込んでは駄目だよ。」
「分かった。この件から手を退く」
その男は納得したが、別の奴が、無言で突きを出して来た。
賀生は、その手を引き、体に潜り背負いで放る。
「ぐぅー。いたっ。」
その次の奴は、腕を引き寄せ、足を刈る。
「くっそー。」
賀生は全て、当分痛む程度で止めている。怪我をさせると、後が面倒なのだ。
「まだやるのか?」
「うるさい。引くぞ。」
やれやれ、やっと退いてくれたか?
しかし、何か誤解が生じているらしいのだが、瞳は何も感じていない。
誤解なら、なおさら怪我をさせられない。瞳の関係者なら、瞳の耳に入っている筈だが、瞳にはそんな様子は無い。
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