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1M 将来の夢

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 M-1  プログラム講習と喧嘩 米主義と闘争
 M-2  瞳と賀生の意識
 M-3  瞳の決断 賀生と共に
 M-4  喧嘩の元 瞳の保護と誤解
 M-5  日本でパーティ 米教務省長官出席


 M-1  プログラム講習と喧嘩

進級早々、賀生はそれなりに忙しい。瞳と賀生は、今日から高校二年になる。
本によれば、花の高校生と言う話だが、実際は、そんなに甘くは無い。
大学受験が無ければ、それも言えるのだが、夢の様な話ではある。
瞳と同じ大学へ行く為には、勉強を、もう少し頑張らなければならない。

そんな事を考えている時、PC 出版日本支社から電話が掛かった。
「PC出版の山本です。」
「山賀です。」
「又、講習に行って欲しいんですが?  やっぱり三日程です。」
「これも、ウェブワークでは、駄目なんですか?」
「学校側に設備が有れば良いんですが、整っていない所も有りますので。」
「分かりました。」
やり掛けた以上、希望が有る限り、足を運ばざるを得ない。
「三日後でしたか?」
「それでお願いします。日本支店に、チケットを取らせます。」
「分かりました。準備をします。」
瞳と賀生がニューヨークに着くと、空港には順子が待っていた。
「ホテルへ案内します。」
順子は、二人を近くのホテルに案内をして、会社へ戻っていった。

次の日の講習が済み、ホテル迄は順子が案内をしている。
しかし、会場を出てから、何か違和感が有った。誰かに付けられている。
賀生は、大通りを避けて路地に入った。大通りで揉め事は起こせない。
「お前は山香ヨシオだな?」
「つけて居たのは君達か?  何の用事だ?」
「お前は相変わらず、アメリカへ来ているな?  来るなと言っただろう。」
「僕は、アメリカの出版社に呼ばれて居るんだよ。分かっているか?」
「そんな事は関係がない。聞けないなら、少し不自由になって貰おう。」
そいつは、後ろの奴に合図をした。こいつ等の組織も情報が滞っている。
賀生達の事が伝わっていない。
「えっやー。」
最初の蹴りが来る。プロ級の技では有るが、賀生の古武術は、元々そんな奴等を相手にする武術だ。その蹴りをはじき、もう一方の足を払う。
そいつは宙に浮き地に落ちる。
「瞳、後ろを頼むよ。」
「了解。」
順子を中に入れ、賀生と瞳は、前後を護る。
「けゃっー。」
次の奴の廻し蹴りが来る。それを避け脚を蹴上げる。そいつも宙に浮いた。
路地の裏から、廻って来る奴も居るが、瞳が対応している。
「くそがっ。」
瞳は、路地裏側から殴り掛かる奴を、背負いで放る。
次の奴は、首を掴みに来る。そいつも、瞳の掬い投げで放うられた。
「ぎゃっ。」
「いゃー。」
鋭い正拳が賀生を襲う。賀生は平手で止め、背負いで投げ飛ばした。
結局、10人近くを倒され、奴等は何処かへ消えた。
「前にも思ったけど、山香さん達は何者なの?」
「古武術の愛好者ですけどね?  秋芳さん、あまり言いふらさない方が良いですよ。
アメリカ至上主義か、どうかは分かりませんが、かなりの組織が有りそうです。誰がスパイなのか分かりませんので、気を付けて下さい。三回目ですので。」
「分かりました。気を付けます。」
五月の半ばには、座談会が有るのだが、これは、ネットワークに切り替わった。


 M-2  瞳と賀生の意識

今日は、本屋にでも行くか?  等と考えて居ると、携帯電話が鳴った。瞳からである。
「はい、山賀です。」
「あっ山賀さん、暇有る?」
「今、本屋に行くところだけと。」
「じゃ本を買ったら、例の所へ来てくれる?」
「分かった。だけど、学校を出たところだから、二十分ぐらい掛かるよ。」
「うん、私もこれからだから、待ってる。」
賀生が本を買って、喫茶店に着いたのは、ちょうど、二十分後であった。
既に瞳は来ている。しばらく二人は、黙ってお茶を飲んでいた。
「しかし、もう高校二年か?  あまり、実感は湧かないな?」
「そうなんだよね、そろそろ、勉強をする気にならないとねぇ?」
「瞳は、元から勉強し過ぎるほど、やっているだろう?」
「受ける大学に依るんだけど、行きたい所は難しいし。」
賀生は、瞳に会うまでは、大学に拘って居なかった。瞳と友達になり、多少は事情が変わった。瞳が、大学に行くのなら、賀生も、大学へは行って置きたい。
「私に合わせなくてもいいわよ。もっと良い大学に行けるのなら?」
「問題はそこだよ。本当に仕事を覚えるなら、小さな会社の方が早いんだよな?」
「もう、そんな事を考えているの?」
「中学の時から考えている。実務だけを追求するなら、大学の四年間は無駄だ。」
「私は何も考えていなかった。山賀さんと遊ぶだけで楽しかった。」
「僕も楽しいよ。ただ、将来の事は、瞳も考えなければね?」
瞳は複雑な顔をしている。今迄、何も考えないで遊んで居た相手に、複雑な事情を語られて、戸惑っているようだ。瞳が帰ると言うので、賀生は駅まで送って行った。
「気を付けて帰ってよ。考えながら歩かないようにね。」

瞳は、手を振って改札を入った。それから二日程は、瞳から電話は無かった。
今、賀生は本屋に来ている。本を探していると、瞳から電話が入った。
「もしもし、山賀さん?」
「あぁ、瞳か?」
「喫茶店に来られる?」
「今本屋だから、五分程で行けるけど。」
「分かった、お願い。」
瞳の声が、ちょっと明るい。賀生は少し安心をした。
「元気してた?」
賀生は声を掛けたが、瞳は黙って頷いた。
しばらくして、瞳は思い切ったように、賀生に話し掛けた。
「この間の、山賀さんの話しを、お父さんに話して見たのよね。」
「うん、それで?」
賀生が先を促す。
「これは、瞳に、考えさせる為だろうって。」
「そうか、僕の意図を、汲んでくれたんだね?  お母さんの反応はどうだった?」
「この人は頭の良い人だね、後は、仕事の事だけだねって。」
「ご両親とも、僕の真意が解ってくれてるね。後は瞳の意思の問題だね、 将来の事は、まだ想像出来ないかな?  」
「私も考える時かなあ?」
普通の人間は、大学に行って、会社に就職をして、と言う平均的な人生を考える。
賀生の人生設計とは、少しズレが有る。
「僕の希望としては、自分で、何かを立ち上げて見たい。」
「会社に勤めるのより、自分で、何かを初めたいと言う事かぁ?」
「そう言う事だね?  堅実な人生には、ならないかも知れないけれど。」
「女の悩む処だね?」
賀生は将来の夢を、もっと後に話す積もりだった。しかし、それでは卑怯だと思ったのだ。もし別れる事になるのなら、早い方が、瞳の傷が浅くなると思ったのだ。

次の日の昼休みに、英子が現れた。
「あっ、英子さん久し振り。」
「山賀さん、久し振り。それより山賀さん、瞳に何を言ったのよ。」
「あぁ、僕の将来設計を少し。」
「悩んでいたわよ。山賀さん、私の事はどうでも良いのかなって。」
「気になるから、話したんだけど。」
「だって、選択は瞳に任せると言ったでしょう?  女は、俺について来いってのを望むのよ。普通の男は無理にでも、そう言うよ。」
「そう言いたいんだよ。しかし僕は、そんな肝心な事に嘘は言えない。それに瞳の心は、読めて居ないのでね。」
「誰が見ても分かるわよ。誰が、好きでも無い男と、二日毎に会うのよ?」
「怪しい言い方を時々するけど、本当の意志は分からなかった。」
「瞳が、遊びでそんな事を言わないよ。そんなに器用では無いよ。」
「それは、そうだったね?」
「山賀さん自身はどうなのよ。瞳の事はどう思っているのよ?」
「相性も良いし好きだよ。そうで無ければ、あんなに付き合え無い。」
「じゃ、なんで今頃、あんな事を言ったのよ?」
「早く言って置かないと、卑怯になると思って。後になる程、別れにくくなる。」
「なる程、山賀さんの気持は分かった。後は瞳か?」
そう言って、英子は帰って行った。


 M-3  瞳の決断

その日の放課後、瞳と英子は、学校近くの喫茶店に居た。
「今日、山賀さんに会ったよ。」
「何か話しをしたの?」
「瞳の事を少しね?  山賀さんは、瞳の事好きだよ。」
「山賀さんが、ハッキリ言うとは思えない。」
「カマを掛けて見たのよ。」
これは嘘だった。瞳も自信を無くしているので、少し言い方を変えて話したのだ。
瞳が受入れ易い様に、話すしか無いと、英子は思ったのだ。
「山賀さんは、気持をハッキリ言うタイプじゃ無いしね。」
「好きだと言ったわよ。ただ、仕事が不安定だから言えないって。好きで無ければ、あんなに付き会ってくれないよ。」
「山賀さんは、どっちでもいいと、思っているのよ。」
「それは絶対違う。好きだからこそ、仕事に不安が有ったら、ついて来いとは言えないのよ。そもそも山賀さんは、本心を誤魔化して迄、口説く事は無いわよ。」
「そうかなぁ、自信が無いなぁ。」
「好きだとハッキリ言ったからね、私には。瞳が好きなのは間違いないわよ。仕事が不安定なので、言えないとは言ったけど。しかし、後はこちらの決断だよ。」
英子は、瞳を観察している。全く、世話のやける人達だ。しかし、苦労の甲斐は有った。瞳の顔に元気が戻って来た。

瞳から、賀生に電話が有ったのは、それから二日後である。
「山賀さん、今はどこに居るの?  時間は取れる?」
瞳の口調は硬いけれど、声は明るい。
「大丈夫だよ。今は駅前に居る。」
「私も駅前に居るんだけど、喫茶店に来れる?」
「今から本を買うから、十分程で行けると思う。」
「分かった、待ってる。」
賀生が喫茶店に着くと、瞳と英子がお茶を飲んでいた。
「やぁ、英子さん、こんにちは。」
「こんにちは。私も、御一緒しました。」
ウエイトレスに、コーヒーを頼んで、賀生は椅子に腰をおろす。
「今日は二人揃って、どうしたの?」
「最近、ぎくしゃくして居たので、ネジを巻き直そうと思って。」
と英子が言った。
「ネジを巻き直すって? 」
「お互いの気持ちが分かった処で、時間を巻き戻せば良いと思って。」
「なるほど。」
「瞳も確りしなさいよ。元気が取り柄なんだから。」
「ひどーい、私の取り柄は元気だけ?」
瞳が抗議する。しばらく、三人でお茶を飲んでいたが、英子が席を立った。
「ちょっと、行く所が有るので、私は先に帰るね。」
英子が席を立ってから数分して、瞳が口を開いた。
「山賀さん、ごめんね。私が決断しなかったばかりに、英子にまで心配かけて。」
「責任なら、僕が一番大きいよ、難しい事を言ってしまって。」
「だけど、いつかは決断をしなければ、ならない事だよね?」
「ちょっと早いかな、とは思ったんだけど、傷が深くなる前にと思って。」
「やっぱり大人だよね?  私は何も考えていなかった。」
「まぁ、この話はこれぐらいで。瞳の両親にまで、知られた事だし。」
「そうだよね、元へ戻どした方がいいよね?」
これで、一見落着か?  何か大騒ぎになってしまった。
瞳が、完全に決断したとも思えないが、追々と心に滲みて来るだろう。
明日から日常に戻ろうと、賀生は思っている。
あれから、瞳と賀生は、日が経つと共に、以前の関係に戻っていった。
最近は、週二回のペースで会っている。やっと元の生活に戻った。


 M-4  喧嘩の元

「山賀さん、何処かへ行きたい。」
今は五月の中頃になる。行くのなら、梅雨迄に行かなければ、雨に当たる。
「屋外に行くのなら、今月中に行かないと、梅雨に当たるよ。」
「何処か良い所は有るかな?  私には思い浮かばない。」
「規模は小さいけど、市外の植物園にでも行くか?」
「市外ってどこ?」
「少し北の町になるけど、側に池や山が有って、山の斜面で弁当が食べられる。」
「まだ花が有るわよね?」
「有ると思うよ。行くのなら今月中だよ、梅雨に入ると、鬱陶しいからね。」
「そこでいい、弁当を作るから。だけど山賀さん、オタクの割に知識が広いね。」
「オタクじゃ無いって。次の土曜か日曜になるけど、どっちがいい?」
「土曜日に。雨なら日曜日に。」
「英子さんは誘わなくていいかな?  一度誘って見ない?」
「そうだね、誘ってみる。」
瞳も、英子に世話をかけたので、気にして居たところだ。

「それはそうと、この前、家への帰りに、又、不良共に絡まれた。」
「えっ、まだ有るの?  お父さんには、又、喧嘩になったとは言ったんだけど。」
「多分もう一本、違う筋が有ると思う。」
「まだ有るのかな、うっとうしいね?」
「元は、瞳を見守る為の話しだと思う。瞳には言えないって、言っていた奴が居たから。それが何処かで曲がってしまった。連想ゲームみたいに。」
「連想ゲームって?」
「短い話を、順番に伝えて行くゲーム。最後には、全然違う話になってしまう。」
「そうかあ、連想ゲームか、面倒だね?」
「今のところ、本格的な喧嘩には、なって居ないんだけどね。」
「そうだね、そろそろ止めないとね。私も道場へ顔を出してみる。」
「頼むわ、じゃ土曜日にね。その日は、みんな忘れて遊ぼう。」
「天気になれば、いいよね、まだ大丈夫だよね?」
梅雨迄に少し有るから、大丈夫と思うが、天気は水物だ。
その実行日迄に、PC 出版の座談会が有るが、今は、ウェブシステムで済む。
じゃ、その当日に、と言って二人は別れた。

その日、瞳の家の夕飯時、瞳は父の真路と話していた。
「山賀さん、又絡まれたって。十人近く居たって。」
「皆んなに、釘を刺すように言って置いたんだけどな、怪我は無かったのか?」
「それは大丈夫みたい。問題にして無かったから。それより、山賀さんは、もう一本、違う筋が有るんじゃ無いかって。」
「ふーん、よく頭の回る子だな?」
「勉強は、私の半分もして居ない筈なのに、英子より上だよ。私よりも上。」
「半分もって、どうして解るの?」
母親の弥生が疑問を口にする。
「一日に、文庫本を二冊も読んでるんだよ。ネットで古本を沢山買ってるし、会うのは本屋の帰りだし。授業中は寝てるし。プログラムの解説も書いてるんだよ。」
「そうだった。プログラムの本を書いてるんだった。それで、瞳より成績が上とはね?  どんな頭をしているんだろうな?」
「多分、記憶力が凄く良いんだと思う。効率重視の勉強法をやってるし。従兄に東大が二人居るって言ってたでしょう?  それに、I Q が170も有ればね?」
「170って異常だね?  普通は100でしょう?」
「それにしても、考え方が大人だね?」
「お陰で、毎回々々屁理屈を聞かされてる。お父さんお願いね?  喧嘩の事。」
「分かった。道場へ顔を出す。」
「お願い、山賀さんが、本気を出す前に止めたいから。私も覗くけど。」
「本気とは?」
「山賀さんは、まだ本気を出していないのよ。本気になったら怪我人が出るよ。」
「分かった、急いで、もう一つの方を探す。」

土曜日は幸い良い天気になった。英子も含めて、三人で植物園に行く。
「山賀さん、おはよう。」
英子と瞳は、既に来ていた。
「あぁ、おはよう。良い天気になったね?」
「天気で良かった。天気が悪かったら、弁当が無駄になる所だったわ。」
「そろそろ、バスの発着場に行こう、十分程で出る筈だ。」
「どのくらい乗るの?」
瞳が聞いてくる。
「四十分くらい。前の時は叔父の車だったから、バスに乗るのは初めて。」
バスは、もう来ていたので、そのままバスに乗った。
そんなに待たないで、バスは出発した。しばらく走ると、バスは田舎道へ出る。
田舎道を三十分程走って、植物園に着いた。三人は、入園券を買って園内に入る。
「わぁ、外から見るより、ずっと広いね?」
池も園内に有り、色々の花が、池の周りに植えてある。
「向こうの山の斜面で、弁当が食べられる。あそこ迄、池の周りを歩いて行こう。」
「花も有るみたいだから、ゆっくり花を見ながら行きましょう。」
と英子も言う。
花を見ながら、池の周りを巡って行くと、山の斜面に着いた。池との間が割合広い。
バドミントン等をしている子供も、何組か居る。
「良い所じゃない?  植物園の中に、こんな大きな池が有るのも珍しいね?」
瞳が感想を述べた。
「本当だね、ピクニックにぴったりだね?」
英子も賛成をした。
その日は、ゆっくりと弁当を食べて、園内を見て回る。
そして、午後の適当な時間のバスに乗り、いつもの駅前に帰って来た。
「今日はお疲れさま。」
「お疲れ。」
そこで別れて、二人の女の子は帰りの電車に乗った。賀生は今日も本屋に向かう。
新書を、いつも買う訳では無いが、どんな本が出ているかは解る。
「瞳、良かったね、山賀さんと仲直りが出来て。」
「喧嘩をして居たんじゃ無いよ。」
二人の女の子は、どちらも今の駅より、もう一つ西の駅で有った。
瞳と英子の二人は、電車の中で話している。
「だけど会うのを、ためらって居たでしょう?」
「何となくね?」
「まぁ良かったよ。私迄、ぎくしゃくする所だった。」
これで、一見落着ね?   英子はそう言う目つきで、瞳の顔を眺めている。いかにも、瞳を値踏みするかの如く。これで、高校二年生の春は終わる。


 M-5  日本でパーティ

月が明けた6月には、アメリカの高校で講習を行った。
プログラムの初歩三編と、プログラムの初歩上級編の紹介である。
そして七月、後十五校程で講習をした。両方共、ウェブシステムが整っている所ばかりを、選んであった。お蔭で、アメリカへ渡航しなくて済んだ。
その、二日後に座談会で有る。これもネットの、テレビ会議システムなので、在宅で出来る。座談会が済んでから、PC 出版の担当者が、賀生に連絡してきた。
「面倒な事なんですが、又、お手を取らせる事になります。十日後に、教務省の長官と局長が、日本へ行きます。時たま、情報交換の会議をやっているらしいのです。その後のパーティーで、前に会った少年に会いたいと、言われているのですが、時間は取れますか?  出来ましたら、前の彼女も一緒にお願いしたいのですが?」
「分かりました。彼女に連絡を取ります。しかし、通訳は都合出来ますか?  私達は英会話が不得意なので。」
「大丈夫です。通訳も一緒に行きます。」
「後で、詳細をメールして下さい。」
次の日、賀生は瞳と話している。
「瞳、時間は取れるかな?」
「時間は大丈夫そうだけど、又衣装を借る事になるわね?」
「前の高官達とは顔見知りだし、断わりにくい。」
「山賀さんにしては、素直だね?」
瞳が皮肉を言った。
「偉い人でも、利害関係が無い時は、普通の人間として接する。」
「アメリカで、本を出版してるじゃ無い?」
「あれは、知り合いになる前に決まってた。関係は無い。」
「なるほど。」

そのパーティーは、夕刻からと言うので、時間を見計らって、二人はパーティー会場に出向いた。アメリカ教務省の長官は見つかったが、日本の官僚と話し中だったので、遠慮していたのだが、局長が見つけて、こっちの席に来た。
「山香君、久し振りですね?」
「あ、お久しぶりです。座談会の時にお話しを聞いて、お邪魔をしました。」
その人は、お付きの人に、耳打ちをしている。
しばらく、話をしていると、教務省の長官が、こちらの席へやってきた。
「あ、済みません、時間を見計らって、お伺いする積もりでしたのに。」
「やっぱり若いな?  君の本が人気が出て、採用の州が広がっている様だ。」
「時代が良かったんですね?  でないと、初めての本が、そんなに読まれませんよ。」
賀生が解説書の説明をしている。
「ちょっと待ってくれ、今、ミドルで人気の本は、最初に書いた本か?」
「ミドルの終り頃、ホームページに載せて居たのが、目に止まった様です。」
「やっぱり、凄い子だな君は?」
「学校の話しによると、解説が易しいので、授業が進むと評判の様です。」
局長と呼ばれている、中年の紳士が補足した。
「私達は未成年ですので、そろそろ、おいとま致します。」
賀生と瞳は、長官達に断わって、会場を後にした。
「これで、今月の用事は済んだ。」
「そうだね?  後は海水浴だね?」
賀生達が帰ってから、記者達が、アメリカ教務省の高官達に、質問を掛けていた。
「あの少年は誰なんですか?  いやに、親しそうでしたが?」
「アメリカの教育に、貢献をして貰っているのでな。今日は無理に来て貰った。」
「何をしたんですか?  我々には情報が無いんですが?」
アメリカでの情報は有ったのだが、日本では問題にされていなかった。
日本の記者達は、その件に関して、アメリカのニュースを見ていなかった。
「本人の了承が無いと、言いにくいな?  うーん、ここ迄は良いか?  PC 出版で本を書いている。日本でも、名は通っていると思うよ。」
「誰か知ってるか、顔は覚えが無いな?」
「PC 出版に、聞いて見よう。」
今回のパーティーは、PC 出版に関係が無いので、そこの社員は居なかった。
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