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1P 英会話とプログラム

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 P-1  英語の勉強 賀生は、英会話は不要
 P-2  自分の進む道
 P-3  WhDLと闘争 闘争  留学は無駄  会話を習うのに時間が掛かる
 P-4  英会話は無駄 英会話を習う暇が有るなら科学を習う
 P-5  プログラムは初歩迄 ここで進む道を決めて貰う

 
 P-1  英語の勉強

山賀賀生は、外国で仕事はしない。外国で住む気も無い。
基本的に日本に居る。海外展開が良いように言われているが、山賀賀生の考えでは、そうはならない。日本から逃げている様に写るのだ。外国についての考え方は、各自違うと思うのだが、賀生は、外国では仕事をしない。

「山賀さん、お茶飲もう。頭が満杯だよ。」
瞳からの電話だ。
「もう直ぐ古本屋に着く。本を買ってから行くから、二十分ぐらい掛かるよ。」
「分かった。待ってる。」
賀生は、古本を数冊買い、二十分程して喫茶店に着いた。
「お待たせ。本を選ぶのに時間が掛かってしまった。」
「お茶を飲んでたから、大丈夫だよ。」
「大学受験が、こんなに疲れるとは思わなかったな?」
山賀賀生は、小説で心を癒している。受験の疲れも、小説で癒している。
「山賀さんは、今迄、真剣に勉強をした事が無いからだよ。」
「最近は、読書を抑えているから、余計に疲れる。」
「成績は、上がってるんだったら、大丈夫だよね?」
賀生は、勉強時間を少しは増やした。それより、集中力が増している。
勉強の効率が良くなっているのだ。覚える内容も大分絞った。
恐らく、瞳の半分程しか覚えていない。そこが、二人の勉強時間の差だと、賀生は考えている。次の日も、瞳から電話が掛かった。
「山賀さん、時間は有る?」
「大丈夫だよ。」
瞳は駅前に居ると言う。賀生も、ちょうど書店に来たところだ。
二人は、いつもの喫茶店で待ち合わせをした。
「山賀さんは、英語の勉強もしてる?」
「試験が有るから、勉強はしてるけど、英会話は興味が無い。」
賀生は、外国で仕事をする気も、住む気も無い。だから英会話は不要である。
それよりも、日本語の読解力や、科学力や数学を重視する。
「今は、英語の時代だよ。何故、要らないのよ?」
「僕は、外国で活動しない。だから、外国語を必要としていない。」
「活動的な会社は、皆んな外国へ行ってるよ。」
「その意味は解る。けれど、僕は日本で活動をする。」
「日本だけでは、難しいんじゃ無い?」
「いや、そんな会社も沢山有るよ。本来、国内産業と国内消費が一番大事だ。」
「外国が嫌いなの?」
「いや、外国が嫌いと言う訳では無い。僕は、日本で活動する主義。」
こんな言い方をすると、国粋主義とカブるのだが、賀生は、他人に強制をしない。
国粋主義者は、他人をも巻き込もうとする。
外国での事業展開というのも、必要でも有るのだが、賀生の考えでは、逃げていると感じてしまう。高校生の、青くさい考え方かも知れないが、今は、そう感じている。元々賀生は、外国に、憧れを感じ無い。


 P-2  自分の進む道

ここは、瞳の家の夕食の時。父親と瞳が、賀生の事を話している。
「山賀さんは、ブログラムの原稿は今月で終わるって。」
「大分前から、そんな事、言って無かったか?」
「全部で、小冊子が6冊になるそうよ。それでやっと断れたって。」
「断れたと言う事は、もっと書いて欲しかったのか?」
「そうらしいわよ。だけど、プログラムの解説は、もう書かないって。」
「何故?」
母親の弥生が聞く。
「初歩の解説書を読んで、自分の進む道を、決めて貰いたいって言ってた。」
「なるほど。そう言う考え方か?」
プログラムが不得意の者が、その道へ進んでも、効率の悪い事は確かである。
それは、英会話も同じ事になる。不得意な者が、その道に進んでも時間の無駄だ。
それよりも、日本語の読解力や、科学や、数学の方が大切である。
「まだ、プログラムの解説を書いていたのか?  成績は大丈夫か?」
「下がって無い。英子の話しだと大分上がってる。」
「妙な子だな?」
「中学の時から妙な奴だよ。プログラムは英語なのに、英会話はやらないと言うし、訳の分からん奴だよ。」
「英語が嫌いなのか?」
「そうでは無くて、外国で仕事をしないから、英会話を習う時間が無駄だって。」
「外国が嫌いなのかな?」
「外国へ行くのは、日本から逃げてるって言うのよ。賃金の安い外国で造る。事業の拡大の為に外国へ行く。どれも嫌いだって言うのよ。」
「そう言う考え方は初めて聞いたな?  外国へ行くのが、憧れと言うのが普通だ。」
「だから変な奴なんだよ。」
しかし、賀生の理論は、半分破綻している。自分が書いた、プログラムの解説書が、外国で売れている。外国で書いた訳では無いが、日本より外国の方が、たくさん売れてしまった。
「プログラムの本が、そんなに売れたのか?」
「日本でも売れたけど、その本は、アメリカ、EU、アジアでも出版してる。」
「だから、出版社が書かせたがったのか?」
「そうらしい。だけど山賀さんは、これ以上は書く気が無いって。」
「これ以上って、どう言う意味だ?」
「初歩を勉強して見て、自分に向いてるかどうかを、考えて欲しいって。」
「ふーん、珍しい考え方だな?」
これからは、沢山の専門分野に別れて、一冊当りの読者が激減する。その上、読者は専門職で有る。初歩者が書いた本など、売れる訳が無いのだ。
「これからは、専門家が読むので、初歩者が書く本は売れないって。」
「本当だな、当然の理屈だな?」
山賀賀生は今、読書中である。最近少し減り加減なので、まとめて読んでいる。
賀生は、頭の疲れを小説で癒している。
瞳と会っても、充分に癒されるのだが、毎日引っ張り出す訳にはいかない。
瞳には、試験勉強を頑張って貰わねばならない。


 P-3  WhDLと闘争

「ちょっと待て、山香ヨシオだな?」
「そうだけど、それがどうした?」
賀生と瞳が、学校から帰っている時、又白人達に呼び止められた。何度も何度も、ご苦労な事では有る。しかし、今頃になって何の用事が有るのだろうか?
「お前の本を、採用する州が増えている。いい加減に本を止めろ。」
「まだ、そんな事を言ってるのか?  教務省に働き掛けたか?」
「お前が止めれば、済む事だろうが?」
こいつ等は、白人以外は、人間の価値を認めていない。しかし、その割には、政府との間にチャンネルが無い。WhDLと名乗っては居るが、主流では無い様だ。本来彼等の団体は、相当な勢力が有る。
「解説を書くのは、もう終っている。初歩の解説で止める事にしている。」
「今直ぐ印刷を止めろ。」
「それは無理だ。印刷は、もう終わっている。」
それを聞いて横の奴が動いた。突然、賀生に殴り掛かる。それを賀生は手で弾く。
瞳の方にも向かう奴がいる。瞳は、その腕を取り背負いで放る。
「奇翔流奥義天翔!」
賀生が唱える。瞳に飛び蹴りが襲う。瞳はその足を掴み、地面に叩き付けた。
「くっそー。何をしやがる?」
その時、賀生が前に飛ぶ。その後を弾丸が掠める。瞳も横にズレる。その身体を掠めてナイフが、行き過ぎる。
「君達、そんな事を幾らやっても無駄だよ。我々の術の内だよ。」
「そんな術なんか有るか! 叩きのめせ。」
白人達の中から、一段と大きな奴が前に出る。
「その身体で、今迄良くやった。褒めてやる。」
そう言いながら、その男は腰を据え、横蹴りを放つ。言うだけ有って中々速い。
賀生は、その足を横にはじく。
「瞳、用心して。本気らしいよ。」
「分かってる。奥義天翔!」
瞳も奥義を唱える。その時、賀生と瞳が左右に別れる。その真ん中を、銃弾とナイフが通る。
前の男が、回し蹴りを掛ける。それを賀生の腕が防ぐ。
横の男が、瞳にアッパーを放つ。
「おっと。」
瞳は、顔を反らして避ける。その男の左拳が、腹の急所を狙う。
「いっやー。」
それを、瞳の左手が止めた。突然、瞳の体が浮く。その下を銃弾が流れた。空に浮いた瞳にナイフが襲う。瞳は体を反らして逃れる。突然、賀生の身体が左にずれる。
そのあとに、銃弾が通る。賀生は上に浮く。その下をナイフが流れる。賀生は浮いたついでに、前後の奴の首を刈る。
「ぎゃっ。」
「げっ。」
それからは、乱戦になってしまった。
賀生と瞳の周囲を、男達が囲んだ。正拳、回し蹴り、飛び蹴り、殴打、背打ち、踵落としやアッパー等、色々の技が襲う。
「くっそー。何故当たらん。」
何でも有りの攻撃だが、二人に届いた技は無い。周りを囲んでも、対応出来るのは六人程であり、一人に三人が限度だ。二人には充分対応出来る。
「まあ、無理だと思うよ。幾らやっても無駄だよ。全て予測の内だよ。」
それでも、まだ殴り掛かる奴が居た。流石に賀生は、容赦をしなかった。その腕を掴み、地面に叩きつけた。
「ぐえっー。」
そいつは、背中の痛さで、気を失った。
奴等は呆然として、声も出ない。
「危ないと思った時は、本気で潰すよ。日本では、あまり、やりたく無いけど。」
瞳が一応、警告の言葉を掛ける。
戸惑っている彼等を残して、賀生達は、そこを離れた。

その頃、PC 出版の日本支社で、動きが有った。
「アメリカの学校に売り込んでいる本は、日本人が書いていたな?」
「そうですよ。この近くの高校生です。本名は公表していませんが。」
「こちらに居る内に、会って見たいんだが?」
「分かりました。連絡を取って見ます。」
PC 出版日本支社の大谷は、賀生に電話を入れた。
「もしもし、山賀さんですか?」
「はい、山賀です。」
「PC 出版の大谷です。明後日ぐらいに、時間は取れないでしょうか?」
「取れると思いますが、何か用事ですか?」
「アメリカ本社の方が、会って見たいと言ってるんですが?」
「会うだけなら都合を付けます。何時からですか?」
PC 出版の人間なら、無碍に断れない。会うだけなら手間はかからない。
「場所を指定して下さい。学校の有る駅前まで出向きます。」
「それでは、明後日の十時に、駅前の喫茶店で、お願いします。」
賀生は、喫茶店の詳細を説明して、電話を切った。
その後、PC 出版の日本支社では、大谷が本社の社員と話している。
その社員の名は、ジョナサンと言った。
「その子に直接会って見たかった。面白そうな子だ。」
二日後の朝、山賀賀生は駅前の喫茶店に居た。先方との約束である。
程なく、PC 出版の大谷に伴われて、ジョナサンが現れた。
「おはようございます。ご苦労さまです。」
「おはようございます。」
「紹介します。山賀賀生君です。こちらが当社のジョナサンです。」
「山賀賀生です。」
本社の社員は、流暢な日本語で、賀生に話し掛けた。

「山賀さんは、アメリカで勉強する気は無いそうですね?」
「私は、アメリカと言うより、何処の国も必要とは思っておりません。」
「日本では、輸出産業が、持て囃されている様ですが?」
「そうですね、だけど私は、その気は有りません。」
「そうなんですか?  普通の日本人と、考え方が違いますね?」
「絶対と、言う訳では有りませんが、無理はしません。」
「そうすると、英語も要りませんか?」
「要りません。」
「そうですか?  しかし、英語が出来る方が、ステータスが上がると感じる日本人が、多いようですが?  」
「それは好みの問題です。アメリカへ行ったからと言っても、頭が良くなる訳では有りません。私は、仕事も日本でやります。そう言う訳で英会話は必要有りません。」
「当社の企画で、英語もプログラムも、無料で勉強出来ますが?」
「いえ、既に訳された本が有ります。時間をかけて英会話の勉強をして、中途半端な会話力でプログラムを習うなんて、無駄の極みです。訳された本を利用する方が、何倍も効率的です。」
「良く分かりました。非常に分かりやすいお話しでした。」
「お疲れ様でした。僕は、もう一杯コーヒーを飲んで帰りますので。」


 P-4  英会話は無駄

日本人は、英語が話せると、仕事も出来ると思っている人が多い。確かに、通訳は要らなくて済むが、能力が上がる訳では無い。
学校では、読解力と理学と数学に力を入れないと、肝心の科学力が遅れる。
「それでも、沢山の人が英会話に憧れてるよ。」
「輸出が盛んな時が有ったからね。その時の雰囲気が残っている。」
日本の政治家は、そのあたりの雰囲気に弱い。
科学が理解出来ない事は、英語が出来ない事より、重大な国家の損失である。
英語が出来る人が、必ずしも良い研究者でも、良い経営者でも無いのだ。
まあ、商売に便利な事は確かでは有るが?
「日本の政治家は、決断力が弱い。」
「慎重なんだろうね?」
同じ事が、プログラムでも言える。技術的な頭が有れば、高校から始めても、大学卒業まで7年も有る。わざわざ、小学から教える必要は無い。
興味の有る者は、中学時代からでも自分で勉強をする。
プログラムも、英会話と同じく、本当に必要な人は数パーセントに過ぎない。
「山賀さんは、プログラム解説書を、書いているじゃない?」
「趣味から始まった事だけど、偉そうな事は言えないか?」
読者は、その初歩の解説書を読んで、進むか退くかを決めて貰いたい。
プログラムの不得意な者が、プログラムに進むのは、時間の無駄だ。これは英会話も同様だ。得意な分野を探して欲しいのだ。


 P-5  プログラムは初歩迄

そんな事を考えている時、PC 出版日本支社から、電話が掛かって来た。
「山本です。今いいですか?」
「大丈夫です。」
「そろそろ、本は書けませんか?」
「いえ、プログラムは、初歩しか書けませんので。」
「何とか出来ませんか?」
「初歩以上は書けません。中級より先は、その道の専門家が読むのです。易しく書くだけでは通用しません。」
「初歩は、もう無理ですか?」
「幾ら何でも、あれ以上は無理ですよ。普通の出版社は、初歩は一巻ですよ。それを、六巻も書きました。これ以上書いても、同じ事の繰り返しになります。」
「そうすると、プログラムは無理か?」
それでも支店の総意は、賀生に書かせろと言う事になった。
「なんとか、書けないでしょうか?」
「それは無理ですって。初歩迄は、沢山の読者が居ます。しかし、専門分野になると、沢山に枝分かれして、話が専門的になります。一冊当たりの読者も激減します。僕の様な初心者が書いても、誰も読みません。今迄は、初心者の為の本でしたので、初心者の僕でも通用したんですが?」
「実績が無いので、頼みにくいようです。山賀さんに、書いて貰え。と言う事になりました。」
「実績が無いのは、それだけ難しいと言う事ですよ。本社に図りましたか?」
「いや、まだなんですが?」
「本社では把握してますよ。そんな本を、出版していない筈が無いのですから。」
「そうだった。うちの様な大手が、出版してない筈は無かったな?」
「これまでは、初心者向けでしたので、解りやすく書いた本が売れました。これからは、本当の専門家が読むのです。そんな回りくどい説明では、納得しませんよ。」
「初歩の本が売れたので、同じ様に考えて居た。あれは、初歩だから売れた訳か?」
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