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2A 儚の夢

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2A 儚の夢

 A-1  儚の友達 仁美と嘉紀
 A-2  嘉紀と儚の関係 恋人?
 A-3  儚と仁美が不良と喧嘩 不良に絡まれる
 A-4  儚の夢 儚は妙な夢を見る
 A-5  儚の異常 録画でブレ
 A-6  嘉紀の能力 人間保護の能力


 A-1  儚の友達

芙蓉儚と山臥嘉紀は、中学の頃からの友達である。
嘉紀は、中学中程の頃、儚の中学に転校してきた。初めの頃は、話をする切っ掛けも無く、そのまま半年が過ぎた。しかし、儚は、嘉紀を気にしている。
訳あり能力者、芙蓉儚の物語は、ここから始まる。

  芙蓉儚は、山臥嘉紀の能力を気にしている。
嘉紀が転入した頃。最初の試験では、全学年440人中6位であった。
ところが、次の期末考査では、70位の表から消えてしまった。
普通では、有り得ない数字である。儚は尚更、嘉紀が気になっている。
二人は、同じ組でも有り、段々と話をする様になった。
「山臥さん、委員会には出て来てね?  サボってるのは、山臥さんぐらいだよ。」
「一人ぐらい抜けたって、大丈夫じゃない?」
「それでも、出席の義務が有るんだよ。」
「分かっては居るんだけどね?」
嘉紀は、転入最初の試験のお陰で、厚生委員に推薦されてしまった。
ちなみに儚は会計である。その儚が声をかけて来た。
「山臥さん、パソコンをやってるって?」
「町に来てから始めた。」
「パソコンで、何をやってるのよ?」
儚の問いに嘉紀が答えた。
「文章作成、表計算、プログラム。」
「表計算って何?」
再び、儚が疑問を述べる。
「読んで字の如し、表の中に数値を入れると、計算が出来る。」
儚は、何かと嘉紀に話しかけて来る。儚は、嘉紀の能力が気に掛かっている。

時が経つにつれ、儚は益々気になって来た。同じ組でも有る事から、つい話しかけてしまう。話しをする内、二人の間は段々と縮まって行った。それから数カ月、二人は、友達の関係になっていた。儚が、異常を感じたのは、その頃からである。
殴られても衝撃を感じない。投げられても痛くも無い。儚も暫くは気にしなかった。
しかし、何ヶ月にもなると、流石に気になってきた。
「仁美、私は最近身体が変。投げられても殴られても、何も感じないのよ。」
「変だね?  病気の様にも見えないしね?」
「もう少し様子を見るわ。」
儚は、時々喧嘩に巻き込まれる。何かしら男に絡まれる。可愛い顔立ちなので、男達が声を掛けて来る。しかし、儚は相手にしない。結局、喧嘩になる。
仁美も、儚と同じ様な感じで、喧嘩に巻き込まれる。仁美とは、神園仁美と言って、小学校時代から、儚の友達である。


 A-2  嘉紀と儚の関係 

山臥嘉紀は、プログラムを始めている。中学卒業の時には、大分進んでいた。
そのプログラムを、解りやすく纏めて見た。その一部をホームページで解説する。
「山臥さん、プログラムは、まだやってるの?」
「当分続ける。まだ、初歩も卒業して居ないんで。」
「程々にして置きなさいよ。高校入試も有るんだから。」

結局、同じ高校を受験した。そして、二人共合格をした。ところが偶然な事に、同じ組になってしまった。その高校は、県立南城高校と言った。そこには、もう一つ偶然が重なった。神園仁美も同じ組になっている。
「山臥さん、今どこ?」
儚と嘉紀は高校一年生。高校になってから、儚が携帯に電話を掛けて来る。
「もう直ぐ本屋に着く。」
「駅北の喫茶店に居るから。」
「分かった。本屋に寄ってから行く、」
二人は、週に一度は喫茶店に寄る。高校になって、一緒にお茶を飲む様になった。
連絡を取るのは、いつも儚だ。いつの間にか、それが習慣になってしまった。
その組では、仁美が副委員長に、儚は会計、嘉紀は厚生委員をやらされている。
中学の時もそうであったが、高校へ来て迄、同じ組になったのは驚きであった。
「これは、なんの冗談なの?」
さすがに儚も驚いている。
「こんな偶然って有るんだね?」
「全くだよ。三人共同じ組になるなんて、奇跡みたい。」
仁美も、首を傾げている。
「成績は似たような物だから、高校が同じなのは、納得出来るんだけどね?」


 A-3  儚と仁美が不良と喧嘩

放課後、儚と仁美は、駅近くの繁華街に出ている。服を買いに来たのだ。
そろそろ、梅雨になる頃合いなので、その為の服を買う。
「ちょっと、お茶を飲んで行こうか?」
「そうだね。今日は山臥さんは居ないの?」
「多分、アルバイトを探してる。」
「真面目だね?」
「どうだかね?」
儚は、嘉紀の性格を、比較的把握している。真面目一方では無いのも解っている。
高校に入ってから、儚が嘉紀に電話を掛けた。それ以来、一緒にお茶を飲む。
「ちょっと、席を詰めて呉れるかな?  俺達も、そっちへ行きたいんだけど。」
二人が、お茶を飲んでいる時、隣りの席の男達が、声を掛けて来た。
この男達は何だ?  鬱陶しい奴がいる。儚は軽い男が大嫌いである。
「お断りします。自分達だけで飲みなさいよ。」
「僕達も、話しに参加させてよ。」
「お断り。あなた達とは話題が合わない。」
「友達が多い方が、楽しいだろう?」
「知らない男とお茶を飲んでも、楽しく無いわよ。」
儚は断るが、男達もしつっこい。どうしても来ると言う。
「いいじゃ無いか? 一緒に飲もうよ。」
「じゃ、勝手にどうぞ。私達は帰るから。」
「そんな事を言わずに、楽しくやろうよ。」
そいつらは、嫌にしつっこい。
「しつこいわね、仁美、もう行こうか?」
「そうだね、お店に迷惑が掛かるね?」
お金を払って、女の子達は道へ出た。男達も付いて来る。いつの間にか、男達の数が増えている。
「ちょっと来い、知り合いの店に行くぞ。」
「勝手に行きなさいよ。」
男の一人が儚の手を掴む。儚は振り払うが、それでも男は、腕を取ろうとした。流石に儚も、堪忍袋の緒が切れた。儚は、その腕を引きながら、横に捻る。男の身体が宙に浮く。儚は、格闘技の一種で有る柔刀術を得意とする。
「痛っ。何をしやがる?」
「ひとの身体を、勝手に触らないでよね?」
その間に、仁美は外へ逃れ、隠した携帯で動画を撮っている。
横の男が儚を殴る。儚はそいつを、背負いで放る。
「ぎやっ。」
仁美は、暫く撮って居たが、携帯をポケットへ入れる。そして喧嘩に参加した。
仁美は、前の男を投げ飛ばす。
「ぐえっ」
儚も仁美も、柔刀術と称する格闘技を得意とする。
「やばい、引くぞ。」
誰かの号令で、男達は、倒れた奴に肩を貸し、何処かへ消えた。
「不良達は何処へ行った?」
警官の声がした。誰かが交番に連絡した様だ。警官が二人来ている。
それで、あいつ等は消えたのか?  儚と仁美も、そっと、その場を離れた。

「他の店で、もう一杯飲もうか?」
儚が言う。
「動画を撮ってるけど見てみる?  あまり長くは無いんだけど。」
「お店で見よう。もう少し離れた店にしよう。」
儚と仁美は、数分歩いて、別の喫茶店に寄った。
「この動画、少しブレてるね?」
「数カ所ブレてるみたい。一応、儚のスマホに送って置くわ。」
「うん、お願い。」
仁美は、動画を儚の携帯に送って置いた。
「ブレてる時は、儚が殴られてる時みたいだね?」
「私は殴られていないよ。何も感じた事は無いよ。」
儚は、殴られたのに気が付かなかった。その頃、道の向かい側の店でも、監視カメラの画像を確かめていた。
「怪我人が無いか、確認して置こう。」
「監視カメラの映像では、大した事には、なって居ないな?」
「そうだな?  しかし、ところどころ、ブレてるな?」
「数カ所、ブレている様だが、怪我は無さそうだ。」
雑音のせいなのか、確かにブレた画面が有る。
「雑音が入ったのかな? それにしても、あの女の子達は強いな?」
「何者なんだろうな?」


  A-4  儚の夢

「儚、聞こえているか?」
儚は、誰かの声を聞いている。儚は今、夢現(ゆめうつつ)の中に有る。
「今から儚の能力に付いて説明する。この能力は、種族保存本能が元となっている。この能力を持つ者は、殴られても衝撃は感じない。少々の攻撃からは、自分の命は護られている。これを自己保護と言う。次に他保護能力の場合、儚から、半径六メートル以内なら、他の人間も護る事が出来る。両能力共、銃弾までは確認されているが、それ以上の事は解って居ない。」

「えっ、今のは何?  夢?  えっえっ?」
儚は、夢の内容は覚えて居るが、誰の声とも分からなかった。確かに、投げられても殴られても、痛くは無い。この現象は、中学の終わり頃から有った。
しかし、この現象の原因は、儚には解からない。
「どうした儚。ぼーっとして。」
「あっ、山臥さん。今朝がた変な夢を見て」
「授業は受けられるか?」
「大丈夫。もう目が覚めた。」
夢とは言え、内容がはっきりし過ぎている。誰かが、語りかけた感が有った。
儚の半径六米以内に居れば、自分と同じく、他人をも護る事が出来ると言う。
しかし、こんな能力は、誰にも相談出来ない。話しても信じて貰えそうにない。


 A-5  儚の異常

「山臥さん、このあいだ、駅前で喧嘩になってしまった。」
その日より二日後、儚と嘉紀は、駅北の喫茶店で、お茶を飲んでいる。
「あまり、喧嘩はしない方がいいよ。」
「分かって居るんだけど、喫茶店で、無理矢理、横に座ろうとするから。」
「そう言う事情なら仕方が無いけど、喧嘩が過ぎると、お嫁に行けなくなるよ。」
「いいもん、山臥さんに拾って貰うから。それより録画を見てよ。何かおかしい。」
嘉紀は、動画を見ていたが、時々ブレている所が有った。
「ブレてる様な所が有るけど、特に気にする必要はない。」
儚の現象は、中学も後半の頃からである。嘉紀の観測では、そうなっている。
二人が知り合ったのは、中学二年の初め頃である。
「それより、私の身体がおかしい。殴られても痛くも無いのよ。」
「今迄、自覚は無かったの?」
「中学の頃から変だとは思った。だけど、害が無いから気にして無かった。」
「気にしなくて良い。悪い現象では無いから。」
「そんな事を言われたら、なおさら気になるわよ。」
画面では、時々殴られているが、。
その時の体の動きが、おかしいのだ。それが、ビデオではブレて映る。
「僕も最初は解らなかった。儚は最近、喧嘩が強くなっただろう?」
「そんなに喧嘩しないわよ。絡まれた時だけだよ。」
「確証が無いから説明しにくいんだけど、今の儚には、攻撃が効かないんだよ。」
「意味が解らないよ。攻撃された事は無いわよ。」
このブレの現象は、本当の所は、ブレて居るのではない。その画面だけ、静止しているのだ。動いている体が、殴られた瞬間、幾らか静止する。それがブレに写る。
「殴られても、体に衝撃が無いんだよ。殴られたのが解らない。」
「変な冗談言わないでよ。それじゃ超能力だよ。」
「冗談と思っても良いが、他人には言わない様にね?」
「そんな冗談は言えないって。恥ずかしいよ。」
そうなのだ。本人には自覚が無い。ビデオを、注意深く見ない事には解らない。
相手は、殴って居るのだが、儚は感じていない。認識も出来ていないのだ。
中学の終わり頃から、何かが変わった。その頃から、この現象が現れた。
しかし、これは説明のしようが無い。
儚が言うように、誰が、そんな超能力めいた、妙な力を信じるのだ?

今話したのは、人間の為の保護機能であって、それを基礎能力と言う。
儚には、もう一つ怪しげな能力が有った。それは幽体機能と言い、人類保護には間違いないのだが、幽体を送って、幽視や幽力の機能を得る。この幽体能力は、基礎能力を、かなり上まわる。


 A-6  嘉紀の能力

実は、嘉紀にも同じ現象が有った。小学校の頃から有ったった。儚を見ていれば、嘉紀と同類の能力で有る事が分かる。
しかし、そんな事は他人に言えない。余計な詮索をされるのも、鬱陶しい事では有るし、嫉妬を生む事もある。自分の為に利用したい者や、そんな組織も出てくる。
高校になった今、仁美にも、その能力の可能性が出てきた。嘉紀は、仁美の件は様子を見る事にした。この能力は、ある種の感染をするらしいのだ。精神が、ある程度繋がると、能力が感応するらしいのだ。
その条件は不明だが、一度に沢山の人に伝染る事はない。それは歴史が、証明している。そんなに、能力者が現れた試しは無い。
「儚、その能力は隠して置いてね。嫉妬を生む事も有る。」
「本当に有るなら、悪い組織に目を付けられそうだね?」
「その恐れも有る。それと、仁美を観察して置いて。仁美も可能性が有る。」
「分かった。仁美もその条件が有るのね?」
「それらしい現象が見える。」
「だけど、仁美は解ってないわよ。私の事を相談したけど、解って居なかったよ。」
「その時、ちゃんと話が出来たんだね?」
「出来たわよ。仁美は、解って居なかった様だけど。」
「じゃ、間違いない。仁美も感応している。」
この能力には強力な制限が付いており、能力者が、普通の人に話そうとしても、言葉にならない。話せたとしたのなら、相手にも能力が付いている事になる。
この能力は、精神的に、ある程度の繋がりが生じると、感応するらしいのだが、その繋がりの程度が分からない。親子や夫婦でも、必ず伝染るとは限らない。
嘉紀は、父親から伝染ったのだが、母親には伝染らなかった。

今日は、儚と仁美がお茶を飲んでいる。嘉紀は居ない。
「儚、最近喧嘩をしたって?」
「仁美と一緒だった時が最後だよ。」
「それとは、別の話しらしいよ。」
「ちょっと前なら、山臥さんの喧嘩に、巻き込まれた事は有るよ。」
「何が原因?」
「生徒会に協力しろって言うのを、山臥さんが断ったのよ。」
「なんだ、そんな事か?  あの人は、いつも忙しそうだよね。」
「中学の時から、時々、何日か休むのよね?」
「そうだね、時々居なくなってたね?」
その時、一団の男達が店に入って来た。儚達と、少し離れた席に座っている。
「おい、お前はあの時の女だな?  山臥はどうした?」
「あの人は、私の付録と違うわよ。そんな事は知らないわよ。」
男の質問に、儚が答えている。
「女が二人も居るじゃないか?  こっちへ来い。」
「ゴメンだよ。そんな、むさくるしい男の側に、座りたくも無いわよ。」
儚が、男達に断っている。
「お前、生意気だ。ちょっとこっちへ来い。」
「こいつらは、私達と同じ高校だよね?  嘘でしょう。柄が悪過ぎるよ。」
儚と仁美は、その店を出る事にした。いつまでも、絡まれそうだったからだ。
「さて、買い物にでも行こうか?」
「お前たちも、ちょっとこっちへ混ざれ。」
二人は、それを無視して店を出る。それを、何人かの男が付いて来た。
「ちょっと待て、何故逃げる?」
「買い物に行くんだよ。あんた達に関係ない。」
仁美が、応戦している。
「うるさい。こっちへ混ざれ。」
「冗談!  儚、行こう。」
その仁美の手を、男の一人が掴まえた。仁美は振り払う。別の男が、仁美の腕を掴んだ。仁美は、その手を取り大外を刈る。その男は、背中から地に落ちた。
「いたっー。」
「あちゃー。しようが無いわね?」
それに儚も参戦した。後は乱戦になってしまった。五人程倒され、男達は退いた。
「おい、ヤバいぞ。警察が来ると煩いぞ。」
男達は、倒れた奴を引き起して、その場を離れた。
「私達も、ここを離れよう。」
「それがいいわね?」
儚と仁美も、その場から消えた。
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