上 下
8 / 25

2G 幻惑の洞窟

しおりを挟む

 G-1  雪崩救出 中部地方
 G-2  幻惑の洞窟 幻覚で外に出られなくなった  
 G-3  アパート人質事件 嘉紀と仁美で解決 
 G-4  テレビ出演依頼 アメリカ


 G-1  雪崩救出

「芙蓉さん、今は何処ですか?」
秘密の組織から、儚に電話だ。
「今は家ですが、何か有りましたか?」
「中部地方で、雪崩が起きました。二人巻き込まれたそうです。」
「近くの人は居ないのですか?」
「村から人は出ているんですが、危険なので、現場に近づけません。」
「ここから、行って間に合いますか?」
「最寄りの小学校に、ヘリを回しますので、タクシーで来て下さい。」
「人が多い方が良いですね?  あと二人に声を掛けます。」
儚は慌てて、嘉紀と仁美に連絡を試みた。
「山臥さん、手は空いてる?  中部地方の谷で雪崩の捜索だよ。」
「僕は大丈夫だが、仁美も行った方がいいな?」
「仁美に連絡してみる。」
国内だったら、仁美も行けると言う。
「小学校にヘリを呼んだ。大急ぎで来て。」
嘉紀も慌てて服を着換え、タクシーを拾う。小学校へ行くと、儚と仁美も着いたところだ。ヘリも直ぐに来た。三人はヘリに乗り込む。
「今回は何なの?」
「 雪崩で人が埋まっている。その捜索。」
「私達で役に立つかな?」
「人には言えないけど、透視でも幽視でも見える。」
儚が説明している。
「そうか、多少深くても探せると言う事だね?」
「それもそうだけど、まだ危険なので、普通の人では、近づけないのよ。」
仁美の言葉に、儚が答えた。
「酸素吸入器も要るわね?」
「これを一つずつ、ポーチに入れて置いて。小型のボンベも付いている。」
ヘリは一時間で現地に着いた。雪崩の上の辺りで、ロープで降りる。へりは余り近づけないので、ロープの先10米程から飛び降りた。予め積んで有ったスキーも、先に落としている。
「ヘリの上から、全体を俯瞰してみた。この辺りと、あそこ等辺だよ。」
儚は、上から全体を幽視していた。
「わかった。私は下の方の人を確認する。先に下りるわよ。」
そう言って、仁美は下の方へ滑って行く。
「じゃ、私は此処の人を助ける。山臥さんは、他に居ないか確認をお願い。」
儚は、埋まって居た人を掘り出し、吸入器を付けた。ついでに人工呼吸もする。
下の方に行った仁美が声を上げる。
「ここに気配が有る。あ、やっぱり人だ。」
仁美も人を掘り出し、人工吸入器をつける。そして、人工呼吸を施す。
その時、儚が叫んだ。
「息をしている。この人、生き返った。」
「人工呼吸器は、そのまま付けて居てよ。」
嘉紀は儚に言う。
「分かってる。専門家は、まだ来ないのかな?」
今度は、仁美が叫んだ。
「この人も生き返った。息をしている。良かったあ、どうなるかと思った。」
「もう少しすると救護班が来る。それ迄、待つしかないね?」
本当のところ、今度は非常に運が良かった。雪崩が薄く、雪に隙間が出来た。
嘉紀は、遭難者を儚たちに任せて、念の為に下を捜索している。
「やれやれ何とかなった。救護班を待つしか無いな?」
儚はその時、電話を忘れていた事に気が付いた。
儚は、慌てて村に電話を入れた。
「もしもし、遭難者は、二人で良かったんですか?」
「見つかったんですか?」
「見つかりました。息も戻りました。救護の人は、まだですか?」
「もうすぐ着く筈です。そのまま待って居て下さい。」
その後、助けた人を安全な所に移動した。その20分後、やっと救護班が現れた。
「待ってました。後は頼みますね?  我々は急ぎますので、先に下ります。」
「待って下さい。記者が来る予定になってます。」
「適当に言って置いて下さい。用事の途中でしたので、急いで帰ります。」
儚も、愛想良く言い訳をする。
三人は、下山の途中で道を外れ、別の道から帰った。記者に捉まると煩いからだ。


G-2  幻惑の洞窟

今日、儚と嘉紀は、いつもと違う所で、お茶を飲んでいる。
「三人になると、対応力が広くなったのか、仕事が増えたね?」
「そうだな?  僕一人の頃より、随分増えた。」
「程々にして置かないと、勉強に差し支えるよ。」
「あまり、無理な事も出来ないし、ブレーキを掛けて置くわ。」
「今の程度なら、何とか出来てるけど、このくらいが限度だね?」
嘉紀も感じていたが、断りにくい案件も有った。
これは少し、釘を刺して置く必要が有る。大学受験に失敗したら、この仕事もやりにくくなる。親から、行動に制限を掛けられる。 
「さて、帰って勉強でもするか?」
「それがいいわね?」

その時、儚に電話だ。秘密の組織からである。最近は、儚が代表を引受けている。
「山臥さん、又洞窟だって。前と同じ様な事だよ。洞窟から出て来ないって。」
「最近、洞窟の事件が増えたな?」
今迄、こんな事件を組織は受けなかった。対応出来る者が居なかったのだ。
最近は、儚や嘉紀達が、能力を誤魔化して、何とか対応している。
「今度は何だろうな?  洞窟から出て来ないところ迄は同じだけど。」
「やっぱり、現場へ行くのが先決だよ。」
儚たち三人は、明日の朝に出発する。今度はフィリピン辺りの小さな島国らしい。
朝から出て、現場迄七時間は掛かる。下手してら、もう一時間余分に掛かる。
組織の仮事務所は密林の中に有った。洞窟の入口迄、歩いて一分程の所だ。
「洞窟の入り口迄、案内を頼みます。我々だけでは通して貰えないので。」
「分かりました。入り口迄案内します。」
洞窟に入った儚たちは、最初から迷ってしまった。地図らしい物は有ったのだが、細い洞窟が重なり合い、訳が解らなくなってしまった。
「幽視で探そう。その方が早い。」
この程度なら、透視でも幽視でも良いのたが、訓練の為、幽視を使う。
「この枝の先に、人らしい姿が何個か見える。この枝だよ。」
幽視をしていた儚が、近くの分岐を指す。
「儚、案内をして。とにかく、そこ迄行こう。」
現場に行くと、やっぱり人だった。今回は気絶ではなく、眠っている様だ。
疲れ果てて、眠ってしまった様だった。
「あっ、ここは何処だ?  あんた達は誰だ?」
一人の男が起き上がって、儚たちに尋ねている。
「我々は、あなた方を探して居たんですが、やっと見つけました。」
「何処から入ったんですか?  我々は堂々巡りで、出られ無かったんですが?」
そんな事は無い筈だが、男が嘘を言う訳も無い。嘘を言っても何にもならない。
その時、後を見ていた仁美が、声をあげた。
「何かおかしい。ここから見ると、景色が違う。」
儚も後を見て、首を傾げている。
「今通った筈なのに、違う洞窟の様に見えるね?」
一度、洞窟を歩いて見る事にして、三人は先へ進む。そのまま五分程歩いたところで、元の所に戻ってしまった。
「そんなに曲がったと思わなかったけど、元へ戻ってしまった。」
「変だね、これは。 今度は逆に廻って見よう。」
仁美も嘉紀も頭が混乱してしまった。
「やっぱり、戻ってしまったね?  枝道が、幻覚で塞がっているんじゃない?」
と仁美が言う。
「ちょっと幽視で、確認してみる。」
儚は、幽視で見ていたが、嘉紀の方を向いた。
「やっぱり幻覚の様だよ。その先に、入って来た枝道が来ている。」
早速、仁美が辺りを探る。洞窟の壁に手を添わせながら、そろそろと進む。
「有った。この奥は空洞だわ。ここから帰れそうだよ。」
「この幻覚は、何とか解除して置かないと、他の人も引っ掛かるわよ。」
儚は、後の人達の事を考えている。
「この幻惑の姿は、おそらく、昔の洞窟の記憶だな?」
「どういう事よ?」
「この洞窟は、昔には、これに近い形をしていたと言う事だよ。」
「そんな都合の良い解釈が通るかな?」
恐らく、地震か地すべりか解らないが、地形が変わった。それを、この洞窟の意思が許せなかった。生物でも無いのに、そんな意思が有るのか?  そんな疑問も湧くのだが、意思の成り立ちなんかは解らない。
「洞窟だけの意思では無いのなら、その間に、人間か動物の意思が関っている。」
「その昔の記憶が、何かを介して働いた、と言う事になるね?」
「何れにしても、屁理屈の域を出ないけどね?」
「原因はともかく、この幻惑は解消するしか無いね?」
それからが又、大変だった。他保護能力より幽力の方が、範囲が広くて強いと言う事で、その幽力を使って、幻惑を消して廻った。幻惑の元が有れば、元を潰せば良いのだが、今回は、そんな元は無かったので、全面を消して廻った。

「多分、幽力で消滅させたと思うけど、思念が強すぎると、残るかも知れない。」
「じゃ、急いで確認をして置こう。仁美左へ廻って。私は右から行く。」
「分かった。直ぐ行こう。」
儚と仁美が、調べていたが、仁美が声をあげた。
「ここ迄は幻覚は残って無い。儚、念の為に、ここまで廻って来て。」
「了解。仁美はそこに居てよ。あれ、随分形が変わったね? これが前の姿か?」
距離は少しは有るが、洞窟なので声は響く。仁美の居る所に、儚が近づいた。
「一応、元に戻って来れたけど、形は凄く変わって居るよ。枝道も有ったし。」
儚の廻った所にも、思念の残った場所は無かった。
「この話は、道に迷った事にする。普通の人に言っても通る話では無い。」
「そうだねえ?  妙な事を言ったら、法螺吹きと言われそうだね?」
この話しは、途中で、枝道を間違った事にするしか無い。


  G-3  アパート人質事件

今日、仁美と嘉紀は、近くの喫茶店で、お茶を飲んで居る。
「儚は何処へ行ったの?」
「今日は、親戚の用事が有るらしい。」
その時、嘉紀の携帯が鳴った。
秘密の組織からで有る。儚に繋がらなかった為、嘉紀の携帯に掛かった。
「あっ、ヤバ、緊急事態だ。立てこもった奴が居る。仁美、手伝ってくれ。」
「私は、何も出来ないわよ。」
「それで良い。仁美が居るだけで助かる。」
組織からの依頼は、あるアパートでの、立て篭もり事件である。
この街のアパートで、子供を盾にとって、立て籠もった奴が居る。男は刃物を持っているので、警官も手を出せない。こいつは、泥棒にでも失敗したのだろう。
「仁美、髪をバラして、眼鏡を掛けてくれ。眼鏡はこれで。」
嘉紀も、眼鏡を掛けて髪型を変えた。親しい者には分かるだろうが、大概は隠せる。
「仁美は、人質の子供に近づいてくれるだけで良い。それで命は助かる。」
「そんなに、上手く行くかな?」
「僕が、そんな状況を作る。壁越しでも能力は発動する。」
タクシーを拾って、現場に着いた二人は、周囲の様子を探る。
「あの壁の裏に潜り込めれば、任務は半分達成だが?」
「何とかなりそう?」
「別の場所から、ベランダに入ろう。」
嘉紀は、アパートの隣の人に頼んだ。
「済みません。事件でペランダに出たいのですが、通して貰えますか?」
「分かりました、こちらから通って下さい。」
事件の部屋のベランダに着いた嘉紀は、隣部屋への障壁を音もなく破った。そして、事件の部屋へ移動した。直ぐに、ガラスに穴を抜き鍵を外す。嘉紀達には、範囲内の物質を消滅させる能力が有る。消えた物質は、エネルギー化して宇宙に散る。
「開いた。仁美、あそこの壁だ。足元に注意して、あの壁に張り付いて。」
仁美は、足音がしないように、壁の裏に張り付く。
「仁美、そこに居るな?  動くなよ。」 
「分かってる。早く済ませてよ。」
嘉紀は、ベランダのガラスに突入し、部屋に飛び込んだ。犯人の気を引く為、無理にガラスを破った。犯人が嘉紀の方を向いたが、嘉紀は、犯人と子供の間に割り込み、刃物を蹴り飛ばす。
その音を聞いて、警官も飛び込んで来た。犯人は、その場で逮捕された。
「機能服のお陰で助かりました。皆さん御苦労さまでした。」
警官達も、子供を盾に取られて、どうにも動けない状態だった。仁美と嘉紀は、どさくさに紛れて、その場を離れた。
その後、仁美と儚と嘉紀の三人は、ノートパソコンで、ニュースを見ている。
「これは、収拾が付かないね?  山臥さん、何故逃げたのよ?」
「ニュースに出たら、僕の顔がバレる。説明に往生する。」
現場は混乱が続いている。子供を助けた少年が居なくなったのだ。
メディアのカメラに、一瞬映っているのだが、本人は、いつの間にか消えていた。
「子供が助かったから、良しとしよう。しかし、あの行為は批判されるかも。」
「そうだよね?  仁美が壁の裏から護ってた、なんてのは説明出来ないしね?」
取り敢えず、これで、依頼は終了した。

次の週、儚と仁美は喫茶店で話して居た。
「先週は、大変だったわね?  仁美が居てくれて良かったわ。山臥さん一人では、動きにくかったと思う。裏から仁美が護って居たから、思い切れたんでしょうよ。」
「お茶の途中で緊急依頼が有った。手伝ってくれって、現場に連れていかれた。」
「無茶苦茶、タイミングが良かったね?」


  G-4  テレビ出演依頼

儚と嘉紀は、今日もお茶を飲んで居る。二人は、いつもの喫茶店に居る。
「最近は忙しいね?  事件に慣れてしまった。」
儚が感想を述べる。
「そうだな、慣れてしまった様だね?」
「本来、大変な事件だからね?」
この仕事は秘密である。何しろ、怪しい動きをしている。
嘉紀としても、壁を抜いたり、命を護れる能力は、知られない事が必須だ。
そんな事が表に出ると、彼等に注目が集まる。それは非常に拙いのだ。
嘉紀の裏の顔が表に出る。後の仕事が、やり難くくなる。
コンクリートの壁を破る事だけを取っても、尋常な力ではない。これは、ある機械の能力だとしているが、本当の事が知られる訳にはいかない。
その上、嘉紀が書いた解説書が、徐々に売れて来た。アメリカで、教科書の付録の様な形で、利用されている。
その本の特徴は、とにかく解りやすいのだ。内容は一般的では有るのだが、とにかく初歩者に優しい。だからこそ、アメリカで教科書の補助として採用されている。

しかし、そんなある日、PC 出版ニューヨーク支社から、電話が掛かった。
「もしもし、山臥さんですか?  ちょっと、お話が有るんですが?」
「何でしょうか?」
PC 出版の話によると、あるテレビ局から、出演依頼が来ていると言う。
嘉紀としては、あまり乗り気にはなれない。顔が知られると鬱陶しい事になる。
裏の仕事が、やりにくくなる。若さ自体が興味の対象になってしまう。
「あまり、発言に自信が無いので、出たく無いのですが。」
「山臥さんは、歳が若いので、興味を持たれた様です。」
「断って下さい。顔を知られると、何かと動きにくい事になりますし。」
「分かりました。その様に言って置きます。」
ところが、テレビ局は諦めていない。本が売れているので、興味を持たれている。
解説書を見たテレビ局は、出版社に依頼の話をした。
日本のテレビでは無いので、日本で顔は出ないのだが、鬱陶しい事は確かだ。
「テレビ局は、諦めていません。どうしても出演して欲しいそうです。」
ここまで言われると、断わりにくい。出版社としても、出演をして欲しいのが分かるだけに、嘉紀も逃げづらくなって来た。
「生なら出ても良いですが、編集されそうな物なら、やはり止めて置きます。そこのところを、確かめて下さい。」
「念を押します。又、返事をします。」
次の日、出版社から電話があった。生放送の予定だそうだ。
嘉紀は覚悟を決めた。日時は1月10日だ。ちょうど、プログラム講習の二日前だ。助かった。一日無駄にすれば済む。改めて、往復をする必要は無い。
テレビ放送、講習、パーティと、三行事が一度に済む。

儚と嘉紀は、今日も、お茶を飲んでいる。
「この間、出版社に、テレビ出演の依頼が有った。」
「どうするの?」
「断ったんだけど、押し切られた。」
「本の宣伝に、なるでしょう?」
「若さだけが、興味の対象になる。出版社に、多少の義理も有るんだが、顔が売れると拙い。」
「そうだね、例の仕事も、やりにくくなるわね?」
「だけど断りにくくなっている。少し変装をして出演する。名前もペンネームで。」
変装と言っても、髪型を変え、目元だけ墨を入れ、メガネを掛ける程度だ。
「それで、バレないかな?」
「多分。だから、来月の講習とパーティの前に、二日間、日が伸びる。」
「二日前に行く訳ね?」
「そうなる。一日無駄になるが、二回行くよりは、まだ許せる。」
しおりを挟む

処理中です...