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2I プログラム盗難

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 I-1  夢とカコ再々 再び絡まれる
 I-2  プログラム盗難 アフリカ中央部 やむを得ずプログラムを破壊
 I-3  夢とカコ再再々 護衛をつける
 I-4  夢とカコ再再再々 儚と仁美が不良と喧嘩


 I-1  夢とカコ再々

儚と嘉紀は、いつもの如く、お茶を飲む。今日は、仁美も一緒だ。
「まだ寒いね?  春が待ち遠しいわ。」
「本当だね?  寒くて良いのは、雪が降るくらいだもの。」
「スキーにも行ったから、今年は雪はもういい。」
「山臥さん、プログラムだけで無しに、学校の勉強も頼むわよ。」
儚は、山臥嘉紀の勉強を気にしている。どう思っても儚の半分もやっていない。
「儚、山臥さんは大丈夫だよ。実力試験は良い成績だよ。」
「そうだったね、無駄な心配かな?」
「いや、僕はそんなに能力は無い。要領が良いだけだ。」
「山臥さんは何でも要領が良い。その要領だって、頭が悪ければ出来ないよ。」
三人は、喫茶店を出て駅に向かった。今日は、いつもより西の街に来ている。
それを一人の男が、窺っていた。
「確か、あいつ等だったな?  相原さんの女に、手を出して居る奴等は?」
そいつは、儚達の後を付けながら、誰かに電話をしている。
何も知らずに、儚たち三人は、ゆっくりと歩いていた。
しばらく歩いて居たが、儚たちの前に男の集団が現れた。十人近くは居る。
「おい、夢とカコに絡んでいるのは、お前等だな?」
「夢とカコなら知ってるけど、それが何か?」
まだ、懲りていない奴が居る、又違うグループか?
「手を引いて貰う。手を引けば赦してやる。」
「あんた達は相原と話した事有る?  事情が分かって居ない様だけど。」
「お前に言われる筋合いは無い。あの女から手を引け。」
夢達も、鬱陶しい奴等に目を付けられたものだ。
「こっちも、あんた等に言われる筋合いは無い。放ぅって置いて貰おうかしら?」
「俺達に逆らうのか?  勘弁ならねえ。この女を預かる。」
こいつ等は、今迄の経緯が、全然解っていない。儚たちを女として、舐めて居た。
「儚、惚れられた様だよ。どうする?」
「良い男なら喜ぶ所なんだけど、趣味に合わないわね。」
「生意気な女だ、ちょっと来い。」
奴等の一人が、儚の腕を掴みに来た。儚は黙って、その手を取り逆手に捻った。
「痛ったー、何をしやがる?」
「御免ね?  あんた達は、趣味に合わないって、言ったでしょう?」
他の奴等が、儚と仁美を掴みに来る。二人は、同時に足払いを掛けた。男の二人が、宙に浮いた。足払いは簡単な様だが、タイミングが悪ければ、効果は無い。
しかし二人共、見事に決まった。
「こいつ等、俺達に逆らうのか?  勘弁ならねぇ。」
「あんた達が、私達に逆らって居るんでしょうが?  弱い奴が逆らうと酷いよ。」
「先輩、奴等を懲らしめて下さい。」
「お前達、今度は俺だ。相手を出来るか?」
そこで初めて、嘉紀が出ていった。
「先輩、やめた方が身の為ですよ。こんな事に巻き込まれたら駄目ですよ。」
「うるせい。俺を倒してから言え。」
「しようが無いか?  儚、頼むわ。」
その先輩と言われた奴は、かなりの腕前らしかったが、儚たちの様な実戦派は、荷が重かった。腕を掴まれ、足払いだけで片がついた。そいつは宙に浮き、地に落ちた。
「くっそー。」
一番、頼りにしていた奴が、足払い一本で片付けられた。男等は、倒れた奴に肩を貸し、路地裏に消えた。


 I-2  プログラム盗難

ある日の朝、儚は、組織から連絡を受けた。
「芙蓉さん、アフリカに行って貰いたいのですが?」
「アフリカで、何が有るんですか?」
「特殊なプログラムが盗まれまして、それを破壊して貰いたいのです。」
何処かの組織が、特殊プログラムを盗まれたが、まだ、ネットを経由していない。
ある研究所の端末に、保存されている儘だ。まだ解析が出来ていない模様だ。
そのプログラムには、保護の為、様々な罠が仕込まれている。ただ、場所が遠い。
儚も渋っていたのだが、頼み込まれた。今は、セキュリティの解析中で有る。
「今度は、何処なの?」
仁美が聞く。
「アフリカらしい。現場が遠いのよ。一週間は取られそうだわ。」
「三人も要るって、珍しいね?」
「三人行くと、何かと余裕が出来るからね?」
一人は陽動。二人目は部屋への侵入。三人目は、技師達の擁護だ。技師は、そこの端末に侵入して、ある情報を破壊する。陽動は嘉紀。部屋への侵入は儚。技師の擁護は仁美だ。儚と嘉紀は、随時交代する。
今は、端末機器のセキュリティを、解析中である。
「ドアのキーは、どうするのよ?」
「キーの内部を、物理的に破壊する。」
「儚に、そんな技術は有るの?」
「仁美は、壁ごしでも命を護れるだろう?  あの能力なら、仁美でも可能だ。」
「訓練すれば、私にも可能なんだね?」
「仁美でも、慣れれば出来る。」
それやこれやで、三人も要る事になった。
「今度は、エジプト観光と言うしか無いわね?」
「一日ぐらいは観光をしようよ。スフィンクス等が見られるわよ。」
儚と仁美か話している。
「山臥さん、アフリカには、講習に行ってないよね?」
「アフリカは、今迄に行った事は無い。」
儚の問いに嘉紀が答える。

その日の夜、組織の車が迎えに来た。儚の家の近くに、その車は着いた。
「儚、着いたよ。」
「そこへ向っている。仁美も来ている。」
程なく、儚と仁美が現れた。
「直ぐ出るよ。このまま関空まで行く。」
関空からエジプトまで一般便で行く。エジプトに着くと、組織のEU 支部から専用機が来ていた。その国の地方空港まで、その飛行機で飛び、そこから又、組織のジープで、現場まで走る。
「ここ迄来るだけでも、疲れるわね?」
「本当にね、特に、ジープでの長い時間は疲れるね?」
と言う訳で、儚たち三人は、アフリカ中央付近の国に来ている。
「今晩実行をする。もたもたしていると、解析されてしまう。」
SSS の人間も、近く迄来ている。儚や嘉紀達の足も要るし、技術者の手配もする。
儚たちに、仕事を依頼するには、全てSSS を経由する。ただその間に、数段のホームページを経由する。SSS とは、スペシャル•シークレット•サービスの略称だ。
ただ、緊急の場合は、極秘回線で、携帯に電話が掛かる。

「取り敢えず、可能な限りの情報は得られた。突入するわよ。」
突入する人員は、儚たち三人と、情報スペシャリスト二人の、合計五人だ。
「儚、この壁に穴を開けてくれ。後は同色の樹脂膜で誤魔化して置く。」
周囲を廻って見たところ、その辺りが、警戒密度は一番低い。
「儚、この鍵を頼む。出来るだけ内部だけ壊してくれ。」
「分かった、責任は持てないわよ。えーっと、これで開くと思うよ。」
「開いた。直ぐ入って。元通り閉めておく。」
技術者が、そのプログラムを探すのに、数分掛かった。
「これは、壊すしか仕方がない。時間が足りない。」
「それで良い。それで、最低限の任務は達成する。」
数分では有ったが、部屋の外には、警備の人間が集まっている。
「強行突破をする。技術屋さん達二人は、我々の手の届く範囲に居て下さい。」
「武器は無いのか?  撃たれ放題になるぞ。」
儚、嘉紀、仁美の、他保護範囲に居れば、銃弾にも傷付かないのだが、この能力は、普通の人には、説明する事が出来ない。完全な極秘案件になる。
「私達には特殊装備が有ります。離れなければ命は保証します。」
その言葉が信用出来なかったのか、技術者の一人が、外へ逃げ出した。それに気が付いた仁美が、その技術者の盾になるべく、敵と技術者の間に割り込んだ。ただ、間が長い為、仁美の他保護範囲に入らない。
今度は儚が、それに気付いた。儚はその技術者を、仁美の陰まで移動した。幽力を用いて、数十センチ動かしたのだ。皆んな動いているので、この程度なら誤魔化せる。
幽力の便利な所は、離れた物を移動出来る事だ。

これも、普通の人には言えない案件だが、仁美の機能服が救った様にも見える。
「儚、グッド。間に合った。危ない所だったよ。」
と仁美が言う。
「技術者さん、飛び出したら危ないよ。命が幾ら有っても足りないよ。」
儚も技術者に助言する。
「さあ、逃げるぞ。皆んな、この中に入って。」
嘉紀が、保護膜を展開する。

戦闘をしながら、儚たち五人は、闇に紛れて、そこを離れた。
「今回は、警備兵が少なくて助かった。」
「本当だね、ラッキーだったね?」
次の日三人は、普通の人達に紛れて、エジプト辺りの観光をした。
「この像は、いつ頃作られたんだっけ?  凄いよね?」
「少なくとも、日本の神話時代だね?」
その後、食事を済ませた三人は、SSS の極秘ルートで、日本へ帰って来た。
結局、準備と観光一日を含めて、五日間かかった。
いずれにしても、観光の一日は、周囲を誤魔化す為に、必要な事でも有った。
「あの件、三人も要らなかったよね?」
儚が、嘉紀に疑問を投げる。
「二人でも、出来たと思う。だけど、儚と仁美が技術者を助けた。」
「そうか、ヤッパリ三人必要だったか?」
この件も、他保護でも幽力でも防げた。しかし、透明層で弾が消える様な場面は見せられない。だから、儚か仁美の機能服が、助けた様に見せた。
休む暇も無く、次の日は学校だ。嘉紀は、もう一日休むと言う。
「儚、五日も休んで、何をしていたのよ?」
「空きが二つ出来たので、エジプトへ観光旅行。」
「ズルい、二人だけでエジプト旅行なんて。」
「二人しか空きが無かったのよ。儚の親戚の紹介で、急だったしね?」
と仁美。
「山臥さんも、同じ頃から、休んで居なかったっけ?」
儚の級友は、嘉紀の事にも言及する。
「あの人の事は知らないけど、今日も休んでるわよ。」
儚が、嘉紀の事を、適当に誤魔化して居る。
「それより、はい、お土産。」
仁美が級友達に、土産物を配っている。
級友達が散ってから、儚と仁美は、やっと気分が落ち着いた。
「今回は、これ迄だね?」
「そうだね?  山臥さんが出て来れば、終わりだね?」


 I-3  夢とカコ再再々

その頃、夢とカコの所では、事件が起こっていた。あれだけ警告したのだが、調子者のグループが、夢達にちょっかいを出した。
「夢だな?  ちょっと来い。」
「嫌です。もう、あなた方とは話をしません。」
「ボスの女のくせに生意気だ。こっちへ来い。」
ひと悶着の末、その店を出た。店を出た所で、ある男が声を掛けて来た。
「誰だ、この子等に絡んでるのは?」
その男は、店の中では、店に迷惑が掛かるので、外へ出るのを待っていた様だ。
今、夢達を護衛しているのは、その筋の専門家で有る。戦闘になれば容赦はしない。
ここで奴等も、大人しくして居れば、問題は無かった。
「相手は一人だ。やってしまえ。」
「こっちへ来い。来ないと承知しないぞ。」
奴等の一人が、夢とカコを強引に誘った。
「誰が、連れて行って良いと言った。」
護衛は、そいつを蹴り飛ばした。
これで、本当の戦闘になってしまった。護衛は、嘉紀達の様に手加減はしない。
仕掛けてくる奴を本気で殴る。
「やってしまえ。」
相手の少年達は、本職の怖さを知らなかった。
仕掛けた奴は、五米もぶっ飛ぶ。
「いたっー。」
「けゃー。
空手を習ったらしい奴が、蹴りを入れる。護衛は、難なく手で弾く。そして、顔がゆがむ程殴ぐりつけた。まだ一人、殴り掛かる奴が居た。そいつも五米もぶっ飛んだ。
「引け。」
余りの強さに、その場のリーダーは恐れをなした。そして、倒れた奴を放りだして、逃げて行った。
「二度と来るな。今度は命の保証はせんぞ。」
倒れたままの奴に、護衛は脅しをかけた。
「君達もお帰り。親が心配している。私は、山臥さんに頼まれた者だ。」
「有り難うございました。」
夢達も、早々に帰って行った。
本当のところは、護衛は必要なかった。夢とカコにも、嘉紀の能力が伝染っている。
ただ、本人達には自覚が無い。嘉紀としても、直ぐに言う積りも無かった。
怖い思いを、させない為に、護衛を頼んだ。

「やっぱり懲りて居なかったか?  それとも、違うグループか?」
嘉紀は今、夢達と会っている。
「あの護衛の人、私達も怖かった。」
「本職は、あんなものだよ。」
「そうだよね、山臥さんは、殺しには加わらないものね?」
「そんなに、危険な仕事をされてるんですか?」
「山臥さんは、敵も味方も怪我はさせない主義。」
「特殊な仕事だけど、災害地の救援にも行くよ。秘密だけどね?」
儚が喋った事は、元来極秘事項である。仁美は、やっと気がついた。
「あっ、今の事は誰にも内緒にしてね?  あなた達が危ないから。儚、喋り過ぎ。」
「護衛の人を見れば、その雰囲気は分かります。だけど、山臥さんを普通に見れば、そんな雰囲気は有りませんね?」
「役者だからね?」
「こらこら、僕は、読書好きな普通の学生だよ。」
「そうだったわね?  私達とは、年季が違うよね、気を付けよう。」
「もう大丈夫だと思うけど、気を付けてね?」
「ご配慮、有り難う御座いました。」
儚たちと別れてから、夢とカコは話をしている。どうにも、山臥嘉紀や芙蓉儚、それに、神園仁美の事は、現実とは思えない。
「だけど、変な人達だよね?」
「変と言ってしまったら失礼だよ。私達を助けてくれてる訳だし。」
「悪い意味じゃないよ。住む世界が違うみたいな?」
「そうだよね?  自分達の代わりに、プロの護衛を頼める訳だし。」
「それは、あの護衛より、山臥さん達の方が、重要だと言う事だよね?」
「やっぱり、分からない人達だわ。」


 I-4  夢とカコ再々、、、

「山臥さん、お茶しょう。」
学校の帰りに、儚が嘉紀をさそう。
「そうだね、今日は、東の方に行ってみようか?」
「仁美を誘っていい?」
「あぁ、いいよ。」
三人揃って、お茶を飲むのは、何日ぶりだろうか?
儚は、仁美に電話を掛けた。
「今日は東の方に行ってるから。店に着いたら、もう一度電話する。」
「分かった。」
仁美は、取り敢えず東に向かう。
数分歩いて、目当ての店に着いた。儚は、仁美に電話を入れた。
「今着いた。場所はメールで送って置く。」
程なく、仁美も現れた。しばらく雑談をして居たが、そろそろ帰る時間だ。
「久し振りにゆっくりした。次は大学受験だわ。少しは勉強しないとね?」
「共通一次試験まで、あと十ヶ月だね。お互い頑張ろう。」
三人は、駅に向って居るが、嘉紀は途中で本屋に寄る。

儚と仁美が、駅の方面に歩いていると、声を掛けた男達が居た。
「お前等、夢と一緒に居た奴だな?」
「そうだけど、何か?」
「ちょっと、こっちへ来い。」
男達は、儚と仁美を、暗い路地裏に誘う。
「ちょっと、何の用事なのよ。」
「煩い。夢達から手を引け。」
あれだけ、警告をされて居たのに、まだ、こんな奴がいる。
おそらく、違うグループなのだろう。
「あんた達、本当にしつこいよね?  山臥さんを怒らせない方が、いいと思うよ。」
「お前等が手を引けば、解決する問題だ。」
「まぁ、あんた達の警告は伝えて置くけど、用心をした方がいいよ。」
このグループは、今迄の経緯を全く知らないらしい。専門の警備が、雇われて居た事も知らされて居ない。
「連絡はそれで良いが、お前等は、今から俺達と来い。」
「何か奢ってくれるの?  美味しい物なら、一緒してあげても良いわよ。」
「うるさい。しのごの言わずに一緒に来い。」
「仁美、強力なお誘いだけど、どうする?」
「うーん、あまり好みの子は居ないわね?  やめて置こう。」
「じゃ、私もやめて置く。帰ろうか?」
それを聞いて居た奴等は、怒った。
「誰が帰っても良いと言った。俺達と来い。」
奴等は本当に何も知らない。儚や仁美が、自分達より強い事も分かっていない。
「本当に、何も聞いて居ないのね?」
「何をブツブツ言ってやがる。とにかく来い。」
「ゴメンだね、あんた達はもう飽きた。」
男達は、儚と仁美が女と思って舐めていた。中の一人が儚の肩に手を掛けた。
儚はその手を取り、前に引きながら、足払いを掛けた。男は宙に浮いた。
仁美にも、手をかけた奴が居た。そいつは、背負いで放り投げられた。
殴って来る奴も居たが、手ではねられる。
「こんな事なら、幾らでも相手をするけど、まだやるの?」
「あんた達、本当に何も知らされて居ないのね?  山臥さんなら、こんなので済まないわよ。」
二人はそう言って、その場所から消えた。男達は声も出ない。
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