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2M 彩と郁人

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 M-1  海水浴 儚と嘉紀  不良と喧嘩
 M-2  彩と郁人 海水浴で不良から助ける
 M-3  東南アジアでハイジャック YAグループが解決
 M-4  雑務会社M 戦闘 
 M-5  此花彩 再度、不良に絡まれる


 M-1  海水浴

八月の初め、儚と嘉紀は海水浴に行く。街から一時間あまりの海岸だ。
「私が弁当を作るわ。」
当日、嘉紀は駅で儚を待つ。儚が少し遅れている。
「ゴメン、少し遅れた。」
「いや、五分だけだよ。」
「この電車に遅れたら、半時間程待つところだったね?」
海岸に着いたのは十時頃になった。海の家に入り、飲み物を注文する。しばらくして、紅茶を飲み終えた儚が、嘉紀に言う。
「そろそろ、着替えようか?」
「そうだね?  この前で待ってる。」
嘉紀は、着替えるのは直ぐだ。海の家の前で、儚を待つ。
数分待って、儚が現れた。
「一年ぶりの海だわ。山臥さん、早く泳ごう。」
「そうだね? 久し振りだから、足か吊らない様に用心して。」
二人は、一時間余り泳いで弁当にする。今日も砂浜で食べる。今年は絡まれないだろうか?  これまで、海に来る度に絡まれた。
今年は、儚たちは絡まれなかったが、絡まれている男女を見つけた。男達が、年下の男女を取り囲んでいる。その男女は、下を向いて慄えている。
「あいつ等、何を若い子に絡んでいるのよ。ちょっと行ってくる。」
儚は、そこへ近づいた。そして、絡まれている二人に言葉を掛けた。
「お待たせ。山臥さんは向こうに居るから、一緒に食べよう。」
「こら、俺達が先に声を掛けただろうが?」
「私達は友達だよ。待ち合せをして居るんだよ。」
「うるせい。向こうへ行け。」
「いい歳して、中学生に絡んで居るんじゃないわよ。」
「お前達に関係ない。」
しばらく見ていた嘉紀も、こちらへ来た。儚に目配せをして二人に言った。
「さあ、向こうで一緒に食べよう。君達、そこをどいて。」
儚は、二人を連れて行こうとした。
「何だお前達は?」
「二人の友達だよ。君達こそ誰だ?  僕の友達に何をやってる?」
「うるせい、向こうへ行け。」
「儚、電話だ。状況を説明して。」
「分かった。もしもし、警察ですか?  今絡まれて、、、」
そこで奴等が、儚の電話に飛び付いた。携帯がガチャンと落ちる。
「良い動画が取れた。ネットに載せよう。」
「やったね?」
儚も、ノリノリだ。
「畜生。」
奴等の一人が、儚に掴み掛かる。儚は軽々と、そいつを放り投げた。
「こいつっ。」
次の奴が儚を殴った。儚は、ちょっと首を傾げただけだ。
「痛っー、よくも殴ってくれたわね?」
儚は、そいつに背負いを掛けた。男が宙に舞う。
そこから乱戦になってしまったが、嘉紀は儚に任せて、その喧嘩を眺めている。
時々、嘉紀に届く奴も居たが、嘉紀は、足だけで相手をしている。
足を払ったり、背中を蹴り飛ばしたり、まともに相手をしていない。殆どの男達を、儚が始末した。


 M-2  彩と郁人

「弱い癖に、自分達より弱い者には、やたら強がる。」
「儚が、特別なんだよ。」
「山臥さんは、何をやってるのよ?  私に任せて。」
「いい動画が取れるかなと思って。儚が携帯を叩き落された所迄は撮った。」
「君達、もう大丈夫と思うけど、どうする?  一緒に食べようか?」
「有り難うございます。助かりました。ご一緒させて下さい。」
そして、そのアベックは、嘉紀達の元に弁当を移動した。
「君達、高校一年ぐらいだな?」
「そうです。今年入学しました。」
「じゃ、夢達と一緒か?」
「え、夢君を知って居るんですか?」
夢とカコも、南城高校へ入学したところだ。
話を聞くと、この子達も、同じ南城高校へ入学していると言う。
話を聞いていた、儚も驚いている。
「そうか、夢達と同級生か、それは偶然だね?  じゃ、カコも知ってるの?」
「知ってます。中学からの知り合いです。」
「私は芙蓉儚、こちらは山臥嘉紀さん。あなた達の名前も聞いて置くわ。」
「僕は河合郁人、この子は此花彩です。」
「分かった。携帯に登録して置くわ。」
皆んなは、弁当を食べ終わり、もう一泳ぎして帰路についた。
「じゃ、帰るわね、気を付けてね?」
儚が二人に、別れを告げた。
「有り難うございました。」
その後日、儚は、夢に聞いてみた。
「夢、彩と郁人を知ってる?」
「知ってます。中学の時から知っています。」
「そうなの?  この前海水浴場で、不良に絡まれているのを助けた。」
「あの二人は、そんな仲だっのか?  仲良さそうでしたから。」
「だけど、能力の事は秘密だよ。人に知られると、うるさい事になるから。」
この力は、夢とカコで最後になるだろう。仁美で最後と思って居たのだが、夢とカコにも伝染ってしまった。これはイレギュラーだと嘉紀は思っている。
「分かりました。人には言えない能力ですからね?  気を付けます。」
「カコにも言って置いて。この能力は、絶対秘密だからね?」
本当のところは、この能力には強力な制限が掛かって居り、能力の無い者に話そうとしても、言葉にならない。


 M-3  東南アジアでハイジャック

その日、儚に緊急連絡が来た。例の秘密組織からだ。
「山臥さん、東南アジアの某国で事件だよ。」
「儚は動けるか?  仁美にも連絡してくれるか?」
儚の様子では、緊急案件らしい。儚は仁美に連絡をした。
「仁美、緊急事態だよ。近くの国だよ。」
ヨーロッパから東南アジアに向っていた旅客機で、ハイジャックが起こった。
しばらくして、仁美から連絡が来た。大丈夫だそうだ。時間が少し掛かったが、予定の調整をしていた様だ。
「山臥さん、仁美も私も大丈夫。何処へ行けばいい?」
「仁美を家に呼んで置いて、迎えに行くから。近くまで行ったら電話する。」
「了解。」
半時間程して、嘉紀から連絡が、儚に来た。
「儚、居るか?  いつもの所に居る。」
組織の車で、嘉紀が迎えに来たのだ。
「このまま空港へ行くよ。」
「現場へ行くのが先決だね?」
「様子が、はっきり解らないんだけど、とにかく現地へ行く。」
旅客機は、まだ着陸していないのだが、行先は分かっている。
現地まで、手続きを含めて、三時間余り掛かってしまった。
「様子はどうですか?」
現場の SSS に尋ねたが、とうやら、少し前に着陸した様だ。
「直ぐに飛び立つ様子は無いが、いつ飛び立つかは分からない。」

儚は、幽視で様子を見ていたが、何かおかしい。何だか違和感が有る。そうか、機長も乗員も、ハイジャック犯に乗っ取られた雰囲気が無い。
「山臥さん、あれは乗員も機長もグルらしいよ。襲われている感じでは無いよ。」
「えっ、グルだったの?」
儚から様子を聞いた、仁美も驚いている。
「儚と仁美は、前の窓から飛び込んで、乗客を護ってくれ。」
「僕は、念の為に普通の入口から入る。今回は、乗員を気にする必要は無い。」
「そうだったね?  乗客は、操縦室に集められて居たね?」
「操縦室に全部の乗客が集められている。」

「前の窓から、三米か四米ぐらいに集まっているね。」
今回は乗客の数か少ない。前面の窓に張り付くと、何とか行けそうだが、乗客が動くと危ない。助けに行くと、チャンスと見て動く奴が居る。
「仁美は窓の右から突入。儚は、窓の左から突入だ。僕は普通の入り口から入る。儚、味方でも動く奴は制圧しろ。僕は客室から一分先に入る。」
「分かった。」
三人は、時間合わせをして、行動に移す。
「前の窓と入り口の扉は壊れますよ。」
「分かりました。しかし、奴等は鍵も閉めてますよ。前のガラスも頑丈ですよ。」
「その為に、特殊装備を用意しています。」
操縦室の窓下に待機していた儚が、窓に穴を開け、人質の前に飛び込む。
儚は、窓の硝子を消滅させたのだ。ガラス切りのような時間は要らない。
今は仁美もその能力を得た。仁美も窓に穴を空け、操縦席に飛び込んだ。
「誰も動かないで、そもまま静かにして。動くと命を保証しないよ。」
それでも、動こうとする奴を、儚が投げ飛ばす。
「動くなと言ったでしょうが?  絶対移動しないで。動くと命は保証しないよ。」
嘉紀は、タラップを上がり、扉の前に来た。時間を見て錠を壊す。
他保護モードなら、範囲内の物質を消滅出来る。その能力で錠の内部を消す。
扉から中に入ると、犯人達の何人かが居た。
「何だお前は?  何処から入った。」
嘉紀がドアを開けたのを、見ていなかったらしい。
そいつ等は、銃で武装していた。そして、嘉紀に向って撃って来る。
嘉紀は、弾を避ける振りをしながら、奴等に近づき銃を消滅させた。
そして基礎保護能力を切り、当て身や蹴りで倒す。基礎保護は、攻撃力が余り無い。程なく客室を制圧し、嘉紀は操縦室に合流した。
「他に誰も居ないの?」
「トイレも洗面所も見てきた。」
そして、携帯電話で、組織に電話を入れた。
「飛行機内は制圧出来ました。警官を入れて下さい。乗員もグルでした。」
組織から、連絡を受けた警官隊が、タラップを上がって来た。
「大体は調べて居ますが、もう一度、確認して下さい。」
「操縦室に居た奴は、これだけか?」
「ここに居た奴は、倒した。何人か客室へ行ったよ。」
「それも倒した。」
嘉紀は、儚と仁美に合図をして、その場を離れた。関係者達は、半時間も騒いだ後、儚たちが居ない事に気が付いた。
しかし、嘉紀、儚、仁美の三人は、何処にも居なかった。
「操縦室の、窓の穴は何だ。どうしたら、こんな穴が空くんだ?」
「特殊装備が有ると、言っていましたが?」
「彼等は何処だ?」
儚たちは、とっくに居ない。今頃は、帰りの飛行機の中だ。
「今回は、近いので助かった。特別な経験をしたし。」
「あのハイジャックは、何だったんだろうね?」
「明日の新聞に出ると思うわよ。」
「いや、もう直ぐテレビのニュースに出る。」
そう言って、嘉紀はパソコンにテレビ画面を映す。
「夜のニュースです。今日、東南アジアの某国で、ハイジャック事件が有りました。他国から乗って来た過激派と言う事ですが、乗員もあちら側だった様です。今は解決していますが、幾つか謎が残ります。操縦席の前のガラスに、穴が空いています。お客さんの話ですと、少女が窓から二人、昇降口から少年一人、合計三人が入ったと言う事ですが、それらしき人は、見つかって居りません。まだ、謎だらけの事件です。詳細が分かり次第、御報告致します。」
「シークレットサービスも、何も言わないんだね?」
「あの組織自体、詳細は言わない。放送にも出なかっただろう?」
「本当だね?  メディアが良く黙っでいるね?」
「メディアの前には出て来ないんだよ。それに、依頼したのは政府だよ。」
「政府だって?  何故、政府なの?」
「今度の場合、乗員も敵側だったし、政府でないと関わり切れない。SSS に依頼出来るのも政府だし。」


 M-4  雑務会社M

その日、学校の帰りに、男達の声が聞こえた。
「待て! お前はヨシオだな?  今度は、この男が相手をする。」
「儚、頼んだよ。」
「えっ、私?  あいつは強そうだよ。山臥さんが、やりなさいよ。」
「こっちが勝ったら、うちの組織に入って貰うぞ。」
男達は、民間の雑務会社でM社と言った。
WS社の件は終わったと思ったのだが、今度は民間の会社が、絡んでくる。
WS社は、以前に嘉紀達が潰した会社だ。SSS の下請けの雑務会社だ。
「あんな事を言ってるよ。私は責任取れないよ。」
「いや、儚で大丈夫。やって見て。」
実のところ、儚や賀生達の能力は、殴られても衝撃を感じない。それを隠す為に、打撃を避けたり、腕ではねたりの演技をしている。
その代わり、攻撃力は、自動的に緩和される。どんな強い攻撃でも、相手を殺さない程度まで、自動的に緩まってしまう。自分も死なないが、相手も殺せない。これが、この能力の悩ましい処だ。
「何とか勝てたわね?  私が強くなったのかな?」
「儚が強くなったんだよ。経験かな?」
そんな風に、嘉紀は誤魔化す。
儚たちには、この現象の、詳しい内容は説明していない。
そのM社は何とか退いたが、納得をした様子は無い。この儚たちの力が、説明出来ない限り、納得しないだろう?  全く、面倒な組織に関わった。


 M-5  此花彩

それから数日後、此花彩からのメールが、嘉紀の元に届いた。
学校で、不良達に絡まれた。その日は、お茶の約束だけで済んだと言う。
そのお茶の日が、明日の放課後だった。場所は、駅前から少し北の喫茶店だ。
明日の放課後、嘉紀は、その喫茶店に行く事にした。
夢とカコも誘ってみた。両方共行くと言う。嘉紀と二人、合計三人になった。
約束の放課後、郁人と彩は、喫茶店に居た。不良共数人と一緒だった。
「彩、俺とのデートは、いつにする?」
不良の一人が、彩にデートを迫っている。
「彩は僕の友達です。貴方とデートは出来ません。」
「うるさい、お前は黙っとれ。」
「私は、あなたとデートなんか出来ない。」
彩も頑張っている。
「俺の言う事を聞かないと、親分に譲ってしまうぞ。親分は怖いぞ。」
そこで、夢が声を掛けた。
「彩、珍しい所で会ったね?  こっちへおいで。」
彩も郁人も、夢の事は知っている。
「済みません。向こうへ移ります。」
彩と郁人は席を立って、嘉紀の横の席に座った。
「久し振り。しばらく会わなかったわね?」
夢が彩に声を掛けた。
そこで、呆気に取られていた不良共が怒った。
「勝手に席を動くな。こっちへ戻れ。」
「済みません、今日はもう、こちらの席に移ります。」
「うるさい、戻れ。」
今度はカコが動いた。ツカツカと不良達の側に行き、話しかけた。
「悪いわね?  今日は彩と郁人を借りるわね?」
「何を勝手な事を言ってやがる。彩、こっちへ戻れ。」
「大きな声で怒鳴らないで。他のお客さんに迷惑だよ。」
「あ前は黙っとれ。彩、こっちへ来い。」
「他のお客さんは、不愉快だね?  外へ出ましょう。」
「うるさい、ここを動かないぞ。」
「分かった。君達は、ここに居なさい。私達は出るから。」
カコはそう言って、嘉紀や彩達に合図をした。嘉紀は既に、五人分の会計をすませている。
「出ようか?」
仕方なく、不良共も外へ出た。
「お前達は何だ。何故、俺達のデートの邪魔をする?」
「彩は、デートをしないと言ってるよ。」
と嘉紀が言う。
「あんたは関係ない。」
「彩は僕の友達だよ。それが嫌と言っている。彩も連れて帰るよ。」
「やかましい。俺を怒らすと怖いぞ。俺の親分は相原さんだぞ。」
「それがどうした?」
「この辺りの実力者だぞ。お前等は半殺しにされるぞ。」
「相原って、この間の奴かな?」
「多分そうだね?」
「山臥さんが怒って、半殺しにした奴だね?」
夢も、そんな風に言っている。
「あの時の山臥さんは、ヤバかったよね?」
「何?」
不良共はそれを聞いて、腰が引けてしまった。親分が負けて居る奴なら危ない。
「くそ、今日は退くが、覚えておれ。」
「あれで済むかな?」
「済んでくれると、面倒が無くて有り難いのだが?」
「何か有ったら、連絡をして。」
そう言って、夢達と嘉紀は、そこを離れた。
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