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2P 夢の迷宮

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 P-1  夢の迷宮 洞窟の枝で、強い想念に引っ掛かる
 P-2  女子学生と子供人質 逃げ遅れた女子学生と子供が人質 
 P-3  遊園地再び 遊園地でも事件に遭遇
 P-4  SSS の組織 国連事故処理機関
 P-5  花の公園 花の公園ビクニック
 P-6  夢とカコの参戦 二人に依頼


 P-1  夢の迷宮

儚と嘉紀と仁美の三人は、洞窟に居る。入り口は何でもない洞窟だが、中に入ると、細い所や枝分かれが何ヶ所も有り、かなり複雑な様相であった。
二ヶ所の分かれ道を通った所に、問題の現場が有る。そこに、男が二人倒れていた。
そこ辺りには、石造りの建物らしい物が拡がっている。
「何か、幸せそうな顔をしているね?」
儚が感想を述べた。
「この人達は、倒れて居るのでは無く、眠っている様に見える。」
「そうで有っても、出て来なければ心配するよ。」
嘉紀と仁美が、そんな話をして居た。

事の発端は、洞窟探検に入ったまま、出て来ない人が居た事だ。その洞窟は、枝道も多くて複雑な洞窟だった。その洞窟に入って、三日も帰って来ない人が居た。
「まあ、二人共、見つかったから良かったね?」
「ややこしい所に入り込まれると、助け出すのに苦労する。狭い洞窟を、担いで出なければならなかった。」
儚も、そんな事を話している。男達を介抱していた嘉紀が声を出した。
「この人達、眠っているのでは無さそうだ。どうしても目を覚まさない。」
「夢を見ていたと思ったんだけど、違ったのかな?」
「強い幻惑に掛かっているんじゃないか? 中々目を覚まさない。」
儚の疑問に、嘉紀が答えた。
「幻惑の元を潰した方が早いかな?  幸せな夢を覚ますのは、可哀想だけど。」
「これ、元なんか有るのかな? ここは、相当広い建物だよ。」
「仁美、山臥さんと、この人達を起こしてみて。私は、幻惑の元を探す。」
儚は、幻惑の元を探していたが、建造物の残骸が拡がり、それ全体に想念が拡がっている様だった。
「山臥さん、幻惑は、この辺り全体に拡がり、元らしい物は特定出来ない。」
「幽力を拡げて、建物全体に消去を掛けて廻ろう。」
それから三人は、その辺りの建物の跡全体に、消去を掛けて廻った。
「疲れた、大体終わったかな? 周囲を見て廻ろう。」
ところどころ残って居たが、漏れた物も消して廻る。
「大分潰せたみたいだけど一部逃げた。仁美、そっちへ行ったから捕まえて。」
「了解。幽力範囲に取り込んで、消滅を仕掛けてみる。」
何とか、その変な想念は消去できた。
「消えだみたいだね?  幻惑が無くなった。街全体に想念が有ったらしいね?」
幻惑に入り込んで居た男が、意識を取り戻した。
「あれ、ここは何処ですか?  随分寂しい所ですが?」
「おかしいな?  今迄宮殿に居た筈だが?」
二人の男が儚に尋ねている。
「お二人は、幻想の中に居られた様です。」
嘉紀が、二人に答えていた。
「楽しい所だったのに、断念だな?」
「あのままで居られたら、水不足で、死んで居られましたよ。」
儚も、二人の男に説明している。
「そうなのか?」
「水を飲まれてないので、それで死にます。後一日の命でした。」
二人の男は、顔を見交わしている。
「それなら、目を覚ます筈ですが?」
「それだけ、念が強かったんですよ。危ないところでした。」
幻惑の想念自体は、そんなに強くは無かったが、とにかく広かった。
その想念全体が、二人に影響を及ぼしていた様だ


 P-2  女子学生と子供人質

3月の中頃、組織から電話が有った。組織からの電話は、儚が受ける事になって居るのだが、儚が居ない時には嘉紀に掛かる。
「儚、インド方面で事件だ。現場はインドでは無いが、組織の拠点がインドに有る。仁美に連絡を頼む。出来るだけ早く出たい。三日程掛かる予定だ。」
「分かった。すぐ連絡する。」
儚は、仁美に電話を掛けた。
「仁美、インド方面で事件だよ。」
「いつ出発なの?」
「急ぎらしくって、二時間後に出たいらしい。三日間程だって。」
「三日間なら、何とかなるけど。忙しいね?」
「山臥さんの仕事は、そんなのばかりだからね?」
儚も仁美も、二時間後には出られると言う。
「山臥さん、二人共何とか出られるよ。」
「その時分に、組織の車で迎えに行く。」
「分かった、用意をして置く。」
それから二時間、嘉紀から儚に電話が掛かった。
「儚、来たよ、出られるか?」
「分かった。直ぐ出る。」
そのまま、組織の車で最寄りの飛行場に行く。今回は岡山空港だ。あまり煩雑な空港には発着場の空きが無い。
「仁美、良く時間が取れたね?」
「最近は、親も慣れたので助かるわ。儚の家に行った事に、なってるんだけどね?」
組織の特別機を降りた後も、組織の車で移動する。
詳細は、インドの拠点で聞く事になる。
「どうなって居ますか?」
「まだ、殺されては居ない様ですが、大変困っています。」
過激派に村を占拠された時、女子学生二人と子供が逃げ遅れた。その開放に、無理な条件を出されて、困って居る様なのだ。その国にしても、国土を占拠されたままでは捨てては置けない。国民感情も有るし、人質も無視出来ない。それやこれやで、人質奪還作戦が立てられた。
その場所は、インドから、そんなに離れていない国だった。
「人質は何処ですか?  三人共固まって居れば、都合が良いのですが。」
「今の所、一緒にいる。その場所も解った。」
「分かりました。特殊装備を着けます。」
取り敢えず。その国までSSS の飛行機で行く。手続き等は、全てSSS が手配する。
場所は、そんなに離れては居ないが、他の国を迂回するので、多少は時間が掛かる。
二ヶ国を迂回して、二時間余りで現地に着いた。
そこの責任者は、地図を取り出しその場所を指し示した。
「この位置から、1700米程先になります。近づくのが厄介なのですが?」
「分かりました。家陰を伝って、何とか行って見ます。」
儚、仁美、嘉紀の三人は、人影を避けつつ、現場に近づく。
彼らの姿は、現地人そのものである。近くから見られない限りは、分からない。
特殊装備を着けている事になっているが、そんな物は無い。そう言う事にしなければ、能力が使えない。儚は、人質の現場を幽視した。
「あの家だ。あの家の奥の方に居る。」
「裏手の屋根に穴を空けて、中へ侵入しよう。」
「 あっ、ちょっと待って。」
見張りの交代らしく、一人が近く迄来て、話して居るのが聞こえる。幽体能力を使っている時は、その場の声も拾える。1
「人質は、大人しくしているか?」
「三人共諦めた様だ。今は大人しくしている。それじゃ頼む。」
今迄の見張りは、そう報告して帰って行った。
「人質はあの家に間違い無い。横の方の壁に穴を開けよう。」
「僕が表で見張っている。二人で頼む。」
儚は、再び家を幽視する。人質は右手の部屋に居る。
儚は、横手の方の壁に、ギリギリ、人の通れる程の穴を開け、中を見る。
「居た。あれが人質だ。」
「間違いは無い。女学生と子供が居る。」
儚は、彼女達を、連れ出そうとしたが、彼女達は、怯えて動いてくれない。
近くで、見張り達の声が聞こえる。ヤバい。儚は、扉をロックした。
「何だ、何故鍵が掛かっている?  予備キーを取ってきてくれ。」
これで、少しは時間が稼げる。
儚は、人質三人を、何とか道の方に連れ出した。彼女達は怯えているので、引っ張り出すのに苦労をした。
「仁美、山臥さんを呼んできて。」
仁美は頷いて、嘉紀を探した。
「山臥さん、人質は助けたよ。」
「わかった。」
嘉紀は、周囲を警戒しつつ、儚の元へ戻って来た。
「二人は、彼女等が離れない様に付いて来て。絶対離さない様に。」
警戒をしていたのだが、半分程来た所で、見つかってしまった。
「やむを得ない。このまま突っ切るぞ。三人を離さないように。」
嘉紀は、すぐさま防御膜を展開して、皆を中に入れる。
後50メートル、女学生や子供が居る為、そんなに速くは走れない。お陰で、前方にも回られている。
「よし、突っ切るぞ。遅れない様に走ってよ。この膜から出ないように。」
儚と仁美は、女学生と子供が、他保護範囲から出ない様に、手で押さえながら走る。
敵に囲まれたとしても、他保護モードで押し退けられるが、見た目に鬱陶しい。
仁美が、ちょっと油断した隙に、子供の一人が逃げ出した。
「ヤバい。儚、子供を引き戻して。」
気が付いた儚が、幽力で、子供を膜の中に強制転移した。
「危ない所だった。こんな銃弾の中では、命が幾ら有っても足りない。」
「子供達は、絶対離さないように。その子達が殺されれば、我々の任務は失敗だ。」
「そうだね?  肝心の目的は、あの子達だからね?」
「我々が、引受けた任務は、人質を絶対に助ける事だ。敵兵は、我々の能力では殺せないから、少々投げつけても平気だ。自動的に調整される。」
他保護モードを発動すれば、半径六米まで、他人を護れる。
しかし、他人を護る身体能力は、特殊装備のお蔭と、周囲には誤魔化している。
何とか着いた。敵にも怪我は与えて居ないが、これは味方にも話せない。
「女学生や子供達が、怖気づいて圏外へ逃げないか、一番気を遣った。」
子供達を責任者に渡し、一応任務は終了した。
儚たち三人は、SSS の専甩機で、日本へ帰って来た。
「今回は、山臥さんの家の、別荘に行った事にしたからね?」
「うちに、別荘なんか有ったかな?」
「私は、儚の家の別荘。」
「えっ、うちに別荘なんか無いよ。」
任務は何とか終った。自分達の命は心配ないのだが、誰にも命を落とさせないのが、嘉紀のやり方である。敵で有っても、味方で有ってもだ。それが、山臥嘉紀の思いである。だから、儚も安心をして、ついて行けるのだ。


 P-3  遊園地再び

「お疲れさん。たまには、遊びに行きたいね?」
「温泉でも行こうか?  美味しい物を食べて、温泉に浸かろう。 」
三日後、夢とカコも呼んで、近くの温泉に行った。
「さあ、もう一つの日常に戻って、大学受験の勉強だ。」
嘉紀は次の日に、アルバイトに戻った。又、一週間アルバイト詰めだ。
「山臥君、頑張れよ。大分溜まっているよ。」
「分かっで居るんですが、簡単な物にして下さいよ。アルバイトですからね?」
嘉紀は、授業にも真面目に出席している。流石に単位は落とせない。

この4月、三人で遊園地に行く事になった。子供っぽい遊びだが、行く所が、中々決まらなかった。後は旅行に行くぐらいしか無い。
「久し振りの遊園地だわ。少々冒険も有るから、私はまだ飽きない。」
儚は、そんな風に言う。
「それは、結構な事だね?」
「今度は旅行だね?  三人なら行けるでしょう?」
「多分ね?」
高校生では、男女二人の旅行は、親の許可が下りない。三人で行くのなら、何とか許可が下りる。話をしている内に、遊園地の駅に着いた。
「バスは有るけど、そんなに遠くないから、歩いて行こう。」
ゆっくり、遊園地まで歩き、入場する。三人は、先ず観覧車に乗った。
「観覧車が、上の方に上がると、遊園地の全貌が見渡せるよ。」
「山臥さん、あそこの人だかり、何か変だよ。」
儚は、その辺りを幽視する。中央に男と子供が居り、それを集団が取り巻いて居る。
「本当だな?  何か雰囲気が違うな。これを降りたら行って見よう。」
「こんな所でも、事件に遭遇するのか?  うっとうしい事だね?」
観覧車を、急いで降りた三人は、上から見えた場所に向かう。
「どうしました?  何か有りましたか?」
儚は、近くの人に尋ねている。
「初めは、順番のトラブルだったんだが、一人の男が切れてしまった。」
そこを見ると、男が女の子に、ナイフを突き付けている。
「しようもない事件か?  しかし、捨て置く訳にもいかないな?  仁美、行けるか?」
「分かった。やって見る。」
仁美は、少し前に出て、男に話しかける。
「ちょっとオジさん、そのぐらいにして置いたら?  罪が増えるよ。」
「うるさい。お前に関係ない。」
「刃物まで出したら拙いよ。」
仁美は、そう言いながら男に近づく。人質の女の子は、保護圏内に入った。後からは、儚が近づいている。直ぐに儚も、保護圏内に到達した。
「それ以上近づいたら、刺すぞ!」
それを聞いても仁美は止まらない。男は女の子の脚を刺す。しかし刃は刺さらない。他保護範囲内では、攻撃が一切出来ない。仁美は、男と女の子の間に割り込む。
仁美は他保護を切り、男の手から刃物を蹴り飛ばす。儚も他保護を切っている。

他の客達が、犯人を取り押さえた。嘉紀達三人は、そっと、その場を離れた。
「最近は、こんなのばかりだね?  お茶でもして帰ろうか?」
「先ず、電車に乗ろう。お茶は、いつもの所にしよう。」
「そうだね。その方が無難かな?」
二時間ほど掛かって、いつもの駅に戻って来た。
三人は、いつもの街の、いつもの喫茶店に入った。
「ここが落ち着くわ。お姉さん、ミルクティーをお願い。」
「私はレモンティー。それと、山臥さんに、コーヒーを。」
「今月は、サービス月だね?  組織を通っていないからね?」
「そう言う時も有る。しかし、この辺りでは、もう要らない。目立ち過ぎる。」
この前から、事件を解決した若者達が、三件も消えている。普通は異常に写る。
仕事上、これ以上は避けたい処だ。


 P-4  SSS の組織

「ところで山臥さん、SSS の組織って何の組織?」
「今迄、何となく聞いていたけど、詳しくは解らなかった。」
儚も仁美も、余り解っていなかった様だ。それに嘉紀が答える。
「そうだな?  元々は、国連の国際事故処理機関と言うところか?  それが、組織が大きくなって、国連を通していると処理が遅くなるので、殆ど独立している。」
「どのくらいの規模に、なって居るのよ?」
「世界で、100ヶ国余りが参加しているから、結構大きな組織だよ。SSSは、スペシャルシークレットサービスの略号だ。」
その中で、嘉紀が受けるのは、殆んど個人案件で、多くても、三人が絡むぐらいしか受けない。国によって条件が違い、どちらが善か悪か解らない事が多い。
そこで、嘉紀が受けた処理は、どちら側にも、犠牲者が出ない様にしている。命は戻せないので、殺す事は出来無いが、物損は元に戻せるので、勘弁して貰う。
「なる程、大体は分かった。山臥さんの考えも、組織の在り方も解った。」
「山臥さんは、大胆な割りには、慎重だね?」


P-5  花の公園

「山臥さん、来月は、お弁当をもっで、花の公園に行こうか?」
「そうだね、あそこなら、事件も起こらないかな?」
嘉紀は、儚の提案に答えている。
「仁美も呼ぶわ。いいでしよう?」
「うん、仁美も働いているから、慰労を兼ねてね?」
五月の連休を避けて、少し過ぎてから花山公園に行った。今回は、嘉紀が弁当を用意した。もちろん料理屋の弁当だ。嘉紀の母親は、料理が得意では無い。
「この公園、中に池も有るし、山の斜面も有るから、ハイキング気分になれるね?」
「外から見るより、大きいからね?」
「それより、弁当にしよう。山の斜面で食べられるのがいいね?」
「さすがに、キレイな弁当だね? 料理屋だけの事は有る。」
「山の斜面で、弁当を食べられるから、ハイキング気分になれるわ。」
「中に、こんな大きな池が有ると、かなり広く感じるね?」
「あ、白鳥が居る。中に温室も有るし喫茶店も有る。食事も出来そうだね。」
三人は、弁当を食べてから、池の周囲の花畑を見て回り、適当な時間に、いつもの駅前に帰って来た。
「まだ早いね、お茶を飲んで帰ろうか?」
「そうだね、先ずは一服だね?」
「そろそろ、夢達にも手伝って貰いたいね、まだ無理かな?」
「我々が、順番に付いて行こう。」
「私達は、そろそろ勉強もやらないと拙いよね?」
嘉紀達三人は、もう直ぐ三年になる。大学受験にも、頑張りたい処だ。
大学受験に失敗すれば、親達も煩くなって、時間の自由が怪しくなる。
それも困るので、大学入試ぐらいは合格して置きたい。


 P-6  夢とカコの参戦

今日、夢とカコは、儚達にお茶を誘われた。その為、今は駅前に向っている。
「時間が早いわね、先に飲んで居ようか?」
「そうだね、他に行くには時間が無いし、そうしよう。」
二人は、駅方面に歩いて居るが、途中で、男達に声を掛けられた。
「ちょっと夢ちゃん、お茶を飲まないか?  南城へ行ってる子だよね?」
「可愛いので、前から目を付けてたんだよね?」
「済みません、今は用事が有るので、無理です。」
夢は、一応穏やかに断っている。
「そんなに時間は取らせない。そこの喫茶店に行こうよ。」
「駄目です。先輩に叱られます。」
「じゃ、もう一人の子でもいいわ。」
「二人とも、誘われてるから、無理ですよ。山臥さんに叱られます。」
「ああ、山臥って、生徒会の仕事を断った、大人しそうな奴か?」
どうやら、山臥嘉紀を知っているらしい。大人しやかに、写っている様子だ。
彼等はどうやら、嘉紀と生徒会の喧嘩も、見ていない様子だ。
確かに、日頃の行動は大人しい。むしろ、儚の方が目立っている。
「彼奴なら大丈夫だ。我々には何も出来ない。」
夢とカコは、顔を見合わせた。
「今日は、儚さんも仁美さんも居られるので、後で叱られます。」
「あいつらは強いそうだが、たかが女だ、男には勝てん。」
この男達は、何を知って居るのだろうか?  儚達や嘉紀の本性を知らない。
「とにかく無理です。もう行かなくっちゃ。」
「もう、ぐちゃぐちゃと煩い。とにかく来い。」
男の一人が、夢の腕を取る。夢は振り払う。もう一人の男が、腕を掴みに来る。
「カコ、もういいよね?」
カコは小さく頷いた。夢は、逆に男の腕を掴み、逆手に捻り、足を払った。
男は、見事に宙に浮く。
「あれ、夢じゃない?  何をやってるのよ。」
「儚ねえさん、助けて下さい、男の子にイジメられています。」
「カコ、助けてやりなさいよ。」
それを聞いたカコは、腕を掴みに来ていた、男の手を取り、背負いを掛けた。
そいつも、見事に放られた。
「何だ、こいつ等は?」
男の一人が、仁美に向かって来る。
仁美は、腕も取らずに男の出足を払った。その男も宙に浮く。
儚にも、向かって来る。儚はその男を背負いで放る。
「まだ、やる? やるんなら、付き合うわよ。」
仁美の言葉に、男たちは声も出ない。その男達を置いて、儚達はそこを離れた。
しばらく歩いた後、約束の喫茶店に着いた。そこには、嘉紀も待っている。
席に着いた儚は、夢達に言葉を掛けた。
「夢、カコ、腕を上げたわね?  度胸が付いたのかな?」
「柔刀術を習ったお陰です。自信がつきました。」
嘉紀は、それを見ていたが、改めて、夢とカコに話しかけた。
「今日は、夢とカコに、お願いしたい事が有るんだけど。」
「何でしょうか?」
「僕と儚と仁美は、もう直ぐ高校の三年になる。そろそろ、大学受験に力を注がなければならない。そう言う事で、二人に仕事を手伝って貰いたい。」
「まだ、無理ですよ。自信が有りません。」
「二年前の、儚と仁美が同じ状態だった。だけど、仕事は出来て居た。」
「夢、カコ、大丈夫だよ。失敗したとしても、夢達の命は保証出来るから。」
「もちろん、夢達だけでやる訳では無い。僕達の一人が、必ず付き合う。」
嘉紀と儚と仁美の内一人と、夢とカコの三人構成になる。
夢とカコも、それを聞いて安心した。自分達だけでやる訳では無く、ベテランの一人が、必ず参加してくれるのだ。それなら何とかなりそうだ。
「そう言う事なら、納得しました。頑張ります。」
「有り難う。これで勉強も捗る。」
「あの大学ぐらいは、行って置きたいしね?」
それを聞いた夢は、三人に尋ねた。
「何処の大学を、受けられるんですか?」
「県立だけどね、城陽大学を受ける予定なんだけど。」
「あそこは、試験が難しい様ですね。頑張って下さい。」
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