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2Q 仮面パーティ

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 Q-1  仁美、儚と共にアメリカへ 戦闘有り
 Q-2  仮面パーティ 三人で強盗団殲滅
 Q-3  行政官誘拐 トラブルで誘拐さる
 Q-4  証券会社強盗事件 カラオケの途中で遭遇
 Q-5  嘉紀の景色 夢カコ含めて五人でカラオケ


 Q-1  仁美、儚と共にアメリカへ

高校も三年の初め頃。嘉紀が儚に頼んだ。
「儚、仁美とアメリカへ付き合ってくれるか?  後でパーティも有る。」
「五日ぐらいで大丈夫?  どうせ、講習も有るんでしょう?」
「全部含めて五日間だ、五月の終り頃になる。」
嘉紀は、何故か不安が消えない。そこで、仁美にも同行を頼んだ。
「仁美に聞いてみる。大丈夫とは思うけど、確かめる。」
儚は次の日、仁美に話して見た。
「仁美、山臥さんが、ニューヨークへ付き合ってくれって。」
「今回は暇だし、真面目な用事だから、行きやすいけど。」
「じゃ、了解にしておくね?」
「山臥さんが呼ぶ時は、何か悪い予感がするんだよね?」
「それは有るね?  何か事件に当たるかも。」
「今度は、もっと大きい事。」
三人は、五月の後りに関空を出発した。ニューヨーク空港には、通訳の山芳佑美が、待っていた。山芳佑美は、嘉紀の案内と通訳をする。
「お疲れ様。山臥さんは、今日の午後には講習が有るからね。」
講習と言っても、ミドル向けの本なので気は楽だが、質問には真面目に答える。
その質疑の為に、一応は通訳が付いている。今日の対象は、教育関係の人達だ。
やさしい本とは言え、質問は本職の人達なので相当に厳しい。
「終わった。少し疲れた。流石に、質問が厳しかった。」
「さて、パーティの服を借りないとね?」
「それは、明日の午前中にしよう。今日は何処かでご飯を食べよう。」
「佑美さんを呼んで、皆んなで一緒に行こう。」

夕方四人は、レストランを探しながら、ニューヨークの街を歩いている。
「おい、そこのYAグループの奴、チョット待て。」
「又、君達か、まだ用事が有るのか?」
「この間の闘いは、納得が行かない。再試合を申し込む。」
この前の男より、強い奴を呼んで来たらしい。全く面倒くさい奴等だ。
「儚、前より強い様だけど。やって見るか?」
「負けそうになったら助けてよ。それなら、やって見る。」
「又その女か、潰れても恨むなよ。」
後の方から大柄の黒人が出て来た。そいつは突然、回し蹴りを掛ける。儚は腕で止めた。やはり、儚が女だと見て、舐めて掛かっていた。
後は流石に慎重になった。腰を落とし、鋭い突きが来る。それも腕で祓う。
次は前蹴りだ。その足を肘で打ち落とす。足が地に着くと同時に、アッパーが来る。儚は、顔を反らしてよける。今度は又回し蹴りだ。それは、腕でかち上げた。
その男は若干バランスを崩した。儚はその足を掬う。男は背から地に落ちる。それと同時に、その足が跳ね上がった。儚は、それを肘で打ち落とした。
「それでも、届かぬか?  軽量なのに、やたら強いな?  君達はいったい何者だ?」
「私達は、これでも武術家だよ。スポーツとは違う。」
「なる程、この間の奴等の言う事が解った。まるで忍者みたいだと言っていた。」
「その血筋は引いてるよ。多分。」
どのくらい、納得をしたのかは解らないが、とにかく、奴等は退いた。
「儚、ご苦労さん。儚も強くなってるな?」
「強くなってるかな?  実感は無いんだけど。」
「本当に、映画の忍者その物だね?  あんな大男を倒すなんて。」
佑美も感心している。
実のところ、一般人には、見せたく無い場面なのだが、今回は、やむを得なかった。


 Q-2  仮面パーティ

次の日に服を借り、揃ってパーティに出た。皆んな仮面を付けている。
儚も嘉紀も、仮面パーティは初めてで有った。会場の入り口で仮面を渡された。
「一見、誰だか分からないな?」
「私たちは背が低いし、ドレスで解るよ。」
儚と仁美は、それなりに楽しんで居たのだが、嘉紀が突然、儚に告げた。
「儚、急いで前に、仁美も前に。何かおかしい。」
二人に指示しながら、嘉紀は更に前に出る。そこへ、兵装の男達が現れた。
大型の銃を持っている。嘉紀は、前に居る三人の銃を消滅させる。
儚も、前の奴の銃を二丁消滅させている。仁美も、二丁消滅させた。

儚たちの術の起動は、詠唱も魔法陣も要らない。術の起動は、全て脳が受け持つ。
「散らばって銃を探して。儚は左、仁美は右。銃を出すそぶりを警戒して。」
結局、銃は全部で七丁だった。奴等は何をしようとしたのか?  警察が来たのを機会に、三人はその場を離れた。佑美には、知らない振りをして連絡をした。
「仮面を付けてて良かったね、直接バレる事は無いわね?」
「銃が消えるのは、見せられないしね?」
「今回は只働きだね?  犯人が行動する前に済んだから、真相は不明だね。」
パーティの参加者を、人質に取られていたら、怪我人無しには済まなかった。
下手したら死人が出る。嘉紀が気配を感じたから、事件の前に片付いた。
「初めから不安が有った。山臥さんも、そうだったんだろうね?」
「山臥さんの悪い予感は、良く当たるんだよね?」
「儚の力が、私も得られて良かった。訓練のかいは有ったわ。」
儚に有って仁美に無い力が有った。又、その逆も有る。同じ嘉紀の能力から伝播したのに、それはおかしいと言う事になり、今年になって、精神訓練をしていた。
いわゆる、イメージトレーニングだ。お陰で両者が、同じ能力を持てる様になった。
その後、SSS から連絡が有った。SSS が介入したと認められて、報奨金は幾らか出るそうだ。嘉紀の方にも、それは廻る。その事件の時、若い男女が介入した、との証言は有ったのだが、その三人は特定出来なかった。


 Q-3  政府の行政官誘拐

パーティも済んだし、帰ろうとしていると、組織から連絡が有った。
二日か三日の間、帰国を伸ばして貰えないかとの要望だ。中米の小さな国で、誘拐事件が起きたのだ。儚は、嘉紀にそれを伝えた。
儚も仁美も、急ぎの用事は無いと言う。嘉紀は、その事件を引き受ける事にした。
「三日ぐらいなら大丈夫ですが、誘拐ですか?」
儚は、組織に確認する。
「反政府組織とのイザコザです。話し合い中でしたが、長引いていました。」
それを不満に思った連中の暴発だった。話し合いをしていた、政府側の行政官を連れ去った。直ぐには殺さないだろうが、人質に取られたままでは話が出来ない。
そこで、SSS に依頼が来た。儚は、嘉紀と相談の上、その仕事を受ける事にした。
「もう少ししたら、組織の車が来るから、その車で空港へ行くよ。」
「いつかの事件と、全く同じ構図だね?」
儚が解説する。
「人質の対象が違うだけで、反政府側の暴発は同じだね?」
仁美も、そんな風に言う。
「こんな事件は、やりたく無いよね?  元々、どっちが悪いのか判断出来ないわ。」
「それでも、人質を取って何かを要求するのは、認められない。」
嘉紀は、人質は認めていない。だから、人質だけは開放して置きたい。
「難しいところだね?」
実際、民主主義を主張していても、納得されない政治も有る。
「私達は、用意は出来てるよ。」
しばらくして、迎えの車が来た。儚たちは、それに乗り込む。
空港には、組織の小型飛行機が待っている。三人は、その日の内に現地に着いた。
「平面図は有りますか?」
「用意をしています。この小屋に囚われて居ます。」
「二キロ先か、三十分見ないと駄目だね?  小屋に、どう近付くかだけど。」
ここからでも、高い所からは村の様子は見えている。明々と外灯が点っている。
「暗視装置を付けて、闇に紛れるしか無いが、外灯が邪魔だな?」
暗いのは、儚の幽視でも、暗視ゴーグルでも見えるのだが、明るいのは駄目だ。
三十米ぐらい迄は近付けそうだが、あんなに明るくては、それ以上は難しい。
「二人は、あそこ迄近付いてくれ。僕が電源を切る。」
「電源を切るって、ブレーカーは、何処に有るか知ってるの?」
嘉紀は電気が趣味だ。村の電気の流れは、望遠鏡で把握している。
「いや、電気を送っている電線を切ってしまう。」
「電柱の上でしょう。届くの?」
「この程度の村では、高い電柱は立てて居ない。届かなければ電柱に登る。」
「分かった。二人で近付く。」
「外灯が切れたら、走りながら壁をぶち抜き、人質に寄って。時間が勝負だ。」
「分かった。仁美行くよ。」
「了解。」
儚と仁美が小屋に近付いたのを見て、嘉紀は、村の入口の電線を切断した。
嘉紀の予想通り、村の電柱は低くかった。
村は一瞬に、真っ暗になった。予備電源に切り替わる迄が勝負になる。
儚と仁美は、二方の壁から小屋に飛び込んだ。人質を見つけて、側に駆け寄る。
間に合った、まだ誰も来ていない。儚や嘉紀の能力は、人質の六米以内に近付ければ成功である。それで命は護れる。嘉紀も、そこに駆け寄る。
「このまま逃げるぞ。二人はこの人を護って。」
「了解。」
真っ暗闇の中、暗視装置を付けた三人は、人質と共に闇に紛れた。彼等は、半時間を掛けて、味方の圏内に戻ってきた。
人質になっていた政府高官は、SSS の別働隊に任せ、彼等は飛行場に向った。
「今回は、防護幕の必要は無かったね?」
「あれは、兵隊が邪魔しなければ、要らないからね?」
「本当だね、今回は比較的簡単だった。」
飛行場には着いたが、アメリカ行きの飛行機も、明日の朝にしか無かった。
まだ、夜の九時だ。街は明るい。
空港の近くに泊まった三人は、暇を持て余して、街の食堂に寄った。
料理は、程々に食べられたが、帰る途中、又、男達に掴まった。
「やっぱり、この展開か?  山臥さん、喧嘩の神様に好かれているんじゃ無いの?」
「僕のせいじゃ無いよ。儚だろう?」
「違うわよ。絶対山臥さんだよ。」
「ちょっとお二人さん、そんな事、言ってる場合じゃ無いわよ。」
仁美に止められて、周囲を見ると、十人以上の男達が取り囲んでいた。
何か言ってるのだが、言葉は分からない。やっぱり金を要求している様だ。
これは、いつもの展開で有る。嘉紀は手を振る。今度は服を脱げと言っている。
嘉紀は、それにも首を振る。当然奴等は怒った。
「しようがない。儚、頼むよ。」
「山臥さんも、働きなさいよ。」
「うん、漏れてきたのは引き受ける。」
儚と仁美は、他保護能力を切断した。他保護モードの時には、攻撃力が無い。
男達は、儚の肩に手を掛ける。儚はその手を取り背負いで放る。仁美にも殴りかかって来る。仁美は、その腕を捻り足払いを掛けた。そいつも見事に転ぶ。それからは、乱戦である。しかし、儚達を捕まえた奴は居ない。
時々は、嘉紀の方に、辿り着く奴も居たが、嘉紀が足払いで片づけた。
「いつもの展開だな?  放って置けば、勝手に居なくなるだろう。帰ろうか?」
「警察が来れば、どちらの味方になるか、分からないんじゃ無い?」
「動画を撮ってるから証拠は有るが、面倒な事は確かだ。」
「いつ、撮ったのよ。」
「僕は、足だけしか使っていない。手は空いている。」
「抜け目が無いわね?」
「反対の方を回って帰ろう。何処に泊まって居るか、隠して置きたい。」
嘉紀は、全てを動画に撮っている。無駄に遊んでいた訳では無い。
儚、仁美、嘉紀の三人は、次の朝、その街の空港からニューヨーク空港へ飛ぶ。そこから、航空便の空きを見つけて日本に帰って来た。結局、二日間余分に掛かった。


 Q-4  証券会社強盗事件

「仁美、行くよ。今日はカラオケだよ。久し振りだがら緊張する。」
口では、そう言ってるが、儚はノリノリだった。今日は西の方に行くと言う。
今日は夢とカコも誘った。総勢五人になった。駅からは少々遠い。珍しく嘉紀もついて行く。彼女達の護衛の積りだ。途中に、何軒かの金融機関がある。銀行や証券会社等であった。仁美は、何気なく証券会社を眺めていた。何かおかしい。客が入りかけて直ぐに出てくる。仁美は、客の一人に声を掛けた。
「今日は、お休みですか?」
「臨時休業だと言われた。二人ほど前の人は入ったのに。」
儚は、ツカツカと入り口に向った。ドアは閉まり、その前に人が居る。
「夢、カコ来て。」
儚は、夢とカコを呼んだ。訓練の積もりの様だ。
「すみません、知り合いが居ますので入ります。」
「こら待て、勝手に入るな!」
「直ぐですから。」
儚は男を押しのけ、ドアの前に立つ。自動ドアの筈なのに開かない。儚は横に有る片開きドアのノブを回したが回らない。儚はノブを掴んだまま、内部を消滅させる。
嘉紀も儚の側に来る。仁美、夢、カコは、男をすり抜け嘉紀に寄る。
「こら、近づくな?」
「覗くだけだから。」
そこで初めて、男にも危機感が働き、彼女等を引き戻そうとした。
儚の持つノブが回り、ドアが開いた。嘉紀は中を覗く。男が二人銃を手にしている。
表の男も銃を出した。そして、嘉紀達は中に押し込まれた。
「何故中に入れた。ややこしくなるだろうが?」
「鍵を掛けた筈なのに、ドアが開いた。中を見られたので、やむなく押し込んだ。」
銃を持った奴が三人らしい。そんなに経ってないので、金庫の方には、まだの筈だ。
もう少し探ってみないと、詳細が分からない。もし、漏れて居たら余計に危ない。
「撃たれたく無かったら、奴等の方へ行け。」
奥の壁際に、八人程の従業員と客が集められている。
しかし、説明が出来ないので、拡がられたら、ちょっと拙い。嘉紀は、儚達四人に、両側へ行くよう、手で合図をした。
「金庫の鍵を持っているのは誰だ?  早く出て来ないと誰かを撃つ。」
金庫の方には、まだ行っていない様だ。ここに居るので全員だ。もう少し近づいてくれれば、銃その物を消せるのだが、少し遠い。嘉紀は前を向いたまま、後手の幅を狭める。儚と仁美は、その意図を察して、人々の間隔を狭める。幅を狭めれば、彼女達の保護圏内に入るのだ。
「夢とカコ、前に行って。」
そう言いながら、仁美と儚は、夢とカコを前に押した。その夢とカコは、両側から前に出る。嘉紀は他保護を切る。男達は夢たちに向って銃を撃った。
彼女達は、保護能力が有る為、弾が当たっても、身体に触れた瞬間に弾は消滅する。二人は、当たらない振りをして、男達に近づき、銃を持った二人を投げ飛ばした。
嘉紀も前に出て、もう一人を投げつける。
「これだけか?  他に居ないか?」
嘉紀は、そう言いつつ、銃を集める。
「これで全部と思う。」
「直ぐに警察を呼んで。警察が来るまで戸はしめて。表はシャッターを。」
犯人達を厳重に縛り、嘉紀達五人は、騒ぎに紛れて消えた。
「今日も只働きか?」
「しようが無いよ。放っても置けなかったし。」
とんだ日になった。喧嘩は時々やるが、強盗に遭遇するとは思わなかった。
「まったく、とんだ、くたびれ儲けだった。」
儚が、文句を言った。
「訓練になったと思えば良いが、近隣での事件はやめて欲しいよ。」
「本当だね。遠い事に文句は言えないね?」
数分して警察官達が来た。証券会社の人から、通報が有ったのだ。
「あの少女達は、何処へ行った。」
「何処にも居ません。いつの間にか消えました。」
それを、会社の人間が警官に言っている。その後、儚たちが消えたので、大騒ぎにもなった。散々探したが見つからず、消えた理由も解らず、謎のまま残った。それでも、夢とカコの経験にはなった。こんな事は、現場を重ねるしか度胸は付かない。


 Q-5  嘉紀の景色

仁美、儚、嘉紀の三人は、夢とカコも誘い、数日後にカラオケに行った。
ただ、嘉紀は歌は歌えない。儚たちが歌っているのを、ニコニコと聞いている。
儚たち以外には、こんな嘉紀しか見せていない。だから、周囲の人達には、温厚な、読書好きな学生としか写っていない。
「山臥さんは、役者だね?」
「何が?」
「普通の人には、全然自分を見せないね?」
「見せてるよ。あれも僕の姿だよ。嘘は無い。」
本来の嘉紀は、そんな面が強い。普段は物静かで、大人しく読書をしている。
「そんな言い方も有るか?  確かに嘘では無いよね?」
「皆んなの歌を聞いてるのも楽しいし、こう言う雰囲気も好きだよ。」
「夢もカコも歌うんだから、山臥さんも歌を覚えてね?」
嘉紀は、付き合いそのものが無かったので、人前で歌った経験が無い。人と接するのは、嫌では無いのだが、必要とも思って居なかった。
しかし、儚との付き合いが出来、儚を通じて、仁美や夢たちとも、友達になった。
儚の景色も変ったが、嘉紀の景色も変って来た。
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