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2T 湖上の妖気

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 T-1  湖上の妖気
 T-2  共通一次試験
 T-3  人質救出
 T-4  大学合格と伊豆旅行 首席式辞辞退


 T-1  湖上の妖気

「山臥さん、変な依頼が来た。」
「何が変なんだ?」
ある人が、中部地方の湖で、言葉を喋る幽霊の様な物を見た。一人や二人だったなら、聞き違えで通るのだが、見た人の数が多い。その真相を探れとの依頼だった。
「それ、我々で役に立つ?  幽霊みたいな物なら、手に負えないんじゃない?」
「我々の能力だって、普通の人には、理解出来ないよ。」
議論の末、結局行く事になった。彼女達が、反応する可能性も有る。
「明日の朝に迎えに行くから、儚の家に集合して。夢やカコも呼ぶ。」
嘉紀は朝九時頃に、組織の車で迎えに行った。
「揃ってるか?  例の所まで来ているよ。」
「わかった。直ぐ出る。」
組織に駅まで送って貰い、新幹線に乗る。現地迄、二時間余りで着いた。
「この湖か?  何も変な所は無いね?」
「夕暮れ時に出るらしいよ。」
ボートを二台借り、幽霊の出ると言う場所まで、皆んなでボートを漕いだ。
「もうすぐ薄暗くなるから、この辺りで、少し待ってみよう。」
「儚姉さん、あれは何ですか?  向こうに、モヤっとした物が有りますよ。」
夢が右の湖上を指差した。どうやら、例の物体の様だ。目撃情報とも合っている。
「危ないぞー。早くー去れー。」
「何だろう、この物体は。」
夢とカコが、それに近づき、他保護で対応している。しかし、一時的には消えるのだが、直ぐに湧いてくる。
「うーん。どうした物だろうな、これは?」
「何が原因だろうな、この変な物体は?」
皆んなで色々考えたのだが、どうにも理解が出来ない。
「話しかけて見ようか?  通じるかも知れない。」
元々その物体は、人間の言葉を話している訳で、通じる可能性は有る。
「今のところ、それぐらいしか方法が無いな?  儚、頼むわ。」
「私?  私に出来るかな?」
結局、儚が話す事になった。

「君は私の声が聞こえているかな?  話がしたいんだけど。」
その物体は、何か反応した。体がこちらを向く。目の様な物も二つ見える。
「君達は、私の声に驚かないのか?  今迄の奴とは違う反応だ。」
「あんたは、何の為に人を脅かして居るのよ。皆んな怖がってるよ。
その物体の話によると、この辺りは危険なので、無理に脅かしていると言う。
この辺りには、所々、岩が水面近くに有り、船が当たると沈没するので、近くに来させない為に、脅していると言うのだ。当然ながら、この辺りの漁師達は知っている筈だが、その物体の姿が薄気味悪い為、そっちの方が有名になってしまった。
「わかった、動機は理解出来た。皆んなに伝えて置くよ。これからもよろしくね?」
「私からも頼む。この事実を伝えてくれ。」

「結局、薄気味悪さばかりが噂になり、肝心の事が伝わら無かったんだね?」
あの物体の実態は、何だか解らなかったが、その動機は解った。
あの物体は、ここで事故にあった人間達の、心の残滓なのだろうか?
その物体の元は、何か分から無かったが、その本心は、伝えて置かねばならない。


 T-2  共通一次試験

「もう直ぐ共通試験だね?  公立へ行くのなら、受けないと駄目だよね?」
「多分ね。私立の事は余り分からないんだけど。」
「山臥さんは、私立大学には、初めから行く気が無かったの?」
「そうだな、その選択肢は余り無かった。」
「何故なの?」
「僕は、特殊教育は必要ない。標準的な学識が欲しかった。」
「特殊な知識も要るよね?  その場合、私立も有りじゃない?」
「特殊な知識が要るなら、別に勉強をする。先ずは標準的な学識が欲しい。」
そう、山臥嘉紀は、英語もプログラムも、基礎知識以上は、学校で覚える気は無い。
必要なら別に勉強をする。英語の様な外国語は、元から必要とは思っていない。
意味だけ知る積りなら、翻訳アプリも有る。本職の通訳も居る。
わざわざ全学生が、他国語を習う必要性は感じられない。趣味でやるとすれば、プログラムの方が、格段に面白い。最近、大学試験にも、英会話を導入の噂が有る。
嘉紀は、それを良しとはしない。実際に必要な人は、10パーセントを過ぎない。
プログラムも同様で有る。
「英語を齟齬なく話すには、相当の時間がかかる。その間、他の勉強が削られる。」
「それは言えるね?  その間に、他の勉強が出来るわね。」
「最悪なのは、中途半端な英会話で、科学を習う事だ。この最悪が結構多い。」
「アメリカで活躍して居る、日本の科学者も多いよ。」
「日本で成果を上げた人が、アメリカの研究所に招かれている。」
嘉紀としては、こんな考えでは有るが、その割合までは分からない。
まぁ他人の事は、どうしようも無い。嘉紀は嘉紀の道を行く。


 T-3  人質救出

共通試験の前に仕事が来た。これは、嘉紀が担当するしかない。しかし、ちょっと複雑な要件でも有り、儚と仁美にも頼んだ。
儚と仁美には、試験の前に、動揺を与えたく無いのだが、やむを得ない。
今回の依頼も誘拐が原因で有る。誘拐は、いつもの事では有ったが、今度は、政府が絡んでいる。その政府は、軍部の影響が大きい。一応、民主主義を唱えているが、かなり複雑な様相である。
ただ、政治は善悪を決める事が難しい。民主主義も全能では無い。
「儚、仁美、忙しい時だが、助けて欲しい。もう少し簡単なら、夢達に頼むんだが、ややこしい所なので、慣れた者が良いと判断した。」
「いまさら、いいわよ。数日勉強が減ったところで、変わる訳でも無し。」
「そのぐらいは、大丈夫だよ。」
今度の騒動の元は、東南アジアの国である。そこの、ある一派の人間が誘拐された。
それを元に、何らかの要求をされた。
「ちょっと聞いても、何が何やら分からない案件だ。」
その裏に、国際調停機関も絡んでいる。そこから、嘉紀の元に依頼が届いた。
人質を取って、要求を出すのは、嘉紀は認めていない。卑怯だとも思っている。
だから、この案件を受けた。いつもの事だが、人質を開放した後は関与しない。
「こう言う事だから、強制はしない。どちらが悪とも言い切れない。だから、人質の開放だけが目的だ。」
「山臥さんが必要と思ったのなら、手伝うわよ。」
「そう言う事だよ。山臥さんが気を使う必要は無いよ。」
「有り難う。じゃ、明日の朝に迎えに行くから。」
今度の事件は、早く解決する事が望ましい。政治絡みの様相なので、なおさらだ。
SSS もそう判断した。明日の朝、その組織の車が迎えに来る。
「おはよう。早速出発だよ、そこへ乗って。」
距離は、アメリカ程遠くは無いのだが、民間機では、乗り継ぎが大変そうだ。
だから、その国の空港まで、組織の飛行機で飛ぶ。
「今からなら、今日の内に着く。」
その日の夕方、三人は現地に着いた。
出来れば、今晩中に片付けたいのだが、現場の状況次第で有った。
「様子はどうですか?  人質の位置は分かりますか?」
「大体は分かっています。今、探りを入れて居るので、もう少し待って下さい。」
そうしている内に、諜報員が一人帰ってきた。
「人質の居る家は分かった。家は平屋の一軒家だ。今、部屋を調べている。」
「分からなければ構いません。その家が分れば、こちらで見当を付けます。」
「もう少し待って見て下さい。もう一人残っているので、分かると思います。」
こちらとすれば、時間が勿体無いのだが、相手のプライドも尊重はしたい。
「帰って来ました。様子を聞きます。」
「どうだ、部屋は分かったか?」
「この部屋に間違いは無い。ただ、向こうも人質を持て余して居る。」
軍部の一部が人質を取って、交渉を有利に進めたかったのだが、それが、相手の攻撃の、言い訳に使われている。
「分かりました。早速、準備に掛かります。」
儚は、嘉紀と仁美に、先方に聞いた事情を説明した。
「もう少し暗くなれば出よう。部屋はここだよ。」
儚は、部屋の平面図を、嘉紀と仁美に見せた。
人質の居る家まで、ここから一キロ程だが、一応街の中なので、人通りが多い。
どの人が、敵か味方なのかも分からない。民間人の服を借りて近づいて行く。
「さて、この家なんだけど、こう人通りが多くては、どうしようもないな?」
「そこらで、夜が耽るのを待とう。これでは、手の着けようが無いよ。」
仁美が、そう提案する。
「少し離れた所から、周りをみてみよう。」
「あっ、あそこなら人の出入りが少ない。数分なら何とかなりそう。」
「あの路地は人通りが無いな?  周りの見廻りに、気をつければ良さそうだ。」
「分かった。私から行く。」
儚が、一番に出て行く。しばらくして仁美が行った。最後は嘉紀だ。
そこは街灯も無く、なんとなく薄暗い。
「この部屋は、誰も居そうに無いな?  床下に入れるから、床を抜くぞ。」
「その方が、人が通っても分かりにくいね?」
床下から上の床を抜き、部屋に入った。
その部屋は、使われて居ないのか、人の気配は無い。
儚は部屋を幽視する。
「一瞬だけ待って。人質を隣に転移する。同時に飛び込んで敵を無力化して。」
儚は、幽力を使って、人質を隣の部屋に転送した。
「行くぞ。止まって居る暇は無い。一気に行くぞ。」
いつもは儚の役目だが、今回は嘉紀が受け持つ。嘉紀は二枚の壁を抜き、その儘、飛び込んだ。そして、そこに居た見張りに当て身を食らわす。見張りが、気絶したのを確認してから、隣に移した人質の、手足の縛りと口張りを取った。儚は、見張りと人質の記憶を、一分程消去して置いた。
人質に暗視ゴーグルを掛けさせ、説明のメモを見せた。幸いメモは理解出来た様だ。
「家を出る時は遠慮は要らない。どうせ見付けられる。」
嘉紀は、近くの壁を抜き通路に飛び出す。外の見張りが鉄炮を撃ってくる。
儚は、その銃を、飛び蹴りで蹴り落す。
見張りを儚に任せて、嘉紀は、廻りの敵を排除する。それを仁美が手伝っている。
「儚、保護膜を張ってくれ。少しきつい。」
街中では、違和感が有り過ぎるので、保護膜は張りにくいのだが、こんなに敵が多くては、誤魔化しようが無い。儚は保護膜を、いつもより大分小さく展開した。保護膜の外側に、能力層が、大分残るのだが、街の中で大きい膜は張れない。
「何とか、逃げられた。儚、保護膜を消して。」
嘉紀も儚も仁美も、特殊な能力が有るのだが、普通の人には、それを見せられない。
例え敵でも味方でもだ。だから、誤魔化せる状況の時にしか、能力は使わない。
「ここ迄来れば大丈夫だろう。一般人も居るし、無茶は出来ない。」
諦めたのか追手は来ない。
この誘拐に、賛成しない勢力も有る事から、連携が杜撰な様だ。
「この儘、組織の勢力圏まで進むよ。何処に、罠が有るか分からない。」
時々邪魔が入るが、儚たちの足は止められない。人質が他保護圏に居る限り、向こうにも可能性は無い。
「もう、足を緩めでも良い。もうすぐ、SSS の勢力圏に入る。」
「やっと着いた。こう走り続けでは足が保たない。」
人質を組織に渡し、儚たちは肩の荷を下ろした。
組織も、この陣を畳んで撤退すると言う。儚達も、それに便乗して移動する。
その後、組織の移動手段で、台湾まで帰って来た。後は自分達で帰る。
「やっと帰れた。いつもの事ながら疲れるね?」
「だから、我々に仕事が来る。普通に解決出来るなら、我々に依頼は来ない。」
「はいはい、分かりましたよ。」
「しかし今回は、ちょっと強引だったね? やむを得ないとしてもね?」
「そう、当分は使えない。」


 T-4  大学合格と伊豆旅行

もうすぐ、大学の二次試験が始まる。共通一次試験は三人共合格している。
実のところ三人共、同じ大学を受験する。
進む方向は、嘉紀と儚は理学部を、仁美は経営学部になった。
「試験が通ったら、何処かへ遊びに行きたいね?」
「そうだな?  気候は良いんだけど、中途半端な時期だな?」
「温泉にでも行こうよ。伊豆ぐらいは、どうかな?」
「そう言えば、あっちの方は、あまり行ってないわね?」
「夢とカコも誘って、皆んなで行こう。」
「まあ、試験が通ればと言う事にして置こうよ。」
日が過ぎて、二次試験の日が来た。三人は、元々同じ程度の成績である。
一人が通るなら、おそらく皆んな通る。
「儚、出来たか?」
「どうだかね?  通る基準が分からないから、何とも言えない。」
「まあ、待つしか無いか?  のんびり行こう。」

そろそろ、合格発表の日になるが、待つのは長い。三人はお茶を飲んで過ごした。
「山臥さん、皆んな通ったね、三人共合格した。」
「誰かすべっていたら、大変だったな?」
「そうだね、滑り止めを、誰も受けて居なかったからね?」
儚は、夢達に試験の結果を報告した。その序でに、伊豆旅行の計画を話した。
「私達も行けるんですか?」
「当たり前だよ。仕事じゃ無いんだし。」
「有り難うございます。」
「カコと相談して置いて。春休みになったら行くから。」
結局、五人共行ける事になり、ホテルを探した。しかし、急な注文は中々受け付けられない。ネットで散々探した結果、やっと、予約の取り消しを見つけた。
「やっと、ネットで見付けた。中心部から離れるが、やむを得ないな?」
旅行の計画を練っている時、嘉紀に大学から電話が掛かった。
「もしもし、山臥嘉紀ですが?」
「居られましたか?  山臥さんに、入学式の挨拶を、頼みたいんですが?」
「えっ、入学式の日は、日本に居ないのですが、何で僕ですか?」
「あ、言い忘れていました。山臥さんが、新入生の首席だったんですが?」
「断念ですが、約束が出来てしまっています。次席の方にでも、頼んて下さい。」
「何とかなりませんか?」  
「いまさら、無理なんですが?」
「分かりました。何とかします。」

春休みも終わりに近付き、伊豆へ旅行の日が来た。
「皆んな揃ったね、出発だ。」
「久し振りだから、楽しみだね?」
「仕事では、外国へ散々行ってるんだけどね?」
「仕事と遊びとは、気分が違うよ。」
そんな話を、新幹線のホームでしている時、東京行きが来た。
「さあ、これに乗って。熱海で乗り換えるから。」
その新幹線では、熱海まで三時間程度掛かる。車内販売が来たので、弁当を買う事にした。皆、好きな弁当を選んでいる。その弁当を食べながら、会話の時間だ。
嘉紀が、皆んなに話している。
「何日か前、大学から電話があった。入学式の挨拶をしろって。」
「嘘。私にも来たわよ。主席が挨拶出来ないから、やってくれって。」
と仁美が言う。
「嘘だぁ。私にも来たわよ。じゃ、仁美も断わった訳か?」
と儚も言った。
「ちょっと待ってよ。じゃ、三人共断わった訳?」
「え、儚も断わったの?  私は、変な予感がしたんだけど。」
「私も予感が有った。悪い予感は、いつも当たるから。」
嘉紀は、仁美と儚に尋ねた。
「儚、その日は、親が来るんじゃなかったの?」
「親には、予め断わっているわよ。いつ仕事になるか、分からないし。」
「親が可愛そうだよ。娘の晴れの日に。」
「山臥さんこそ、どうなのよ。親にどう言ってるの?」
「僕の所は中高も来てないし、大学も一緒だよ。儚と仁美は式に出たら?」
「仕事が来たら、どうするのよ。」
「最悪一人で行く。都合が良ければ、夢とカコに手伝って貰う。」
「分かった。親に言って置く。」
「私も、そうさせて貰う。式辞は断ったから、いい事にする。」
「しかし、式辞を頭から三人も断ったのは、初めてだと思うね?」
「それはそうだよ。首席が断ったのも、初めてだと思うよ。」
黙って聞いていた、夢とカコも感心している。
「三人共、仲が良いとは思って居たけど、成績まで一緒だとは、凄い事だよね?」
「本当にそう。三人で一位二位三位独占だよ。あの大学は、難しそうなのにね?」
その夜、旅館に着いてからも、そんな話で盛り上がった。
話の合間を見つけて、儚は親に電話をしている。
「お母さん。入学式には行ける様になった。来るんなら大丈夫だよ。」
「お父さんにも言って置く。二人で出席するわよ。」
仁美も、家に電話を入れた。
「お父さん、入学式は出席するわよ。時間が取れた。」
「それは楽しみだ、諦めて居たけど、幸運だったね?」
「山臥さん、家に電話をした。入学式に行けるって。」
「私も、お母さんに連絡した。喜んでいたわ。」
これで、嘉紀の肩の荷が下りた。大学の入学式は、一大イベントである。
家の人達も、喜んで当たり前なのだ。嘉紀の家が、少し変わっている。
この場合、嘉紀の家より、嘉紀が変わっているのだ。嘉紀は親の関与を望まない。
これで、心置き無く温泉を楽しめる。
「ちよっと、近くのカフェにでも行くか?  せっかく来たんだから、楽しもう。」
「又、喧嘩にならない?」
「そんなの、当たり前になって驚きもしないよ。行こう行こう。」
「近くなら、浴衣と羽織りで大丈夫だな?」
「そうだね、温泉気分で遊びに行こう。」
皆んなで、土産物屋を覗いたりしながら歩いて居ると、向こうから、浴衣の兄ちゃん達が歩いてくる。二十歳を過ぎているのか顔が赤い。アルコールが入って居る様だ。そいつ等が近くへ来た時、やっぱり声を掛けて来た。
「おい、姉ちゃん。男が一人だと面白くないだろう?  俺達が相手をしてやるわ。」
「結構だよ、間に合ってるよ。」
儚が、相手をしている。
「おっ、姉ちゃん可愛いね。俺達と遊ぼうよ。」
「ご冗談を。あんた達では、私達を相手に出来ないわよ。」
「いいから、ちょっと来い。」
男達も、アルコールが入っている為か、結構しつっこい。
「あっ、この子も可愛いぞ。一緒に連れて行こう。」
「いや、四人とも可愛い。女は皆んな連れて行こう。」
嘉紀はそれを、楽しそうに眺めている。
「兄ちゃん、放って置いて良いのか、全然反応しないが怖いのか?」
「ちょっと怖い。この女の子達は怒ると怖いよ。僕は知らないよ。」
「何を冗談言ってやがる。こんなに可愛いのに、怖い訳が有るか?」
そろそろ限界かな、男達の手が出そうだ。嘉紀は、面白そうに眺めている。
「山臥さん、何を楽しそうに見ているのよ?  私達を助けてよ。」
「助けるのは男達の方だよ。儚は心配いらない。」
「こら、そこの女、誰と喋っている。こっちへ来い。」
「煩いわね。あんた等に用は無いわよ。」
それを聞いて男は怒った。儚の肩に手を掛けた。儚はその手を取り背負で放る。
「ぎやっ。」
「何をしやがる。別の男が儚の腕を摑んだ。儚はそいつを足払いで転がした。
「げっ。」
嘉紀は、一部始終を動画に撮っている。
「ヤバい、逃げろ。」
嘉紀を見た奴が気付いて、皆んなを連れて、逃げて行った。
「やっぱり喧嘩になったね?  だけど相手は、二人だけだね、つまらない。」
仁美が、感想を述べた。
「仁美、私だけに働かせて、何を見ているのよ。山臥さんと一緒になって。」
「あははは、そこのカフェに入ろう。儚も喉が乾いたでしょう。」
「あんなの、運動にもならないわよ。」
その後、皆んな揃って、そのカフェに入った。
「やっぱり、儚姉さんは強いね?  山臥さんは相変わらずですね?」
「そう、いつもそうなのよ。私に働かせて動画を撮ってる。」
「だけど、山臥さんの首席って意外だった。あっ済みません。」
「山臥さんは、実力試験は、いつも良い成績だよ。」
「えっ、そうなんですか?  そんな事まで、ネコを被ってるんですか?」
「山臥さんは、小学の時から現場に行ってるからね、何でも平気なんだよ。」
「小学の頃って、本当に子供じゃないですか?」
「いや、親父に連れていかれてただけだから。」
その日は、宿でジュース等を飲み、楽しくお喋りをした。
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