無敵な女王様

慧野翔

文字の大きさ
8 / 18

裏女王様の災難・2

しおりを挟む

 軽く食事をした俺達はその後、綾さんのバイト先であるクラブへと行くことになった。
 綾さんがそこのスタッフだったこと、俺達が私服を着ていたおかげで身分証の確認も何もなく、顔パスですんなりと中へと通される。
 いくら週末で混んでいるとはいえ、チェック甘すぎだろ。
 そして今、俺は綾さん達の誘いを断り、一人ホール隅のカウンターでモスコミュールを飲んでいた。

「はぁ……」

 気がつくと疲労からか、ため息が零れる。
 なんで俺が亮太とWデートらしきものをしなきゃいけないんだ。
 しかも、よりによって女の人の相手をさせられるなんて。
 だが、亮太は俺が綾さんと一緒にいるのを見て、どこか楽しそうだ。
 昔から亮太は、俺にずっと『彼女が出来たらお互いに言おう! そして、四人でデートしような』と、言い続けてきた。
 だけど、俺はその約束を守ったことはない。
 Wデートに憧れている亮太からしてみれば、今回それに近い状況になって嬉しいんだろう。
 でも、たぶん俺には亮太の望むようなWデートなんてしてやることは出来ない……。
 そう思いながら、子供のころに強引に約束を結ばされた右手の小指を、俺はじっと見つめた。

『女を好きになれない』

 と俺が言えば、亮太だって諦めるんだろうけど、ささやかな亮太の楽しみを壊してしまうような気がして、その一言が言えずにいる。

「言えたら楽なんだろうな……」

 そう呟いて、グラスの残りを一気に飲み干す。

「いい飲みっぷりだね」

 いきなり声を掛けられ振り返ると、そこには三十代半ばくらいの男の人が立っていた。
 こんな音楽がうるさいクラブよりも、バーとかの静かな方が合いそうな人だけど。

「隣り、いい?」
「はあ……」

 断る理由がないから、俺はとりあえずそう返事をした。

「これと同じのを追加で」

 男は俺のグラスを指差して、カウンター内の店員に言う。

「あの……」
「奢るよ」

 そう言ってる間にも、その人によって俺の前には新しいグラスが置かれる。

「乾杯」

 男が自分の持っていたグラスと俺のを軽く合わせ、口にする。

「あ、ありがとうございます」

 一応、礼を言って俺もグラスを手に取る。

「さっきからここにいるけど、一人なの?」

 その言葉に、俺はこの場に似つかわしくないこの人を理解した。

(ナンパか……)

 若いやつを漁るなら、バーよりクラブに来た方が確実だもんな。
 確かに、この人なら男もイケそうな感じだし。

「いや、友達とかと……」

 普段なら、もっと駆け引きを楽しんでから誘いに乗れるんだけどな。
 さすがに、亮太達と来てる今日は無理か。

「ふーん。あまり楽しめてないみたいだ」
「まあね」

 俺がそう答えると、男の手がそっと俺の肩へと回される。
 そして、耳元に唇を寄せて囁かれた。

「じゃあ、これからどこか行かない?……君って、そうだよね?」

 やっぱり同類ってのは、すぐにわかるもんなんだなぁ。
 残念、いつもなら一緒に行けるんだけど。

「せっかくの……」
「カズ!」

 俺が丁重にお断りしようとした時、いきなり亮太の大声に遮られた。

「亮太……」
「何やってんだよ!」

 そう言って腕を引かれ、男から離される。

「俺の連れになんか用ですか?」

 亮太が、不機嫌そうに男性に言う。

「なんだ、男連れか」

 それだけ言うと、男はその場からいなくなってしまった。

「一人でいると思ったら……何やってんだよ!」
「何やってるって……話してただけだろ!」

 いきなり怒鳴られたことにムッとして、俺は亮太に言い返した。
 だが、亮太も納得出来なかったようで、さらに反論してくる。

「男に肩なんか抱かれて、どこが話してただけだよ!」
「なんだと……!」

 段々と自棄になってきた俺達を香織さんと綾さんが止めに入る。

「亮太くん、和彦くん」
「それくらいにしないと、二人とも目立つよ」
「……」

 二人に止められて、俺も亮太も少し落ち着きを取り戻す。

「……行こう、香織さん」

 そう言って亮太は香織さんを連れて、移動していく。
 なんなんだよ。
 だいたい、俺は亮太が付き合う女を見にきただけなのに、なんで俺が女とデートしなきゃいけないんだ!

「カズくん、機嫌直しなよ」

 俺の怒りが表情に出ていたのだろう。
 宥めるように綾さんが言いながら、俺へと身体を寄せてくる。

「ねぇ……二人でどこか行かない? 香織と亮太くんもいい感じだし」

 綾さんの女性特有の甘い香りと柔らかい身体が、俺の腕にまとわりついてくる。
 ……やっぱり、無理だ。

「私、カズくんとなら……してもいいな」

 耳元で吐息とともに囁かれて、俺の身体が嫌悪感で一瞬、震える。
 そして次の瞬間、俺は綾さんを振りほどいていた。

「俺に触るな!」
「カズくん……?」

 突然の俺の変化に、綾さんが驚いた表情を見せる。
 だけど、もう限界だ。

「……すみません。俺、帰ります」

 そう言うと、俺はそのまま出口へと向かう。

「え、ちょっと!」

 後ろから慌てた綾さんの声が聞こえたが、俺は振り返ることはしなかった。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

王様の恋

うりぼう
BL
「惚れ薬は手に入るか?」 突然王に言われた一言。 王は惚れ薬を使ってでも手に入れたい人間がいるらしい。 ずっと王を見つめてきた幼馴染の側近と王の話。 ※エセ王国 ※エセファンタジー ※惚れ薬 ※異世界トリップ表現が少しあります

悋気応変!

七賀ごふん
BL
激務のイベント会社に勤める弦美(つるみ)は、他人の“焼きもち”を感じ取ると反射的に号泣してしまう。 厄介な体質に苦しんできたものの、感情を表に出さないクールな幼なじみ、友悠(ともひさ)の存在にいつも救われていたが…。 ────────── クール&独占欲強め×前向き&不幸体質。 ◇BLove様 主催コンテスト 猫野まりこ先生賞受賞作。 ◇プロローグ漫画も公開中です。 表紙:七賀ごふん

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

処理中です...