無敵な女王様

慧野翔

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裏女王様の災難・2

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 軽く食事をした俺達はその後、綾さんのバイト先であるクラブへと行くことになった。
 綾さんがそこのスタッフだったこと、俺達が私服を着ていたおかげで身分証の確認も何もなく、顔パスですんなりと中へと通される。
 いくら週末で混んでいるとはいえ、チェック甘すぎだろ。
 そして今、俺は綾さん達の誘いを断り、一人ホール隅のカウンターでモスコミュールを飲んでいた。

「はぁ……」

 気がつくと疲労からか、ため息が零れる。
 なんで俺が亮太とWデートらしきものをしなきゃいけないんだ。
 しかも、よりによって女の人の相手をさせられるなんて。
 だが、亮太は俺が綾さんと一緒にいるのを見て、どこか楽しそうだ。
 昔から亮太は、俺にずっと『彼女が出来たらお互いに言おう! そして、四人でデートしような』と、言い続けてきた。
 だけど、俺はその約束を守ったことはない。
 Wデートに憧れている亮太からしてみれば、今回それに近い状況になって嬉しいんだろう。
 でも、たぶん俺には亮太の望むようなWデートなんてしてやることは出来ない……。
 そう思いながら、子供のころに強引に約束を結ばされた右手の小指を、俺はじっと見つめた。

『女を好きになれない』

 と俺が言えば、亮太だって諦めるんだろうけど、ささやかな亮太の楽しみを壊してしまうような気がして、その一言が言えずにいる。

「言えたら楽なんだろうな……」

 そう呟いて、グラスの残りを一気に飲み干す。

「いい飲みっぷりだね」

 いきなり声を掛けられ振り返ると、そこには三十代半ばくらいの男の人が立っていた。
 こんな音楽がうるさいクラブよりも、バーとかの静かな方が合いそうな人だけど。

「隣り、いい?」
「はあ……」

 断る理由がないから、俺はとりあえずそう返事をした。

「これと同じのを追加で」

 男は俺のグラスを指差して、カウンター内の店員に言う。

「あの……」
「奢るよ」

 そう言ってる間にも、その人によって俺の前には新しいグラスが置かれる。

「乾杯」

 男が自分の持っていたグラスと俺のを軽く合わせ、口にする。

「あ、ありがとうございます」

 一応、礼を言って俺もグラスを手に取る。

「さっきからここにいるけど、一人なの?」

 その言葉に、俺はこの場に似つかわしくないこの人を理解した。

(ナンパか……)

 若いやつを漁るなら、バーよりクラブに来た方が確実だもんな。
 確かに、この人なら男もイケそうな感じだし。

「いや、友達とかと……」

 普段なら、もっと駆け引きを楽しんでから誘いに乗れるんだけどな。
 さすがに、亮太達と来てる今日は無理か。

「ふーん。あまり楽しめてないみたいだ」
「まあね」

 俺がそう答えると、男の手がそっと俺の肩へと回される。
 そして、耳元に唇を寄せて囁かれた。

「じゃあ、これからどこか行かない?……君って、そうだよね?」

 やっぱり同類ってのは、すぐにわかるもんなんだなぁ。
 残念、いつもなら一緒に行けるんだけど。

「せっかくの……」
「カズ!」

 俺が丁重にお断りしようとした時、いきなり亮太の大声に遮られた。

「亮太……」
「何やってんだよ!」

 そう言って腕を引かれ、男から離される。

「俺の連れになんか用ですか?」

 亮太が、不機嫌そうに男性に言う。

「なんだ、男連れか」

 それだけ言うと、男はその場からいなくなってしまった。

「一人でいると思ったら……何やってんだよ!」
「何やってるって……話してただけだろ!」

 いきなり怒鳴られたことにムッとして、俺は亮太に言い返した。
 だが、亮太も納得出来なかったようで、さらに反論してくる。

「男に肩なんか抱かれて、どこが話してただけだよ!」
「なんだと……!」

 段々と自棄になってきた俺達を香織さんと綾さんが止めに入る。

「亮太くん、和彦くん」
「それくらいにしないと、二人とも目立つよ」
「……」

 二人に止められて、俺も亮太も少し落ち着きを取り戻す。

「……行こう、香織さん」

 そう言って亮太は香織さんを連れて、移動していく。
 なんなんだよ。
 だいたい、俺は亮太が付き合う女を見にきただけなのに、なんで俺が女とデートしなきゃいけないんだ!

「カズくん、機嫌直しなよ」

 俺の怒りが表情に出ていたのだろう。
 宥めるように綾さんが言いながら、俺へと身体を寄せてくる。

「ねぇ……二人でどこか行かない? 香織と亮太くんもいい感じだし」

 綾さんの女性特有の甘い香りと柔らかい身体が、俺の腕にまとわりついてくる。
 ……やっぱり、無理だ。

「私、カズくんとなら……してもいいな」

 耳元で吐息とともに囁かれて、俺の身体が嫌悪感で一瞬、震える。
 そして次の瞬間、俺は綾さんを振りほどいていた。

「俺に触るな!」
「カズくん……?」

 突然の俺の変化に、綾さんが驚いた表情を見せる。
 だけど、もう限界だ。

「……すみません。俺、帰ります」

 そう言うと、俺はそのまま出口へと向かう。

「え、ちょっと!」

 後ろから慌てた綾さんの声が聞こえたが、俺は振り返ることはしなかった。




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