19 / 69
うらにわのこどもたち2 それから季節がひとつ、すぎる間のこと
プロローグ
しおりを挟む
鈍色の空から、大粒の雨が落ちてくる。ぽつり、ぽつりと落ちてきた雨が強くなるまで、そう時間はかからなかった。
日野尾は窓から顔を出して空を見上げる。水の匂いに草木の匂いが混ざった、雨の日特有の匂い。髪を雨で濡らしてしまいそうで、慌てて顔を引っこめる。
薄暗い室内に立つ彼女の白衣を、跳ねた血液が赤く染めている。雨が彼女を濡らすように、所々に飛び散る鮮やかな赤色。特に裾の辺りは、ずぶ濡れの赤だ。室内にいるというのに、彼女はまるで、傘をさして赤い雨の中を帰ってきたようだ。実験体を一体、処分してきた後だった。先程まで目の前で繰り広げられていた光景を思い出し、彼女は僅かに眉を寄せる。眼鏡の奥、大粒のリチア雲母のような瞳に、苛立たしげな色が宿った。
激しい雨音を遮るように、彼女は窓を閉める。窓ガラスに点々と、雨粒が模様を描く。室内に響くのは、小さな秒針の音と、くぐもった雨音。その音を聴きながら、彼女はぼんやりと窓の外を見つめる。
「………………」
彼女は暫くそうしていたが、やがてため息をついて窓の傍を離れた。汚れた白衣を脱ぎ、新しい白衣に着替える。彼女にはやや大きい白衣の袖を、肘の辺りまで何度か折ってから、脱いだ白衣を洗濯かごへと乱雑に突っ込む。それを持って、彼女は再び窓の外を見た。
梅雨の季節。激しい雨音も、それにけぶる世界も、まるでノイズが走っているようだ、と彼女は思う。世界の輪郭が曖昧に歪む。
今更か。世界はずっと、歪んだままだ。
彼女は思い直して、部屋を出る。
なかなか明けない梅雨はこうして始まった。
何もかもを、雨の世界に閉じ込めたまま。
日野尾は窓から顔を出して空を見上げる。水の匂いに草木の匂いが混ざった、雨の日特有の匂い。髪を雨で濡らしてしまいそうで、慌てて顔を引っこめる。
薄暗い室内に立つ彼女の白衣を、跳ねた血液が赤く染めている。雨が彼女を濡らすように、所々に飛び散る鮮やかな赤色。特に裾の辺りは、ずぶ濡れの赤だ。室内にいるというのに、彼女はまるで、傘をさして赤い雨の中を帰ってきたようだ。実験体を一体、処分してきた後だった。先程まで目の前で繰り広げられていた光景を思い出し、彼女は僅かに眉を寄せる。眼鏡の奥、大粒のリチア雲母のような瞳に、苛立たしげな色が宿った。
激しい雨音を遮るように、彼女は窓を閉める。窓ガラスに点々と、雨粒が模様を描く。室内に響くのは、小さな秒針の音と、くぐもった雨音。その音を聴きながら、彼女はぼんやりと窓の外を見つめる。
「………………」
彼女は暫くそうしていたが、やがてため息をついて窓の傍を離れた。汚れた白衣を脱ぎ、新しい白衣に着替える。彼女にはやや大きい白衣の袖を、肘の辺りまで何度か折ってから、脱いだ白衣を洗濯かごへと乱雑に突っ込む。それを持って、彼女は再び窓の外を見た。
梅雨の季節。激しい雨音も、それにけぶる世界も、まるでノイズが走っているようだ、と彼女は思う。世界の輪郭が曖昧に歪む。
今更か。世界はずっと、歪んだままだ。
彼女は思い直して、部屋を出る。
なかなか明けない梅雨はこうして始まった。
何もかもを、雨の世界に閉じ込めたまま。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
王様の恥かきっ娘
青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。
本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。
孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます
物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります
これもショートショートで書く予定です。
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる