うらにわのこどもたち

深川夜

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うらにわのこどもたち2 それから季節がひとつ、すぎる間のこと

case2.カイ(2/2)

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 雨続きになる前に、僕達は何度か会うことができた。話しているうちに、僕が知らなかった、いくつかのことを知ることができた。


 まず、「はこにわ」には、少なくとも僕を含めて六人の「こども」がいるらしい。

 頭が良くて、本が好きで、いたずら好きの「眠兎みんと」。

 ずっと点滴をしている、身体は弱いけれど優しい「蒼一郎そういちろう」。

 蒼一郎そういちろうと同室で、最近「こども」としてやって来た、無口な「十歌とうた」。

 ぬいぐるみに囲まれた部屋にいる、ほぼ目の見えない女の子の「白雪しらゆき」。

 外で遊ぶのが大好きな「真白ましろ」と、僕――「カイ」。

 僕以外は全員同じように生活をしていて、お互いに部屋を行き来したり、同じ部屋で食事をしたりしているらしい。少し、うらやましいなと思った。僕ももっと元気になったら、他の子と一緒に生活できるのだろうか。僕は姉さん達のことも聞いてみたけれど、真白ましろは姉さん達のことは知らないみたいだった。


 次に、「おとな」は、「所長」の「日野尾ひのお先生」と、「研究員」の「大規おおき先生」の二人。他にもいるのかもしれないけれど、確実なのはこの二人だけ。僕は他の先生の存在を知らないし、真白ましろも他の先生は知らない、と言っていた。


 最後に、これは「はこにわ」とは全然関係ない話だけれど、真白ましろは印象的な夢の話をしてくれた。
 なんとなくしか覚えていないらしいその夢の中で、真白ましろはこことは全然違う世界で、「学園」と呼ばれる場所に毎日行くのだそうだ。そこには「こども」がたくさんいて、この世界の「こども」も全然違う性格で登場することがあるらしい。もっとちゃんとおぼえてたらなー、と少し悔しそうに言った真白ましろの顔も、なんだかおかしくて印象に残っている。
 僕はその話を聞いたとき、自分も似たような夢を見たことがある気がした。彼女の言う「学園」という単語が、とても聞きなじみのある言葉として、自分の中に入ってくるのを感じた。「商店街」のように、知らない単語、知らない場所のはずなのに。気のせいかもしれないし、本当に似たような夢を見たことがあるのかもしれない。それでも、どうにもその夢の話が、胸に引っかかって離れないのだ。


 それから、雨ばかりの毎日になってしまい、真白ましろとは会えていない。
 思い切って、日野尾ひのお先生に真白ましろや他の「こどもたち」のことを聞いてみようかと思ったけど、結局言い出せずにいる。僕が他の子と別々に生活しているのも、先生が他の子のことも含めて僕に何も教えなかったのも、何か理由があるんじゃないかと思ったからだ。聞いてもきっと怒られないとは思う。でも、そうすることで先生を困らせてしまうのは、嫌だ。それに、真白ましろとは「秘密の友達」だから。約束は守らなきゃいけないよって、いつか先生も言っていた。
 真白ましろは今、何をしてるんだろう。姉さん達はどこにいるんだろう。次はいつ会えるんだろう。次はいつ、晴れるんだろう。


 会いたい。会って話したい。色んなことを、たくさん聞きたい。
 真白ましろに。姉さん達に。他の「こどもたち」に。
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