愛だけど恋じゃない

隆駆

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果たされなかったプロポーズ

姉の心配

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雅人が何か淳に言ったのはほぼ間違いない。

部屋に戻り、栞相手にさんざん大暴れしたあとで、改めて一人考える。
「……何を言ったんだろう」
淳は他人の意見にそう簡単に耳を貸すタイプではない。
例えそれが実の兄だろうとだ。
指輪まで買っていたというのに、それを諦めざるを得ない事情。
あの腹黒の顔を思い出し、一瞬でイラっと額に青筋が立つ。
「明日見舞いに行くって言ってたけど……」
本当は、少し不安だ。
話し合った結果、また淳が自分から離れて言ったらどうしよう、と。
決してありえない話ではない。
「そしたらまた……元に戻るだけか」
2年前と同じ。
だが、2年前と違うのは、桜が淳の気持ちを知っていることだ。
2年前は何も知らず、離れていく淳をただ諦めることしかできなかった。
何かと理由を付け、淳が完全に自分の下から去る前に彼から離れることを選んだのは桜だ。
だが、桜とてここまでされてまた全てなかったことにされたとしたら、さすがにキレる。
「最悪、あの彼女とヨリを戻すのだけは勘弁して欲しい」
さすがにそれはないと思いたいが……。
というか、どこが良かったんだ、あれの。
タイプかと聞いた時の嫌そうな顔を思い出し、さらに疑問が増す。
「指輪、貰っとけばよかったかな」
そうすればすくなくとも、それだけは桜のものだ。
だが、そんなことをして何になるだろうか。
心がなければ惨めなだけ。
「私、結構あいつのこと好きだったんだな……」
はぁ、とベッドに大の字になり、天井を見上げる。
恋なんて、正直していた記憶は一度もない。
あいつ相手にときめくことなんてなかったし、本気で喧嘩したことも両手で足りないほどだ。
男と思われているのではないかと思ったこともあるくらい、遠慮のない関係だった。
男女では友情は成立しないと言われたが、性別の垣根を越えた関係を築けていると、そう思っていた。
その間も、淳は桜に対して「恋」していたのだろうか……?
「いや、それはない」
恋してる相手に向かって「馬鹿」だの、「アホ」だの、「貧乳」だの……。
挙句、目の前で服を着替えて洗濯物を持って行かせたり、そんなことが果たしてできるだろうか。
否だ。そんな青春絶対認めない。
むしろオカンとバカ息子の関係だ。
私達にあったのは、家族の親愛に近い。
恋するには、近すぎる距離だ。
けれど、親愛もつきつめればやはり愛。
淳が記憶をなくして初めて気づいたことだが、やはり自分も淳に執着していたらしい。
自分がこれから歩む未来に淳の姿がないと思うと、胸にぽっかり穴があいたような気分になる。
この2年間、よくそれに気がつかないでいられたものだ。
それとも、見て見ぬふりをしていただけだったのだろうか。
恋じゃない、友情という名の執着。
そんなものでも、きっと淳は許してくれる。
―――愛は、これまで既に育まれているものだから。

「さっさと決着つけなさいよ、馬鹿淳」

そうして、自称義弟の横っ面を一緒に叩いてやろう。

この2年間の、借りを返すんだ。

幼馴染コンビの愛と友情を舐めるんじゃない。


「ついでに、妹はまだ絶対嫁にはやらないからね!!!」
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