愛だけど恋じゃない

隆駆

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果たされなかったプロポーズ

愛情と依存

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「…執着…いいえ違う、依存ね」
だがそれは淳だけじゃない。
桜もまた、淳に依存していたのだろう。
家族という、心地よい関係にもだ。
「精神科の学者じゃあるまいし、詳しいことは知らないけど…相互依存、だったっけ」
昔、何かのドラマで見た。
たとえば、母親にベッタリと娘と、娘から親離れできない母親の関係。
それに近い。
ドラマでは、依存関係はやがて破滅を招くと描かれていただが、現実ではどうだろうか。
「依存……か。まるで中毒患者みたいだな」
「ちょっと、人のことを麻薬みたいに言わないでくれる?」
「だが、摂取し続けなければ廃人になるのは同じだ」
俺はお前がいなきゃダメになる。
「聞いた話だけど、結婚において夫婦ふたりが恋愛感情を持っていられるのは最初の3年だけだって。後は家族としての愛情になるかどうかが離婚するかどうかの境目」
つまり、男女間の愛情とは長続きがしないもの。
「俺は違うぞ…!」
「まぁ、確かにあんたのは根深そうだけど…。それでも、手に入らないと思ってたから執着してたってこともあるでしょ」
子供のおもちゃと同じだ。
手に入れた途端に興味をなくす。
「俺は…!」
「はいはい、今は大人しく聞きなさいな」
あんたの話は後だ。
「私が言いたいのはね……家族愛じゃダメなのかってことよ」
「……」
「確かに私があんたに感じてるのは男女の愛情なんかじゃないのかもしれない。けど、どうせ3年しか持たないような感情ならなくたって問題ないと思わない?家族としての愛ならあるんだもの」
「それじゃあ不満だ」
「なぜ?」
眉間に皺を寄せる淳に、その理由を話せと迫る。
「俺はお前を愛したい。できればお前にも…」
愛してほしい。
「最初はな、心なんてなくてもいいと思った。だが、それはお前を手放すくらいなら、という前提がつく。
一緒にいることをお前が選んでくれるのなら、お前の愛が欲しい」
「贅沢言っちゃってまぁ…」
「悪いかよ…」
いいや、悪くはない。
それが当然なのだろう。
「今回の件で私も思うところがあった。
……あんたを、弟にしか見れないって理由で拒絶する気にはなれない」
「だったら…!」
この間の求婚を、受けてくれるのかと。
勢い込んで前のめりになった淳の額を、思い切りどつく。
「ちょっと食いつきすぎ。
……とにかく、あんたは少し反省しなさい。もう二度と、こんな真似をするんじゃないわよ」
「お前に危険が迫っていれば何度だって…」
「違う」
言い訳のようなことを口にする淳に、きっぱりと断言してやる。
「あんた、わざと怪我したでしょ」
わからないとでも思ったか。
「私に心配されたくて、わざと怪我をした。いっそ後遺症でも残ればいいと、本気で思ってたんじゃないの?」
刃物を止めるのに、わざわざ刀身を掴むバカはいない。
なんとなく気づいていたが、先ほどの会話でやっぱりと思った。
「あの時も言ったけど、自業自得の怪我で責任を感じたりするほど馬鹿な女じゃないから」
それを理由に、プロポーズを受けたりしない。
そういうと、あからさまにではないが、ほんの少し淳が落胆したのが分かる。
やっぱり図星か、バカめ。
子供じゃあるまいし、いつまでも同じ手が通用すると思うなよ。
「そんなことしなくても、私はあんたを見捨てられない。
……それは、今度の事故の件でよくわかったわ」
どれだけ慌てたと思ってるんだ。
疎まれたらどうしよう、帰れと言われたら。
そんな事を思いながらも病院にすぐに駆けつけて……その結果があのセリフ。
まったく、馬鹿げた話。
雅人はこじれた二人を見て、腹を抱えて笑っていたのではあるまいか。
初めから、この結果は予測できただろうに。
「ま、何はともあれ退院してからよ。あんた、この間の事故の怪我も中途半端だったんだって?一時帰宅の許可が出たのをいいことに勝手に退院して言ったって聞いたわよ」
バツの悪そうな顔になったが、まったく世話のかかる男だ。
「今度こそちゃんと治ってから出てきなさいよ。その手だって、リハビリには時間がかかるんだから」
3ヶ月というのは、短い時間ではない。
「そういえば桜、お前仕事は……」
なんだかんだと自分に付き合っていて、ロクに仕事に出ていないことにようやく気づいたのだろう。
一応は会社勤めをしていたのだが、いい加減首になるかもしれない。
「一応有給消化ってことになってるけどね…クビになったら責任とってもらうから」
「大歓迎だ。一生面倒見る」
「あんたも一応新卒入社でしょ…。ぺーぺーが何を言ってんの。そっちこそクビになるから」
「まぁ、なんとかなるさ」
ずいぶん楽天的なことだ。
だが、今から考えても仕方ない。
「またね」
「あぁ…また」
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