31 / 47
普通の女の子に戻りたい。
地獄へのエスコート
しおりを挟む
ひたすらに重苦しい空気の流れる車内。
曽根の顔を見ているのもうんざりだと真っ黒なシートの貼られた窓の外を何気なく眺めた時、視界の隅に写ったものに、明日夢の注意が向けられた。
――――あれは……。
「どうかしましたか?明日夢さん」
「………いえ」
しばし考えてから、何もないと首を横に振る明日夢に、「そうですか」とあっさり応じる曽根。
その態度には何も裏はないように見えるが……果たして本当にそうだろうか。
さきほど明日夢の視界に入ったもの、それはしばらくぶりに見た忍の姿だった。
少し憔悴した様子ではあったが相変わらず美しいその顔で、しかし格好は男性のまま。
職業オカマだと言っていたのでそれは当然かもしれないが、まるでサラリーマンのようなスーツを着ていた。
その背後で、まるで彼を尾行しているかのような動きをする人間が一人。
偶然かもしれないが、どうにも嫌な予感がした。
本当なら今すぐにでも後を追うべきところなのだが、今の明日夢には差し迫った問題がある。
現状、何よりも優先すべきは、美咲の救出だ。
そして次に大切なのは就職試験。
申し訳ないが、忍のことは二の次どころか三の次。
すべてを投げ打ってまで忍を気にかけるほどの情は、今の明日夢にはまだない。
とりあず後で、職場の上司である貴子から忍へ注意するように伝えてもらおうと心に決めつつ、今ここで連絡することは控えた。
勿論、曽根を警戒してのことである。
曽根と共にいるこの時、このタイミングで忍を見かけたというだけで、十分に怪しい。
何しろ曽根はほんの短い時間とは言え、忍と面識があるのだ。
果たしてこれは、本当に偶然なのか。
追求したところで、曽根が真実を話すとも思わず、はぁ、と明日夢はひとつため息を吐く。
なぜにこうも、厄介事が次から次へとやってくるのか。
日頃の行いが悪いのかな、と自らの反省をしたところで、動いていた車が止まった。
「着きましたよ」
ここです、と言われたのは、雑居ビルのような大きな建物。
どうやら一階は物置かなにかになっているらしい。
美咲に付けられたGPSは、確かにこの場所で反応を示している。
スキンヘッドが運転席をおり、まず先に曽根側のドアを開き、曽根がゆっくりと外に降り立つ。
そして。
「さぁ、ここから楽しい襲撃と行きましょう」
言葉通り、実に楽しそうな曽根の笑顔。
その懐から覗くのは、まさか拳銃ではあるまいか。
顔を引きつらせた明日夢に、スキンヘッドが実に恭しい態度で「兄貴の獲物はどうしますか?」と当たり前のように尋ねてくる。
「お好きなものをどうぞ。遠慮なく」
そう言った曽根が示すのは、車のトランクの中。
あそこに一体、何が入っているのか。
「覚悟は決まりましたか?明日夢さん」
「……勿論」
降りたままのビルのシャッターが、まるで地獄の門のようだと思いながら、明日夢は一歩、外へと足を踏み出す。
差し出された曽根の手をためらいながらにとれば、曽根が「ご一緒するのはこれが初めてですね」と笑った。
ーーーーーー嗤う死神が、明日夢を地獄へとエスコートする。
曽根の顔を見ているのもうんざりだと真っ黒なシートの貼られた窓の外を何気なく眺めた時、視界の隅に写ったものに、明日夢の注意が向けられた。
――――あれは……。
「どうかしましたか?明日夢さん」
「………いえ」
しばし考えてから、何もないと首を横に振る明日夢に、「そうですか」とあっさり応じる曽根。
その態度には何も裏はないように見えるが……果たして本当にそうだろうか。
さきほど明日夢の視界に入ったもの、それはしばらくぶりに見た忍の姿だった。
少し憔悴した様子ではあったが相変わらず美しいその顔で、しかし格好は男性のまま。
職業オカマだと言っていたのでそれは当然かもしれないが、まるでサラリーマンのようなスーツを着ていた。
その背後で、まるで彼を尾行しているかのような動きをする人間が一人。
偶然かもしれないが、どうにも嫌な予感がした。
本当なら今すぐにでも後を追うべきところなのだが、今の明日夢には差し迫った問題がある。
現状、何よりも優先すべきは、美咲の救出だ。
そして次に大切なのは就職試験。
申し訳ないが、忍のことは二の次どころか三の次。
すべてを投げ打ってまで忍を気にかけるほどの情は、今の明日夢にはまだない。
とりあず後で、職場の上司である貴子から忍へ注意するように伝えてもらおうと心に決めつつ、今ここで連絡することは控えた。
勿論、曽根を警戒してのことである。
曽根と共にいるこの時、このタイミングで忍を見かけたというだけで、十分に怪しい。
何しろ曽根はほんの短い時間とは言え、忍と面識があるのだ。
果たしてこれは、本当に偶然なのか。
追求したところで、曽根が真実を話すとも思わず、はぁ、と明日夢はひとつため息を吐く。
なぜにこうも、厄介事が次から次へとやってくるのか。
日頃の行いが悪いのかな、と自らの反省をしたところで、動いていた車が止まった。
「着きましたよ」
ここです、と言われたのは、雑居ビルのような大きな建物。
どうやら一階は物置かなにかになっているらしい。
美咲に付けられたGPSは、確かにこの場所で反応を示している。
スキンヘッドが運転席をおり、まず先に曽根側のドアを開き、曽根がゆっくりと外に降り立つ。
そして。
「さぁ、ここから楽しい襲撃と行きましょう」
言葉通り、実に楽しそうな曽根の笑顔。
その懐から覗くのは、まさか拳銃ではあるまいか。
顔を引きつらせた明日夢に、スキンヘッドが実に恭しい態度で「兄貴の獲物はどうしますか?」と当たり前のように尋ねてくる。
「お好きなものをどうぞ。遠慮なく」
そう言った曽根が示すのは、車のトランクの中。
あそこに一体、何が入っているのか。
「覚悟は決まりましたか?明日夢さん」
「……勿論」
降りたままのビルのシャッターが、まるで地獄の門のようだと思いながら、明日夢は一歩、外へと足を踏み出す。
差し出された曽根の手をためらいながらにとれば、曽根が「ご一緒するのはこれが初めてですね」と笑った。
ーーーーーー嗤う死神が、明日夢を地獄へとエスコートする。
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
還暦妻と若い彼 継承される情熱
MisakiNonagase
恋愛
61歳の睦美と、20歳の悠人。ライブ会場で出会った二人の「推し活」は、いつしか世代を超えた秘め事へと変わっていった。合鍵を使い、悠人の部屋で彼を待つ睦美の幸福。
しかし、その幸せの裏側で、娘の愛美もまた、同じ男の体温に触れ始めていた。
母譲りの仕草を見せる娘に、母の面影を重ねる青年。
同じ男を共有しているとは知らぬまま、母娘は「女」としての業(さが)を露呈していく。甘いお土産が繋ぐ、美しくも醜い三角関係の幕が上がる。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる