喪女が魔女になりました。

隆駆

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喪女が魔女?

送り狼と腹ペコなひよこ

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「ねぇ、いくらなんでもさっきの仕打ちは酷くない!?謝ってる人間に対してさ」
ちょっと酷すぎ!と頭を起こした薫がバンバンとカウンターを叩く。
「普通、もうちょっと絆されてくれるとかあってもいいと思うんだ、僕!」
「人はそれをストックホルム症候群と呼びます」
「まさかの誘拐犯扱い!それならもういっそ…」
「今、警察呼びますね」
スマホを出して電話をかければあっという間に犯罪者の出来上がりだ。
冷たい、冷たすぎるという薫の言葉をまるっと無視し、雛子は持っていたバックからスマホを取り出す。
まさかさっきの本気!?という目でこちらを凝視してくる薫の視線を思い切り無視し、コールを鳴らした。
「あ、みっちゃん?」
ワンコールで出た相手の名に、あからさまにホッとした様子で胸をなでおろす薫。
いくらなんでも本気で警察にするわけがなかろうに。
「なんか随分前から私のこと叩き売りしてくれてたみたいだけど、お返しは何がいい?」
ざっくばらんにそう尋ねた結果、しばしの沈黙の後、電話口からとんでもない音量の悲鳴が響いた。
慌てて弁解の言葉を探しているようだが、生憎もう泣かすことは決定事項だ。
「ちなみに今日、このあといつもの店に来れる?
…え?どこにいるのかって。だから、あの店よ。店長さんならここにいるけど、代わる?」
尋ねたあと、相手の答えをまたずに「はい」とスマホを店長の耳にかざしてやる。
「は~い、ミッチイ…。ごめんねぇ~。つい全部ゲロっちゃったぁ」
えへへ~とごまかしているようだが、雛子からの報復の苛烈さを身にしみて知っている美智にしてみれば、「冗談じゃない!」といった所だろう。
「…雛ちゃん、もう一回代わってって」
すっかりうなだれた薫に代わり、もう一度雛子が電話口に出る。
『雛っ!!』
「なに?みっちゃん」
『こないだのドレス一式プレゼントするからお願い勘弁してぇ!』
「いらん」
というか、あれを貰ってどうする。
『つい出来心だったのよぉ。コミ○の売り子さんがどうしてもひとり足らなくてぇ。
店長さんが雛について教えてくれえたらなんでもするって言うからァ』
「自費出版したゴスロリ写真集の売り子を、なんの関係もない成人男性にやらせたと」
『すぅっごく売れたのよぉ?儲かったからって、後で雛にもいいお肉奢ってあげたでしょ』
…心当たりは確かにある。
あれは友情にかけて誘ってくれたわけではなく、罪悪感からの賄賂だったわけか。
「職場にその写真集を送りつけられたくなかったら今度は神戸牛のステーキで」
職場ではその趣味を隠している美智にとって痛い報復だろう。
『ううぅ。それで手を打つわぁ』
「いや、まだまだ序の口」
『守銭奴ぉ!』
「コミ○に友人を売った女が言えるセリフか!?」
『コミ○に売ったんじゃないわよ、店長さんに売ったのぉ!コミ○はついでよついで!』
「どっちにしろ売ってんじゃん」
『・・・』
話は纏まったと判断し、「今日これから暇?」と改めて本題に入る。
『流石に今日神戸牛は無理よぉ…?だってお給料日前だしぃ』
「いや、お金の心配はいらないみたい」
そういってちらりと横目で薫を見やる。
無言でブンブンと首を縦にふる薫。
「店長さん…いや、薫さんの奢りだって」
『薫さん!?もうそんな関係まで行ったのぉ!?きゃぁぁ!!』
なぁんだ、うまくいってるんじゃなぁいという嬉しげな声を聞き流しながら、「行くの?行かないの?」とだけ簡潔に尋ねるが、帰ってきた答えは当然『行くに決まってるじゃなぁい』だ。
「どこの店にするかは検討中…。決まったらスマホに送るけど、一旦いつもの店で待ち合わせってことでいい?」
『OK!』という極めて明るい返事が返ってきたのをいいことに、「じゃあ後で」と通話を終える。
そこに恐る恐るといった様子でかけられる声。
「雛ちゃん…。僕と付き合ってくれるなら神戸牛くらいお腹いっぱい食べさせてあげるけど…」
「ブルジョワか」
薄々気づいてはいたが、薫は恐らく金持ちだ。
「雛ちゃん痩せすぎだし、前から餌付けしたいなぁって思って…」
「本音がダダ漏れです」
私はそんなに安くない、と言いながらもちょっとだけ心が揺れたのは秘密である。
「日本海側に旅行に行けば海の幸の食べ放題とかもありだよ?僕、運転するし」
雛ちゃんお魚も好きでしょ?と聞かれてうなづく。
だが待て。
「勿論、お泊り前提の話だけど」
えへへ~と笑う薫は、やはり反省の気持ちゼロだと思う。
「まぁいきなりは無理だろうけど、前から雛ちゃんを連れて行ってあげたいなぁって思ってた場所は一杯あるんだよね。僕年甲斐もなくデートプランのシュミレーションを立てまくったし。車で高速走りながらSAのハシゴとかも雛ちゃん好きでしょ?」
―――答えは是だ。
「伊達に色々情報を仕入れてないからね~。僕ってば尽くす男だよぉ。お買い得だよぉ~」
だからいいでしょ?とでも言わんばかりに見えない尻尾をふる犬(薫)。
「心は惹かれますがあまりに下心が見え透いてます」
「下心のない男なんて男じゃない!」
きっぱり言い切ったところだけは、ある意味褒めてあげてもいいだろう。
ため息をつくふりをしながら、こっそり苦笑する。
―――いけないいけない。
徐々にこの腹黒大型犬に絆されつつある自身には気づいていたが、油断は大敵だ。
何しろ犬は立派な肉食、送り狼は彼らの得意技である。
そう思い、気を引き締めながらも、美味しいご飯の予想に多少は頬も緩む。
少なくとも今日くらい、付き合ってみてもいいだろう。


「…で、結局どこに連れて行ってくれるんですか?」
「それなんだけどねぇ…」









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