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非凡なる彼の日常
8話
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そして午後。
聖堂の後ろ、子供達の背後でニヤニヤと笑うエメラルドに、かーなーり、居心地の悪い思いをしながらも、ヴァーニスの子供達のための聖書勉強会は始まった。
集まった子供達は、聖堂にエメラルドの姿を見つけ、ものめずらしそうな目こそしたものの、誰もエメラルドの事をたずねることはしなかった。
・・・・おもな原因としては、子供嫌いのエメラルドが、ひどく不機嫌な視線を子供におくっていたからだろう。
まさに、『触らぬ神にたたりなし』
この教区の子供達は比較的皆熱心で、(まぁ、たとえそれが勉強会の後にヴァーニスが配る菓子の類が目当てだったとしても)今日も欠席はほとんど見られない。
ヴァーニスはエメラルドを今はひとまず気にしないことにし、聖書の音読をはじめた。
漏れいずる天窓からの光が、ヴァーニスの髪を照らし出す。
「・・・その日は準備日で、安息日であったため、ユダヤ人たちは安息日に遺体を十字架へ残しておかないために、足を折ってとりおろすようにとピラトに願い出た・・・・・」
半ば反泣きになりながらも、何とかエメラルドの無言のプレッシャーに堪え、キリストの復活のくだりを読み始めた頃だった。
「牧師様、何かにおわない?」
初めに気づいたのは、この中で一番鼻の聞く、赤毛のジョニ―少年だった。
それにつられたように、子供達は皆くんくんと鼻を利かせ、一様に顔をしかめた。
「はて・・・・何の匂いでしょうか・・・・?」
まったく心当たりのないヴァーニスは、しかし確実に漂う焦げ臭い匂いに、頭をひねる。
その後ろでは、同じくエメラルドも怪訝そうな表情をしていた。
そして、そんなヴァーニスが全てを思い出し、一目散に走り出したのは、次の少女の一言によってだった。
「これ、ママが料理に失敗するときにする匂いに似てるわ」
彼女の家では普段頻繁にあることなのか、何気なく言ったその一言に、ヴァーニスが血相を変える。
(そうだ……!!……オーブンにクッキーが入れっぱなしだっ……!!)
ミサの後、子供達に配るつもりで作っていたのを、突然のエメラルドの出現で、今の今まですっかり忘れていた。
「エ、エーメさんっつ!!子供達をお願いします!!!」
子供達をひとまずその場に残し、大急ぎでオーブンにむかったヴァーニスの目に飛び込んできたのは、ここまでまったく気づかなかったのが不思議なくらいに、灰色の煙を噴出し、時折バクッツと痙攣を繰り返す、哀れなオーブンの姿であった。
(あぁ・・・・!!!)
中ではいかなる現象が起こったのか、クッキーがまるでポップコーンか何かのように勢いよく飛び跳ねていた。
(ま、まずい・・・・・・・!!!)
たらりと冷や汗が流れた。
「み、皆、逃げるんだっつっつ!!!!!!!!!!」
引きつった声で、ヴァーニスが礼拝堂のエメラルドと子供達に向って叫ぶ。
その、一瞬後のことであった。
ドカ――――――ンッツ!!!!!!!!!
「うわわぅうううううう!!!!!!!」
クラッシュ・ボム化したオーブンが、ぼすっと言う不吉な音とともに、実に見事にヴァーニスの後頭部に直撃する。
痛いというより、すさまじい衝撃。
強くぶつかった反動か、中で焼かれていたクッキーが、衝撃に前のめりに倒れこんだヴァーニスの四方に飛び散る。
その様子は、まるで小人に捕まったガリバーのようで(つまり、クッキーはジンジャーマンであった)何事かと集まってきた子供達は一瞬絶句する。
「きゃ――――!!!!ぼ、牧師さまっつ!!!」
いちはやく立ち直った少女が真っ青になって叫んだ。
「牧師様!?大丈夫!!!?」
「だれか―!!!お医者様を呼んできて――――――――!!!!」
我を取り戻した子供達の悲鳴のような声と、その中に紛れ込んだエメラルドの、「お前、馬鹿か・・・?」という笑い声を、最後、ヴァーニスは聞いたような気がした――――。
聖堂の後ろ、子供達の背後でニヤニヤと笑うエメラルドに、かーなーり、居心地の悪い思いをしながらも、ヴァーニスの子供達のための聖書勉強会は始まった。
集まった子供達は、聖堂にエメラルドの姿を見つけ、ものめずらしそうな目こそしたものの、誰もエメラルドの事をたずねることはしなかった。
・・・・おもな原因としては、子供嫌いのエメラルドが、ひどく不機嫌な視線を子供におくっていたからだろう。
まさに、『触らぬ神にたたりなし』
この教区の子供達は比較的皆熱心で、(まぁ、たとえそれが勉強会の後にヴァーニスが配る菓子の類が目当てだったとしても)今日も欠席はほとんど見られない。
ヴァーニスはエメラルドを今はひとまず気にしないことにし、聖書の音読をはじめた。
漏れいずる天窓からの光が、ヴァーニスの髪を照らし出す。
「・・・その日は準備日で、安息日であったため、ユダヤ人たちは安息日に遺体を十字架へ残しておかないために、足を折ってとりおろすようにとピラトに願い出た・・・・・」
半ば反泣きになりながらも、何とかエメラルドの無言のプレッシャーに堪え、キリストの復活のくだりを読み始めた頃だった。
「牧師様、何かにおわない?」
初めに気づいたのは、この中で一番鼻の聞く、赤毛のジョニ―少年だった。
それにつられたように、子供達は皆くんくんと鼻を利かせ、一様に顔をしかめた。
「はて・・・・何の匂いでしょうか・・・・?」
まったく心当たりのないヴァーニスは、しかし確実に漂う焦げ臭い匂いに、頭をひねる。
その後ろでは、同じくエメラルドも怪訝そうな表情をしていた。
そして、そんなヴァーニスが全てを思い出し、一目散に走り出したのは、次の少女の一言によってだった。
「これ、ママが料理に失敗するときにする匂いに似てるわ」
彼女の家では普段頻繁にあることなのか、何気なく言ったその一言に、ヴァーニスが血相を変える。
(そうだ……!!……オーブンにクッキーが入れっぱなしだっ……!!)
ミサの後、子供達に配るつもりで作っていたのを、突然のエメラルドの出現で、今の今まですっかり忘れていた。
「エ、エーメさんっつ!!子供達をお願いします!!!」
子供達をひとまずその場に残し、大急ぎでオーブンにむかったヴァーニスの目に飛び込んできたのは、ここまでまったく気づかなかったのが不思議なくらいに、灰色の煙を噴出し、時折バクッツと痙攣を繰り返す、哀れなオーブンの姿であった。
(あぁ・・・・!!!)
中ではいかなる現象が起こったのか、クッキーがまるでポップコーンか何かのように勢いよく飛び跳ねていた。
(ま、まずい・・・・・・・!!!)
たらりと冷や汗が流れた。
「み、皆、逃げるんだっつっつ!!!!!!!!!!」
引きつった声で、ヴァーニスが礼拝堂のエメラルドと子供達に向って叫ぶ。
その、一瞬後のことであった。
ドカ――――――ンッツ!!!!!!!!!
「うわわぅうううううう!!!!!!!」
クラッシュ・ボム化したオーブンが、ぼすっと言う不吉な音とともに、実に見事にヴァーニスの後頭部に直撃する。
痛いというより、すさまじい衝撃。
強くぶつかった反動か、中で焼かれていたクッキーが、衝撃に前のめりに倒れこんだヴァーニスの四方に飛び散る。
その様子は、まるで小人に捕まったガリバーのようで(つまり、クッキーはジンジャーマンであった)何事かと集まってきた子供達は一瞬絶句する。
「きゃ――――!!!!ぼ、牧師さまっつ!!!」
いちはやく立ち直った少女が真っ青になって叫んだ。
「牧師様!?大丈夫!!!?」
「だれか―!!!お医者様を呼んできて――――――――!!!!」
我を取り戻した子供達の悲鳴のような声と、その中に紛れ込んだエメラルドの、「お前、馬鹿か・・・?」という笑い声を、最後、ヴァーニスは聞いたような気がした――――。
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