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ドサッツ……!!
倒れ込んだその巨体に、一瞬だが大地が揺れた。
「ふむ。猪、か」
倒れ込んだその巨体を上からしげしげと眺め、「二人共もういいぞ」と声をかける北鷹。
「す、すげぇ……!!!こんなでっけぇ獲物を、たった一突きで……!?」
思わずと行った様子で飛び出したのは少年。
東風はといえば、あたりに充満した血の匂いに酔ったのか、うっと口を押さえて獲物を正視できない様子。
「大丈夫か?東風殿」
「な、なんともないっ、大丈夫だ……!!」
目の前であれだけのことをなしたというのに息切れひとつなく、また不思議なくらいほとんど返り血を浴びた様子のない北鷹。
手馴れた様子で刃物の汚れを拭うと、再び己の懐にしまい込む。
「坊主、ここから家は近いのか?」
「え?」
絶命した猪から顔をあげ、きょとんと首を傾げる少年。
「これだけの獲物をこのまま放置しておくのも勿体無い。
近くに家があるのならば、そこに運んで肉を解体しよう。
母御にも滋養のあるものを食べさせられるぞ?」
北鷹のその提案に、少年の瞳が輝く。
「こいつを分けてくれるのかっ!?」
「当然。このような大物、旅の身の我らに始末できる量ではないしな。
すぐに食べる分だけを処理し、後はそなたの母御に加工してもらい干し肉にでもすれば、冬のあいだの良い備えともなるだろう」
「うん、うん……!!ありがとう兄ちゃん!!」
興奮し、「うちはすぐそこだよ!!ついてきて!!」と北鷹の袖を引っ張る少年。
「おい!勝手に話を付けるでない!運ぶといってもこれほどの大物、どうやってーーーー」
「勿論俺が担いで行くに決まっておる。安心してくれ。東風殿に運べとは申さぬよ」
「!」
はなからアテにしていないと告げられたも同然のセリフに一瞬ぐっと赤くなる東風。
「ところで東風殿、何か縄のようなものを持っていないか?この獲物を縛り上げたいのだが」
「な、ならばこれを使えば良い!ほら!」
「……?なんだそれ、縄、か??」
荷物をひっくり返し、東風が取り出したのは一本の古びた木の皮のようなもの。
少年は初めてそれを見たのか、不思議そうな顔をしている。
「芋茎だ。芋の根を干した保存食だぞ?そんなことも知らぬのか?」
「芋?これが??」
自慢げにそれを見せつけ、北鷹に手渡すように告げる東風。
少年はといえば、しげしげと渡された芋茎を眺めながら、「これが食えるのか?」と訝しげな様子。
「肉と一緒に煮て食すとなかなかうまいのだ。こうして縄の代わりにも使えるしな」
「へぇ…?案外しっかりしてるんだな、兄ちゃん」
「案外は余計だ、案外は」
郷里の母が何かあった時のためにと用意してくれたものだと言えば、「それじゃ、兄ちゃんの手柄じゃなくて母ちゃんの手柄だな」と笑う。
「東風殿、そっちの足を抑えておいてくれるか。紐を縛る」
北鷹に指示され、東風が動こうとすれば、「俺がやるよ!」と先に少年が動く。
「あと兄ちゃん、俺の名前は陽春ってんだ。坊主って呼ぶのはやめてくれよ」
「そうか。では陽春、獲物を抑えるのを手伝ってくれるか?」
「勿論!」
立ち尽くす東風をそっちのけに、楽しそうに北鷹の指示に従い、獲物を縛り上げていく陽春。
手持ち無沙汰となった東風は最初それをただ眺めているだけだったが、流石に子供の手だけでは足りなくなったか、陽春に「あんたも手伝ってくれよ兄ちゃん!」と呼び出され、慣れぬ手つきで仕方なくそれを手伝う。
「よっ………と」
それを一息に北鷹が肩へと担ぎ上げたのだが、それはなかなかの圧巻だった。
「すげぇ……。よくそんなデカ物が持ち上がるもんだなぁ」
「そうか?農村部では若い娘でも一人で相当荷駄を運ぶことができるぞ?要は慣れだな」
「本当か?俺にもできるかな」
感心した様子で北鷹を見上げる陽春。
北鷹の言ったことは本当で、娘といえど重要な労働力である農村では、頭や肩の上にとんでもない量の作物や商品をのせ、売り歩く姿も珍しくない。
「俺、おっかぁには早く楽をさせてやりたいんだ。
仕事だって、もっと手伝ってやりたいし……」
「そうか。良い心がけだな」
優しい顔で陽春を見下ろす北鷹。
ふと東風を振り返り、「東風殿、陽春と手をつないでやってくれ」と声をかける。
「手を!?なぜ俺がっ」
「俺は獲物で手がふさがっておるし、汚れてもいるからな。
母御も、突然こんな獲物を担いでいってはさぞ仰天されることだろう。
陽春とともに先に家に戻り、事情を説明して獲物を下ろす準備をしていて欲しいのだが」
「そ、それは……」
何も手を繋がずとも出来るだろうと思うが、それを聞いた陽春の反応は早い。
ためらわずその手を東風に差し出すと、「そういうことならほら、行くぜ兄ちゃん!」と先を行く気満々だ。
「そうそう、陽春。俺の名は北鷹、そちらの御仁は東風殿だ。
お前にだけ先に名乗らせてすまなかったな」
「わかった!!んじゃ、東風の兄ちゃん、早く早く!!」
「お、おいっ!!!」
頷いた陽春にあっという間に手をひっぱられ、バランスを崩しながら慌ててその後を追う東風。
微笑ましげにその後ろ姿を眺めていた北鷹も、ゆっくりとした足取りながらその後に続き歩き出す。
「早く早く!」とせかす陽春と、「もう少し待て、ゆっくり…!!」と焦る東風の慌てた声。
それにくすりと笑いながらふと空を見れば、空には既に既に白く月が。
「ーーーーーー今宵は、満月であったか」
倒れ込んだその巨体に、一瞬だが大地が揺れた。
「ふむ。猪、か」
倒れ込んだその巨体を上からしげしげと眺め、「二人共もういいぞ」と声をかける北鷹。
「す、すげぇ……!!!こんなでっけぇ獲物を、たった一突きで……!?」
思わずと行った様子で飛び出したのは少年。
東風はといえば、あたりに充満した血の匂いに酔ったのか、うっと口を押さえて獲物を正視できない様子。
「大丈夫か?東風殿」
「な、なんともないっ、大丈夫だ……!!」
目の前であれだけのことをなしたというのに息切れひとつなく、また不思議なくらいほとんど返り血を浴びた様子のない北鷹。
手馴れた様子で刃物の汚れを拭うと、再び己の懐にしまい込む。
「坊主、ここから家は近いのか?」
「え?」
絶命した猪から顔をあげ、きょとんと首を傾げる少年。
「これだけの獲物をこのまま放置しておくのも勿体無い。
近くに家があるのならば、そこに運んで肉を解体しよう。
母御にも滋養のあるものを食べさせられるぞ?」
北鷹のその提案に、少年の瞳が輝く。
「こいつを分けてくれるのかっ!?」
「当然。このような大物、旅の身の我らに始末できる量ではないしな。
すぐに食べる分だけを処理し、後はそなたの母御に加工してもらい干し肉にでもすれば、冬のあいだの良い備えともなるだろう」
「うん、うん……!!ありがとう兄ちゃん!!」
興奮し、「うちはすぐそこだよ!!ついてきて!!」と北鷹の袖を引っ張る少年。
「おい!勝手に話を付けるでない!運ぶといってもこれほどの大物、どうやってーーーー」
「勿論俺が担いで行くに決まっておる。安心してくれ。東風殿に運べとは申さぬよ」
「!」
はなからアテにしていないと告げられたも同然のセリフに一瞬ぐっと赤くなる東風。
「ところで東風殿、何か縄のようなものを持っていないか?この獲物を縛り上げたいのだが」
「な、ならばこれを使えば良い!ほら!」
「……?なんだそれ、縄、か??」
荷物をひっくり返し、東風が取り出したのは一本の古びた木の皮のようなもの。
少年は初めてそれを見たのか、不思議そうな顔をしている。
「芋茎だ。芋の根を干した保存食だぞ?そんなことも知らぬのか?」
「芋?これが??」
自慢げにそれを見せつけ、北鷹に手渡すように告げる東風。
少年はといえば、しげしげと渡された芋茎を眺めながら、「これが食えるのか?」と訝しげな様子。
「肉と一緒に煮て食すとなかなかうまいのだ。こうして縄の代わりにも使えるしな」
「へぇ…?案外しっかりしてるんだな、兄ちゃん」
「案外は余計だ、案外は」
郷里の母が何かあった時のためにと用意してくれたものだと言えば、「それじゃ、兄ちゃんの手柄じゃなくて母ちゃんの手柄だな」と笑う。
「東風殿、そっちの足を抑えておいてくれるか。紐を縛る」
北鷹に指示され、東風が動こうとすれば、「俺がやるよ!」と先に少年が動く。
「あと兄ちゃん、俺の名前は陽春ってんだ。坊主って呼ぶのはやめてくれよ」
「そうか。では陽春、獲物を抑えるのを手伝ってくれるか?」
「勿論!」
立ち尽くす東風をそっちのけに、楽しそうに北鷹の指示に従い、獲物を縛り上げていく陽春。
手持ち無沙汰となった東風は最初それをただ眺めているだけだったが、流石に子供の手だけでは足りなくなったか、陽春に「あんたも手伝ってくれよ兄ちゃん!」と呼び出され、慣れぬ手つきで仕方なくそれを手伝う。
「よっ………と」
それを一息に北鷹が肩へと担ぎ上げたのだが、それはなかなかの圧巻だった。
「すげぇ……。よくそんなデカ物が持ち上がるもんだなぁ」
「そうか?農村部では若い娘でも一人で相当荷駄を運ぶことができるぞ?要は慣れだな」
「本当か?俺にもできるかな」
感心した様子で北鷹を見上げる陽春。
北鷹の言ったことは本当で、娘といえど重要な労働力である農村では、頭や肩の上にとんでもない量の作物や商品をのせ、売り歩く姿も珍しくない。
「俺、おっかぁには早く楽をさせてやりたいんだ。
仕事だって、もっと手伝ってやりたいし……」
「そうか。良い心がけだな」
優しい顔で陽春を見下ろす北鷹。
ふと東風を振り返り、「東風殿、陽春と手をつないでやってくれ」と声をかける。
「手を!?なぜ俺がっ」
「俺は獲物で手がふさがっておるし、汚れてもいるからな。
母御も、突然こんな獲物を担いでいってはさぞ仰天されることだろう。
陽春とともに先に家に戻り、事情を説明して獲物を下ろす準備をしていて欲しいのだが」
「そ、それは……」
何も手を繋がずとも出来るだろうと思うが、それを聞いた陽春の反応は早い。
ためらわずその手を東風に差し出すと、「そういうことならほら、行くぜ兄ちゃん!」と先を行く気満々だ。
「そうそう、陽春。俺の名は北鷹、そちらの御仁は東風殿だ。
お前にだけ先に名乗らせてすまなかったな」
「わかった!!んじゃ、東風の兄ちゃん、早く早く!!」
「お、おいっ!!!」
頷いた陽春にあっという間に手をひっぱられ、バランスを崩しながら慌ててその後を追う東風。
微笑ましげにその後ろ姿を眺めていた北鷹も、ゆっくりとした足取りながらその後に続き歩き出す。
「早く早く!」とせかす陽春と、「もう少し待て、ゆっくり…!!」と焦る東風の慌てた声。
それにくすりと笑いながらふと空を見れば、空には既に既に白く月が。
「ーーーーーー今宵は、満月であったか」
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