平凡顔吸血鬼が極上の獲物に捕食されました。

隆駆

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猫娘はおかんむり~恥をさらして子供用サプリを貰うことにした筈が②~

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「釈明があるなら今すぐ聞かせてもらいましょうか」

私が選んだ可愛らしい服を着て、その顔で男をたぶらかしにいっていたの?と。
まるで浮気女を攻めるかのような口ぶりで、ブリザード吹きすさぶ中追求を受けているのだが、その言い分そのものが十分おかしいことに早く気づいて欲しい。

「釈明!?何でそんなもの私がしなきゃいけないのよ。大体あんたが選んだ服もなにも、元々私がもってた服を勝手に処分したのはあんたじゃない!!私だってこんなフリフリした服は着たくなかったのよ!!」

お陰で田舎から家出してきた痛いロリータ中学生に見られたし!!

「だってダサかったんだもの」
「ダサければ人の物を勝手にすてていいの!?」 

我ながら正論だと思うのだが、このオカマは更に上をいく。

「い~い?この日本ではね。«可愛いは正義»っていうのが世間一般の常識なの。あんたも成人名乗るなら、世の中の常識やルールぐらいしっかり把握しておかないと」

したり顔で説教するオカマは今日も凶悪だ。

「どこへ行った日本の勿体無い精神」

あれは日本の伝統ではなかったのか。

「安心しなさい、ちゃんとリサイクルには出したから」

そこは抜かりないと主張されてもそうじゃない。

「勝手にリサイクルすな!」
「アタシの庇護下に入った時点であんたの身も心も既に全部アタシのものよ」
「!?」

本人の意思など完璧に無視し、理路整然とふざけた主張を続ける帝。
だが思い出して欲しい。
ここは帝の部屋でもなければ二人だけの空間でもない。


「ーーーーーー夫婦喧嘩は犬も食わない、といいますが」

ぽそりとつぶやいたのは、警察からずっと二人に同乗している例の弁護士だ。

「成人を気取るなら人の目というものをもう少し気になさったらいかがでしょうか」
「だから人を動物に例えるのをやめてくれる!?あんた、慇懃無礼って言葉を知ってるわよね!?」
「…オルコット嬢はどうやら日本語が不自由なようですね。これはただの慣用句です」

動物云々には反論したが、慇懃無礼に関しては触れず。
当然ながら確信犯だ。

「そうそう。竜ちゃん相手に文句言ったって倍になって帰ってくるだけだから諦めなさい。
むしろここまで迎えに来てくれたんだからちゃんとお礼を言わないと」
「だから迎えに来て欲しいなんて頼んでないのよ!!」

お礼なんて冗談じゃない、と帝を睨みつけるレジーナ。
当の本人は「心にもない礼より、お気持ちは現金でお願いします」と実にあっさりしたものだ。
お前ら友人じゃなかったのかと問い詰めたくなるほどにドライ。

「あぁもうごめんなさいねぇ。竜ちゃんのところも今追い込みに入って色々忙しいんでしょ?
なんならこれからの所に直接向かう?ついでに車を回させるわよ」
「彼女!?」

帝の口から出た思いもよらぬ言葉に声を出して驚く。
そして陰険弁護士をジッと見つめ――――すぐさま「妬けるからその辺にしておきなさい」と帝に無理やり首を戻されたが――――ー何の遠慮もない一言を放った。

「あんたの恋人やってられる女って、どんだけ神経図太いのよ」

「彼女を侮辱するつもりなら今すぐあなたの国外退去措置をとらせていただきますが」
「ちょっと麗ちゃん、おやめなさいって!龍は逆鱗に触れると爆発する生き物なのよ!」

黙ってて!と口を塞がれ、もごもごともがく。
帝から「麗ちゃん」などと呼ばれるのは虫唾が走るが、普段はこの日本人顔のせいで「レジーナ」の名が浮いてしまうのだから仕方ない。
妙なキラキラネームと間違われて痛い視線を送られるくらいならちゃん付される方がマシだと潔く諦めた。
逆に帝が「レジーナ」と呼ぶのは、大抵二人きりの時。
例外はレジーナの機嫌を取ろうとしている時か、強制的にレジーナを従えようとしている時のみ。
今は甘い顔をしているものの、その名でレジーナを呼んだ時の帝は凶悪だ。
従わなければ後で何をされるかわからない。
だからこそ半ば条件反射のような形で帝の用意したこの運転手つきの車に乗り込んだわけだが、まさかそこに腹黒弁護士まで一緒についてくるとは予想外だった。

「訂正を。龍は逆鱗に触れても爆発しません」
「ハイハイ。その代わり触れたものが大惨事になるだけよね~」

「お前の激怒は洒落にならないからな……」と割と真剣な顔でつぶやかれた言葉にレジーナもちょっと驚いた。
帝をひかせるなど、相当なものである。
むしろ自身の逆鱗であると素直に認められるほど、この腹黒に惚れられた女に今すぐ会いたくなった。

「モデル?女優?それともやり手女社長?」
「どこまでもイメージが偏っていますね。想像力まで残念な様子で」
「……いいからさっさと答えなさいよ!」

いちいち人を侮辱しなければ話が進められないのかとイライラする。

「あんたの女っていうくらいだから只者じゃないでしょ」
「……僕の女というのは否定させていただきますが、ごく普通のOLですよ」
「はぁ!?」
「こらこら、そんなにくっつかないの!」

首を締めんばかりの勢いで詰め寄ったレジーナを引き離すと、羽交い締めにして物理的に距離を取らせる。
だがいくらリムジンとはいえここは車内。
取れる距離など大したものではない。

「出歯亀なんてはしたないわよ。あんたには私がいるんだからそれで十分でしょ」
「話をそらさないで!!」

どうせ帝と話していてもレジーナの望む結論など出やしないのだ。
だったらむしろこの陰険弁護士の弱みを少しでも探ってやりたい。

「で、どうする?寄ってく?」
「そうですね。ではお願いしましょうか」

少々気分を害したので、彼女に会って心を癒します、と。
嫌味たっぷりに顔を見ながらいわれ、苛立ち紛れに横に座る帝の足を思い切り踏みつける。
なまじ上等な革靴だけに、レジーナが今履いているヒールのないバレエ靴のようなシューズではろくなダメージが与えられないのが悔しい。
レースやフリルなど不要。
今欲しいのは凶器になりそうなレベルの高いヒールだ。

「麗ちゃん、あんたもう少し太ったほうがいいわよ」
「うっさい!!」

おまけに軽すぎると文句を言われる始末で、もう本当に怒りの向けどころがわからくなった。

「後でその女、必ず合わせなさいよね!?」
「嫌です。なぜ僕が大切な彼女を君みたいな猫娘に合わせなければいけないんですか」
「ネコ娘ぇ!?」

レジーナは知っている。
それはれっきとした妖怪だ。
レジーナは吸血鬼であって断じて化け猫ではない。

「あら、可愛いわよネコ娘。麗ちゃんも頭に大きなおリボンでも付ける?」
「これ以上人をロリ扱いするのはやめて頂戴」

可愛けりゃなんでもいいのかとツッコミを入れたいところだが、その分では構わないと言われそうな予感がする。
日本人とは本当にふざけた民族だ。

納得いかない思いでしばらくの間粘っていたレジーナであるが、結局のところ彼女が望むような情報は何一つ得られず。

「ここでもう結構です」

そういって、何もない無人駐車場の近くで降りていった天敵の背中に向け、「ケチ!陰険!腹黒!」とひたすらに子供っぽい罵倒を繰り返す他、出来る事は何もなかった。

そして。

「さっ。ここからは二人きりよ?
されたくなかったら、良い子で出来るわよね?」

にっこり笑う帝の背後に腹を空かせた大型肉食獣の幻影を見つつ。

ーーー再び話は、振り出しに戻るのである。
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