平凡顔吸血鬼が極上の獲物に捕食されました。

隆駆

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見せ場と濡れ場とヤンデレの本領発揮

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「ちょ……!帝、何を……!!」

帝の大きな手がレジーナの後頭部を優しく抱き、次の瞬間激しく口づけられる。

「ん……!!」

こんな時に何をするのよ、と。
抗議を込めて抱きしめられた大きな背中を拳で叩くが、レジーナの力程度ではその背中はびくともしない。
むしろより楽しそうな表情を浮かべて貪られ、角度を変えては何度も繰り返されるキス。

「あ……っ」

帝とのキスは心地よく、その血液ほどではないものの、レジーナを酔わせる。
上気する頬。
時折二人の間に糸を引く唾液。

「…帝…!!」

短い息継ぎの合間、ちらりとレオンの様子を伺えば。
声もなく、呆然とした様子でこちらを見つめるレオン。

突然始まったキスに翻弄されるレジーナに、帝は言う。

「レジーナ。お前は何もかも甘いな」
「……!!」

これでは、どちらかどちらを食らっているのかわからない。
帝は唇だけではなく、戯れにそのレジーナの白い首筋にも赤い跡を残し、見せつけるようにマーキングを施す。
そして。

「愛してる、レジーナ」

囁かれる言葉は、何よりの猛毒。
もう、レジーナの瞳にはレオンの姿など写りもしない。

うっとりと身を任せ、与えられるままにその首筋に唇を這わせ、帝の血を啜る。

「レイ………!!」

焦ったようなレオンの声がかすかに耳に届くが、それがなんだというのだろうか。
ここはそもそも帝の家。
勝手にやってきたのはあちらの方だ。
侵入者が家主に文句を言う方が悪い。

「ふふふ……素敵よ、レイちゃん。このままベッドまで行っちゃう?」

自らの血で染まった唇を紅のように指でなぞり、満足そうに笑う帝。

本音を言えば、レジーナ自身とて既にその体は熱く火照っている。
しかし。

「レイ!!しっかりしろ!獲物に食われるなんて君らしくないぞ!?」

レオンのそのセリフに、ぴくりとレジーナの肩が跳ねた。

「王たる君にとって人間などただの食料だ。
ただの人間に君が支配される事など、あってはならない!!」

「ーーーーーーそのただの人間相手に、手も足も出ず指をくわえて見てるのは一体どこの誰かしらね?」

見せつける、と宣言した通りのことをやってのけた帝は正に余裕の笑みだ。
優しくレジーナの髪を撫でる帝に抱かれたまま、レジーナは言う。

「ーーーーー私はね、あなたたちのその考えも嫌いなのよ」
「……レイ?」
「私は人間よりも吸血鬼の方が優れているだななんて思ったことは一度もないわ。
だって、こんなのただの体質の違いみたいなものでしょ?」

一度調べたことがあるが、ただの人間にだって、血液が欲しくて仕方がなくなるような、そんな奇病は存在するのだ。

「でも、あなたたち議会の考えは違う」

必要とあれば人と交わることもよしとはするが、結局のところどこまで行っても自分たちとは別の生き物だという見解を崩さない。
人との交配を禁止することのない割には奇妙なその選民意識に疑問を抱いていたレジーナだが、先ほどのレオンの発言でその疑問は解消された。

つまり、吸血鬼と人とでは魂のレベルでまったく別の生き物なのだ。
肉体とは器にすぎず、恐らく本来的には精神生命体に近い存在なのだろう。
それを知るがゆえに、先ほどのような人間蔑視の発言につながるわけだ。

「ねぇ帝。あなたは私が化物でも構わないのよね?」
「勿論。こんな可愛らしい魔物なら喜んで養ってあげるわよ」

むしろ理想的ねとなんの忌避感も抱いていない様子の帝にホッとする。

「理想的?」
「絶対に私からは離れられないし、その綺麗で小さな体に私の血が流れているのかと思うとゾクゾクしちゃう」

自分の家で暮らし、自分の作った食事を食べ、自分の選んだ服を着て。
その上体には同じ血が流れているのだとしたら、それはなんと素敵なことだろうかとうっとり語る帝。

「……帝。私が言うのもなんだけど、あなた病んでるわね」
「いいのよレイちゃん。合意があればセーフでしょ?レイちゃんと出会えて本当に幸せだわ」
「………」

しばしの沈黙のあと、「犯罪者にならなくてよかったわね」とつぶやくとどめたレジーナは、しかし複雑そうな表情で一つ。

「……ひとつ聞くけど、最初の頃私があなたのそばを離れた時、勝手にしろと言っていたのはあれは嘘?」
「ーーーーー実は、ね。最初の夜からずっと、あなたには護衛をつけていたっていったら、嫌いになる?」
「……つまりどこへ行こうと連れ戻す自信があったから好きにさせてたってことね」

これも今改めて知る事実。

「嫌いになった?」としおらしく首をかしげる帝は、しかし心の底ではきっと反省などしていない。
そもそもレジーナから「嫌いになった」と言われたところで、帝がレジーナを手放すとは思えない。

「拉致監禁」の四文字が頭をちらつき、深くため息を吐くレジーナ。
言えることはただ一つ。

「……2週間確定ね」

悲壮な顔で「そんな…!」と声を上げる帝にとって、これが何よりのお灸であることは間違いなかった。
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