平凡顔吸血鬼が極上の獲物に捕食されました。

隆駆

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身勝手な男達

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「ねぇレイちゃん?私が心の狭い男なのはよぉぉく知ってるわよね?」
「……それ、自分で言うセリフ?」
「自覚がない方が問題でしょ?ね?」

突然妙なことを言い出した帝。

「……否定できる要素が一つもないわね」

そう返しつつ、何か裏がありそうだなとじろりと帝を見つめるレジーナ。

「それで、なにがいいたいの?」と。

口を開こうとしたレジーナだったが、その腕を急にひっぱられ、気づいたときには再び帝の腕の中に。
顎を持ち上げられ、唇を塞がれたことに抗議の声を上げるが、時既に遅し。

「ん…!」
「先に謝っておくわ、レイちゃん。勝手な男でごめんなさいね」

どこか歪んだ笑みを口元に浮かべた帝が、一体何を言っているのか分からず。

みかど?と。

いいかけて気づく。
声が、出ない。
それどころかゆっくりと意識にモヤがかかっていくようだ。

「なに…………を」
「TVや映画みたいに手刀一発で意識を奪えればいいんでしょうけど、あんなのは所詮フィクションの話。
そもそも私にあなたを殴るなんてできないから………」

ーーーー帝、あなたまさか。

「医療の現場でも実際に使われてるお薬だし、単なる睡眠導入剤だから心配はいらないわ。
………ただちょっと、入手ルートは違法だったかもしれないけど」

……………………!!!

違法な入手先ってどこよ……!!と、意識がハッキリしているのなら怒鳴りたかったが、薬を盛られた身体がいうことを聞かない。

先程のキスで口に入れられたとしたらいくらなんでも効き目が早すぎる。
恐らくはそれ以前のどこかでこっそり忍ばせていたのであろう。

レオンに見せつけるなんてただの言い訳。
本当の目的はレジ―ナに隙を作ることだった。

そんなもの、ただ謝られただけで納得できるはずがない。
帝とてそれは百も承知。

「文句なら後でいくらでも聞かせてもらうから……」

既に身動きすらまともにとれないレジ―ナの額にちゅっと口づけを落とす帝。
既に半分まぶたの落ちたレジーナに優しく微笑みながらも、放つ言葉は悪質で。

「―――やっぱり、不愉快なのよね。私以外の男があなたに名前を呼ばれて、向かい合って会話をしてるなんて」

しかも、相手は元婚約者でしょ?

「本当は会わせる予定もなかったのに…………」

ゴキブリってどこからでも入り込んでくるのね、と。

心から不愉快だというようなその言葉に、レジ―ナはようやく気づいた。


怒ってる。
それも、今まで見たこともないほどに。
自分の留守中に勝手に家に上がりこまれたこと、勝手にレジーナに接触したことに。
そして怒りの矛先は当然、レオンに向けられーーーー。

ーーーーー駄目!!!
帝、それは駄目よっ……!!

レオンは、ただの人間ではない。
帝が正面から相対してどうこうできるような存在ではないのだ。

唯一レオンを止められる存在であるレジーナ不在となったとき、彼がどう動くかーーーーーー。


帝がやろうとしていることに気づいたとき、レジーナは静止の声を上げようと必死にもがいた。
ダメだ。どう考えても危険すぎる。
帝にとってレオンが邪魔者であるように、レオンにとっても帝はなんとしても排除すべき存在。
実際、彼はレジーナが昏睡するのをじっと待つように、こちらの様子を伺っている。
レジーナの不在は、彼にとっても都合のいい話なのだ。


身勝手な彼らは、いつもこうして女を除け者にして男だけで話を進めようとする。

ーーーーーーーあぁ、もう……!!
動かない体がもどかしい。
できることなら「ふざけるな!」と、今すぐ二人まとめて張り倒したい。

「大丈夫よレイちゃん。目が覚めた時にはみんな終わってるわ」

ーーーーぶっ飛ばす。
とりあえず起きたら一発殴るっ!!


帝の身を心配していたことも忘れ、ふつふつとわく怒りに弱々しく首を振るレジーナ。
その意識が完全に薄れ、闇に溶けていく。

ーーーーー覚えてなさいよ、帝っ……!!

目が覚めたとき、そこにあるのが帝の顔であることを、レジーナはただ信じていた。


             ※


完全に力を失った体を抱きとめ、そっとソファに横たえる。

「相変わらず軽いわね」

こんな小さな体に、薬を使うなんて強引な真似をするはずではなかったのにと、反省はしても後悔はしない。

そもそもあんな薬を所持している段階でおかしいだろうと言われればそれまでだが……。

ーーーーーのために常に薬を隠し持ってたって言ったら、きっと怒るわよねぇ……。

何のための準備だ!とカンカンになるのは目に見えている。

勿論無事両思いとなった今、レジーナを信用していないわけではないが、実際今こうして役立ったことだし、備えあれば憂いなし。
正しく万事塞翁が馬、だ。

これから起こるであろう事を、彼女には見せたくなかった。
醜く歪んだ、彼女への執着もまた。

横たえた体が苦しくないように整え、もう一度だけその髪にキスを落とし、帝はようやくレオンを振り返る。

「……さぁ、これでゆっくり話ができるわね?」
「……そうだな」

向き合う二匹の高貴な獣が、互いにひた隠しにしていた牙をむき出し笑う。
目の前にいるのはただの獲物ではなく、排除すべき敵だ。

「ただの人間の分際で我らの王に手を触れたこと、後悔させてやろうーーーーーーー」
「安心して?こちらもわ」

もう二度と、レジーナには触れさせない。
互の思いは相反しーーーーーーそれでいて一つ。

全てはレジーナの為に。

さて、どうしてやろうかと舌なめずりをするようなほの暗い闇を抱えた帝の瞳に、ふと何かを思い出したかのようにレオンは小さくつぶやいた。
「似てるな」と。

「……なんですって?」

どういう意味だと問えば、レオンはそれには答えない。
代わりに口にしたのは、彼にとって忌むべき過去の記憶。

「ひとつ教えてやろう。
かつての彼女ーーーーーー私の母だった人が、なぜ命を落としたのか」

「……何の話?」

突然の話題の変化に戸惑う帝をよそに、レオンは語る。
その、どこか懐かしい瞳をジッと見つめたまま。

「彼女は殺されたのだ。ーーーーーー自らが夫として選んだ”人間”に」
「人間……」

記憶をなくしたは確かに別個の存在なのだろう。
けれどそれならばなぜ、再び同じことを繰り返そうとするのか。

「帝といったな?ーーーーーお前は、かつて俺が父と呼んだ男によく似ている」

ーーーー彼女が選ぶのは、いつだって極上の男。
もまた、そうだった。

だからこそ。

「俺はもう間違わない。もうーーーーーー奪わせはしない」

その強すぎる執着が、彼女を殺すその前に。

「彼女の前から、消えてもらう」
「……!!!」

ドンッ………!!!

激しい衝撃が、帝の胸を打った。
さきほど、レジーナがレオンへと放った一撃と同じ、人あらざる異能ーーーーー。

「ごぼっ……!!」

激しい胸の痛みに噎せかえれば、唇から滴り落ちるのは真っ赤な血。
どうやら先ほどの衝撃で、内蔵をどこかやられたらしい。

あぁ、もったいない。
折角の血が、無駄になってしまう。
彼女のための血液が。

錆びた鉄の味が口の中に広がる。

口許をぬぐい、帝はレオンに淡々とした布告をなす。

「ーーーーーーこの代償は、高くつくぞ」
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