わらしな生活(幼女、はじめました)

隆駆

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魅惑の手口を我が手に(?)

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意外なことだが、高瀬は仕事関係なら案外気が利いたりもする。
「主任、ここにコーヒー置いときますね」
「お、ありがとう高瀬君。……俺も休憩にするかぁ……」
ん~と伸びをした主任。その肩ごしには、自分用のコーヒーカップを片手にさっさとデスクへ戻っていく高瀬の後ろ姿。
――――ん?なんか今頬が膨らんでいたような……。
手元に視線を戻せば、邪魔にならないよう配慮された位置に置かれたコーヒーカップと、透明な袋に入ったチョコレート菓子が一つ。
少し大きめな、いかにもコロンとした形状のそれに、彼女の頬が膨らんでいるように見えたのはこれが原因かと納得し、早速自分も手を伸ばして遠慮なくチョコを戴く。
貰い物のたぐいであれば一言あってしかるべきところであるし、これは恐らく高瀬からのサービスなのだろう。
一口で食べ終えて破顔し、背後の高瀬を振り返る。
「このチョコうまいな。どこのやつ?」
もう一個頂戴、と笑顔でおねだりすれば、すすすっとキャスターを使って椅子ごと移動してきた高瀬が、「最近ネットで買ったやつなんです。お徳用で1キロ入ってるやつを買ったんで、気に入ったならまだありますよ」と新しいチョコを袋から直接本人に手渡し、再び元のデスクへ戻っていく。
「貰い物の茶菓子入れの中?」
「いえ、夏はチョコが溶けちゃうんで冷蔵庫に入ってますよ。後は私の引き出しにもちょっと入ってますけど」
そう言って一番下の大きな引き出しを開ければ、そこにはお昼ご飯の入った保冷袋が一つと、ビニール袋いっぱいのお菓子。
「なんとも高瀬君らしいデスクになったねぇ……」
「褒められてないのはわかりますけど、文句言うなら食べないで下さい」
珍しく大盤振る舞いしようと思ったのに、そんな事を言うなら速やかに撤収だ。
あっさり引き出しをしめようとする高瀬を、主任が慌ててなだめる。
「いやいや、別に悪いって言ってるわけじゃないから。自分のデスクなんだから好きにしていいと思うよ?」
どれどれ、と椅子から立ち上がった主任が引き出しを覗き込み、ひとつふたつ適当に手にとり、尋ねる。
「これもネットで?他にも見たことないメーカーが多いな」
「ああ、それは中身はおまかせっていうお菓子工場直売のお楽しみボックスに入ってました。
その辺安い代わりに賞味期限短いんで、食べるならそこからお願いします」
賞味期限が過ぎてももれなく食べるが、どうせなら美味しくいただける期間に食べたほうがいい。
「ふぅん…。んじゃこれ一個もらってこっかな。サンキュ高瀬君」
「エビで鯛を釣るための投資なのでお気になさらず」
「それ本人目の前に口に出していっちゃうんだ?」
「だって言わなきゃわからないこともあるじゃないですか」
できれば今度は和菓子がいいです、と更に要望を口にする高瀬に主任は爆笑だ。
笑いの発作が止まらないのか、コーヒーを飲んで更にむせている。
主任は結構な笑い上戸だ。
だが今ので確実に、主任からの差し入れはゲットできたはず。
これは高瀬にとって、ローリスクハイリターンを期待できる美味しい投資なのである。
部長が差し入れしてくる一流パティスリーのケーキに味をしめたとも言うが、まぁ野良猫でもなんでも、世の中餌付けする方が悪いという風潮なので全ては部長の責任だろう。
すっかり飼い慣らされ、高瀬にゃんこは既に野生を失った。
手をつけていた仕事を一旦中止し、完全に休憩モードにはいった主任は、もう一口コーヒーをすすりようやく落ち着くと、「はぁ笑った」とまだ涙の残る目尻を手の甲で拭う。
「わかったわかった、今度は和菓子ね。覚えておくよ」
軽い口調で了承し、「そういえば」と別の話題を持ち出す主任。
「前から聞こうと思ってたんだけどさ」
「?」
――――何の話だろう。
打ち込みを始めようとしていた手を止め、主任の方にゆっくり体ごと椅子を向ける。
「高瀬君さ。今の仕事楽しい?」
「え?」
「なんだかんだで谷崎が結構無理やりこっちに引き抜いちゃったろ?」
「はぁ…」
突然何を言い出すのかと気のない返事が口をついて出るが、主任が気にした様子はない。
「俺も谷崎もプライベートで高瀬君には迷惑をかけちゃったけど…。
まぁそういう人間関係全部含めて?ここは高瀬君にとって過ごしやすい環境になってるのかなと思ってさ」

ちょっと聞いてみたかったんだ、谷崎の居ない時に。

「……部長のいない時に?」

――――なんで、わざわざ?

その言葉に引っ掛かりを覚え思わず復唱すれば、「ほら。鬼の居ぬ間にって言うだろ?」と主任が当たり前の顔で答える。
「部長は鬼って感じじゃないですけどね?」
「そう?高瀬君には猫かぶってんだよきっと」
「部長が猫……」
巨大な虎ならまだわかるが、猫というイメージはまったくわかない。
しかも高瀬に対し、なぜそんなものをかぶる意味があるのか正直さっぱり不明だ。
だが、それに苦笑しながら更に主任は言う。
「ちなみにこれまでにも何回か言ってるけど、あいつをオカン扱いしてるのも君だけだからね?君以外にそんな対応をしてるところは見たことがない」
「――――もしやそれは私が空前絶後に手が掛かる部下だからということなのでは」
何が言いたいのかわからないが、これは新手の説教なのか。
明らかな警戒心を顔に浮かべた高瀬に、主任が違う違うと首を振る。
「そうじゃないって。別に文句を言いたいわけじゃないんだ。
あいつもさ、たまには誰かに引っ掻き回されるくらいじゃないと人間味が出ないし。
それに関してはむしろ推奨するくらいなんだけど」
「人間味……」
それは完璧人間に対して使われるような言葉で、どちらかというと部長は結構人情に厚いタイプだと思っていたのだが。
それとも、主任の言うように部長には高瀬の知らない別の顔でも存在しているのだろうか。
ハッ。
「夜の部長は別の顔……!?」
「こらこら、なぜ夜に限定するんだい。いかがわしい想像をしないの。
……まぁこっちも俺たちもいい大人だから、全くの清い体とは言わないけどさぁ。
それなりに付き合いもあるけど、ほとんどは仕事の延長線上だし」
後腐れを残すような関係は全くないと断言する主任。
しかし高瀬が気になったのはそこではない。
夜の付き合い、イコール。
「ってことは、綺麗なお姉さんのいるお店に行くこともあるわけですよね?」
「ん?興味あるの??」
妙なところで食いついた高瀬に、意外そうにしながらも何故か嬉しげな主任。
「あります。むちゃくちゃあります。何を食べていれば胸が大きくなるのかと、寄せて上げる秘技を是非伝授してもらいたい」
脳裏に浮かぶボンキュッボンな夜のお姉様に、キラキラと目を輝かせて食いつく高瀬。
「…寄せて上げるって胸?あ、まだそれそんなに気にして…」
そういえば先日そんな会話をしたなと思い出したのだろう。
哀れみの浮かんだ目で見られ、シッと口に指を当てる。
「主任、それ以上はセクハラとみなしますよ」
「高瀬君、どこからどこまでがセクハラなのか俺にはさっぱりわからない」
むしろお前が話を降ったんだろうと言いたげな主任。気持ちは分かります。
だが好奇心が抑えきれなくて申し訳ない。
「あぁ、なにか期待してるところ悪いけど、別にそういう店の女性がみんな豊満な胸をしてるってわけじゃないよ?モデル体型の女性とかは全体的にスレンダーだし、かわいい系の子とかはそれほど胸を強調することはないしね」
なるほど。貧乳はモデル体型という言葉で覆い隠せるのかと学習するが、生憎高瀬の身長はそれほど高くもない。
「では客を誘惑するその魅惑の手口を…」
「…………今度接待か何かの時連れて行ってあげるから、今は大人しく話を聞いてくれる?」
「あい」
とうとうしびれを切らした主任のメガネがきらりと光るのを見、流石の高瀬もいそいそと話に聞き入る態勢に入る。


主任、さっきの言葉信じてます。
大人しく話を聞くので私に美の秘訣をさずけてくれる美女をプリーズ。
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