わらしな生活(幼女、はじめました)

隆駆

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誰と南京玉すだれ?

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――――――数分後。
「なんていうか、ケンちゃんってさすがは竜児の幼馴染だよね……」
しみじみ呟く高瀬は、予定通り再び賢治の待つ例のホテルまで移動を果たしていた。
ギラギラに輝くラブホの照明の下に影もなく照らされるのは、見慣れたいつもの偽幼女。
あのあと何だかんだで上手く部長たちを丸め込んだ賢治のおかげ(?)で、再びの幽体離脱を決行し、こうして最短タイムでの移動が実現できたわけだが………。
「悪の手下はやっぱり悪だった」
そうズバリ指摘する相手は勿論、目の前で平然とした表情で作業を続ける賢治その人だ。
「何が言いたいんだ?タカ子」
作業を中断し、顔をあげた賢治に「ん?」と間近で問い詰められ、ベッドに腰掛けたまま不満げに足をブラブラとさせていた高瀬が「だってさぁ」と。
「最終的には皆、ケンちゃんにとって都合のいいように動いてるっていうか……」
気がついたら上手く転がされていたような、そんなしてやられた感がある、と。
何だかはめられたたようで面白くない。
そうブーたれて言えば、全く反省のない賢治が、ぷっくり膨らんだ高瀬のほっぺをつんとつつ樹、一言。

「タカ子は賢いな~」

………っておい。

「褒めるってことはやっぱ自覚があったんだ!」
てっきり天然かと思っていたが、バリバリの養殖だったらしい。
ちょっとショック、と思っていれば、笑顔の賢治にぐしゃりと頭を撫でられる。
「あるに決まってんだろ?馬鹿だなぁタカ子は。でなけりゃいくら俺が相手だからって、あの竜児がタカ子をほいほいと差し出すわきゃない」
「……ほいほいというか、私の本体を確保してホクホク顔の間違いじゃない?」
結局、高瀬の本体は竜児に捕獲され、自宅へと強制送還される運びとなった。
実に竜児にとって都合のいい結果である。
それに関して部長たちは最後までごねていたが、最終的には。
「今更このタイミングで手を出す必要はありませんよ。チャンスならこれまでいくらでもありましたからね」
という竜児の余裕の発言に挑発される形で折れた。
その科白を聞いて「どう合鍵持ってるしね」と納得したら、部長から「後で覚えてろよ」的な視線を向けられていたことは正直忘れたい記憶だ。
そう言えば部長と竜児は前にも合鍵問題でやりあっていたことを後になって思い出した。
「あ~。まぁそれも多少はあるだろうが、本来中身のない体だけなんて竜児にとっちゃ大した旨みもないはずだぞ?竜児にとっちゃ、今の中身あって初めてのタカ子だしな」
勿論中身あって、と言ってもらえるのは純粋に嬉しい。
だが。
「その割には今日、ひしひしと貞操の危機を感じたんだけど」
流石に本人の意識が不在の間は何もいたずらされなかったようだが、戻ってからがどえらい目に会いました。
エロ魔神です。
下ネタ魔神の登場です。
「……まぁ、あいつも生身の人間だからなぁ」
「結局それじゃ意味ないじゃん!!」
結局のところはそうなるのかと脱力する高瀬。
自分の体が今頃どうなっているのか、ちょっと心配になってきた。
まぁ手遅れといえば手遅れなのだが。
「大丈夫大丈夫。いざとなればうちに嫁に来ればいいし」
「その発言はもはや不安しかない!!」
竜児のところに嫁に行けばいいだけだろ、と言われなかっただけましかもしれないが、それにしたって諦観しすぎの発言だ。
「俺はどんなタカ子でも受け入れるけどな?」
「できれば綺麗な体でお嫁に行きたいです」
なにをキズモノでも平気だぞ的な顔をしてるんだ、ケンちゃん。
実際相手が竜児なら気にしなそうだけど、そういう意味で兄弟になる必要はありません。
どうせこの歳まで処女だったのでバージンロードをバージンで歩いてみるのも悪くないかもしれない。
「ただ個人的にはキリスト教式より古きよき文金高島田希望」
「着物なら体型が目立たないもんな?」
「ケンちゃんうるさい!」
そんな理由で選んだ訳じゃないやい。
白無垢は大和撫子の憧れなのですよ!
「南京たますだれアタック!!」
叫びながらあちょ!と声をあげて勢いよく賢治の頭にチョップを食らわす。
「痛ててっ……。所でどこが南京たますだれ?」 
「文金高島田と南京たますだれってなんか似てない?語呂的に」
他に理由はいらないと思う。
「タカ子…………」
「かわいそうな子を見る目をしないでっ」
「大和撫子はそんな言葉大声で叫ばないからな?」
「今更そんな事を言ってもどうにもなりません」
手遅れです。
「あぁでも」と。
何かを思いついたらしい賢治が、ちょっと悪戯な顔で高瀬の顔を覗き込み、その頭を撫でる。
「タカ子と結婚できるなら、あいつはどんな無茶な要求でも素直に聞き入れると思うぞ?」
「――竜児ならね」
「うん、竜児ならな」
目的のためには手段を選ばない、それが竜児です。
喜んでパンフレット一式用意されそうだ。
「俺だとそうだな~。……タカ子、十二単とか興味あるか?」
「ある!!」
実際着るとなるとかなり重いらしいけど、試すだけなら試してみたい。
目指せ平安貴族!!
「はい!」と右手を大きく上げる高瀬に、「よしよし」と頷く賢治。
どうやら本当にどこかツテがあるらしい。
「仕事で知り合った知人に神主がひとりいるからな。神社で式を挙げるなら安く済むぞ」
そこの神社で式を挙げると十二単が無料でレンタルされるらしい。
ケンちゃんの場合、知人割引でさらにプライスされるそうな。
以前実際に売り込みをかけられていたらしい。
ケンちゃん、なにげにモテるからな。
すぐに結婚しそうだと思われたんだろう。
――――――十二単か。
「前向きに検討させていただきます」
とりあえずこちらも丁重に頭を下げる。
何しろ人生選択の岐路に立たされている最中のようなので。
無駄金を使わず倹約生きるケンちゃんも嫌いではないが。
「ま、既成事実なんてもんができた時点で竜児から逃げるのはほぼ不可能だけどな」
「理解したくはないけど激しく同意」
きっと。

「「翌朝には婚姻届が提出されてる」」

二人で顔を見合わせて声を揃えた。
うん、想像に容易い。
そもそも今でさえ「責任とって!」「はい喜んで!」レベルなのに。

「贅沢な悩みだってのはわかってるんだけどねぇ……」

ついぽつりと漏れるのは高瀬の本音だ。
結婚相手には事欠かない現状だが、プロポーズされて笑顔で了承して結婚式をあげて、というまっとうなウエディングへの道のりはどうにも歩めそうにない。
そもそも竜児はともかく、部長と主任に関しては「気の迷い」という可能性も無きにしも非ずだし。
「そういや、例の霊能者はどうした?」
「あぁ、帰ったってよ?」
「いや、そうじゃなくて。あいつもタカ子に求婚してんだろ?」
「おぅ」
え、今そこにぶっ込んできますか。
「部長さんと主任さんの名前はよく出てくるが、そいつとはどうなってるのかと思ってな」
「……どうにも?」
うん、どうにもなってない。
「そう言う奴が実は心の底で一番意識されてるってことだったりしてな」
「それはない」
きっぱりと断言し、脳裏に浮かんだ龍一の顔を打ち消す。
「一生オカルトにつきまとわれるのはごめん被ります」
よくわからないが、あんな一族に嫁にいったら大変なことになる気がする。
そういう意味で初めから論外だといえば、「気の毒なやつだな、そいつも」と賢治が苦笑した。

「ゆっくり悩んで決めればいい。俺はいくらでも待っててやるから」
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