わらしな生活(幼女、はじめました)

隆駆

文字の大きさ
209 / 290

秘蔵メモリーは甘酸っぱく。

しおりを挟む
「本人に聞いたって……」

中塚女史の腕の中を堪能しつつ、思わず口を挟む高瀬。

「それ、結構ハードル高くありません?」

というか、そういえばそんな名前でしたっけ。
<寺尾博司>

「確かに直接本人に合って話を聞いたっていうのなら納得は行くが……。
一体何があったら君たち二人が直接会う話になるんだ。
矢部君、君から接触したのか」
「い、いえ…!!」
「じゃあ、どうやって?」

引きこもりがどうやって矢部先輩との接点を得たのか。
それは現代っ子ならではの方法だった。

「SNSで、私ところにあの子から直接連絡が」
「SNS!?」

そもそもどうやって番号を!?と食いつきを見せる高瀬を鬱陶しそうに睥睨しながら、更に矢部先輩は続ける。

「……あの子の母親がうちに殴り込んできた時、また家まで来られるのは迷惑だからって、私の携帯の番号を教えておいたから…。一応私もあの人の番号を登録してあるし……」
「ってことは、母親の携帯の履歴を盗み見したってことかぁ。今の子はなかなかやるね」
「妙な事感心してる場合じゃないですよ主任、プライバシーの侵害ですよっ!」

いくら子供とはいえ、親のプライバシーを勝手に侵してはいけない。

「でもそれが結局は今回のことに繋がったんだろ?結果オーライじゃないか」
「うぅ…」

そう言われると弱い。

「それとも高瀬君の携帯には見られちゃまずいものが満載にでもなってるのかい?」
「そりゃあもう!!」
「「「え」」」
冗談めかして言った言葉に対するまさかの即答に、各所から驚きの声があがった。

「?」

何を不思議そうな顔をしてるんだろう。誰だってあるじゃないか。人に見られたくないものくらい。

「秘蔵メモリーのひとつやふたつや三つや四つありますって」
「うんうん。後で竜児にバレたら怒られる写真とかな」

そうそう、いたずら書き加工した竜児の隠し取り写真とか……って。

「!!ちょっとケンちゃん、なんでそんなこと知ってんの!?」
「いや、タカ子の秘蔵メモリーの中身くらい簡単に想像が付くし。
つか一時期竜児の隠し撮りを待受にしてたろ。あいつそれ知って、怒るどころかむしろ上機嫌だったぞ」
「ひぃぃぃぃ!!!!!」

恥ずかしい。めっちゃ恥ずかしい。

「だからなんでそれ知ってんの!!」
「それは内緒」
「!?」

中塚女史の腕の中から飛び降り、ペシペシと賢治の足を叩く高瀬。

「バカバカバカバカケンちゃんのバカッ!!」
「ハハハ、そんなことしても可愛いだけだぞ?タカ子」

余裕の賢治は当然ながら知っているに違いない。
高瀬の歴代携帯のメモリには、竜児だけではなくしっかり賢治の写真も保存されていることを。


「ちょっとした出来心だったのッ!!」

社会人になったばかりの時、それまではほとんど毎日顔を合わせていた二人ともなかなか会えなくなり、ついというかなんというか。

「竜児の写真にはそこはかとない魔除け感があったし!」
「まぁ、確かに竜児の写真なら悪霊も逃げてくかもな」

適当な言い訳に対し、「なにせ魔王だもんな?」とにやりと笑われ、逆に恥ずかしくなってぐりぐりと顔を賢治の足に押し付ける。

「及川さん……なんて可愛らしいの……!」
「こらこら中塚君、君そんなキャラじゃなかったでしょ?」

タカ子の幼い仕草に悶える中塚女子。
なぜか鼻を押さえているところが気になる。

「え、鼻血?違うよね。中塚君、どうか違うと言ってくれ」
「大丈夫ですわ主任。ええ、何も問題ございません」

ふふふふふ、と微笑む中塚女史に、さすがの主任も引き気味だ。

「ってか魔除けとか言いつつ自分の写真を待受にされてるとか……。
そりゃあの幼馴染が高瀬君を可愛がるのも当然だよなぁ……」

妙な所でいじらしすぎる。

「高瀬君高瀬君、後で携帯貸してくれよ」
「!?嫌ですよっ」
「大丈夫大丈夫、中身なんて見ないから。せっかくだし、俺の秘蔵写真も何枚か入れとこうと思って」
「秘蔵!?」
「今なら谷崎のも一緒に付けるぞ」


「「!?」」

まじか!と振り返ったのは高瀬だけでなく、矢部先輩も一緒だ。
どうやら秘蔵写真が欲しいらしい。

「おい、相原……」

お前何を勝手なことを、と部長の顔に書いてありますが、意外なことにそれほど怒っている様子はない。

「まぁまぁ主任さんもそうムキになるなって。
そもそも付き合いの長さが違うんだから仕方ないだろ?なぁタカ子」
「それよりも私はなぜケンちゃんが私の携帯の中身を知っているのかが気になるんだけど」

そしてこの分だと恐らく竜児にも中身を把握されている。
何この羞恥プレイ。


「そこはほら、気にすんなって」
「気になるわっ!!」

何勝手なこと言って誤魔化そううとしてんの!?と賢治に詰め寄る高瀬だったが、その前に切れた人間がいた。

「ちょっと!!あなたたち真面目に話を聞くつもりがあるの!?」

ー――――勿論、矢部先輩である。

あ、やべ。

「人に話せと詰め寄っておきながら妙な脱線をして……!!」

ぷんぷん、と腹を立てる矢部先輩。

「主任、お詫びの気持ちに後で部長の秘蔵写真を矢部先輩に……」
「やめろ」

こそこそと主任に賄賂を依頼していたらすぐに部長にバレました。
首根っこを掴まれそうになったので、慌てて賢治のもとに逃げる。
それを不機嫌そうに睨む部長。
秘蔵写真を流出させられそうになったのがそんなに不本意ですか。

「まぁまぁ、そう怒るなって。自分の飼い猫だと思ってた相手が他人に懐いてるのを見て面白くないのはわかるけどさ」
「――――ー及川君を飼い猫扱いした覚えはない」
「そうか?じゃあ無意識なんだろうなぁ」

やれやれ、といいながら高瀬をひょいっと抱き上げる賢治。

「ほら、その殺気。本当に無意識か?」
「………」

にやりと笑う賢治だが、からかうようにわざわざ見せつけているのが部長を怒らせる理由だと思う。
とりあえずダシに使われているのが面白くなかったので、目の前ある賢治の首筋にガジガジと噛み付いていたら、なぜか余計に冷たい視線を感じたのだが……気のせいだろうか。

え?キスマーク?違いますよ。
これは単なる制裁です。


「んで、話が脱線して悪かったな、ねえさん。
そこの部長さんの秘蔵写真なら後でいくらでも用意してやるから、今はまず続きを話してくれよ」

たとえ首筋にかじりつかれようが何をしようがお構いなし。
むしろ上機嫌で「タカ子もお口チャックな」と囁かれたので、ここは素直に口を一文字に結んで、「もう余計なことは喋りません!」とアピールする。

しっかり心のファスナーを締めました。

「母親の携帯を見てあんたの連絡先を知ったっていうのはわかったが、なぜそいつはわざわざあんたを頼ろうとしたんだ?」

ずばり、確信に突っ込んでいく賢治。

「あんたを選んで父親の事を相談したってことは、あんたたちの関係も知ってたってことだろ?
一体どこでそんなことを知る機会があったんだ」
しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?

藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。 結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの? もう、みんな、うるさい! 私は私。好きに生きさせてよね。 この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。 彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。 私の人生に彩りをくれる、その人。 その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。 ⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。 ⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...