わらしな生活(幼女、はじめました)

隆駆

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繋がったピース。

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「僧侶姿の……髑髏?」
その言葉に反応をしたのは中塚女史だった。
矢部先輩以外の全員は、そこでピンとくる。
そうだ、例の中塚女史の身内が言っていた話と、どこか似ている。
修行を積んで即身仏になろうとしたが失敗してしまった僧侶……。
もしかして、二つの話はここで繋がるのだろうか?
そう思ったのは高瀬だけではない。

「つまりその息子が……問題の坊さんに取り憑かれて今回の事件を起こしたってことか……?」
「!」
「……やっぱり、そう思いますよねぇ…」
この展開だと、そう考えても仕方のないことだ。
だがそうだとしても疑問はいくつも存在するし、そもそも……。

「言っておくけど、あの子は何もしてないわよ」
「え?」
きっぱりと断言する矢部先輩。
「あの子が疑われてるのは知ってるけど……犯人はあの子じゃないわ」
「その口ぶりだと、もしかして矢部先輩……」
真犯人、知ってるんですか……?
思わずゴクリと息を呑む。
「…それは……」

「矢部君、話してくれ」

空気を読んだ部長が、矢部先輩の手をぐっと握った。
「ぶ、部長……!!は、はいっ…!!」
真正面、それも至近距離からの部長のアップに耐えられなくなったのか、若干視線を逸らしながらも条件反射のように頷く矢部先輩。
「それは………」
「ふわぁ~~………」
「こらケンちゃん……」
前置きが長すぎて、大事なところですがケンちゃんがあくびをしてます。
しかしイケメンには文句を言わない矢部先輩。
ちらりと一瞥しただけで、ようやくの本題にはいる。
「あなた達だって想像位ついてるんでしょ?…………犯人はあの男よ」
「あの男って……矢部先輩のおにいさ………」
「あんな男ただの他人よ!」
「あ、はい……」
皆まで言うなと釘を刺され、ここは素直に頷くのが得策と悟る。
家庭の事情に他人が首を突っ込んでもろくなことにならない。


「ってことはだよ?その息子さんの実の父親が猫を殺して呪いをかけたってことかい?」

一体何のために?

それは全員が等しく感じた疑問だった。
「あの男に人を呪うような特殊な知識なんてないわ。
………あいつはただの使い捨ての道具みたいなもの。あいつに指示を出してそうさせてる人間がいるの」
「つまり、黒幕ってこと?」
「恐らく………」
主任からの問いかけに慎重に頷く矢部先輩。
「でもなんで矢部君がそこまで知ってるんだい?自力で調べるにしても無理があるだろう」

まだ警察ですら掴んでいない情報を、なぜ?と。

「掴んだのは私じゃなくあの子……。自分であの男の跡をつけたって……」
「引きこもりの息子さんが!?」
ちょっとびっくりです。
それにたいして渋い顔を作った矢部先輩が高瀬を睨む。
「その引きこもりっていうのは止めて。あの子だって好きであぁなった訳じゃないんだから……」
「それはわかりますけど……」

何だって矢部先輩はこんなに彼に同情的なのか。
逆に不思議だ。

「矢部君はさ。なんでそんなにその子を庇うわけ?」

主任が実にストレートに聞いた。
中塚女史が「ちょっとその聞き方は…」という目で主任を見ているが、全く気にする様子はない。
さすが主任。

「庇ってるわけじゃ…」
「いやむっちゃ庇ってると思いますが」

今度は逆にこちらからかぶせ気味に答えれば、気まずそうな矢部先輩。

「だからそういうわけじゃなくて…。
あの子だってあの子なりに頑張ってるんだから、その努力は買ってあげないと……」

「頑張ってるって、一体何を頑張ってるんです?」

実の父親の尾行か?
そもそも何きっかけで彼は父親を尾行しようと思いついたのだろう。

「タカ子タカ子」

「ん?」

怒涛のような追求を続けていたところ、賢治にちょいちょいと手招きされ、ふよふよとその場を外れる。

「あのネェさんは責められると意地になるタイプみたいだからな。後はあの部長さんたちに任せて、タカ子はちょっと黙って聞いててみ?」
「うむ」

小声で囁かれた言葉には納得するところがあったので、素直に受け取る。
確かに高瀬が変に口を挟むより主任に任せたほうが真相の追求は早そうだ。
中塚女史も大人しく見守るに徹しているようだし。
ちらっと視線を中塚女史に送れば、今度は中塚女史から手招きされ、再び移動。
すぐさま喜んで抱き上げられ、互いにほっぺをくっつけて「えへへへ」と笑う。
よし、しばらくこのまま黙って中塚女史とのふれあいを堪能することにしよう。
矢部先輩が冷たい目でこっちを見ているけれども気にしなーい。

「矢部君?」

促されるように呼ばれた名前に、はっと我に返る矢部先輩。

「このままでは我々も正しい情報の共有がまだできない。続けてくれ」
「は、はい……」

そうして語られたのは、確かに彼に同情せざるを得ないような努力のお話だった。

「私が調査会社から話を聞いた時には既にあの子は引きこもり状態を開始していたんですが、それでも夜中、たまにコンビニに買い物に出かけたりすることはあったようで…」

ふむふむ。
そのあたりは確かにケンちゃん調べでも話を聞いている。

「ある日あの子は、その途中で実の父親が怪しげな男と話しているのを目撃してしまった」

「ほぉ?」

なかなかのサスペンスな展開。

「ちょっと待ってくれ矢部君。そもそも彼は自分の父親が誰かいつ知ったんだ」

あ、その問題があった。
そうだ、確かに彼には実の父親と書類上の父親、二人いることになっている。
書類上の父親は既になくなっているようだが、果たしてあの寺尾のおばさんがわざわざ息子に自分が不貞を犯した
真実を告げるだろうか。
そこはできるだけ隠したいと思うのが親としての心情だろう。

「それは私も不思議には思いました。…ですがどうやらあの子の母親の姉妹が全てばらしていたようです」
「母親の姉妹?なんだってまた」

そんな余計なことをしたのか。
寺尾のおばさんの姉妹と言えば、子供のいない夫婦の和恵おばさんのところだろうか。


「私にも詳しくは……。ですが、どうやらその姉妹には子供がなく、彼を自分のうちの養子に迎えたいと考えていたみたいで…」
「養子…」

ナイーブな話なだけにみな難しい顔になる。

「片親しかいない母親の元より、自分たちの方が裕福な暮らしをさせてやれる、というようなことを聞かされていたようです。その話の流れで、実の父親に関しても話を聞いたそうで……」

どんな話かは知らないが、あまり良い話を聞かされていたわけではないことは想像に容易い。
彼の心情を思い、はぁとため息をつく主任。

「まったく、どこの世界にも余計なことをする人間はいるもんだねぇ……」

特に親切ごかした身内というのは最も厄介だ。
中塚女史も無意識に共感したのか、高瀬を抱く腕にきゅっと力がこもる。

「んで、矢部君はその話を誰から聞いたのかな?それも調査会社に調べさせたの?」


そう、知りたいのはそこだ。
そして矢部先輩はいった。


「それはあの子ー――――博司君本人からです」
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