わらしな生活(幼女、はじめました)

隆駆

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比丘尼塚伝説編②

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結論から言おう。

「うまい、うますぎるっ!」

うむ、高級料亭にも劣らないお味でした。
ごちそうさまです。

空っぽになった膳の前で手を合わせたところで、ようやく本題はここからだ。
食事をしながら話をするということだったのだが、蓋を開けてみれば見慣れぬ料理に興味津々の高瀬を前に、難しい話をするような雰囲気でもなく。
「食事がまずくなるような話は後にするか」とあっさり前言を撤回した賢治によって、御待ちかねのランチタイムに突入したわけなのだが、いい加減こちらも色々気になっていることはある。

お腹も満たされたことだし、腰を据えて話を聞く体制はできた。

ちなみに言うと、現在高瀬が腰を据えているのは竜児の膝の上。
なぜそうなったのかは覚えていないが、気づいたらそうなっていた。
餌付けの威力は恐ろしい。

「説明って言っても長い話になるんだが、まずは何から聞きたい?」

そう聞かれ、とりあえずここがどこなのかをまず確認すると、どうやら都心から3時間程度離れた山中の温泉街であることが判明。
先程から何度か「閉鎖している」と口にしていたが、その理由はと問えば、昨年末に大きな地震と雪崩が起き、道の一部が崩落をして一般車両の出入りが禁止されているのだと教えてくれた。
そのせいで客足は激減、予約客もキャンセルが相次ぎ、店側としても営業するだけの利益が見込めずやむなく閉店状態にあるというのが実情らしい。

「ま、キャンセルが相次いでんのはそれだけが原因ってわけじゃないんだが」
「?」
「ただの地質的な問題なら俺やタカ子が呼ばれるわけがないだろ?むしろここからが本題な。
なぁ、竜児」

ニヤリとして竜児に同意を求める賢治。
どういうことだと真上にある竜児の顔を見上げれば、「タカ子、口元にご飯粒がついていますよ」と指摘され、そのままぺろり。

……ぺろり?

「さぁ、取れました。いつもどおりの可愛いタカ子ですよ」
「ん……?」

い、今、舐められたような気がするんだけど気のせい?ご飯粒とか普通に指で十分とれるしっ。

満足そうな満面の笑みを浮かべる竜児に、「あーあー、固まっちまってんなタカ子」と呆れる賢治。

「竜児、お前ちょっと浮かれすぎだろ」

流石に苦言を呈す賢治にもなんのその。

「久しぶりに邪魔者もなしでタカ子を堪能しているのですから、余計な野次は遠慮して頂きたいですね」

おそらく邪魔者というのは部長たちのことなんだろう。
竜児なりにストレスが溜まっていたというのはなんとなくわかるのだが…………。

「仕方ないな」とかあっさり諦めないでケンちゃん!

ちょ、頬ずりするのはやめてっ。
あ、竜児に私のよだれが……。

「うぐぐ、ケンちゃんヘルプ………」
「はいはい、わかったわかった。
お前な、浮かれるのは結構だが、タカ子のペースで進めてやらないと今にパンクするぞ?」
「パンクしたらいくらでも修理をすればいい話ですよ。それこそ僕の愛で」
「「うわ……」」

臆面もなく言ってのける竜児に、流石に引いた。
そそくさと竜児の膝を降り、そのままこそっと賢治の背中に隠れる高瀬。

「ケンちゃん……竜児がなんかやばい方向に……」
「上機嫌極まってんな…。後で適当になにかおねだりしてみろよ。多分今ならなんでも買ってもらえるぞ」
「マジで?」
「やってみりゃわかるって」

こそこそと悪巧みをする二人。
そんな二人にも笑顔の竜児は、やはり相当機嫌がいいらしい。

だが高瀬が賢治の背中に張り付いているのは気に入らないらしく、ちょちょいと手招きされ、膝に戻るように無言の指示。

苦渋の末、いそいそと元いた場所(=竜児の膝の上)に戻る高瀬。
抗いきれない圧力がそこにはあった。

「さすがタカ子。長いものには巻かれる主義だな」

長生きできるぞ、とよくわからないエールを送る賢治。
「よくやった」と背後でうんうん頷いている賢治の為にも、高瀬の生存本能は良い仕事をした様子だ。

「んでだな、本題に戻すが、客足が途絶えた理由のひとつは、簡単に言えば噂だ。このあたりが呪われてるっつー類いの悪質な噂」
「噂…………しかも呪い?」

なんだか一気にきな臭くなってきた。
竜児の膝の上から身を乗り出す高瀬。

「発生源はネットで、大本になったやつも特定はできてるんだが……調べた時には既に変死してた。
俺達以外にもそれを調べ上げた奴がいたみたいで、余計に呪いとやらの信憑性が増しちまう始末でな」
「変死した人物は、殺人事件の現場や自殺現場などを特定し、心霊スポットと勝手に称しては夜な夜な現場を歩き回って動画を撮影していたようです。
事件の遺族からも相当反感を買っていたようですし、行いの悪さから言えばいつ死んでおかしくはなかったと言えますね」
「流行りの迷惑ユーチューバーってやつか」

なるほど。

「ってことはこの辺にその人が興味を引かれるような”何か”があったってこと?」

殺人現場とかだったら嫌だなと思いつつ尋ねる高瀬。

「タカ子も来る途中に見たと思いますが、道沿いに潰れた廃旅館がいくつかあったのを覚えていますか」
「あぁ…。確かにあったね。なんか、傾いてそうなの」
「彼の最初の目的はそれらの廃墟内の撮影だったようです。
調べた所、寒さを凌ぐために侵入した浮浪者が、そこで凍死して亡くなる事故が何件が発生していました」
「事故・・・・・」

想像するだけで嫌になるが、都心でも真冬にはありうる話だ。

「暖かくなってから異臭に気づいた住民が警察に通報して発見されるってのがよくあるパターンらしい。
最近じゃ、近所の組合が定期的にこのあたりの廃墟を巡回してるって話だ。
事故だけじゃなく、わざわざ自殺するためにやってくるなんて迷惑な客もいるらしくてな」
「彼は、いわくつき廃墟群と称してわざわざ泊りがけでいくつかの廃ホテルを巡る計画を立てていたようです」
「動画自体は大したもんじゃないんだが、事前の下見と事実確認がしっかりしてるってんで、一部のネット民にはそれなりの支持を集めていたらしい」

心霊現象のようなものが映り込むことも、そう珍しいことではなかったそうだ。

「ま、それだけならよくある類いの話なんだが、問題はここから。
予定していたホテルで大したものが撮れなかったらしく、期待はずれだったんだろうな。
このあたりはもともと平家の落人伝説で有名だったもんで、来たついでにこの辺に伝わる伝説か何かも調べてみようと思いついたらしい。
結構しつこく地元住民に聞き込みをしては迷惑がられてたみたいだが、それでもいくつかの情報が集まったようで、後日その調査風景をネットにアップしたんだな。
ーーーーーーーそれが、後日ネットで炎上した」

「炎上?」

一体、何をしでかしたのだろうそいつは。

「まぁそれも当然。
いくら廃墟とは言え、人の土地に勝手に侵入して好き勝手荒らしたり、自殺者の振りをして首にロープをかけてぶら下がってみたりと、相当に不謹慎な動画だったらしい。
それこそ見ている人間が不快感を覚えて運営に通報するレベルのな。
炎上商法ってやつを狙ったのかもしれんが、結局問題の動画はすぐネットの運営会社によって消された。
普通ならそこでおしまいになる筈なんだが、派手に騒がれたもんで興味を惹かれたのか、その動画を自分のパソコンなんかに保存していた人間がいて、別サイトに動画を再アップしてな」

ユーチューブなどの動画サイトだけではなく個人のSNSなどにも言えることだが、一度ネットに公開してしまえば、運営側がいくら削除したところですぐに拡散され本人にも把握できなくなってしまう。

「今じゃデジタルタトゥーなんて言葉もあるくらいだし、厄介な時代になったもんだ」

ここまで来ると、最早若気の至りでは済まされない。
ちょっとした思い付きで上げた動画が、一生の傷になることもあり得るのだ。

「でもネットの流行り廃りなんてあっという間だし、再公開されたとしても普通はすぐに飽きられて終わりなんじゃ……?」

そう思う高瀬だったが、それはどうやら甘かったらしい。

「――――実はな、俺達も全部を把握しているわけじゃないんだが、呪いだのなんだのと囁かれるようになったのはここからなんだ」
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