わらしな生活(幼女、はじめました)

隆駆

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比丘尼塚伝説編③

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「とはいえまぁ、再アップされた頃には既に過剰なまでの不謹慎狩りは一段落していた」

炎上が収まったところで、改めて動画の中身について検証してみようという風潮に至ったらしい。

「んでな、検証した結果あることが判明したわけだ」
「……あること?」

絶対ロクな事ではないと思う、と思いつつ尋ねれば、賢治から差し出されたのはスマホののツイッター画面。


「なにこれ……」

『#比丘尼塚 女 幽霊』の文字とともに、乱立するおびただしい件数のツイート。


『比丘尼塚のシーンで背後に女が写っていた』
『全然わからないけど、もしかして自作自演?』
『俺も見た。女が写ってる。尼さんみたい?な』
『私にも見えた!』
『もうちょっとkwsk情報求む』
『そもそもこの塚って何のためのものなの?なんか気持ち悪いね』
『八百比丘尼って聞いたことあるけどなんか關係ある?』
『画面から女の声が聞こえる』
『気分が悪い』
『目から血が』
『頭が痛い』
『女が来た!!こっちを見てる!誰か助けてくれーーーーーー』


「最初の頃は動画内に幽霊らしき人物が写ってる、写ってないで盛り上がってる感じなのに、途中からなんか……」

動画で女を見つけてからずっと体調が悪いだの、女の幽霊が実際に現れただの、悲鳴めいた恐怖の書き込みが増えてきている。
しかも、そういった書き込みをしているのは最初に「女が見えた」と書いている人間ばかり。

「どうも見えるやつと見えないやつではっきり二つに分かれたらしくてな。
見えないやつには何もなかったが、見えたやつには何らかの霊障と思しき現象が確認されてるってのがこれを見るとわかる。
……最後の方に書き込みをしてる奴だがな、こいつはこのあとこんな投稿を残して消えてる」

そうして見せられたのは、投稿者個人のアカウントページ。

「『入院した。原因がわからない。なにかレントゲンに影のようなものが写ったらしい。俺は病気なのか。女を見たのは幻覚だったのか。俺はまだ死にたくない』」

最後のツイートはその一文。

「……真偽はともかくとして、得体のしれない後味の悪さを感じる内容だろ?動画が再アップされてからしばらくして、このツイートが一部のオカルトマニアの間で取り沙汰されて有名になった。
一連の流れと、幽霊を見たと公言してる連中のツイートをまとめた検証サイトまで開設されてな。
俺らも一応確認させてもらったが、まとめサイトの方は結構ちゃんと調べてたみたいだぜ?
……で、これを元に、実際に現場に行ってみようって流れになった連中がいたわけだ」

幽霊が映っていると噂された部分は、丁度地元民からの情報提供を受けて向かったとされる山中。
「比丘尼塚」と書かれた、石碑のようなものを前に投稿者がその由来を語るシ―ンで撮影されていた。
検証サイトでは、動画内では詳しく説明されていないその石碑の場所をおおよそ特定しており、それを元に、仲間を集めて、皆で現場を調べてみようというオフ会が計画された。

「『比丘尼塚伝説検証チーム』なんて大層な名称をかかげてな。
しかも、その話を聞いたとあるオカルト番組の撮影クル―までが計画にのっかって、最終的に撮影機材を乗せたバスとともに数十名の人間が問題の場所に向かった」

ーーーーそこで起こったのが、例の土砂の崩落事故。

「大量の土砂がバスを生き埋めにし、多くの死者と重傷者を出す大事故だ」

事故のニュースと思しきサイトを見せられたが、そこに写る事故後のバスの様子はまさに悲惨の一言。
バスの車体部分はほとんど土砂に埋まり、土砂とともに滑り落ちてきたと思しき木や岩が、一部の窓や車体から突き出ている。
ほんの一コマの写真だが、中も外も見事にぐしゃぐしゃなのがよくわかる。

「…………そういえば、ニュースでそんな話聞いたかも………」

一般参加者をのせてロケにでたテレビクル―が、落盤事故に遭遇し死者を出したというものだ。
その時は不運な事故だとしか思わなかったが、まさかそんな事情だったとは。

「土砂で公道は塞がれるし、またいつどこが崩れてくるかもわからないってんで、地元じゃ大騒ぎだったらしい」
「……………それで」

迎えに来てもらわなければ中には入れないといっていた理由がようやくはっきりした。

「俺達が今日通ってきたのはいわゆる旧道ってやつ。まだ事故があった道は封鎖されたままだ」
「そりゃ………」

それだけの事故が起きたのなら仕方のない事である。

「ここまでくりゃもう想像はつくだろうが、この事故を受けて一気にネット民は大騒ぎになったわけだ」

当然ながら誰も、これがただの事故だと考えるものはいなかった。

「……………それが、呪いの噂の大元」

ただの噂だけではなくそういった実際の事故があったのだとしたら、話を聞いた客が二の足を踏むのも当然だ。

「面白半分で書き立ててたやつも流石に死者まで出るとは思ってなかったんだろうな。
検証サイトはいくつかあったんだが、今見せたひとつを残して、後はみんなこの話題から撤退したって話だ」

底知れぬ薄気味の悪さだけを残して一見沈静化したかのように見えたネットだが、どこにでもバカはいるらしく、事故後には例の場所を調べようとしてやってくる迷惑な客が増え、一方でまともな予約客からはキャンセルが相次ぎ、客足は激減。
観光地としては致命的な傷を受ける結果となった。

「んで、ここでようやく俺達……………というか竜児の出番になるわけだ」
「…………………へ?」

……………なんでまた?

オカルト事件と敏腕弁護士。
一見無関係のこの二つが、一体がどう繋がったのか。

思いもよらぬ展開に間抜けな声を漏らす高瀬。
真上にある顔を見上げれば、そこには変わらぬ笑顔の竜児。

「こっから先は本人から聞いた方が早いだろ。
ほら、後は自分で説明しろよ」
「…………仕方ありませんね」

そんな話よりも高瀬を構うのに忙しいとばかりの竜児だが、真下から疑問の視線を投げ掛ける高瀬に負け、改めてこう切り出した。

「最初に僕の元へとこの話を持ち込んできたのは、この土地出身の大物政治。
―――――とある訴訟の弁護人として、正式に依頼が舞い込んできたのです」
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