わらしな生活(幼女、はじめました)

隆駆

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比丘尼塚伝説編⑫

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「ーーあれ?」

覚悟を決め、一瞬の浮遊感の後に目を覚ましてみれば、そこは見知らぬ山林。
キョロキョロと辺りを見回すもその場所に見覚えはなく、人っ子一人誰もーーーーー。

「うわぁ!!!」
「源太郎っ!?」

いない、と結論づけるのはそうやら早計だったらしい。
でかい坊主が空から降ってきた。
と、いうか。

「源太郎が空から降ってきた!」

「ぐぇっ!!」

ぐしゃっという音を立てて地面に叩きつけられた源太郎。
そ~っと様子を伺い、なむなむと両手を合わせる高瀬。
どうやら結構な高さから落ちてきたようなのだが。

「もしかしてご臨終?」
「勝手に殺すな!!」

ガバッツ……!!

ものすごい勢いで起き上がってきた。
よし、元気そうだな。
そのままの勢いでこちらに向かって文句をつけようし、高瀬の方を振り返った瞬間。
源太郎の瞳に浮かんだのは、明らかな戸惑いの色。

「………お、前……おいかわ??だよな?」
「へ?」

源太郎の目が点になってる。
まじまじとこちらを見つめ、「どういうことだ?でも確かにこれはーーーー」と唸っている。
はと一瞬理由を考え、自分自身の足元が視界に入った瞬間、「あ」とすぐさま納得した。

先程と全く同じ、素足のまま落ちてきた源太郎とは違い、高瀬はきちんとした靴を履いている。
しかも、どうみても幼女用と思しき靴を。

自分にとってはあまりにナチュラルなことだったのですっかり忘れていたが……。

「てへ?」

今の私、幼女でしてた。

どうりで源太郎がやたらにでかく見えるなぁと思ったわけだ。

「う―む。引っ張られた時に霊体だけ抜かれたってことかな?」

まぁ、本体ごと連れてこられるよりはましかも知れない。
最悪、見知らぬ山の中に置き去りにされる状況だけは回避されたわけだ。

「っていうかなんで源太郎が一緒に落っこってくんの?しかも生身で」

確かにあの時一番近くにいたのは源太郎だが、追いかけてきてくれたのだろうかと問いかければ、どうやら本人は不本意な様子で。

「蹴り飛ばされたんだよっ!!に!!」
「はい?」

蹴り飛ばされた?って……。

そこのところ詳しくと求めたところ、事の元凶は幼馴染二人であることが判明。

どうも、本来であれば高瀬一人が今の源太郎のように体ごとこちらに連れてこられる筈だったらしく、一番近くにいた源太郎がなんとかそれを阻止しようと動いた所、そこを背後から何者かによって思い切り蹴り飛ばされ、頭から例の触手にダイブ。
その結果、定員オーバーだったのかなんなのか、高瀬の本体は旅館に残され、源太郎はそのままの勢いで体ごとこちらに引きずり込まれて真っ逆さまのフリーフォール。
そして源太郎を蹴り飛ばしたのは誰かという話だが、それはもう言わずもがな。
反射的にそんな行動ができるのはあの場に一人しかいない。

「ありがとうケンちゃん」
「あぁ!?」
「いや何も」

巻き添えになった源太郎はいい迷惑かもしれないが、やはり一人よりは二人の方が心強い。
少々後ろめたい部分はあるが、そこはまぁ源太郎だし。

「あ、そうだピーちゃん!!ピーちゃんはどうなったか知ってる!?源太郎」

ひとまずホッとしたところで、気になるのは可愛い我が家の偽幼女様だ。
あれは一体なんだったのか。

「んなもん、いきなり蹴り飛ばされた俺が知るわきゃねえだろ?……まぁ、本体であるお前が無事ってことは、そう滅多なことはないはずだが」
「そっか………」

それを聞いて少し安心した。

高瀬と、眷属であるピーちゃんは繋がっている。
高瀬が無事であるなら、ピーちゃんもまた無事ということらしい。

「ならきっと、大丈夫だよね………」

どんな状態であれ無事ならきっと、宿に残ったあの二人が保護してくれている事だろう。

「問題はどうしてあんな事になったかだが………。
さっきのあの様子からして、さてはお前らどこかで呪詛を食らってきたな。心当たりはないのか?」

必ずなにか前触れがあった筈だと言われ、思い浮かぶことはあの悪夢。
到底無関係とは思えず、それをそのままを口にする高瀬。

「呪詛ってのはともかく、ここに来る前にゾンビみたいな変な夢は見たよ」
「ーーーー夢、か」

地獄のような光景と、高瀬を守るようにして倒れたピーちゃんの姿はそう簡単に忘れられるものではない。
ざっくり夢の内容を説明すれば、険しい表情で「やられたな」と舌打ちをする源太郎。

「原因は十中八九その夢だ。
ここに来る前から既に介入を受けてたってわけか…。チッ。舐めやがって」

あの夢を見たのはこの場所に来る以前の事。
てっきり、頼我関係のトラブルに巻き込まれる前兆だとばかり思っていたのだが…………。

「…それってやっぱり、例の動画と関係ある……ってことだよね?」
「そりゃそうだろ。こんな場所に引きずり込んでくれる位だからな」

そういって周囲を見渡す源太郎。

「ここってやっぱ………そういうこと?」
「多分な。俺も動画で見ただけだが、恐らく例の塚の近くのはずだ」

問題の動画の主は塚に至るまでの道中もずっと録画を続けていたらしく、景色に見覚えがあるとのこと。


「そういやお前、俺たちをここに引きずり込んだあの妙な腕に心当たりがあるのか?
今回の元凶とは違うようだが、あれ自体とんでもねぇ穢れの塊だぞ」

見ているだけで寒気がしたと訴える源太郎。
ほら見てみろ、と袈裟に隠されていた腕をめくって見せれば、そこにはブツブツの鳥肌が。
どうやら源太郎は霊気に体で反応するタイプの霊能者らしい。

それはともかくとして、だ。

「穢れ、かぁ」

坊主である源太郎から見ると、あの腕はやはりそう見えるのか。
あれが何なのか、今の高瀬に答えられることがあるとしたら、それはただ一つ。

「………あれが多分、さっき話してた弥勒の結縁者とやらの現在の姿、かな」
「は?」

わけがわからないと首をかしげる源太郎に、今度は高瀬が尋ねる番だ。

「源太郎、どっかで「御霊憑き」って言葉、聞いたことない?」

以前に龍一が言っていたセリフ、蛇の道は蛇。
同じ業界人の源太郎ならば、どこかでその言葉を耳にしていてもおかしくはないはず。
そして、その言葉を聞いた源太郎の反応は素早いものだった。

「御霊憑き………って、まさかソイツが結縁者の成れの果てってことか!?」
「………多分、ね」

本人に確認したわけではないし、勿論確実ではないが、今の現状を考えると限りなく黒に近いとは思う。

「やっぱ、源太郎も御霊憑きの話は聞いたことがあったんだ?」
「そっちも噂程度だがな…」

まさかここで関わってくるとは夢にも思わなかった様子。
ついでとばかりに以前に出会った時の状況を説明してやれば、難しい顔で考え込む源太郎。

「永い輪廻の果てにすっかり穢れ果てたってことか……?」
「でも、みゃーこちゃんは悪い子じゃなさそうだったよ?」

頼我のおっさんはともかく、美少女に関してはあまり悪く思って欲しくないな、と思い弁護。
だが、「そもそもそれがおかしい」と源太郎。

「考えてみろよ。なんで御霊とその転生者とが同時に存在することができるんだ?おかしいだろ」
「う~ん?」
「魂が途中で二つに分かれでもしない限り不可能なはずだ」
「そのあたりは私に聞かれても答えようがないけど……」

むしろ本人に聞いたところで、今の高瀬同様、その仕組みを理解しているかどうかは怪しい。
穢れとはいうが、本人には特に何の悪意もなさそうだったし。
巫女さんなんてものをやっていたところを考えても、少なくとも今の彼女はただの人間のはず。

だが。

以前例の修験者から聞いた話だが、神には和御魂と荒御魂、二つの側面があるのだという。
そして本来、「御霊」とは神として祀られた荒ぶる魂を意味する。
だとしたら、魂が二つに分かれたという話も、ありえないことではーーーーーー。

「おい!」
「え?」

考え込んでいたところで、突如源太郎に声をかけられ、はっと顔を上げる高瀬。

「その話は後でもっと詳しく聞かせてもらうが…。
それよりも今問題なのはお前だお前」
「え?」
「霊体なのはともかく、その姿はなんだ」

なんでそんな姿幼女なんだ?と困惑した様子の源太郎に「あれ?」と首をかしげる高瀬。

「あ~、そういえば源太郎には見せたことなかったんだっけ?
なんか妙に理解のあるようなことばっかり言ってるから、てっきりあの二人から聞かされているんだとばかり」

高瀬が今の状態に落ち着いたのは、義務教育を卒業してからの話なので、確かにそれ以前の友人である源太郎が事情を知っているはずはない。
ないのだが、なんだか話の流れ的に、こちらの事情は全て説明済みだと思っていた。

「知らねぇ。あいつら、こんな面白い状況をわざと俺に黙ってやがったな……」

自分だけ除け者にされていたと悔しげな源太郎。

「いや。別に二人ともわざとじゃないとは思うけど……」

なんだか最近、この状況を当たり前のように受け入れてくれる周囲に恵まれてしまったばかりに、はじめましての相手となると逆に対応に困る。
どういうことなんだと言われても、こういうことなんだとしか言いようがないのが事実なので。

「まぁ、高瀬ちゃん覚醒状態的な?」
「覚醒すると幼女になるってのはどういう仕組みなんだ、お前は」
「考えると悲しくなるからとっくの昔に思考は放棄しました」

さすがの高瀬も、こちらが真の姿だとはあまり思いたくない。
精神年齢を反映してるんじゃないか?とは以前何度か言われた覚えがあるが、それも断固否定だ。

「というか、あんまり深く考えたことなかったんだけど」

出来るものはできる、なるものはなる、ただそれだけだとまっ平らな胸を張る高瀬。

「あのなぁ……。考えろ!考えることをやめたら人間は猿一緒だぞ!?」
「幼女から猿って………それもはやスーパーサイ○人」

あれ、私ってもしかして地球外生命帯だったりするのだろうか。
思わずしっぽがあるかどうかを確認してしまったが、当然そんなものがあるはずはない。

「いいか?ふざけんのも大概にしろ。
物事には必ず理由がある。お前がその姿になってんのも、何かしらの理由がどこかにあるはずだぞ?」
「理由?」
「あぁ」

諦めたのか開き直ったのか、真面目な顔でその場にあぐらをかき、指を突き立てる源太郎。

「本来霊体ってのは、そいつの現在の魂の形をそのまま表すもの。
生霊の場合だったら、無意識下で己の望む姿をとってるって可能性もないではないが、どう見ても今のお前は生霊なんて単純な存在じゃない。
だったらなんだって話だが恐らくはーーーーーーーー」
「うん」

恐らくは、一体何なのか。
それは自分でもずっと気になっていたこと。
なぜこの姿になれるようになったのか、自分は一体何なのか。
それは本来、高瀬自身が無意識に考えることを避けていた問題。

真剣な顔で見つめ合う二人。
一瞬のためらいの後、源太郎はあえてその禁忌に触れることを選んだ。

「なぁ及川。お前、本当に人間か?」
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