わらしな生活(幼女、はじめました)

隆駆

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飲んじゃって~吐いちゃって~。

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「そぉれっと……!!」
次に高瀬がとった行動に、主任の目が丸くなる。
「は…!?投げた!?」
ブンブン振り回していた尻尾を偽幼女に向かって投げつけたかと思うと―――――。

シュタタタタタッ!
ぱくんっ。

「!?」
「よっし、狙いばっちり」

一体いつの間に移動していたのか、偽幼女の背後に控えていた白狐は、尻尾を奪い返そうと偽幼女が動いた瞬間、その腕を踏み台にして飛び上がり、いの一番にしっぽに食らいつく。
そして、小さな体に似合わぬほど大きな口を開けたかと思うと、そのまま一口で。
「これぞキャッチ&リリース」
――ちゃんと、元の持ち主に返したわけだ。
白狐が尻尾を飲み込んだ瞬間、ドンッ…!っと、激しい揺れが病室を襲った。
「…!!なんだ!?」
「…お出ましですよ~。使が」
その高瀬の言葉通り。
尻尾を飲み込んだ白狐は、激しく身を震わせたかと思うと、ぐん、ぐんとそのサイズを増して行き、熊ほどのサイズにまで変貌したところで、その真っ赤な瞳を細め、にたりと笑ったように見えた。
言ってはなんだが、神の使いにしては邪悪そうに見える。
まぁ、それだけ鬱憤が溜まっていたということなのかもしれないが…。
恐ろしいまでの霊気を迸らせる白狐は、明らかに様子の変わった偽幼女を睥睨すると、再び大きな口をあけ、その肩口を………。

ゴリッ……!!!

『ぎゃぁぁぁぁぁぁあああ!!!!』

「幸希…!!」
骨を噛み砕かれるあまりにリアルなその音に、思わず室井社長が動く。
「おい、だからあれは偽物だって…!」
静止する主任。そのポケットから落ちたのは、1枚の写真――。


『お…ニイ……チャ………ン……』

ギギギギギッ、っと、まるでブリキの人形のような音をさせて曲がる首。
真っ赤な唇からもれたその声に、室井社長の悲痛な声が上がる。

「やめろ、それ以上やめてくれ…!!」
主任に羽交い締めにされ、身動きがとれないまま、激しく頭を掻き毟る室井社長。

『タ…ス………ケ………』

「幸希……!!!」
「くっっ…そ……馬鹿がっ…っっつ!!」
主任を突き飛ばし、体の自由を取り戻した室井社長がを助けようとそちらに向かって走り出す。
偽幼女の唇が、微かにつり上がったのを、高瀬は見逃さない。
「同情をひいて室井社長を取り込もうったって、そうはいかないっての…!!」
トウッ!っと、お得意の飛び蹴りをかまして、二人の間を引き離す。
「ちょ…!なんで室井の方を蹴り飛ばした…!?」
「的が大きいほうが狙いやすいんですよ、文句言わないっ!」
たん、っと自分だけしっかり着地をし、走り出した勢いのまま反対側のベッドに叩きつけられた室井社長を見る。
「いい大人が、こんな偽物に騙されてどうするんですか?
――――すぐ、本物に会わせてあげますから、大人しく見てて下さいよ」
「……本…物…?」
呆然とつぶやく室井社長。
その目の前で、とうとう白狐が偽幼女の首元に食らいつき、その喉を―――――。
「…!!」
何度偽物と言われても、やはり見るに耐えないのか、目をそらす室井社長。
だが、食いちぎられた喉からほとばしるのは、血液ではなく、どす黒い汚泥のような靄。
まるでそれが本体であったかのように、少女の姿もまたドロドロと溶けていく。
逃げ出そうとするかのようにずるずると後ずさるそれを、白狐がその前足で、バンッ!!っと叩きつける。
後に残ったのは、床についた真っ黒なシミ――。
白狐は満足そうな表情を浮かべ、再び大きく口を開けると、その中から丸い、黄金色に輝く珠のようなものを吐き出した。
そして、用は済んだとばかりに再び元のミニマムサイズに戻り、高瀬の肩の上で平然と毛づくろいを始める。
「…ん。ありがとね」
珠を受け取った高瀬は、それを大切に掌に乗せると、室井社長の前まで持っていき、ふっと息を吹きかけた。
「さぁ…みんなもう、自由だよ」
ポワァァァァア。
その言葉を皮切りに、病室内に暖かな光が溢れる。
その光の中に映るのは、何人もの、何人もの幼い少女の後ろ姿。
誰も、振り返るものなどいない。
長らく帰ることのできなかった家路へ、皆急いで向かうのだろう。

その背中を、眩しそうに見つめる室井社長――――。

「……あれは、かつて室井家で命を落とした少女たちの魂です。
成仏することもできず、利用され、取り込まれていた―――――」
現在高瀬の肩に止まっている白狐こそが、本来室井家が祀っていたのだろう、「正当な」稲荷神。
どんな手段を使ったものか、少女たちの命を使った呪法によって汚され、同じく人の欲の為に利用されていた。
「危なかったですね。
……どうやら、あれは自由になりたがっていたみたいです」
高瀬の言葉に、なんのことだと眉をひそめる二人。
「…あれ…?」
「……さっきまで目の前にいた奴のことですよ。
長いあいだ室井家の為に利用されてきた、呪法の「格」―――――1番最初に、生贄とされた少女の怨念」
あの座敷牢の中の記憶を見せられた時にわかった。
最初に生贄となった少女は、狐憑きとして親兄弟から人買いに売られた霊感持ち。
座敷牢に閉じ込められ、見世物として売られていく手前で、室井家に引き取られていった。
「少女の存在は、ひどく都合がいいものだったんでしょう。室井家は最初、少女を手厚く養育し、何不自由なく育てた」
――――――全ては、来るべき時に贄とするために。
「恩人だと思っていた相手に裏切られ、閉じ込められて殺された少女の怨念、それが先ほどの姿です。
少女は室井の家に利用されながらも、復讐のチャンスをずっと狙っていた。
そして、呪法が一度途絶え、不完全な復活を果たしたことで、少女を縛っていたものの一部も解放され、室井さん――――あなたを取り込もうと動いた」
「…私を…?」
「何を驚いた顔をしてるんですか?そりゃ当然ですよ。憎い相手の子孫で、あなたさえ居なくなれば一族は滅亡、全て万々歳…ってね」
見事、復讐を遂げられる、その予定だったのだろう。
「じゃあ、夢の中に出てきた幸希は……」
「夢?」
主任が訝しげに声を上げる。
「あ、やっぱりそっちにも干渉してたんですね…。
もしかして冥婚を主任に持ちかけたのも、やけに店の拡大を急いだのも、その夢とやらに言われたんじゃありません?」
「………」
「…室井、お前……」
答えない、その沈黙こそが何よりの返答だ。
「幸希さんの魂を使い呪法を壊す、それがアレの目的だったんです」
「…何?」
驚いた顔の主任、そして信じられないと声を発することすらできない室井社長。
「既に穴だらけの呪法。そこで更に幸希さんの魂に外から何らかの力が加わることで、呪法を破壊するきっかけにしようとした。そういうことみたいですね」
だが、その思惑も上手くは行かなかった。
原因はひとつ。
「室井さん、あなた自分と妹さんとの冥婚を行いましたよね」
「なぜそれを……」
呆然と口にする室井社長。
そこであからさまに顔をそらす主任。
「それが失敗の元。たとえ死後であっても、兄妹では冥婚は成立しない」
企みは無駄に終わったわけだ。
しかも、呪法の本体には見知らぬ霊力の持ち主ー高瀬ーが接近し、このままでは再び封印されると感じたアレは、先に室井社長の魂を奪うことを決断した。
妹を思う室井社長の気持ちに、完全につけこんだ形で。
「兄妹では冥婚は成立しませんが、アレはそれを利用して室井社長の魂を妹の幸希さんの…ひいては、自分のもとに引き寄せようとした」

それが、これまでの顛末だ。

「幼馴染は大切にするものですね?」
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