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ライティングは見え方が大切。

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バックライトより、どうせなら女優ライトが欲しいと思う今日この頃。
下からいい感じにレフ板を当ててほしい。
勿論、暗闇で懐中電灯を顔の下に当てる感じじゃなくて。

「というか、その光ってるってなんなんですかね…?」
「私に聞かないでよ…!!」
そう言われても、そもそも言いだしたのはあなたでは。
「……込み入った話になりそうです?」
「少しくらい先輩の顔を立てたらどうなのっ!!」
あからさまに面倒くさいオーラを発したのがバレたか、きっとこちらを睨みつける矢部先輩。
しかたない。だって面倒くさそうなんだもの。
どうしようかなぁと考えていた、その時だった。
「及川さん?」
「あ、中塚先輩」
どうやらなかなかやってこない高瀬を気にしてこちらまで迎えに来てくれたらしい。
矢部先輩、中塚女史の姿を見るなりぎょっとした表情で顔が引きつったな。
その視線の先を追えば、中塚女史の肩口で休む白狐の姿が。
うん、やっぱりこの人見えてる。
別にそこまで怯えるようなものでもないのになぁと思いながら…。
「あの、矢部先輩……」
「…やっぱりいいわ!!また後で声をかけるからっ……!!!」
声をかけようとしたところで、それをぶった切るように脱兎のごとく逃げ出していく矢部先輩。
「……なぁに、あれ?」
まるで怯えているようなその態度に首をかしげる中塚女史。
「さぁ、なんでしょう…」
とりあえず、いつも通りしらばっくれることにした。

              ※
その後、中塚女史との昼食が終わったあとも矢部先輩は随分なにか言いたげにしていたのだが…。
「無視して帰ってきちゃいました、てへぺろ!」
「……その報告を俺にしてどうしろって言うんだ…?」
「”ほうれんそう”は大事かな、と思いまして…」
まずは報告、連絡、相談だ。
私の現在の上司は部長、すなわち部長に相談するのは正しいビジネスマナーです。
「というか、私が光ってるっていうくらいなら部長もきっと光ってると思うんですよね~。
なにしろ観音様レベル―――」
「まだその話を忘れてなかったのか…」
ええ、もちろんです。
一度気に入った話題はテコでも離しませんよ。
「しかし、光ってるねぇ…。一体どういうふうに見えてるのかちょっと興味あるよね?」
いっそ今ここに呼んで聞いてみる?とノリノリの主任。
完全に好奇心だけで動いているのがまるわかりだ。
「流石にこのメンバーに待ち構えられてたら逃げるんじゃありません?」
「逃げられないように追い詰めるのが楽しいんじゃない」
そう言って笑う主任。
アテンション!皆さんここに愉快犯がいます。
「なにか相談があるって言うんならここで聞いてあげれば?無理そうなら俺たちが断ってあげてもいいし」
「主任、虎の威を借る狐って言葉知ってます?」
「知ってるけど貸してくれるって言うんだから別にいいでしょ」
ここは素直に狐になれと。
うむ。考えないでもない。
確かにこのままずっともじもじ見つめられても困るしなぁ…。
「んじゃ、呼んでくる?まだ事務所の方に残ってるはずでしょ」
「え、今すぐですか!?」
「もち」
ぐっと親指を立てた主任。
笑顔で備え付けの電話をとると、事務所に残る社員に内線をかける。
「あ、もしもし?相原だけど。
そこに矢部君ってまだいるかな?いるようだったらちょっと頼みたいことが有るんで谷崎部長の部屋まできて欲しいんだけど」
そこで話が通じたのか、電話を切り、くるりと振り返る主任。
「オッケー!今から来るってさ」
「うわぁ…」
トントン拍子に話が進んでちょっと怖い。
「あの、部長……?なんか主任が勝手に話を進めてますけどこれいいんですか?」
「………」
「大丈夫大丈夫!だってほら、何も文句を言ってこないだろ?ってことはOKだってことだよ!」
「えぇ~…」
だからなんでそんなに楽しそうなんですか、主任。
他人事だと思って!!
「折角だからちょっと…」
悪巧みを思いついた主任に、こそこそと耳打ちされ、「え~」と声をあげる高瀬。
いいの?それやっちゃっていいの?

そしてその数分後―――――。
「きゃぁぁぁぁ!!!!」
「お、きたきた」
嬉しそうに声を上げる主任。
犯人は、さきほどポケットから意気揚々と出て行った悪戯ハムスターだ。
「ハムちゃんを囮にって……完全に遊んでますね」
「そりゃ娯楽だろ」
「うわ、とうとう本音を!」
でもちょっと面白いと思ったのは私も同じなのでこれ同罪だろうか。
トントンッ…。
「や…矢部ですがっ……!!」
「いいよ、入って~」
声が完全にうわずっているのに気付かない振りをしつつ、平然と入室を促す主任。
部屋に入ってすぐ、部長を見て顔を引きつらせる矢部先輩。
その横には当然ながらアレク君の姿が。
そして横を向いたところで高瀬の存在にようやく気づき、訝しげな表情を見せる。
けれどこの場で文句を言えるはずもなく。
「あの、なにか…ご要件があるとお伺いした…のですが」
一生懸命、アレク君の存在を視界に入れないように努力しながら喋る矢部先輩。
ちょっと涙ぐましい。
「ごめんごめん、呼んだのは俺なんだ」
「相原主任…ですか」
主任の方を向きなおし、ちょっとホッとしたような様子。
まぁ、今の主任には何もついていないからだろう。
「どのようなご要件で…?」
「うん、ちょっと聞きたいことがあって」
「それはどのよう……ヒィ」
――――これこれ、やめなさいハムちゃん。
こっそり戻ってきてポケットに入ってくるのは構わないけど、見られてるから。
むしろ見せつけるのはやめてあげてって何度もいったでしょ!
「お、及川さん、あなた…!!」
「ん?なにかな、矢部君」
「…い、いえ…」
彼女の目には真っ黒何かが高瀬の胸元を駆け上がっていったかのように見えたのだろうが、ご心配なく。
ただの可愛いハムスター(霊)です。
部長は当然として、主任にもまだその姿は見えているはずなのだが、あえての見ないふり。
矢部先輩はもはやガクブル状態だ。
「……主任、流石に罪悪感が」
小声でぼそっと囁けば、「これからいいところだから」という鬼畜ぶり。
「あの…?」
「いや、なんでもないよ、こっちの話」
一体何の要件で呼ばれたのか、だんだん不安になってきたのだろう。
助けを求めるように、その顔をきょろきょろとさまよわせる。
だが残念。
この場にいるのは鬼畜と無神経と無関心のトリオです。
どうでもいいけど部長、先程から一言も口を聞きませんね。
「んじゃ、早速なんだけど、本題に入っていい?」
「は、はい…!」
ようやく仕事の話かと安心した矢先。
炸裂した鬼畜の爆弾に、高瀬だけでなく、無関心を貫き通した部長までもがぎょっと目を見開いた。
「君、及川くんの事が光って見えるんだって?うちの谷崎はどう見えてるのか、ついでに教えてくれるかな」

―――――本題ってそれですか、主任!!!!!
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