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ママは僕がご飯を食べただけなのに、物凄く褒めてくれた。
それがとても嬉しかった。僕は勇気を出してママにお礼を言った。
「ご飯を食べただけなのに、褒めてくれてありがとう。」
「いいのよ。リョウが食べてくれるのを、当たり前な事だと思っていたけど、それは当たり前な事じゃなかった。その事に気付かせてくれてありがとう。」
「ママのご飯は、世界一美味しいよ。なのに、今まで食べられなくてごめんなさい。」
「リョウが悪い訳じゃないわ。それに、世界一美味しいなんて、言ってくれてありがとう。」
「僕は今まで、ありがとうがあまり言えていなかった気がするよ。」
「そうねぇ。初めて出来た出来事はどれも最初は新鮮で、自然にありがとうって言えていたのに、いつの間にかそれが当たり前になっていたから。本当はどんな事だって当たり前じゃないのにね。」
これをきっかけに、僕の家はありがとうブームになった。
「学校に行けなくなったのに、優しくしてくれてありがとう。」
と僕が言うとパパも、
「リョウのお陰で、この家が何だか温かい雰囲気になったよ。ママが以前よりも優しくなった。リョウ、ママ、本当にありがとう。」
「パパも会社で、今までと変わりなく過ごしてくれてありがとう。パパがどっしりと構えてくれているから、私はリョウを支えて行けるのよ。本当にありがとうね。」
「ありがとうって、こんなに温かい言葉だったんだね。もっと積極的に使えば良かった。パパ、ママ。ありがとう。」
「リョウ、もう一生登校拒否でもいいよ。仕事ならお父さんがリモートワークを取って来てあげるから。」
「パパ、いくら何でもそれは困るわ。」
「こんな時くらい、過保護にしてもいいだろう。」
僕は何だか、笑いたくなってしまった。パパとママが、実はこんなに優しい人達だった事が、泣けちゃうほど嬉しかった。そして、いつの間にか学校での嫌な事は忘れて行った。
とある日曜日家族で、近くの公園にピクニックに出掛けた。
僕が大好きな、耳なしで柔らかい、色々な具材を使った、ミックスサンドイッチとジンジャーオレンジティーだ。初夏の風が気持ち良かった。パパが僕に問いかけた。
「外は気持ちいいね。リョウはどう?」
「うん。久しぶりに外に出たけど、こんなに外の風が気持ちいいとは思わなかったよ。空気が美味しい。」
遠くの観光地まで行かなくても、久々の外は本当に空気が美味しかった。
学校は休んでいるけれど、スクールカウンセラーの先生が、非常に優秀な人なんだそうだ。よろず駆け込み寺として、常駐している保健室の先生と、心療内科の先生、担任の先生との架け橋になって、上手に連携を取ってくれているそうだ。
「とにかく心行くまで家族の絆を深めて下さい。」
というのが、話し合いで決まった治療方針だった事を、後から心療内科の先生に聞かされた。
クラスの雰囲気を変える前に、家庭内の雰囲気をまずは変える事で、何でも安心して、話し合える雰囲気作りをする方が、遠回りのようで実は近道なのだそうだ。
「君のケースは、とてもツイているケースだよ。ご両親自らが、ご本人自身のカウンセリングを受けられた。君に問題を押し付けずに、カウンセリングに協力してくれる事は、滅多にないケースなんだ。良かったね。」
僕の心は何故だか知らないけど、じーんと温かくなった。
そして、ピクニックに行けた事を心療内科の先生に報告したら、次は毎日散歩に出かけるという課題に変わった。
僕はママと一緒に毎朝散歩に出かける事にした。ゴミ出しのついでに町内を一周する簡単な散歩だ。心療内科の先生からは、
「そんなに長く歩かなくてもいいから、毎日続ける事が大事です。」
と言われ、最初はママが同伴した。生活習慣を変えるのは大変な事を理解したママは、僕が自分から、
「もう、一人で散歩に行かれるから、大丈夫だよ。」
と言うまで、辛抱強く付き合ってくれた。こうして、僕は毎朝の散歩が習慣になった。
そうやって散歩が習慣付くと、少し遠くまで行きたくなって来た。しかし、僕の散歩の習慣が、崩れてしまう出来事が起きた。
「ちょっとだけ学校に寄ってみようかな。」
と、怖いもの見たさと懐かしさが入り混じった気持ちで、学校に近づいたら、一番会いたくない奴と出くわしてしまった。僕の心を折った転校生、名前はカイトだという事を、登校拒否中に、ママとスクールカウンセラーさんとの会話から、何となく知ってしまっていた。
「・・・カイト・・・。」
カイトと目が合った瞬間、僕の体から血の気が引いた。と、同時にそのまま踵を返した。カイトが何か話しかけた事を背中で感じたが、拒絶感からそのまま振り向く事なく全速力で逃げた。
それがとても嬉しかった。僕は勇気を出してママにお礼を言った。
「ご飯を食べただけなのに、褒めてくれてありがとう。」
「いいのよ。リョウが食べてくれるのを、当たり前な事だと思っていたけど、それは当たり前な事じゃなかった。その事に気付かせてくれてありがとう。」
「ママのご飯は、世界一美味しいよ。なのに、今まで食べられなくてごめんなさい。」
「リョウが悪い訳じゃないわ。それに、世界一美味しいなんて、言ってくれてありがとう。」
「僕は今まで、ありがとうがあまり言えていなかった気がするよ。」
「そうねぇ。初めて出来た出来事はどれも最初は新鮮で、自然にありがとうって言えていたのに、いつの間にかそれが当たり前になっていたから。本当はどんな事だって当たり前じゃないのにね。」
これをきっかけに、僕の家はありがとうブームになった。
「学校に行けなくなったのに、優しくしてくれてありがとう。」
と僕が言うとパパも、
「リョウのお陰で、この家が何だか温かい雰囲気になったよ。ママが以前よりも優しくなった。リョウ、ママ、本当にありがとう。」
「パパも会社で、今までと変わりなく過ごしてくれてありがとう。パパがどっしりと構えてくれているから、私はリョウを支えて行けるのよ。本当にありがとうね。」
「ありがとうって、こんなに温かい言葉だったんだね。もっと積極的に使えば良かった。パパ、ママ。ありがとう。」
「リョウ、もう一生登校拒否でもいいよ。仕事ならお父さんがリモートワークを取って来てあげるから。」
「パパ、いくら何でもそれは困るわ。」
「こんな時くらい、過保護にしてもいいだろう。」
僕は何だか、笑いたくなってしまった。パパとママが、実はこんなに優しい人達だった事が、泣けちゃうほど嬉しかった。そして、いつの間にか学校での嫌な事は忘れて行った。
とある日曜日家族で、近くの公園にピクニックに出掛けた。
僕が大好きな、耳なしで柔らかい、色々な具材を使った、ミックスサンドイッチとジンジャーオレンジティーだ。初夏の風が気持ち良かった。パパが僕に問いかけた。
「外は気持ちいいね。リョウはどう?」
「うん。久しぶりに外に出たけど、こんなに外の風が気持ちいいとは思わなかったよ。空気が美味しい。」
遠くの観光地まで行かなくても、久々の外は本当に空気が美味しかった。
学校は休んでいるけれど、スクールカウンセラーの先生が、非常に優秀な人なんだそうだ。よろず駆け込み寺として、常駐している保健室の先生と、心療内科の先生、担任の先生との架け橋になって、上手に連携を取ってくれているそうだ。
「とにかく心行くまで家族の絆を深めて下さい。」
というのが、話し合いで決まった治療方針だった事を、後から心療内科の先生に聞かされた。
クラスの雰囲気を変える前に、家庭内の雰囲気をまずは変える事で、何でも安心して、話し合える雰囲気作りをする方が、遠回りのようで実は近道なのだそうだ。
「君のケースは、とてもツイているケースだよ。ご両親自らが、ご本人自身のカウンセリングを受けられた。君に問題を押し付けずに、カウンセリングに協力してくれる事は、滅多にないケースなんだ。良かったね。」
僕の心は何故だか知らないけど、じーんと温かくなった。
そして、ピクニックに行けた事を心療内科の先生に報告したら、次は毎日散歩に出かけるという課題に変わった。
僕はママと一緒に毎朝散歩に出かける事にした。ゴミ出しのついでに町内を一周する簡単な散歩だ。心療内科の先生からは、
「そんなに長く歩かなくてもいいから、毎日続ける事が大事です。」
と言われ、最初はママが同伴した。生活習慣を変えるのは大変な事を理解したママは、僕が自分から、
「もう、一人で散歩に行かれるから、大丈夫だよ。」
と言うまで、辛抱強く付き合ってくれた。こうして、僕は毎朝の散歩が習慣になった。
そうやって散歩が習慣付くと、少し遠くまで行きたくなって来た。しかし、僕の散歩の習慣が、崩れてしまう出来事が起きた。
「ちょっとだけ学校に寄ってみようかな。」
と、怖いもの見たさと懐かしさが入り混じった気持ちで、学校に近づいたら、一番会いたくない奴と出くわしてしまった。僕の心を折った転校生、名前はカイトだという事を、登校拒否中に、ママとスクールカウンセラーさんとの会話から、何となく知ってしまっていた。
「・・・カイト・・・。」
カイトと目が合った瞬間、僕の体から血の気が引いた。と、同時にそのまま踵を返した。カイトが何か話しかけた事を背中で感じたが、拒絶感からそのまま振り向く事なく全速力で逃げた。
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