僕の一番長い日々

由理実

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「人の宿題を盗んで提出した疑いがあるんだから、そこは優しさじゃなくて、理論的な検証が必要だよね。犯罪者はこういう可哀想な人だから、無罪にして優しくしましょうじゃ、困るでしょう。」
僕はカイトを集団でロジハラ扱いして、ひたすら人情に訴え掛ける屁理屈に、反吐が出た。

ここまで行くと、ロジハラ・ハラスメントという定義もまた必要だ。
クラス担任が、偏った人道主義者で、障害者=可哀想=やりたい放題を許せ。これがカイトのクラスの中での恐怖政治だったのだ。怖すぎると思った。

「事件が起きました。犯人は見苦しい言い訳をしました。罪は認めません。嘘の謝罪をしました。折角謝ってくれたのに、許さずに本当の事を言わせようとする事は、何があっても悪です。相手は障害者なので何をしようが、可哀想だから許す事が良い事なのです。それが出来ずに追及した、刑事は首になりました。めでたしめでたし。なんて、そんな推理小説は読みたくないよね。〇〇は人の同情を買うのだけは、しょうもない程上手い奴だったから。」
いわゆるマニピュレーターか。恐ろしや。

「人の物を盗んだ疑いがある以上、初めに同情ありきは無理があるよね。」
カイトの元いたクラスの治外法権ぶりに、僕はほとほと呆れた。
クラスという密室の中で、担任の偏った人格から、そんな狂気の世界が繰り広げられていたとは。そんな偏った人道主義は単なる偽善でしかないだろう。

「元カルト宗教団体の元教祖で、やり過ぎて死刑になっちゃった人も、障害者だったよね。障害者=人格者とか弱者っていう括りも、いい加減に辞めた方が良いと思う。
善良で立派な障害者の方々には、迷惑この上ない話だとは思うけど、心の歪んだ人間が出て来る確率論から言えば、障害の有無は関係ないと思う。このバイアスに気が付かないと、ヤバいでしょう。」
と、カイトが分かり易い例を持ち出した。こんな当たり前な常識が、1対大勢という図式になると言えなくなる。
人が作り出す洗脳の空気の恐ろしさだ。

「それに、日頃からかまってちゃんで、受動攻撃が酷くて、ちっとも優しくなかったんでしょう?」
漫画のネームと違ってややこしいが、上記は僕の発言だ。
「目立ちたがり屋で、かわい子ぶりっ子で、心のない謝罪だけは得意だったけど。先生や学級委員長には擦り寄って行ってた。」
これはカイトの発言。

「人によって態度をコロコロ変える奴ね。で、この人は自分の思い通りにならないと思うと、誰かしらを味方に付けておいた上で、毒を盛るようにネチネチやるんだ。嫌な女だ。」
これ僕。
「謝る事があっても、心からとして反省してる訳じゃなくて、自分の利害をに計算して、自分の立場を守る為だけに謝罪するんだよ。」
と、カイト。全くどちらがロジハラなのか。

「それにしても、君の担任の先生の、えこひいきぶりも酷いなぁ。病的だよ。どこにでも嫌な奴っているけど、そこまでやりたい放題させるとは、本当に異常なクラスだったね。ところで、何で他のクラスのワンピースを盗まれた女の子は、君の肩を持ってくれなかったの?」
「俺が期待し過ぎたんだよ。詰めが甘かった。受動攻撃を受けていた他の連中も、急に〇〇さんは良い人なのに、カイトに虐められて可哀想!って言って泣き出すし。」

いじめは1対大勢により行われる。群れから孤立したらアウトだ。せめて彼に1人でも味方がいれば、案外立場をひっくり返せるのだが、腹黒い奴は、とにかく裏で糸を引いてじわじわと孤立させて行く。そこに正義などない。正義と言う筋道の通った手続きを取りたくないから、正義を嫌うのだと思うけど。

冷静に指摘しろ。という最終解決方法も、こうやって、ロジハラ・ハラスメントで封印されてしまう。現代は何でもかんでもハラハラ言い過ぎだと思う。
一人一人に蹴りを入れて来い!という、荒っぽいアドバイスもあるが、傷害罪で告訴されるが関の山だ。
嫌がらせの手練れは、どんな手段を使ってでも裁判で勝てるように、自分に有利な判決に導いてくれる弁護士を、雇う為に金策に走る。

この情報化社会には、自分を幸せにする為の情報もあるが、嫌がらせの手練れの脳内には、こうした悪質な高等テクニックが引き寄せられて行く。
こんな産業廃棄物を相手に、出来る対策は何もない。おかしな人間だと思ったら、ただひたすら逃げろだ。
それに、これからは組織の時代ではなく、個の時代だと言われている。人のふんどしで相撲を取っても許される、組織依存型の人間は、淘汰される事を願いたい。
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