僕の一番長い日々

（10）

「だけど、ワンピースを盗まれた子はいい迷惑だったよね。一から新しい作品を作らされて。何で証言してくれなかったのだろう。僕の方こそ、彼女の意見が聞きたかった。」
「後で知った話なんだけど、ワンピースを盗まれた女の子は、俺を陥れたあいつに、あのあと秒で、口封じされていたんだ。俺を陥れた奴とワンピースを盗まれた女の子は、ラインの裏垢で繋がっていた彼女らしい。二人の交際の事は誰も知らなかったけど。」

「つまり、奴は君を貶める為に、彼女を操っていたって事？」
「そういう事だ。全ては仕組まれていたんだ。俺の何が気に入らなかったのか知らないけど。」
「君、ギター上手いから。」
「そこ？」

「多分。僕も初めて聞いた時、クラスで馴染むのにこの手があったか。って思った。」
「俺にとっては単なるお守りだし、ここぞという時は、ギターを弾いて精神統一するんだ。受験の時と運動会以外はね。その日も早朝から屋上で弾いててね。あの頃はクラスの狂った空気にすっかり参っていて、ギターなしには居られなくて。」
「で、謎の早朝登校を目撃してしまったと。」
「うん。ギターを仕舞って下に行ったら、他のクラスから洋服を抱えた〇〇を目撃してしまった。」
「それで事件に巻き込まれたが、ワンピースを盗まれた女の子は奴に口止めされたんだ。」
「恋は盲目だよね。」
「全く、僕とそんなクズを一緒にしないでよ！」
「君があまりにもフレンドリーに声を掛けて来るものだから・・・。ごめん。本当にごめんなさい！」
「もういいよ。そいつもフレンドリーで、僕もフレンドリーだと思ったんだね。君に声を掛けるには、実は結構勇気がいったんだけどな。」
「本当に申し訳ありませ～ん！」

僕とカイトが早速、先ほどの話の続きに花が咲いているのを、僕たちの親達がニコニコと頷きながら微笑んでいた。
僕たちはきっと、良い友達になれると思った。

二人はすっかり打ち解けたが、いきなり登校する前に、人との信頼関係回復の為のリハビリとして、カイトが毎日お見舞いに来てくれるようになった。

カイトは、僕が学校にいない間に、スクールカウンセラーの先生が、どういう措置をしてくれたのかを語ってくれた。

僕達の今後の事は、学校と心療内科の先生と、僕らの家族で連携を取り合いながら、極秘でケアしていく事にしたので、カイトが普通に学校に来れるように、学校のクラスのみんなには、僕は事故の怪我で入院中で、家族以外は面会禁止だと病院側から説明されていると話した。幸い、命に別状はないけれど、回復するのがいつになるかは、決まっていない。大体3か月～半年くらいになるだろうと、説明してくれたらしい。

カイトに対しては、
「みんな仲良くとは行かない現実の中で、実際に揉め事が起こった今、内情は誰にも秘密で押し通す事。」
というルールを約束させられたらしい。僕の登校拒否とは無関係な体ていで、これからも楽しい学校生活を普通にエンジョイしてくれれば、悪いようにはしないが、
「前の学校でされた事のリベンジをした場合には、先生は君を守り切れない。」
と、釘を刺したそうだ。

カイト自身も、
「そんな酷い事はしないし、自分の言動が彼を追い詰める結果になって、本当に申し訳ありません。」
と、謝ってくれたそうだ。
リョウの登校拒否の問題は、まずは家族間で解決する事が最優先なので、今のカイトには、自分自身の問題と向き合って過ごして欲しいと話してくれたらしい。
最悪、リョウの救済が上手く行かなかった場合も、中立の立場を守る事と、原因が自分である事を口外せずに、重大な秘密として、一生背負う覚悟を課されたそうだ。

それでも、両者が和解できるように、大人同士のネットワークを通じて取り組むので、安心して大人達を信じて、何事も無かったかのように、日々を淡々と過ごして欲しいという事。
今回の出来事は、二人が大人になった時に、将来の財産になるから、一つ一つの出来事を噛み締めて毎日を大切に過ごし、今後の人生の参考にして欲しい事などの説明を受けたと聞かされた。

そして、僕たちの問題が解決して、ほとぼりが冷めた時に、次年度のクラス替え前のタイミングで、この一件について、それは遠い世界で起こった出来事として、いつ誰の身の上に起こって来るか分からない事として、もしそういう事に巻き込まれた場合、災害に遭った時や伝染病にかかった時と同じように、「逃げる勇気」と「緊急避難先」を確保して欲しい。という話をしたいがいいか？と打診されたそうだ。