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スクールカウンセラーの先生のお陰で、誰も傷つく事なく今回の問題は解決できそうだ。
昭和の時代は、どんな困難のさなかにあっても、「立ち向かう勇気」と「忍耐する心」と言われていて、苦しむ人が沢山いたらしい。カイトの担任の先生も、昭和の価値観に支配されて抜けきれない可哀想な人なのかもしれない。
そこから先は本当に他愛ない話を沢山した。今ネットで流行っている事や、人気のあるアニメや流行の歌の話などだ。流行の歌の話から派生して、僕の大いなる誤解と思い込みの真実を、カイトの口から直接、知る事となった。
「ところでさ、リョウ。君、何か物凄い勘違いをしているよ。」
「勘違い?」
「みんなが君を仲間外れにしたと思い込んで、登校拒否になっちゃっただろ?」
「うん。」
「俺はあの時、君と仲直りをする為に弾いていたんだけどな。」
「ふーん。」
カイトの一人称は普段は「俺」らしい。僕はまだ無理かな。
普段から、誰の前でもいつも僕だもんな。
だけど、僕は僕で良いと思った。
そして僕は、八方美人を辞める事にした。嫌な事は嫌でいいんだ。心の中で「嫌だ。」って言っていればそれで良いんだ。と思った。掃除当番を押し付けられた時には、
「ごめん。僕は今、マジで高校進学が危ないので、掃除の肩代わりは出来ないんだ。」
と言ってみたら、
「そうだよな。ずっと休んでたからな。なんか、ごめんな。悪く思うなよ。」
と、案外素直に受け入れてくれた。登校拒否さまさまだ。
僕は再び、カイトがあんなにスラスラと、器用にギターを弾けていたのが凄いと思ったので、
「カイトはバンドマンになって、メジャーデビューとかを夢見ているんじゃないの?」
と、正直に聞いてみた。すると、
「そんな訳ないでしょう。俺よりも腕が良い、アマチュアの人なんてゴロゴロいるから、とうの昔にそんな夢は諦めてるよ。」
「ふーん。そうなんだ。」
「ギターはいつも言っている通り、あくまでも俺の心のお守りだよ。実はリョウに冷たい態度を取っちゃったあの日、もしかしたらリョウは全然違うタイプの人間かもしれないのに、俺はどうかしてた、どうしようって思った。だから、みんなより1時間早く学校に行って、ギターを弾いて心を鎮めてリョウに謝ろうと思ったんだ。」
僕もカイトと臆病な所は同じなんだと思った。勿論、カイトの境遇を理解した今、カイトの気持ちは痛い程分かる。カイトとならば、話せば分かり合える自信がついていた。
「そうしたら、部活終わりのクラスのみんなが入って来て、弾くのを辞めようとしたら、みんなから『辞めないで。』って言われて。色々とリクエストされて、カラオケ状態になっちゃってね。」
「そうなの?」
「うん。俺のギターをカラオケ代わりに盛り上がっちゃって・・・。そうしたら、リョウが不機嫌そうに出て行く場面を見て、『ヤバい』って思った。それから学校を休んじゃったから、どうしようって思った。」
「そうなんだ・・・。」
「俺がリョウにきつい事を言っちゃったから、本当は俺が悪いのに、もう怖くなっちゃって言い出せなくなってしまって。いじめやぼっちは2度とごめんだって思って。知らんぷりしててごめんなさい。君を深く傷つけてしまった。」
「先生にもそうしろって言われたんでしょう。だから良いよ。」
「ごめんなさい。先生の指示のお陰で、内心ホッとしたのも事実だから。」
「もしかしたら、僕が学校に顔を出したあの時に、目が合ったよね。やっぱりカイトが話しかけてくれたの?」
「うん。謝るならここがタイミングだと思って。だけど、怖かったよね。君にしてみれば、ただの怖い人にしか思えないもんね。ごめんね。怖がらせて。」
「もういいよ。そんなに何度も謝らなくて。やっと君の真意が伝わって、本当に良かった。」
「実は俺の家近所なんだ。これからは、リョウの家まで迎えに行くから、一緒に学校に行かないか?でも、いきなり感があり過ぎかな?」
「たまたま病院の食堂で知り合って、そうとは知らずに、何度も一緒にご飯を食べてて親しくなった。っていうのはどう?」
「そうだねぇ。病院の食堂の食事って、安いけど美味しいよね。うちのおじいちゃんが入院していて、お見舞いに行った帰りに、よく連れて行ってもらったけど、密かな楽しみだったな。勿論、おじいちゃんが可哀想だったのは言うまでもないけど。」
そういう訳で、僕達は相互理解を深めて、お互いの心の傷を一緒にリハビリしていく過程で、すっかり仲良くなった。こうして僕達はその後も変わらずに、何でも話せる親友になり、二人で第一志望の高校、大学に合格し、卒業するまで楽しく学んだ。
登校拒否といじめを乗り越えた僕達は、年代ごとに色々な人達と有意義な関わりを持ちながらも、二人の絆は揺るぎないものになって行った。僕達のパパとママ達もすっかり仲良くなって行った。
実は、カイトのご両親も、カウンセリングを受けられたそうだ。自立した人間同士が信頼の絆を深めて、心に安心感のある、深く幸せな関係を持てるようになった。
就職先の企業こそ違えど、結婚して家族を持ってから後も、家族ぐるみの付き合いで、いつまでも仲良く生きて行ったのだった。
(終わり)
昭和の時代は、どんな困難のさなかにあっても、「立ち向かう勇気」と「忍耐する心」と言われていて、苦しむ人が沢山いたらしい。カイトの担任の先生も、昭和の価値観に支配されて抜けきれない可哀想な人なのかもしれない。
そこから先は本当に他愛ない話を沢山した。今ネットで流行っている事や、人気のあるアニメや流行の歌の話などだ。流行の歌の話から派生して、僕の大いなる誤解と思い込みの真実を、カイトの口から直接、知る事となった。
「ところでさ、リョウ。君、何か物凄い勘違いをしているよ。」
「勘違い?」
「みんなが君を仲間外れにしたと思い込んで、登校拒否になっちゃっただろ?」
「うん。」
「俺はあの時、君と仲直りをする為に弾いていたんだけどな。」
「ふーん。」
カイトの一人称は普段は「俺」らしい。僕はまだ無理かな。
普段から、誰の前でもいつも僕だもんな。
だけど、僕は僕で良いと思った。
そして僕は、八方美人を辞める事にした。嫌な事は嫌でいいんだ。心の中で「嫌だ。」って言っていればそれで良いんだ。と思った。掃除当番を押し付けられた時には、
「ごめん。僕は今、マジで高校進学が危ないので、掃除の肩代わりは出来ないんだ。」
と言ってみたら、
「そうだよな。ずっと休んでたからな。なんか、ごめんな。悪く思うなよ。」
と、案外素直に受け入れてくれた。登校拒否さまさまだ。
僕は再び、カイトがあんなにスラスラと、器用にギターを弾けていたのが凄いと思ったので、
「カイトはバンドマンになって、メジャーデビューとかを夢見ているんじゃないの?」
と、正直に聞いてみた。すると、
「そんな訳ないでしょう。俺よりも腕が良い、アマチュアの人なんてゴロゴロいるから、とうの昔にそんな夢は諦めてるよ。」
「ふーん。そうなんだ。」
「ギターはいつも言っている通り、あくまでも俺の心のお守りだよ。実はリョウに冷たい態度を取っちゃったあの日、もしかしたらリョウは全然違うタイプの人間かもしれないのに、俺はどうかしてた、どうしようって思った。だから、みんなより1時間早く学校に行って、ギターを弾いて心を鎮めてリョウに謝ろうと思ったんだ。」
僕もカイトと臆病な所は同じなんだと思った。勿論、カイトの境遇を理解した今、カイトの気持ちは痛い程分かる。カイトとならば、話せば分かり合える自信がついていた。
「そうしたら、部活終わりのクラスのみんなが入って来て、弾くのを辞めようとしたら、みんなから『辞めないで。』って言われて。色々とリクエストされて、カラオケ状態になっちゃってね。」
「そうなの?」
「うん。俺のギターをカラオケ代わりに盛り上がっちゃって・・・。そうしたら、リョウが不機嫌そうに出て行く場面を見て、『ヤバい』って思った。それから学校を休んじゃったから、どうしようって思った。」
「そうなんだ・・・。」
「俺がリョウにきつい事を言っちゃったから、本当は俺が悪いのに、もう怖くなっちゃって言い出せなくなってしまって。いじめやぼっちは2度とごめんだって思って。知らんぷりしててごめんなさい。君を深く傷つけてしまった。」
「先生にもそうしろって言われたんでしょう。だから良いよ。」
「ごめんなさい。先生の指示のお陰で、内心ホッとしたのも事実だから。」
「もしかしたら、僕が学校に顔を出したあの時に、目が合ったよね。やっぱりカイトが話しかけてくれたの?」
「うん。謝るならここがタイミングだと思って。だけど、怖かったよね。君にしてみれば、ただの怖い人にしか思えないもんね。ごめんね。怖がらせて。」
「もういいよ。そんなに何度も謝らなくて。やっと君の真意が伝わって、本当に良かった。」
「実は俺の家近所なんだ。これからは、リョウの家まで迎えに行くから、一緒に学校に行かないか?でも、いきなり感があり過ぎかな?」
「たまたま病院の食堂で知り合って、そうとは知らずに、何度も一緒にご飯を食べてて親しくなった。っていうのはどう?」
「そうだねぇ。病院の食堂の食事って、安いけど美味しいよね。うちのおじいちゃんが入院していて、お見舞いに行った帰りに、よく連れて行ってもらったけど、密かな楽しみだったな。勿論、おじいちゃんが可哀想だったのは言うまでもないけど。」
そういう訳で、僕達は相互理解を深めて、お互いの心の傷を一緒にリハビリしていく過程で、すっかり仲良くなった。こうして僕達はその後も変わらずに、何でも話せる親友になり、二人で第一志望の高校、大学に合格し、卒業するまで楽しく学んだ。
登校拒否といじめを乗り越えた僕達は、年代ごとに色々な人達と有意義な関わりを持ちながらも、二人の絆は揺るぎないものになって行った。僕達のパパとママ達もすっかり仲良くなって行った。
実は、カイトのご両親も、カウンセリングを受けられたそうだ。自立した人間同士が信頼の絆を深めて、心に安心感のある、深く幸せな関係を持てるようになった。
就職先の企業こそ違えど、結婚して家族を持ってから後も、家族ぐるみの付き合いで、いつまでも仲良く生きて行ったのだった。
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