Alastor-アラストル-

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王都

Ç'est une urgence ~やっちまったな~

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シルフィアが良ければの話だけど……僕達と組まないかい?」

 カインの申し出にシルフィアは考え込む。今日出会ったばかりで急に言われたらば当然の事だ。
「それは有り難かけど、何でワタシなん?」

 シルフィアの疑問は最もだ。その問いにカインが答える。
「ローベルトと話したんだけど、僕達は3人だけど実質戦うのは2人なんだ。
 まず、僕が前衛でアニエスは後衛。ローベルトはその後方から作戦を練ったり指示を出す軍師だね。
 ローベルトとアニエスの護衛はどうしても僕1人だと間に合わない……だから剣士のシルフィアが必要なんだ。」
 そう言ってシルフィアの瞳を真っ直ぐに見つめる。

「そういうことね。
 誘ってくれるのは嬉しかけど、返事はもう少し待ってくれん? 嫌って言うてるとやなかとよ!」
 流石に出会ったばかりで決断するには躊躇いがあるようだ。決して拒否しているわけではないことを何度も伝え、ごめんねと謝る。

「すぐに決めてって訳じゃないから気にしないで! 急な誘いだからゆっくり考えてよ。」
 カインは右手を振りつつ、謝るシルフィアを気遣う。
「急な話でごめんね。
 さて、紹介も済んだことだし、ご飯食べに行こう! シルフィアと帰り道に良さげなお店発見したんだ。」

 一行はカインとシルフィアの案内で夕食へ出掛けた。道中それぞれの故郷の事や、傭兵を目指すきっかけを話しながら。


 目的地に到着した一行はせっかくの王都だ、少し背伸びをして高級店で食事しようということになった。

「シルフィアちゃんが仲間になってくれたら私は嬉しいな! 妹が出来たみたいで!」
 皆今まで見たこともない煌びやかな料理を黙々と食べている中、アニエスがそんなことを言い出した。

「むぐっ……ワタシもアニエスがお姉ちゃんみたいで嬉しかよ!
 仲間にならんかって急な話でビックリやったとけど、一緒に行動するとは魅力的な気のする!」
 口元にソースを付けたシルフィアは満面の笑みをアニエスへ向けた。その表情は容姿と相まってか、年齢よりも幼く感じさせる。

「シルフィアちゃんソース付いてるよ。」
 それを見て優しく拭ってやるアニエスは本当の妹と接しているようだ。

「む……ありがと。」
 くすぐったそうだがシルフィアは素直に応じる。
「ところで、デザートも頼まんばならんね!」
 口を拭いてもらった直後に目を輝かせながらスイーツの提案をする。

「勿論デザートは必須だよね。店員さんに何がオススメか聞いてみよう!」
 カインも同意し、ウェイターを呼ぼうとしたその時である。

「おや? おやおやぁ? 何か臭うなあ! 田舎者の臭いが!」
 ブリーチズにストッキング、金のステッキという如何にもな格好の男が4人に話しかけてきた。趣味は悪いが服装からして貴族だろう。後ろに使用人と思しき男を従えている。

「何ねあんたは? 馬鹿にしとっとね?」
 食べるのを止めたシルフィアが突如現れた男を凄い剣幕で睨む。

「解る言葉で話してくれるかい? どうも田舎言語は聞き取り難くてねぇ! そう思わないか?」
 薄ら笑いでシルフィアとカイン達を見下し、従者に同意を求めた。

 食事を楽しんでいた他の客は手を止め、目をつけられないよう下を向いていた。

「……。」
 使用人の男は肯定も否定もせずただ沈黙している。

「ちっ……ノリの悪い奴だね。」
 貴族は舌打ちをし蔑んだ目を使用人へ向ける。

「いい加減にせんね!」
 シルフィアが怒りを露にし立ち上がろうとした。その目は侮辱された悔しさで涙が滲んでいる。

 しかしシルフィアが動く前にカインが貴族の前に出る。
「すみません。僕たちは食事中なんです。
 貴方が居るとせっかくの美味しいご飯が不味くなるので、消えてもらってもよろしいですか?」
 笑顔ではあるがその目は冷徹そのものだった。

 カインの態度に男は不快感を表す。
「おい。誰にものを言ってるか解ってるのか平民が!」
 顔を赤くし声を荒げカインへと詰め寄ってくる。

「はあ……言ってること理解出来ないんですか? 消えろと言ってるんです。
 それにこの国は貴族制を吟っていますが、形だけですよ? 偉そうにするのは間違っています。」
 ため息をつきつつカインの目はどんどん鋭くなる。怒りは頂点に達していた。

「何ぃっ!? 平民風情が知った風な口利くなよぉ!」
 男の顔は更に真っ赤になり、声量も跳ね上がる。

「他のお客さんに迷惑ですよ。」
 直後、男の服が真っ二つに裂けた。カインの手には抜き身のクレアが握られている。

「ひっ……!?」
 そして自分の首元に当てられた殺気の篭った剣に男は顔面蒼白になる。先程の真っ赤な顔とは正反対の色だ。
「おお、おい! 見てないで助けたらどうなんだっ!?」

「……。」
 服を斬られ裸同然の貴族様は従者に助けを求めたが、相変わらず沈黙を貫いていた。

「僕の大切な友人を侮辱し、あまつさえ女の子を泣かせるなんて貴族の風上にも置けません。
 これで最後です。消えろ。」
 カインは本気の殺意をクレアに込め振りかぶる。 

「ひいぃいぃっ! お、覚えてろよ!? 僕にこんなことしておいてタダじゃおかないからなぁ!」
 何とも小物臭い捨て台詞を吐いて貴族は店から駆け出ていった。

「あ~あ。やっちまったなカイン。ステッキの刻印からするに、あいつはおそらくリュロワ家の奴だな。」
 傍観を決め込み、何やらゴソゴソとしていたローベルトが口を開く。しかし顔は笑っていた。

「許せなかったんだ。でも後悔はしていないよ。」
 クレアを納めつつカインは3人を見る。
「シルフィア大丈夫かい? ごめんね、僕がこんな店に誘ったばっかりに……」
 シルフィアに嫌な思いをさせてしまったと頭を下げ謝る。

「いや、カインは全然悪くなかよ。怒ってくれて嬉しかったばい。
 それにスッとしたよ! ありがとう!」
 カインに頭を上げるよう、気にしないようにと念押しする。
「ワタシやっぱり3人の仲間になりたか。良い?」
 シルフィアはおずおずと尋ねる。数刻前にしばらく考える時間が欲しいと言った手前、少しだけばつが悪い様子だ。

 その言葉を聞きカインが答える。
「もちろん大歓迎さ! でもシルフィアは本当にそれで良いの?」

「カインは今日会ったばっかとに本気でワタシを庇ってくれたし、ローベルトはカインの動いてすぐにあいつとの会話ば紙に書いとったやろ?
 それにアニエスも2人ばサポート出来る体勢取っとったし。
 とにかく! 皆の仲間になりたいって思ったとよ!」
 手をバタつかせながら嬉しさを表現し、決心したことを笑顔で伝える。

「ありがとうシルフィアちゃん! 一緒に頑張ろうね!」
 堪らずアニエスが抱きつく。

「苦しかよアニエス!」
 抱きつかれ苦しそうにするが、照れくささを誤魔化すためのものだった。アニエスの袖を握り返している。

「君たち。」
 貴族の後を追ったはずの従者がカインたちに話し掛けてきた。

「何ですか? もう話は済みましたが。」
 カインは露骨に不快感を表し、クレアに手を添える。

「いや、敵意はない。許されることではないが、先程はすまなかった。主に代わり謝罪する。」
 男は深々と頭を垂れた。どうやら本当に敵意はなく、純粋に謝罪しているようだ。

「貴方に謝られても仕方ありません。」
 クレアから手を離したが、謝罪を素直に受ける気はないと意思表示する。

「すまなかった……失礼する。」
 再度頭を下げ、男は立ち去った。

「何なの! あの人! 本人じゃなくて使用人に謝られても仕方ないのに!」
 アニエスも怒りが治まらない様子だ。

「未だにあんな勘違いしてる貴族様が居やがるんだな。笑えるぜ。
 まぁしかしだ、試験受けられないってことになる可能性よりも仲間を思うところがカインの良いとこだよ。」
 頭の後ろで手を組みながらローベルトが笑う。

「ローベルト今何て? 何で試験受けられないんだ?」
 カインはローベルトの発言に気になる箇所があったようだ。

「リュロワ家は昔から傭兵試験に出資してるんだが……まさかとは思うが、知らなかったとか?」
 ローベルトの表情が固まる。

「そうか……ははっ……どうしよう……」
 カインは座り込んでしまった。後先考えずに行動を起こしてしまったようだ。

「まあカイン……あの、他国でも受けれるわけやけん気にせんで良かよ!」
 シルフィアも何とかカインを慰める。

「そうだぞカイン! 例え追放されてもお前の方が正しいから俺たちは大丈夫だ!」
 ローベルトがカインの肩に手を添える。

「ああ、ありがとう皆。」
 カインは苦笑いだ。そして心の中で何度も謝罪する。

 皆カインを慰めている最中に1人のウェイターが近付いて来た。
「お客様、お怪我はありませんか? この度は大変申し訳ございませんでした。」
 品の良い佇まいで4人に対して頭を下げる。

「いえいえ! 店員さんは全く悪くないです!
 僕たちの方こそお店に迷惑をかけてしまってすみません。」
 気を取り直してカインが謝る。

「申し訳ございません。こちら細やかではありますが、当店からのサービスでございます。」
 ウェイターは色とりどりのフルーツやクリームの添えられたケーキを並べる。

「そんな悪いですよ! 迷惑かけたのはこちらなのに……」
 カインは受け取れないのできちんと代金は払いますと伝える。

「いえ。今夜のお食事代は先程の従者の方に請求させていただきましたので。
 それに、きっと悪いようにはなりませんので頑張って下さいね。」
 それだけ言ってお辞儀をし厨房へと消えていく。4人はウェイターの華麗な立ち振舞いにただ見とれていた。

「流石王都は店員さんすら所作の上品かねぇ……」

 4人は残すのは悪いとデザートを完食し宿へ戻ることにした。
 支払いをする際、ウェイターが言っていた通り貴族へ請求するので代金は必要ないと念押しされた。何とも言えない気持ちのまま帰路へと着いた。


 翌日シルフィアは剣を受け取り、明日の試験へ向けてカインと組手をすることにした。

「シルフィアちゃんかなり強いじゃない!」
 カインとシルフィアを見てアニエスは驚いた。2人は瞬きすら出来ないほど激しく剣劇を繰り広げている。

「驚いた。かなりの戦力になるな。」
 ローベルトも顎に手を当てて感心している。

 その瞬間カインが尻餅をつく。
「痛っ!」
 そして眼前に大剣が向けられる。

「ワタシの勝ちばい! カインは足下の注意の疎かになっとるよ。」
 その容姿に似つかわしくない大がを掲げ、八重歯を覗かせ微笑む少女。

「参ったよ。シルフィアは剣術も相当だけど、体術が凄いね。」
 立ち上がって砂埃を払いつつカインが褒める。小柄な少女に負けた悔しさは見受けられない。

「でもカインも体術使えるとやろ? 今剣だけしか使っとらんやったけど。手加減しとるん?」
 シルフィアはカインが剣術だけで相手していたことに気付いていた。手加減されたのではないかと少しむっとしている。

「いや、手加減してるわけじゃないんだ。剣術を研きたいから体術を使わないよう自分に制限をかけてたんだよ。」
 カインは慌てて否定する。
「あと2、3手合わせしたら次は連携も試してみない?」
 見学していた2人にも声をかける。

「ああ。俺もそう思ってた。試験内容にチーム戦ってのもあるみたいだしな。」
 ローベルトが答える。組手を観ながら試験について調べていたようだ。

 その後日が暮れるまで4人の訓練は続いた。
 その後、翌日の試験に向けて体力を付けようというシルフィアの提案で夕飯は屋台巡りをすることにした。肉料理を中心に4人はたらふく食べたのであった。


「ではこちらに志願者の名前をお書きください。」

 訓練翌日、4人は王宮前の広場で試験申込みをしていた。それぞれ自分の名前を名簿に記入していく。

「最終試験ではチーム戦となりますが、人員は決まっておりますか?
 もしお決まりでなければご紹介致します。」
 志願者の名前を確認し、受付の女性が尋ねる。

「いえ、もう決まってますので紹介は必要ありませんよ。
 お気遣いありがとうございます。」
 カインは笑顔で対応する。試験内容は事前にローベルトが調査済みだ。その為の連携訓練も昨日に行っている。

「では代表者の方はこちらにもう一度サインをお願い致しますね。」

 カインが記入を済ませ、後は試験開始まで待機するだけの状況だ。

「おいおい昨日の愚かなる平民じゃあないかぁ?」
 カイン一行がどこかで時間を潰そうと考えていると、昨夜の貴族が現れた。
「この僕に無礼を働いたこと忘れたわけじゃないだろうねぇ?」
 額に血管を浮き出させ、薄気味悪い笑みを浮かべながら近付いてくる。

「リュロワ様、お世話になっております。」
 受付の女性が頭を下げ挨拶する。貴族は面倒臭そうに手を挙げるのみだった。

「またあんたね。ワタシたち忙しかけん相手しとる場合じゃなかとけど。」
 金色の瞳は貴族を睨み、背中に携えた大剣に手を添える。

「ふん。田舎言葉は何言ってるか理解出来ないって言ってるじゃないか。ん?」
 リュロワはふと気付き試験の申込名簿を手に取り、少し目を通したところで邪な笑みを浮かべる。
「おい女。こいつらの試験資格を取り上げる。直ちに名簿から抹消しろ。」
 受付の女に言い放つ。

「ちょっと! 貴方にそんな権限はないはずよ!」
 アニエスがとんでもないことを言い出したリュロワを非難する。

「黙れ愚民が! 無礼な貴様らに傭兵となる資格などないと思え!」

 騒ぎを聞き付けた野次馬で辺りは溢れかえってきた。

「他国にも貴様らの悪事を通達してやるからな! もう試験は受けられなくなるぞ! あはははは!」

 貴族の態度にカインは我慢の限界に達していた。無言で歩みを進めクレアを抜こうとする。その目は斬ることを決意した色をしていた。

「やめろカイン! 斬るのはシャレにならん!」
 ローベルトが全力でカインを止める。しかしカインは止まらない。

「手を離してくれローベルト。もう限界だ。」
 クレアを抜剣し殺気が充満する。

「皆控えよ!」
 カインが今にも斬りかかりそうな時、広場に声が響いた。ざわついていた野次馬が一気に静まり返る。

 人々は順々に跪いていた。
 陛下!
 野次馬の誰かが言った。

 人垣の奥から複数の兵に護衛され、馬に跨がり悠々と近付いてくる……クロード=ダフニス12世だ。

「国王陛下!?」
 思わぬ人物の登場にリュロワが慌てて膝を突き顔を伏せる。カイン、ローベルト、アニエス、シルフィアも皆同様に急ぎ跪き頭を垂れた。許しが出るまでは頭を上げること、発言することは許されない。

「リュロワよ、何事だ? 答えよ。」
 まだ若いが凛々しく威厳のある声で尋ねた。声を張り上げてはいないが良く通る声だ。

「はっ。不埒な者共が傭兵試験を受けようとしておりましたので、それを未然に防いだ次第でございます。王に仇なす可能性がございましたので危ういところでした。」
 貴族は自分の功績だと言わんばかりにカインたちを一方的に不届者に仕立てあげる。反逆者だとも訴えている。

「左様であるか。この者を捕らえよ。」
 ダフニス王は右手を挙げ衛兵に合図をする。

 貴族は満足気な顔でカインら4人を見ている。昨日の恨みを晴らせたと思っているようだ。
「へ?」
 しかし衛兵に拘束され貴族は困惑している。
「おい! 僕を捕まえてどうする! 反逆者は彼奴らだ!」
 ジタバタと拘束の手を振りほどこうとする。

「往生際が悪いぞリュロワ。大人しくせよ。」
 呆れた目付きでダフニス王はリュロワを見下ろす。

「恐れながら陛下! 反逆者は彼奴らです!」
 取り押さえられながらもカインたちを指差し必死に訴え続ける。何故自分が拘束されているのか理解出来ない。

 頭を上げることも出来ないため、カインたちは何が起きているのか全くわからずにいた。

「リュロワよ。貴様は昨夜、我が国民を愚弄したな?」
 ダフニス王が先程よりも低い声を発する。より威圧的な印象だ。

「いえ! それはこの者たちの仕業です! 
 私は一方的に侮辱と暴力を受けたのです!」
 尚も貴族は食い下がる。

「黙れ愚か者が!」

「ひっ!?」
 王の一喝に貴族は言葉を失う。

「国民を侮辱すること即ち余を侮辱するに等しいと知れ! 
 早くこの者を連れて行け。沙汰は追って知らせる。」
 ダフニス王の合図で衛兵はリュロワを連行する。

「陛下! 陛下ぁぁっ!」
 抵抗するが兵の力には敵わない。あっという間に声が遠ざかり、連行されていった。

「そこの少年、面を上げよ。」
 王はカインに声を掛ける。

 カインは言われた通り顔を上げた。
「はい。……え? 店員さん!?」
 見上げた先には昨夜のウェイターが馬に乗っていた。

「ああ。昨夜は故あってあのようなことをしていたのだ。」
 ダフニスは優しく微笑みかける。
「此度は不穏分子捕縛の協力大義であった! その腕と剣の銘に恥じぬよう励むが良い!」
 それだけ言い残し王は衛兵を引き連れ去っていった。

「何で昨日の店員さんが? あの人が陛下なの?」
 カインは未だ状況が飲み込めないでいた。

「いや……流石に影武者か何かだろ。いくら何でも一国の主が店員の真似事なんかするはずねぇよ。」
 ローベルトは冷静にそう答える。

「そうよね……陛下が店にいらっしゃるならあの貴族も気付いてたはずだし。」

「でもあんウェイターさんて最初から居ったっけ?」
 アニエスの言葉にシルフィアが疑問を投げ掛ける。

『う~ん……覚えてない……』
 4人とも昨晩のことを思い出そうとするが、高級店の雰囲気と料理の豪華さに夢中になっていたためどんな人物が居たのか全く覚えていなかった。

「まあとにかく! 試験は受けられるわけだし、気を取り直して頑張ろう!」
 カインは無理矢理まとめに入った。

「皆様、そろそろ試験開始の時間ですがよろしいですか?」
 受付の女性が一次試験の内容が書かれた書面を渡し、簡単に説明を開始する。
「運営側のくじ引きにより対戦相手が決められます。
 各々の能力を見ることが目的ですので、勝敗は評価に直接関係しません。ただし勝利した方が有利ではありますね。
 相手が戦闘不能または降伏した時点で終了です。尚、対戦相手の殺傷は禁止です。その場合即失格となりますのでご了承下さい。
 武器は皆様が現在お使いの物と同様の木剣等をこちらでご用意致しますので、そちらをお使い下さい。
 トーナメント式となっておりますので勝ち進めばそれだけ評価が上がります。
 以上が一次試験内容です。ご質問ございませんか?」

 説明が終わり、一同書面を確認しつつもう一度内容を把握する。

「問題ありません。よろしくお願いします。」
 カインが答え他の3人も頷く。全員了承したようだ。

「それでは会場にご案内致します。
 あんなことがあって戸惑ってるでしょうが……頑張ってくださいね! 応援してます!」
 女性は両手の拳を握ってカインたちにエールを贈った。

 4人はそれぞれ女性にお礼と意気込みを伝え会場へと入る。

 王宮内の闘技場が傭兵選抜試験の会場として使われる。何か大事が起きたとしても兵士が対応するためだ。
 中では早速くじ引きが行われていた。

「第一試合! カイン=ニコラエヴァ前へ!」
 入るなりカインの名前が呼ばれる。

「おい早速呼ばれてんぞカイン。」
 ローベルトが闘技場を指差す。

「そうだね、僕昔からくじ運良いんだ。」
 肩を回しつつ嬉しそうにカインは答える。気合いは十分な様子だ。

「ねえねえカイン、相手ばり強そうばい?」
 シルフィアがカインの袖を引っ張りながら対戦相手の方向を指差す。

 鋼の如く鍛えられた筋肉と傷だらけの身体を晒した男がカインの対戦相手だ。目は血走り息も荒い。

「うん……僕昔からくじ運良いんだ……」
 苦笑いで3人を見て、決闘の場へと足を進める。

 ローベルト、アニエス、シルフィアも苦笑いでカインへ手を振り見送った。
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