5 / 20
憧れの人との延長戦に突入するかもしれない話。
しおりを挟む「ちょ、ちょっと待ってください!どうして……私の返事も待たずに、すぐ行っちゃおうとするんですか?
私、まだあなたにお礼も言えてませんし、なにより……まだ、あなたの名前だって聞いていません!」
そして、俺の手をぎゅっと掴んだ大橋さんは「だから、少し待ってください!」と、俺を少し見上げるようなーーどこかいじらしい様子で、そのまま帰ろうとしていた俺の事を呼び止める。
しかし、そんな普段は絶対に見れないような彼女の様子を見ても、俺の頭の中にあるのは『どうして?』という言葉。ただその1つだけだ。
そのため、大橋さんに右手をガシッと掴まれ、完全に予想外の足止めをくらった俺は……その思考の大部分を『なぜ……どうして?』などの、ただただ疑問の言葉で埋め尽くされていた。
「(な、なんで大橋さんが……?いや……もちろん彼女が言っているように、俺が返事を待たずに歩き出したからだろうけど……。それでも、わざわざ俺を引き止めてなんて……ホントに驚いた。)」
しかし、俺自身の驚きも相当のものではあるのだが……それ以上に、周りからの今の状況に対する反応の方が、余程に驚くべきものであった。
そして、皆一様に「信じられない。」「なんであいつが……。」「ていうか、そもそも誰?」など、新入生の中でも一二を争う美人である大橋さんが、俺のような殆ど無個性な男子生徒を引き止めるためとは言え……その手を彼女が自分から掴んでいるのが、とても信じられないといった様子だ。
とは言え、俺自身もそんな状況で大衆の視線を耐えられる程、図太い神経は持ち合わせていないので……
「そ、その!大橋さん!みんなからの視線が辛いので、手を放してもらえませんか!?なんかもう……男子たちからの視線が痛いし怖いです!」
「それは……はい。もうあなたが逃げないのであれば、この手を放しますが……。まさか、放した瞬間に逃げ出すとか……そんな事はしませんよね?」
「えぁ!?も、もちろん……そんな事しませんよ!?
で、でも!そろそろ予鈴も鳴ったし、大橋さんも早く教室に帰らないと……なんて。」
そのため、俺は大事にならないうちにと、なんだかんだで大橋さんの前から退散しようと考えていたのだが……その選択肢さえも、はじめから大橋さんによって釘を刺され、封じられてしまっていた。
というか……今頃になって、大橋さんが至近距離でこちらを見上げている事に気が付き、その上目遣いも相まって非常に落ち着かない……。
すると、俺のその言葉に大橋さんは「あっ!そう言われてみれば、そうでした!」と言って、パッと掴んでいた俺の手を放してくれる。
そのため、俺はようやく彼女が手を放してくれて、これで大人しくーーこの衆人環視の状況から逃れる事が出来ると、心の中で安堵をしていたのだが……その数秒後に、大橋さんが言った爆弾発言によって、その安堵した気持ちをすっかり吹き飛ばされてしまった。
ーーなぜなら、そのまま俺の手を放した大橋さんが、「あっ、今時間がないのなら……。」と言って
「うん……やっぱり、今はちゃんとお話をする時間がないですから……今日のお昼休み。昼休みの時間にでも、もう一度お会いしませんか?
先程の荷物運びのお礼の事もありますが……少しだけ、他の男の人とは変わっているあなた自身についても興味が湧いてきたんです。」
などと大橋さんは言って、俺を含め周りの(主に男子)生徒たちの度肝を抜かす爆弾発言をその去り際に放って、そのまま教室に戻っていくのだった……。
そしてその去り際に、大橋さんが俺の耳元で「あっ、場所は食堂で待ち合わせですからね?」と囁いてきたのだが……。その待ち合わせ以前に、色々と彼女の話からの情報量が、あまりのも多過ぎて……
「(い、一体何を考えてるんだ!?大橋さんは……。
さっき、俺を手を掴んで引き止めた事にも十分驚かされたけど……お、俺に少しでも興味があるっていうのは、な、なんでなんだ……?)」
とは言えーー彼女が『さっきのお礼を言いたい』と言っていた事は、おそらくであるが、本当の事である(はずだ)と思うので……本当に俺は、これからどうすればいいんだろう。
ーーなんていうか……あの憧れの大橋さんから『興味がある』と言われ、それを俺は手放しに喜ぶどころか、むしろ想像もつかない事に対する……怖さ?のようなものを感じてしまっている。
そもそも、大橋さんと1対1でーーそれも、衆人環視下である食堂で直接対面するなんて……正直、それ何の拷問?とでも言いたいところである。
「しかし、まあ……うん。その事も含め、昼休みまでに考えるか……。これ以上悩んでも、どうすればいいのか思い付く訳じゃないだろうしな。はぁ……。」
そうして、俺と大橋さんの奇天烈な初対面は、ある意味、意外な形でその幕引きとなってしまったのだが……今日の出会いがあって、これだけは確かにひとつ正しいと言える事がある。
それはーー意外にも、大橋さんが気が強い女性だという、その事実だけである……。
ーー次話へと続く。ーー
0
あなたにおすすめの小説
【完結】たぶん私本物の聖女じゃないと思うので王子もこの座もお任せしますね聖女様!
貝瀬汀
恋愛
ここ最近。教会に毎日のようにやってくる公爵令嬢に、いちゃもんをつけられて参っている聖女、フレイ・シャハレル。ついに彼女の我慢は限界に達し、それならばと一計を案じる……。ショートショート。※題名を少し変更いたしました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
貞操逆転世界で出会い系アプリをしたら
普通
恋愛
男性は弱く、女性は強い。この世界ではそれが当たり前。性被害を受けるのは男。そんな世界に生を受けた葉山優は普通に生きてきたが、ある日前世の記憶取り戻す。そこで前世ではこんな風に男女比の偏りもなく、普通に男女が一緒に生活できたことを思い出し、もう一度女性と関わってみようと決意する。
そこで会うのにまだ抵抗がある、優は出会い系アプリを見つける。まずはここでメッセージのやり取りだけでも女性としてから会うことしようと試みるのだった。
幼馴染の許嫁
山見月 あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。
彼は、私の許嫁だ。
___あの日までは
その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった
連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった
連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった
女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース
誰が見ても、愛らしいと思う子だった。
それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡
どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服
どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう
「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」
可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる
「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」
例のってことは、前から私のことを話していたのか。
それだけでも、ショックだった。
その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした
「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」
頭を殴られた感覚だった。
いや、それ以上だったかもしれない。
「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」
受け入れたくない。
けど、これが連の本心なんだ。
受け入れるしかない
一つだけ、わかったことがある
私は、連に
「許嫁、やめますっ」
選ばれなかったんだ…
八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる