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第七話 迫られる選択
しおりを挟む「相太……。いつものように私の手伝いの方を優先するでしょう?」
「相太くん!私と後でお話しするって、そう約束してくれましたよね?今朝階段でお別れをした時に!」
そう俺に言い放った二人はなぜか顔を見合わせて、バチバチと火花を散らしている(ように見える)。
そして、二人同時に俺の手を取ると……。
「「もちろん、私を優先する(します)よね?相太(くん)!!」」
と、二人同時にそう言い、俺の手を左右にぎゅっと引っ張ってくるのだった……。
俺はその二人を交互に見て、心の中で嘆息すると同時にどうしてこうなってしまったのかとため息を吐きたい気持ちになる。
そしてこうなってしまった理由は、今から10分程前に遡るーー
・・・
・・
・
ーーーー1年B組・教室にて(昼休み)ーーー
「あー、色んな事に頭がいっぱいで、普通にお弁当を家に忘れて来てしまった……。」
俺はぼーっと外の葉桜を眺める事を止め、昼休みになったのでお弁当を食べようとしたわけであるが……。
あれだけ忘れないようにと念を押されていた弁当箱を、自宅の玄関の所に置き忘れてきてしまった事を今更ながらに思い出した。
またそれを思い出すと同時に、朝早くからわざわざ早起きして雫が作ってくれた手作り弁当を、自分の不注意で忘れてきてしまった事にかなり罪悪感を覚えた。
なので、俺は雫にその事を謝罪すべくスマホでLINEを開き、弁当を忘れて来た事についての謝罪の文章を雫に入れていたところーー
「失礼します。相太……。いえ、相川くんはいらっしゃいますか?生徒会の所要で彼を探しているのですが……。」
突然、教室の扉がガラガラっと音を立てて開いたかと思うと……廊下からは凛とした声。俺の事を探す黛 麗奈その人の声が1-Bの教室に聞こえてきた。
すると突如教室に響いたその声に、クラスメイト一同ザワザワと麗奈と俺の方を交互に見比べて、ざわざわと騒ぎ出す。
しかしそれらを麗奈は気にするような事はなく、教室の中をキョロキョロと覗き込んで見て、俺の姿をそこに確認すると……。
麗奈はスタスタと一直線にこちらに向かって歩いて来て。ピタリと俺の机の前までくると立ち止まる。
「……ちょっといいかしら?その……、先生からのお願いで今から生徒会室まで学園雑誌用の紙を運び込まないといけないの。その量が多くて私一人では大変だから、あなたの力を貸してくれないかしら?」
俺の前で立ち止まった麗奈は淡々とそのようなお願い……というか要求?を述べる。
彼女は俺が手伝いを断るとは微塵も考えていない様子であり、そんな様子に俺はキュッと胸が苦しくなると同時に、その痛みから逃れるようにして麗奈からの視線、その向けられていた瞳からスッと目を逸らした。
するとその時になって初めて感情らしい感情が彼女の顔に現れる。
「ど、どうして目を逸らすのかしら?あなたはいつも私の手伝いをしてくれていたでしょ?だから今回もと思って、あなたに手伝いを頼んだ訳なのだけど……。」
麗奈は少し動揺した様子で戸惑うような表情を浮かべると、彼女にしては珍しくたどたどしい口調で俺を説得しようとする。
俺は麗奈が初めて見せるその表情にチクリと胸を痛めながらも、その表情を解消させるであろう「いいよ」というその言葉だけは、どうしても口にする事が今は出来なかった。
というか……その言葉以外の言葉ですら何も口にする事が出来ず、そのまま二人沈黙したまま数秒の時間が流れていった。
そして俺と麗奈、沈黙中お互いに相対したまま立ち尽くしているとーーガラガラ!!
「すいません、失礼します!ここは1年B組の教室で間違いないでしょうか?間違いでなければ……相川 相太くんはいますか?今日は相太くんに用があってここまで来たのです。
あっ!名乗り遅れましたが、私は2年の大岡 三葉と申します。」
すると、麗奈に続いて教室の扉が開いたかと思うと、そんな生真面目な女性の声、再び俺の事を呼ぶ大岡 三葉先輩のその声が1-Bの教室の前方から聞こえてきた。
すると教室中が先程と同じ、いや先程以上にザワザワとし始めて、クラスメイト達は三葉先輩と俺達二人を見ては何かをヒソヒソと話し始める。
そしてそんな中三葉先輩は扉から教室を覗き込み、そこに俺の存在を認めるとーー
「相太くん!そこにいましたか!今日の朝に言っていたお話の約束。お昼ご飯を食べながら聞かせていただけたらと思いまして……。相太くんはお昼に用事などはありますか?」
そのまま、すたすたと先輩は俺の前に来ると、麗奈を前に固まる俺にお昼ご飯の誘いをするのであった。
そしてふと横を見て、俺の机の前に立つ麗奈の存在を認めると、意外な事に面識があるのかやや驚いた様子で麗奈に話し掛ける。
「……って、あれ?麗奈さん?なんで麗奈さんがここにいるのですか?確か麗奈さんはお隣の1-Aです……よね?」
と、麗奈に話し掛けた先輩であったが、途中から俺と麗奈との間にある空気感を感じ取ったのか、どこか咎めるような雰囲気を漂わせながら麗奈に質問を投げ掛ける。
暗にここにいるべきでは無いと、警告をするようにして……。
すると、突然の三葉先輩の出現に驚いて立ち尽くしていた麗奈は、その言葉にハッと我に返って慌てた様子で言い返す。
「い、いえ、私のは……その……そう!事務的な用事だけではないのです!ですから、彼をお貸しする事は出来ないので……。
そうです。生徒会!生徒会のお手伝いが相川くんにはありますので……。なので、大岡先輩は今回ご遠慮下さい!」
麗奈はなぜか焦ったようにそう言うと、俺の服の袖を掴み自身の方に引き寄せる。
その様子はいつも凛としている麗奈とは違い、罪悪感を感じながらも欲しいものを手に入れようとする子供のようで……。
普段の様子からは考えられない、とても違和感を感じさせる言動であった。
そして、その違和感を三葉先輩も麗奈の言動から感じ取ったようでーー
「それは本当のことでしょうか?相太くんは生徒会に所属していない上、無所属だと彼からは聞いていたはずなのですけど……?
それに生徒会のお手伝いであれば、他の役員にまず頼むべきではありませんか?自分がいた頃の生徒会では基本的にそうなっていたはずなのですが?」
少しだけ鋭い視線で麗奈のことを睨みながら、三葉先輩は麗奈にそう切り返す。
俺はその様子を見て、三葉先輩のことをあまり怒らない先輩だと勝手に認識していたので、今朝の様子も踏まえ、今のような問い詰め方をするとは全く想像していなかった。
そして麗奈の方も、そのような先輩の言動にたじろんだ様子である。
「そ、その……。相川くん。いえ、相太は前から私の手伝いをしてくれていたんです。
ですから、生徒会とは関係なく私を手伝ってくれたので、それで……。」
などと、麗奈は弱々しくハッキリしない口調で三葉先輩に返す。
呼び方を言い直した部分などは謎だが、俺を先輩に譲る気は無いという意思をその言葉からは感じることが出来た。
そしてそれは理屈などではなく、習慣や前例を理由に俺に手伝いを頼んだと、そのような理由付けを行ったようである。
しかしそれを聞いて引き下がる程、今の先輩は優しくないので、麗奈の弱弱しい様子とは対照的にハッキリした口調で反論する。
「そうですか。それだけの理由であれば代わりの生徒か別の生徒会役員の方に頼ることをお願いします。私の場合は相太くんでなければいけませんが、麗奈さんの場合は相太くんでなくとも他の方々の協力でも別に構わないはずの内容なので。」
三葉先輩はそれだけを麗奈に述べると、もう話は終わったと言わんばかりに麗奈が掴んでいた俺の袖を引き離し、そのまま俺の手をぎゅっと掴んだかと思うと、自身の方に俺の身体をグイッと引き寄せる。
しかし、そこで手を引き離された麗奈はキッ!っと三葉先輩のことを冷たい視線で睨みつけて、俺の方に近づいて来るとーー
「相太は私との用事の方を優先するんです!もう生徒会とは関係のない大岡先輩はこの事に口を出さないで下さい!
それに私と相太は……。いえ、とにかく!これは私と相太の問題なので、大岡先輩は邪魔をしないで下さい!」
麗奈は三葉先輩を睨みながらそう反発すると、三葉先輩とは逆の手、もう片方の空いている俺の手を掴み、自身の方に俺の身体を引き寄せようとしてくる。
ーーそしてこの後からが、先程冒頭で行われたような二人の会話だ。
このようにして、『俺がどちらを優先するのか?』という話にまで、この問題が発展してしまったという訳である……。
正直ここまで三葉先輩が強気に麗奈に対応して、俺との昼食の時間を設けようとするとは思っていなかった。
何よりも、麗奈がそこまで俺に手伝いを頼む事に拘るとは夢にも思っていなかった。
少し前の俺ならば、彼女が俺を頼ってくれる事を喜び、麗奈の役に立つことが出来ると快く受け入れていたと思う。
だが、そう簡単に受け入れるには……。
俺と麗奈の関係は三葉先輩との新しい出会いなどをキッカケにして、これまでとはまるで違ったものに変化していた。
俺と麗奈は今ではもう別れていて、そんな俺は新しく三葉先輩と知り合い、これからも仲良くしたい人で……。
そしてこれは、そんな二人との関係を踏み出すか足踏みするのかを決める大事な一歩。
麗奈を選び、終わってしまった関係をズルズルと引きずっていくのか。
それとも三葉先輩を選んで、新しい関係への一歩踏み出して行くのか……。
そんな選択に頭を抱え、悩みに悩み抜いた上で俺が出したその答えはーー
「俺は……三葉先輩との約束を優先する。だから、ごめん麗奈。……いや黛さん。
また別の……大切な用事がないときになら生徒会の手伝いもしてあげる事は出来るけど、今日だけはどうしても無理だ。だから悪いけど他の人に頼んで欲しい。」
俺はそう言って麗奈の手、その俺の片方の手を握りしめていた手をそっと離し、三葉先輩の方へとその足を向ける。
そして、三葉先輩は俺の手をきゅっと優しく握り締めると、俺を停滞していた空間から救い出すような、そんな優しい笑顔を浮かべて、外の世界へと引っ張っぱり出してくれたのだった……。
そうして俺は三葉先輩との新しい第一歩。
先輩との約束、今朝の涙の理由を先輩に教えるという約束を果たすことで、麗奈からの誘いを断るという新しい選択を下す事が出来たのだった……。
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