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第十五話 決定的瞬間の証拠
しおりを挟む「何です?アナタは?この子がウチで万引きしたのに何も話そうとしないから、店の裏で話を聞こうとしてたんですけど?アナタの一体何を待つんですか?」
少女の腕を掴んで裏へと連れて行こうとしていた店員が、「ちょっと待って!」と叫んでそれを止めた俺に向かって、振り返ると同時にそう尋ねて来た。
そして突然の俺の声には、少女の方もビックリした様子で驚いていた。
だが俺にはこの店員を止める必要があった。なぜなら少女の万引きはーー
「すいません。驚かせてしまって……。その子の事について知って貰いたい事があるのでこの写真をちょっと見て貰えますか?
許可も得ず、買ってない商品を撮っていたのはマナーが悪くて申し訳ないのですが……、
これはさっきここのデザートコーナーから撮った写真なんです。」
俺はそう言うと、自身が先程母さんの写メ用に撮っていた写真を一枚ずつ店員さんに見せていく。それはコマ送りに撮られた写真の数々で、勿論デザートが写真の中心に写っているのだか……-?
するとそれを見た店員は、非常に驚いた表情になり、思わずと言った様子で呟く。
「これは……。商品の方がこの子のカバンの上に落ちてきてる?」
「そうです。最初の写真では棚の商品がギリギリ落ちるか落ちないかの位置で止まっていますが、次の写真ではその位置にはもうその商品が無くなっているんですよ。
それでその商品の位置にこの子が立ってるのが、この写真には映っていたんです!だから、この子はたまたまその落ちた商品がカバンの中に入ってしまっただけで、万引きなんてしてなっ!?ーーいと、俺は思います。」
俺が少女が万引きをしていない証拠、棚から商品が落ちる過程を店員さんに見せて、その無罪を主張していると……、突然少女がギュッと俺の腹の辺りに抱き付いてきた。
俺はその柔らかさ、主に腹の真ん中辺りに当たる柔らかい二つの感触に驚いてしまったが、その震える肩を見て平静を取り戻した。
おそらくこの少女は自身を万引きと間違われて、それを否定する事が出来きず、とても心細かったのだろう。
そんな中、もしかすると自身の無罪が店員に伝わるかもしれない。そんな安心感からこちらに抱き付いて来たのだろう。
俺はその震える肩に手を置いて、その子を庇うようにして店員の前に立つ。
「(大丈夫。君の無罪はちゃんと俺が証明するから。だから心配しないで。)」
そんな意思も込めて、女の子を背に堂々と店員の前に立ちはだかる。
すると、店員はそれを見て何かを納得した様子で、うんうんと何やら頷いている?
「ああ、成る程……。その子はあなたのお知り合い、いや……妹さんでしたか。それを万引き犯と間違えるなんて失礼しました。
写真にはちゃんとその子が取っていない証拠も映ってましたので、もうその子に事情を伺うような真似は致しません。この度は本当に申し訳ありませんでした。
ーーそれと今回のお詫びと致して、そこのデザートから二品まで無料で持って行って頂いて構いません。自分の自腹でお2人に奢りますから、ですのでどうか……、この出来事はウチの店長には内密にして頂いて……。」
などと、店員はこれ以上少女を問い詰めないという事を約束し、それと同時にこちらにデザートを奢る代わりに、今回の冤罪事件について他言しないようにと……、店員の方からこちらに交渉してきた。
元より俺は、この出来事を大事にするつもりなどは毛頭無かった。
……というか、そもそも今回俺が疑われていた訳ではないので、なぜか妹と間違われてしまっているこの子に、事の顛末を任せるつもりでいたのだ。
だから、店員よ。俺に回答を求められても困るんだが……。そんな捨てられた子犬みたいな目で見ないで欲しい。
「……あの、お兄さん……。私は……大丈夫です。なので……その……、お兄さんが……話を進めて貰って。お願いします……。」
どうしようかと対応に困っていた俺に、腰の辺りに抱きついていた少女が、俺の事を見上げながらそう伝えてくる。
その下から見上げる瞳は少しだけうるうると潤んでいて、非常に保護欲をそそられる。
そして俺はその綺麗な瞳に、なんだか吸い寄せられるような感覚に陥ってーーはっ!
「……って、はっ!わ、分かったよ……。俺が代わりに店員さんとの話を進める事にする。え、えーと……、その……妹ちゃん?」
俺は思わず、その少女の美しい瞳に魅せられそうになってしまったが、なんとかその瞳から目を逸らす事で事なきを得た。
そして俺はその女の子の名前をまだ知らなかったので、そのまま店員の言っていた通りの妹として、その名で呼んだという訳だ。
「(まあ、それで『妹ちゃん』ていうのは、流石に安直過ぎる気もするけどな……。)」
すると俺のその呼び方を聞いた女の子(妹ちゃん)は……、なぜだか喜んでいて?
「……っ!?私が……妹ちゃん……。うん!……お兄さん?ううん……お兄ちゃん!……よろしくお願いします!」
そう言った女の子は今まで以上に強く、そしてもっとぎゅっと体を密着させながら、俺のお腹に力強く抱きついてくるのだった。
その後、俺と妹ちゃんは二人で相談しながら二つ分のデザートを選んで、妹ちゃんのアドバイスを受けながら、本当の妹……、雫の為のプリンを買う事が出来たのであった。
・
・・
・・・
・・
・
ーーー妹ちゃんと並んで歩く帰り道ーーー
「あの……、先程はありがとうございました。……お兄ちゃん。何も言えなかった……私の事を助けて……くれまして。」
隣を歩く妹ちゃんもとい『かずはちゃん』が俺への感謝の言葉を述べる。
二人で歩くコンビニからの帰り道。その間もずっとかずはちゃんは俺の右手を握っていて、俺達二人の距離は仲の良い友達や家族、それより親密な恋人同士のようにも周りから見えているのかもしれない。
なぜこんな風にかずはちゃんが、俺と手を繋いで歩いているのかというとーー
俺はコンビニでの万引き騒動の後、妹ちゃんと少し会話をしながらお詫びの商品を選び、今日はそれで家に帰ろうとしていた。
なぜならそこで、店員の奢り(隠蔽工作)によって、店の1番高いプリンを獲得する事が出来たからである。
そして俺はこれで雫への感謝の贈り物を確保出来た(まだ他にも何かするつもりではいるが)と安心して、妹ちゃんに「じゃあ、俺はこれで。」と、デザートコーナーで別れの言葉を告げたところ……。
「……えっ?お兄ちゃん……。もう……行っちゃうのですか?私、もう少し……お兄ちゃんと、一緒に……お話したいです。もうちょっとだけ……ダメ……ですか?」
妹ちゃんは俺の右手をぎゅっと掴みながら、かなりの至近距離、尚且つ上目遣いで俺の顔を見上げてそう言ってきた。
その瞳はやはり曇りない、とても純真な眼差しであり、その純粋なお願いを拒否するのは、俺にはとても難しく感じられた。
そしてその眼差しに耐えられなくなった俺は、少しだけ目を逸らしながらもその提案を受け入れる事にした。
「あ、ああ。じゃあ……、一緒に喋りながら帰ろうか?もう日も暮れそうだから、俺が妹ちゃんの家を教えて貰ってその近くに送るまでの時間になると思うけど……、それでも良いなら、そうしよっか?」
俺は少し照れながらも妹ちゃんの身の安全を配慮しつつ、その純粋な願いを叶えようとしてそう提案した。
すると、その提案に妹ちゃんは微笑む。
「……かずはです。お兄ちゃん……。」
「ん?『かずは』?……って、何が?」
「……私の名前、『かずは』って言います。そう呼んでください……。ううん……、そう呼んで欲しいです。……お兄ちゃん。」
彼女は俺に『かずは』と呼ぶように言うと、俺の右手をきゅっと握り直し、その手をニコニコと笑顔で引きながら、そのままコンビニを後にするのだった……。
ーーそうして、先程の冒頭であったコンビニからの帰路に戻るという訳だ。
あと、なぜか……、『かずはちゃん』の距離感というか雰囲気が、どこかで見たり、感じたりしたような気がするのは……、まあ、何かの気のせいだろう。(俺達は今日初めて会ったはずだし。)
とまあ、俺はそんな不思議な感覚を味わいながらも、『かずはちゃん』と彼女の家の近くまで、他愛もない会話をしながら一緒に帰路に着くのであった……。
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