彼女と突然別れて落ち込んでいたはずの俺が、次の日から色んな女の子と仲良くなっているのはなぜだ?

リン

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第十九話 急ぎで職員室へ

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「はぁはぁ……はぁー。何とかHRの時間までには間に合ったか……。先輩と和葉ちゃんには悪い事をしたとは思うけど、こればかりは早めに気がついて良かった……。
 黒板の方はまあいいとしても、日直日誌は朝のうちに取っておかないと、うちの担任がすごいキレてくるからな……。」


 俺は日直日誌を職員室に取りに行く道すがら、キレて熱くなりやすいうちのクラスの担任、望月 朱音もちづき あかね先生の性格を思い出して、そんな事を一人ボヤいていた。

 あの人は基本的にはテキトウな感じの先生なのだが、妙に生徒に絡むのが好きな先生であり、生徒の個人的な記録を残す日直日誌の存在を重く考えているのだ。

 なので、その日誌を朝イチまでに取らなければ……、もれなくHR後に朱音先生からお叱りを受けるのは必至となるだろう。


 そしてようやく職員室に辿り着いたという所で、さっき校門前で別れた、先程まで一緒に登校していた2人の事をふと思い出した。

 今朝の通学路、俺は先輩と一葉ちゃんの3人で仲良く話をしながら登校していたのだ。

 しかし途中で俺が今日の日直であった事を思い出し、2人に断りを入れてから、一足先に学校に向かわせて貰った。

 そしてひとり先を急ぐ事によって、何とか時間までに間に合い、このように日誌を取りに来れているという訳だ。


 まあでも去り際に、先輩と和葉ちゃんには改めて昼休み会う事を約束したので、名残惜しくはあったが後悔はあまり無かった。


「(……まあ客観的に見れば、少しの間でも先輩程の美人や和葉ちゃんみたいな可愛い女の子と一緒に登校出来ただけでも、ラッキーと言わざるを得ない状況だったんだろうな。
 別に俺は、2人の見た目が可愛くて綺麗だから一緒にいたいと思う訳ではないけど、野郎どもからの嫉妬の視線が今まで以上に、おそらく麗奈の時以上になるのかもなぁ……。)」


 俺は今日の朝の登校時に感じていた視線の多さを思い出しながら、そんな事を思って少しだけ溜息を吐きたくなる。

 だけど……。


「(また、麗奈と付き合い始めた時みたいな面倒くさい視線や嫌がらせみたいなものは出てくるんだろうが……、俺は俺を認めてくれる人達の事をちゃんと大切にしていくってそう決めたから、だから大丈夫だ。)」


 ーーそうだ。

 俺は先輩の手を取ったあの瞬間から、ちゃんと前を向くって決めたんだ。

 麗奈にばかり目がいっていて見えていなかった、自分の事を認めてくれていた人達の想いに応えるためにも。


「(それにもっと色んな事を知りたいし、仲良くなりたいと思えるような人に出会う事が出来たからな。そんな先輩とはこれからも関係を深めて行きたい。)」


 三葉先輩や和葉ちゃん、それに雫とだって今まで以上に仲良くしていきたい。

 いろんな経験を共にしながら、笑ったり、泣いたり、喜んだり、悲しんだり。

 そんな風にいろんな感情を共有して、共に前に進んで行く、そんな風な関係でいられたら……、い続けられたらと俺は思う。

 だからこれからは、今まで以上に積極的に色んな人と関わっていきたい。

 そして、これまでに出会った人達との縁をより一層大切にしていくつもりだ。


「(……って、前にもこんな風に決意表明をしたような気がするな……。自分を見つめ直す時間はそれなりに必要だと思うけど、これはちょっと思いつめ過ぎ?
 まあでも、それを考える事で今の時間の大切さが改めて実感出来るからな。)」


 俺は改めて心の中で自身の今後のスタンスを考えながら、職員室のドアを開けてその中に足を踏み入れる。


「失礼します!1-Bの相川です。日直日誌を取りに来ました!」


 俺は元気よく声を出して職員室に入り、自身が入ってきた目的を端的に伝える。

 こういうのは、ハッキリした声でハキハキと目的を伝える事が大切だ。

 もし仮に入室時の声が小さいと、扉周辺の先生方に「えっ?なんだって?」と、聞き返されてしまう事がある。

 そんな事になろうものなら、大した用事でもない為とても気まずい雰囲気になるのだ。


「(そんな事もあったからか、中学の頃から職員室に入るのは抵抗あるんだよな。)」


 などと、俺は在りし日の苦い思い出を思い出しながら、日直日誌を手に取ろうと1-Bの棚に手を伸ばした所ーーヒョイ!


 俺がその日誌を手に取る直前、誰かが俺が取ろうとしていた日誌を横から取り上げた。

 俺は「誰だ?」と思いつつ、隣に目を向けると……って、えぇ?


「はい?何してるんですか?朱音先生?」


 俺が半眼で眺めるその先には、イタズラが成功して喜ぶような、どこか少年を思わせる表情を浮かべた我らが担任、望月 朱音もちづき あかね先生の姿がそこにはあった。


「何ってお前……、可愛い教え子とただ戯れてるだけだろ?
 そうカッカすんなよ!相川!そんなすぐに怒ってたら女の子にモテねーぞ?お前?」


 相変わらずニヤニヤした笑みを浮かべながら、朱音先生は俺をからかうように告げる。

 幸いな事にもうすぐ授業が始まる時間なので、他の教職員は職員室にまばらにしか居なかったが、他の教師が聞けば確実にいい顔をしないような言動だ。

 この先生は基本的にテキトウな言動をする事で有名な教員なのだが、授業自体はマトモに行う教員なので……、他の先生方からは『少しだけだらしない所のある先生』程度の評価で何故か落ち着いている。

 しかし今は職員室には俺と朱音先生くらいしか居ないので、その最低限の体裁さえ特に気にしていない様子だ。


「はぁ……。余計なお世話ですよ。朱音先生。もう授業まで時間無いんですから、遊んでないでそれをこちらに渡してください。」


 俺が至って普通の主張を朱音先生に述べた所、朱音先生はキュッと眉を寄せ、不機嫌そうな顔になってぼやく。


「ふん!あたしの事を朱音先生なんて他人行儀の名前で呼ぶ相川の言う事なんて、聞いてやる必要なんてないね!
 あたしの事は親しみも込めて、と呼べっていつも言ってるだろ!」


 などと、朱音先生もとい朱音ちゃんはそう言って、ズビシッと俺の先生に対する呼び名を槍玉にあげつつ、日直日誌の受け渡しを理不尽にも拒否してくる。

 中学からの唯一の持ち上がりの教師、この望月 朱音もちづき あかね先生は俺達が中学1年生の時からの担任教師であり、これまでの中学3年間俺達と共に時間を過ごして来て、これからの高校3年間も共に過ごす予定の先生なのだ。

 そしてそんな、中学からの生徒達との距離が近い朱音先生は自身を「朱音ちゃん」と呼ぶようにと、中学からの持ち上がりクラスである1-Bの生徒達には特に厳命しているのだ。

 なんでも、生徒との距離が近くないとイジメや悩みなど、細かい生徒の変化に気づけないからだそうだ。決して呼び方だけでも若く見られたい訳ではないとの事。(本人談)

 なのでこの担任は一生徒である俺に対しても、このように「朱音ちゃん」呼びを強く勧めてくるのだが……色々と問題が多い。


「嫌ですよ。男子で俺だけが先生の事を朱音ちゃんなんて呼ぶのは……。何だかんだで呼んでるのは女子生徒だけだし、俺がそんな名前で先生を呼んでれば、他の野郎どもから絶対に殺されますって。」


 俺は理論的に説明して、朱音先生を「朱音ちゃん」と呼ぶ事を断固として拒否する。


 確かにこの教師は「朱音ちゃん」と呼ばれるにふさわしい、小さい身体と幼く聞こえるロリボイスの持ち主だ。

 そのため、女子生徒からは本人が推すように、幼い身体と声を持つ教師ーー『合法ロリの朱音ちゃん』と広く呼ばれている。

 しかし、この呼び方は女子であるから大丈夫なのであって、もし仮に男子がそう呼ぶともれなく女子から白い目、若しくは冷たい目で見られてしまうのだ。

「このロリコン野郎」という、謂れのない誹りを受けながら……。


 なので男子一同、朱音先生の事を「朱音ちゃん」とは呼ばないようにと、暗黙の了解のようなものが存在しているのだ。

 もし、誰か一人でもそう呼んでしまえば、先生の「朱音ちゃんと呼べ!」という要望を断りづらくなるという理由も含めてだ。

 だから男子一同、俺も含めてその名では呼ばないようにしている訳なのだが、中学の頃から俺に着々ちょっかいを掛けてくるこの教師はまるで聞く耳を持たない。


「はん!そんなの関係ないね!あたしは朱音先生なんて、堅苦しく呼ばれるのが1番嫌いなんだ。だからあたしの教え子の……、ひいてはあたしがお前には、絶対にそう呼ばすと前から決めている。
 さぁ!早く朱音ちゃんと呼んで、あたしを満足させないと日誌を渡す事は出来ないぞ?このまま遅刻してもいいのか?うん?」


 朱音先生は過去の出来事、俺が中学3年生の時に事を引き合いに出して、そのように言って説得おどしてくる。


 ーーこれは参った……。その話を出されてしまっては俺も強くは出られない。

 俺は中学3年生の夏、とても朱音先生にはお世話になっているのだ。

 その事について、今でも先生に深く感謝しているし、それがあってから俺は先生の事をかなり尊敬するようになった。

 なので、女子達からのロリコンの謗りがどうのこうのというよりも、単純に尊敬している先生の事をそのように友達みたいには呼べないというのが正直な所である。


 ーーとは言え、そんな俺の心の葛藤を汲んで、簡単に引き下がってくれるような人ではないので……、俺が選んた応えは……。


「はぁ……。分かりましたよ。朱音ちゃん。これでいいんですか?もう……。
 流石に外ではそうは呼びませんけど、2人だけの時なんかは朱音ちゃんと呼ばせて貰います。それでいいですよね?……朱音?」


 と、常識的に可能な範囲で譲歩した案を俺は朱音先生に提案する。

 さっきも言った通り、生徒の前でそう呼ぶのはかなり厳しいと思うが、これであれば、見つかりさえしなければ大丈夫な範疇だ。

 俺が色々考えて提案したその案に、先生は若干不満気ではあるが一応は納得して……。


「チッ!まあ、いいか。今回はそれくらいで妥協してやる。普通だったら……みんなの前でもそう呼ばせて、相川が男子から吊るし上げられてるのを楽しむ所なんだが……、との事もあるからそれは見送ってやる。
 ほらよ、日直日誌だ。もう今日みたいにギリギリで登校してくんなよ?」


 朱音先生はそう言って、ポイっと日直日誌を俺の方に投げ込んでくる。

「ちょっと先生!いきなり投げないで下さいよ!」と、俺が非難しつつ先生を見ると、先生は背を向けていた身体をチラリと一瞬だけこちらに向けて言う。


「あぁ、あと……、これはお節介だろうけど、については注意しとけよ。
 どうせお前の事だから、アイツに心残りや思い残しが色々とあるだろうし言うが、アイツから手を離したとしても、アイツとの関わりを自ら断つような事はしないでくれ。アタシから言える事はそれだけだ。」


 そんな言葉を吐き捨て、朱音ちゃんはスタスタと職員室を後にしようとする。

 だがそれを聞いた俺は、先生には伝えておかなければならない事がある。


「ごめんなさい。朱音先生……。先生の言う通り、自分から拒絶する事はないって言い切れるんですが、これまでのように彼女を優先する事は……もうないかもしれないです。先生の気遣いはありがたいんですが、には応えられないかもしれないです。」


 俺に背を向けたままの先生に対して、申し訳ない気持ちと共に、今の俺の胸の内にある確かな気持ちを正直に伝える。


 ーー俺自身、気がついているのだ。


 確かに俺の心の中に占めていた彼女への気持ちや想いが徐々に薄れている事に。

 また、それとは対照的に大きくなる三葉先輩や雫に対する感情の存在に。

 だから、これまでのように麗奈へと手を伸ばせないと思うし、それを理由に先輩や雫を悲しませるような事はしたくない。

 そういう考えがあって、俺は朱音先生の忠告をただ了承する事は出来なかった。


 すると、振り返る事なく黙って俺の話を聞いていた朱音先生は……ポツリと呟く。


「そっか……。はもう麗奈の幻を追いかけてないんだな。相太が前を向いて歩き出したのなら、それを追いかけるのかはアイツ自身の問題か……。」


 朱音先生は何やら真剣な顔でぶつぶつと独り言を呟き、歩き始めていた足をピタリと止めて、その場で立ち止まる。

 声が小さくて聞き取れないが、別に俺の返答に対して怒っている訳ではなさそうだ。

 俺は少しの間、その場から動かない先生の事を待っていたが、一向に何も言わないのが不安になって声を掛けた所ーー


「……あ?まだここにいたのか?お前?HRまでの時間がないから、お前は先に教室に行って黒板を綺麗にしておけ。
 アタシは……、少しだけ別の仕事があるから、また後で教室の方に向かう。」


 などと、まさかの「まだいたのか?」発言からの早く出て行けと、半ば強引に職員室を追い出されてしまった。

 少し酷い対応だと思わず先生に不満を口にしそうになるが……、先生は俺と麗奈の事を真剣に考えてくれたからこそ、あのような対応になったのだろう。

 俺はそう無理矢理自分を納得させて、先生の指示通り、黒板を事前に消しておこうと急いで教室に向かうのだった……。
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