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第三十二話 心の距離と変わる関係
しおりを挟む「あ、あの!黛さん……。俺、黛さんの事ずっと前から好きでした!よろしければ、お、俺と付き合ってください!お願いします!」
「…………。」
これは一体どういう事だろうか?
私、黛 麗奈は目の前で私に告白してくる男子生徒。名前も顔も覚えていない彼の事を前に、どうして初対面のはずの私にこの人は告白してきたのだろうと困惑していた。
かれこれ、もうこの手の話は今日も含め既に十数件を超えている。今朝、体育祭の合同開催に向けて朝から行われた生徒会活動の前に1人。そして今、その活動を終えて学級日誌を取りに行こうと職員室に向かおうとしているタイミングで声を掛けられ……、また1人。
現在、私の目の前に立っている彼で、朝だけでもう二人目になるのだ。
そしてこれも殆ど皆共通してそうなのだが、私がそれを「ごめんなさい。あなたとは付き合えません。」と、最早お決まりのように目の前にいる彼にもそれと同じ言葉をそのまま伝えてみると……。
「ど、どうしてですか?俺が普通過ぎるからダメなんですか!?でもそれなら……、相川とは付き合ってたじゃないですか!友達からでもいいんで、LINEだけでも交換してくれませんか!?お願いします!」
やはりお決まりの『相川とは付き合ったのに』と言って、中々引き下がろうとしない。
ここ数日、正確には相太と別れてからの数日。私は毎日のように告白してくるしつこい男子生徒達の告白に辟易としていた。
「(どうして皆、相太の名前を出して私の事を引き留めようとするの?私が相太と付き合っていたからって、それが無くなれば……、私はアナタ達と付き合えなくても、友達からの関係を始めないといけないの?)」
皆、相太と私が別れたと知るや否や、すぐに俺も僕もと告白してくるのだ。私は今それどころではないのに……。
そもそも、全てのキッカケになった相太との交際の終了。私はそれについて、改めて考えなければならない事が沢山あるのだ。
私が相太に対して抱いている感情。それが上手く分からないまま私は相太とお付き合いしていた。もちろん彼の事が好きであったというのは間違いない。当たり前の話で、好きでもないのにお付き合いしようとはしない。
ただそれが恋愛感情のような『Love』だったのか、それとも『Like』だったのか……。はたまた別の違う感情だったのか……、それを私は理解していない。
こんな風に言うと、とても冷たい言い方になってしまうと思うが、『彼の近くにいたい。』という率直な想い。それを最も合理的な形で実現するため、私は『相太とのお付き合い』という形をとったのだ。
そうすれば……、もっと自分を知って貰えて、彼と仲良くなれるような気がして。
私の事を特別な人間だと敬遠しない。私を特別な人間としては見ない。そんな相太が近くにいて欲しかったから……。
「(私は私の事を『特別』扱いしない、普通の人と同じように優しく接してくれる彼だから、私はもっと近づきたいと思った。
周りの人達のように、表では称賛を口にしておきながら、裏では私を非難し遠ざけるだけの人たちとは違ったから、私は彼と一緒に居たいと思っていた。)」
ーーけれど……、そうして付き合い始めた時から、私は彼との間に僅かに生じたズレのようなものを感じるようになった。
もちろん相太は私と付き合ってからも、変わらず私を遠ざけるような事はないし、彼から何か嫌な事をされたという訳でもない。
ただ彼は、その時から私の事を全てに置いて優先して大抵の事に従うようになり、私の事を誰よりも、そして何よりも特別視するようになったのだ。
まるでそれは、ただ私の事を肯定するだけの無機質な機械のようで、私にはそれが違和感であり、そうではないと信じたかった。
私はただ優しい彼の隣に居たくて、その近くで普通の女の子として見てもらいたかっただけなのに……。
しかしその後も彼と交際していく中で、私にはそれがずっと違和感のままで……。
私がホントに欲しかったのはこれではないと、その時の私はそう思った。
だから私は彼と、相川 相太と一度距離を置こうとして、この交際関係を一度終わらせる判断を下したのだ。
そうすれば、私の本当に欲しかったもの。それがまた手に入るとそう信じて……。
そして、この関係を自らの手で終わらせる事で、また元の関係に戻れると思っていた私は……、自らがどれだけ自分勝手で独善的であったかを全く気付いていなかった。
私が彼に別れを告げた際……、その時になって初めて私は知った。私の自分勝手な願いの結果がどれだけ彼の事を傷つけてしまうのかという事を……。
そして、私からの別れの言葉に歪む彼の顔を横目に、私はまた言葉を飲み込んだ。
自身のとった行動がもたらす結果からも、悲しみに歪む彼からも逃れるようにして。
それから、逃れるように教室を出た私は相太と同じクラスの……、確か西田くん?と廊下ですれ違い、俯きながら早足で歩く私を彼は不思議そうな様子で見ていたが、私はそれを無視して早足にその場を後にした。
また明日、また明日にでも彼に会って、今日彼に伝えられなかった事も含めて、彼と話そうとそう自身に言い聞かせて、私はその日、彼の元に戻る事は無かったのだが……、次の日には何もかもが違っていた。
相太と別れた次の日には、私に言い寄ってくる男子生徒達や相太の隣に急に現れたあの女を含め、私の周りがたった1日で、昨日とはまるで違うものになっていたのだ。
次の日になって特に違っていたのは周り目。私を興味深そうに見る視線も含め、様々な視線がそこら中から集まっていたのだ。
しかしその中でも印象的だったのは、その中にちらほら私に怒りの視線を向ける生徒、怒りとまでは行かなくても非難の視線を向ける生徒が少数ながら存在した事だ。
中でも驚いたのはサッカー部初の1年主将。同じく中学からの同級生である神木くんに「俺はお前を絶対に許さない。」と、偶々廊下ですれ違った際、面と向かってそのように言われてしまった事だ。
普段の彼は、その真面目で人情が厚い性格から、男子生徒を含め多くの女生徒から人気がある人で、特に女性に対しては常に紳士的であると有名な人物なのだ。
しかしそんな彼が本気で激怒し、あまつさえ、多くの人が見ている廊下で、面と向かってそう言ってくるとは思っておらず、私はその事にも驚きを隠せなかった。
だが……、私は同級生である彼とはあまり話した事がなく、それにもかかわらず突然「お前を許さない。」と言われたため、「いきなり何ですか?私を許さないって……。私がアナタに何かしましたか?」と、私は彼に真っ向から言い返したのだ。
暗に「お前には関係ない。」と、そう突き放すようなそんな意味も込めて……。
しかし、彼はそんな私の言葉にも全くひるむ様子はなく、むしろ呆れるような様子でこちらを見て、彼はゆっくり口を開く。
「ーーアイツの事を少しでも悪く言いたくないんだが、これでは言わざるを得ないみたいだな……。アイツは良い奴で、人間関係も特に問題があるとは言えないが……、付き合った女の趣味はあまり良くないみたいだな。
流石に、榎本みたいなのはだらしなくて俺は好かんが、アイツにはもっとしっかりした……アイツにもっと寄り添ってやれる奴がきっとお似合いだろうな。
……と、話が脱線したが、俺が今お前に思う事はただ一つ、今のお前にはアイツの隣は相応しくない。ただそれだけだ。」
彼はそれだけを私に言い放つと、私からの返答の言葉を待つ事なく、そのまま先に教室に行ってしまった。
そして彼の隣にいた同じくサッカー部の人達も、特にこちらには何も言わず、しかし私には一瞥もくれず、そのまま神木くんに次いで去って行ったのだった……。
ーー話が大分逸れてしまったが、とにかく私には今、考えなければならない事が沢山あり、こんな風に名も知らぬ男子生徒に時間を取られている場合ではないのだ。
私は現実に思考を戻し、名も知らぬその男子生徒にハッキリと自身の考えを伝える。
「アナタには申し訳ないけれど、私は今誰かと付き合う気はないし、言われて誰かと友達から始めようとも思っていないわ。ーー彼以外とは……ね。
だから、ごめんなさい。アナタとは連絡先の交換は出来ないし、友達からもごめんなさい。では、私は今からでも考えたい事があるから……、もう行くわ。」
私は対面の彼の返事を待たず、そのまま背を向けてその場を立ち去ろうとすると……、ガシッと名も知らぬその男子生徒は私の腕を強引に掴んできたのだ!
私は思わず手を振り解こうと、その男の手から逃れようとするがーー解けない。
「この!さっきから聞いてれば散々言いやがって!誰も今すぐに付き合えなんて言ってねーじゃねーか!友達からって言ってやったのに、バカにしやがって!
どうせ相川の事だって男避けの隠れ蓑にしてたんだろ?だったら、俺と友達から始めたって別にいいだろうが!」
男はそう言うと、ますます腕を掴む力を強くし、私の抵抗する力を抑え込もうとする。
私はその男子生徒の突然の豹変ぶりにも恐怖したが、何よりも……、私と相太が付き合っていた事をそういう意味で捉えられていたという事に強い衝撃を覚えた。
そして、こんな危険な状態であるにもかかわらず、私の頭の中はその男子生徒が言ったその言葉に支配されていた。
「(私が相太と付き合っていたのが、男を自分に寄せ付けない為の、面倒な告白や言い寄ってくる男を追い払う為の隠れ蓑だと、みんなからは思われていた……?
だから、別れてからすぐに……、コチラの気持ちも何も、何一つ気にする事なく男達が私に言い寄って来たって言うの……?)」
私はその事実に息を呑み、周りから彼がどんな風に見えて何を言われていたいたのか。今更ながらに私はそれを想像してーー
「……わ、私は……。彼に何て事を……。」
自身があまりにも彼に無関心で、どれだけその無関心が彼の事を傷つけていたのか。それを今ようやく理解する事が出来た。
しかし、私がその言葉に動揺し心が揺れている間にも、男は強引に私に迫っていて、絶体絶命だと思われた……、まさにその時。
「お前は一体なにやってんだ?オラっ!ソイツを離せ!言動含めてダセー奴だな!
ったく……、何で俺が相太の代わりを務めねーとダメなんだよ……。いくら相太からの頼みとは言え、数日でこれじゃあ、この先がマジで思いやられるぞ。ホントに……。
ほら黛。あとは俺が何とかするから、お前はサッサと用事済ませて早く教室に戻れ。コイツの事は俺から先生に伝えとくから。」
突然、私を掴んでいた男子生徒の背後から現れた榎本くんが、その男子生徒の手首を捻り上げ、身動きが取れないように手を背中で押さえ付けて取り押さえたのだ。
彼は呆れたような顔で私の事を見ていて、一見するとその様子は隙だらけのようにも見えるが……、押さえ付けた男子生徒からは一度も注意を逸らすような事はなかった。
私は動揺する心でも、何とか感謝の言葉を彼に告げ、痛む身体を押さえながらもそのまま教室に向かい、初めて知る胸の痛みに……、かつてない程心が揺れ動くのだった。
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