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冒険者登録?(いえ、ルールとか規約とかめんどくさいんで)

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12「冒険者登録?(いえ、ルールとか規約とかめんどくさいんで)」

 異世界に来て間もない俺は、日々の生活費の為…、自力でお金を稼ぐ事にした

 少しの持ち合わせがあるが…、それも使っていればいずれは無くなるし、何より…何かしないとヒマなのだ…


 そしてそんな俺は、軽くバイト探し感覚で、冒険者ギルドにフラッと来た訳なのだが……


「ねえ?きみ?ここで冒険者登録しようよ!
 ほら?きみ…冒険者としては初心者でしょ?
 初心者のうちは冒険者を他の人たちと比べることから学んで……」


 と、かれこれ10分ぐらいは俺を引き止めている…受付のお姉さん

 もうなんか、俺の後ろにいた人たちも他のところに行っちゃったし…

 その大きな声から、えらい周りの注目を集めてしまっている

 ソロソロ注目されるのは、勘弁して欲しいんだが……

 そうだな…、よし!

 ここはなんか…、それらしいこと言って乗り切ることにしよう!


「すまない…、今日俺はここに、冒険者がどんなものかを聞きに来ただけなんだ
 だから、もう少し考えて…、入るか入らないかをしっかり検討してから加入したいんだよ
 もしかしすると、他にも俺の天職があるかもしれないしな?
 だから今日は残念だけど…、冒険者登録をするのはやめとくよ」


 と、そのような完璧な言い訳をその場で考え…、それをしつこく引き止めるお姉さんに伝える

 流石にこれなら…今日はダメでも、次ならばという風に考えて、今日のところは諦めてくれるだろう

 そんな風に我ながら中々言い返しだ!

 と、内心ほくそ笑んでいると……


「ダメだよ!今日…今!登録してもらえないと安心出来ないじゃん!
 きみの気が変わったら、登録してもらえないかもだし……、そんなのボク絶対嫌だよ!
 ほら!すぐに登録出来るよ!ほんの5分程度あればすぐにでも!」


 と、なぜかそれらしい言い訳したのにもかかわらず、相変わらずというか…何というか…

 先程以上に食い気味でお姉さんは、そのように言って俺のことを説得してくる


 流石にこれには…、他のギルド職員も手を止め、その様子を見て呆気に取られている


 そして、つかつかと後ろから一人の職員がお姉さんに歩み寄って…


「どうしたのよ…メルル?貴方今日…、普通じゃないわよ?
 そもそも冒険者登録するのは、その相手の自由じゃない!あなたがそのタイミングを決める権利なんてないわ
 それなのになぜ…、貴方は彼にそんなにもこだわると言うの?」


 と、言ってお姉さん…メルルさんにそこまでこだわる訳についてそう尋ねる

 うんうん、そりゃそうだよな!
 いくらなんでも、入るか入らないかを決める決定権はこっちにあるはずだし…

 やはり…側から見ても、このお姉さんの俺に対する執着は異常だ

 そしてそれを見た俺も、これを好機と見て…一気にお姉さんに畳み掛ける


「まあ、そのお姉さんの言う通りだ
 次もし登録する時なんかは、メルルさんのところにちゃんと行くからさ」

 と、ちゃんと登録する意思がある事を伝え、お姉さんに納得してもらおうとする


 するとその言葉を聞いて…、メルルさんを説得していたお姉さんの方もうんうんと頷いて…


「ほら、彼もそう言ってくれてるし…ね?
 すいません…お兄さん、今日はこんな感じになってしまいましたが…
 またのお越しをお待ちしております!」


 と、何やらもう1人のお姉さんから帰っていいとの合図が出たので、ここはありがたく帰らせてもらう

 俺はばいばーいと、手を振って…
 そのままギルドを出て行く

「待ってよぉ!」というメルルさんの悲痛な声が、後方から聞こえててくるが…

 まあ、可哀想だけどしょうがないよね

 と、俺は心の中でメルルさんに謝ってから、ギルドを後にするのだった……








 ーーーーギルド休憩室にてーーーー

「それで、何があったのよ…メルル?
 彼、ここに来たのは初めてなんでしょ?
 なのに初対面であるはずのあなたが…、なんであそこまで熱心に彼のことを勧誘するのよ?」


 今日、私の後輩である…受付嬢のメルルが、新人の男の子をしつこく勧誘したという事で、ギルド内で結構大きな騒ぎとなった

 そしてその騒ぎの仲裁に入った私は、休憩に入ったメルルにその理由を尋ねるべく、そう問い詰めたという訳だ


 あのとき彼は、怒らずに冷静でいてくれたため、そこまで大ごとにはならなかったのだが…、あれほどしつこい勧誘となるとギルドとしても問題になってしまう


 しかも当のメルル本人は、こちらに謝るどころか…、今でも彼の事を帰した私に恨み言を言ってくる


「もう!エルザさんったら!あの人をそのまま帰しちゃうなんて!
 あのままボクがもうちょっと粘ったら、ギルドに入ってくれたかもしれないのに!」


 と、当のメルルはぷりぷりした様子で、私そんなに文句を言っている

 彼女は普段は大人しく、丁寧なことで有名な職員なのだが…、その実は自分のことを"ボク"と呼ぶ、所謂ボクっ子なのである

 いつもの彼女なら、私の前でもあまりそう自分のことを呼ばないはずだが…、興奮している今ではそんな余裕もないようだ

 なので「なにをそこまで、彼に執着しているの?」と、私が再びその理由を尋ねると…


「だってあの子!全然ボクに興味ないみたいなんだもん!
 あれじゃあサキュバスとしての名折れだよ!それであのまま帰しちゃうなんて!」


 と、メルルは私に主張する


 そう、この子は父親に人間、母親にサキュバスを持つ半魔の存在なのだ

 そのため、この子より可愛い受付嬢は他にもいるのだが…、ウチのギルドの1番人気受付嬢は…、半魔でもちゃんとサキュバスの血が流れているこのメルルなのだ


 しかもサキュバスは、処女のほうが魅了の力が強い種族である

 そしてそれにも当てはまる彼女は、その魅了のため…同性にも絶大な人気があるのだ


 だから自分が担当した…、それも魅了に掛かりやすいはずの男が、自分の言う通りにならないというのは、サキュバスとしての名折れになるという話は分からなくもないのだが……


「だからって、そこまでムキになる必要なんてないでしょう?
 あなたの魅了が効きにくい人だって…、たまには異性の中にもいるんだから……
 流石にちょっとは、あなたの思い通りにならない事ぐらいあるわよ」


 と、言って、私は興奮するメルルのことを宥める

 彼女は存在するだけで人の心を魅了してしまうが…、たまにその魅了が効きにくい人も存在するのだ

 また、その魅了される対象の魔力に対する耐性が高ければ、高い程…、その魅了を跳ね除け易くなるのだ

 しかしそれを聞いた彼女は、「違うんだ」と、首を横に振って


「ううん、僕もそうだと思って…、それでもずっと彼のことを魅了してたんだよ
 なのに彼は全然ボクに興味を示してくれなかったの……
 それでボクは、思い切って…彼にチャームの魔法を掛けてみたんだよ」


 と、メルルは言いながら…、少し難しそうな顔をする


 チャームはサキュバス特有の魅了魔法で、対象(特に男性)に自身への強力な魅了を掛けるというものだ

 しかしそれは、生半可な魅了とは一線を画すものであり、その魅力の度合いによっては…

 その魅了された相手が、場所や状況を考えず襲ってくる可能性すらあり…、無闇な使用は非常に危険なものだ


「チャームって…、あなた……
 本当に何やってるのよ!あなたは!
 もし彼がギルドで襲って来ていたら、どうするつもりなのよ!
 そんな事になれば、彼の世間体だって!
 って…、あれ? でもおかしいわね…
 それじゃあ…、なんで彼はあなたに何もして来なかったというの?」


 と、私は彼が理性を失っていなかった事を思い出し、それが何故なのかをメルルに尋ねる


 すると私の言葉に、メルルは「それが疑問なのさ」と言って


「それが分からないから、ボクが頑張ってたんじゃないか!
 でもこれで決めたね!ボクは彼を絶対にボクのものにしてみせる!」


 などと言いながら、ばっと席を立ち上がってそう宣言してくる


 なぜ自分のものと言っているのかは、よくわからないのだが…、私も少しだけ…その噂の彼に興味が湧いてくるのだった……
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