57 / 140
途中
力
しおりを挟む
「あの果物が並んでいる店かい?」
ディアの声が私を現実へと戻す。
風は木の葉を揺らし鳥は青空を飛びかい、人の群れは各々の目指す場所へと移動する。
「あっ…うん……」
ディアの腕に身を寄せる。
「レイヤ?」
私の様子がおかしいことに気がついたのかディアが顔を覗きこむ。
「何があったの?」
ディアが真剣な眼差しをむける。
言えなかった。
私がもしかしたらあの物語の王女かも知れないなんて…
言えるわけがない。
帝国の皇帝になるディアに、私が国民を虐殺した女王かも知れないなんて…
「少しだけ人に酔ったみたい…」
咄嗟に出た言葉は嘘と呼ぶにはお粗末なものだった。
「……そっか…大丈夫?」
ディアは無理に聞きだそうとはしなかった。
「桑の実だって、初めて見たよ。レイヤは苺が好きだったよね?
苺とあと桑の実も少し買っていこうか?」
ディアは何もなかったふりをして話続ける。
太陽の光を浴びてどどめ色が輝いて見える。
桑の実…桑の実……
ズキズキと頭が痛む。
桑の実…何か大切な事を忘れてしまった気がして思わず息をのむ。
私は何を忘れてしまったのだろう?
よく熟した桑の実から目が離せない。
記憶の奥底で楽し気に笑う声と甘酸っぱい香りがした気がした。
「きゃー!!」
耳をつく悲鳴が私の思考をさえぎる。
ヒヒーン
ヒヒーン
馬の嘶きと共に子供の泣き声が聞こえる。
体が勝手に子供の泣き声の方へとむかう。
路上には子供の母親と思われる女性が頭から血を流したおれている。
女性をひいた馬車は何事もなかったかのように走り去る。
誰も女性や子供に声をかける者はいない。
走り去った馬車を責める人もいない。
怒りと悲しみと不安と焦りが私を支配する。
「レイヤ!!」
ディアが私を後ろから抱き寄せる。
「ここでは駄目だ。」
耳元でディアが囁く。
薬指の指輪が怪しく光る。
「お願いだ。
こらえてくれ…
頼むから…レイヤ…」
ディアが護衛に指示したのか、ディアの護衛騎士達が母親と子供を救助する。
「…行こうか……」
ディアが私の肩を抱いたまま歩きはじめる。
しばらく歩くと小さな宿屋に着く。
騎士が私達を奥の部屋へと案内する。
部屋の外まで子供の泣き声が聞こえる。
ディアが皆に外へ出るよう指示する。
部屋の中には私とディア、そして辛うじて息をする母親。
ディアが私の薬指から指輪を外す。
部屋中が光に満ち溢れる。
目が覚めるとディアの腕の中だった。
「お疲れ様…レイヤ」
「あの人は助かったの?」
ディアが私の額に口づける。
「子供としばらくは宿で休んでもらうつもりだ。レイヤ…」
ディアは私を見つめる。
「なるべくなら、あの力は使わないで欲しい…」
絞り出すように告げたディアの言葉に私は静かにうなずくしかなかった。
ディアの声が私を現実へと戻す。
風は木の葉を揺らし鳥は青空を飛びかい、人の群れは各々の目指す場所へと移動する。
「あっ…うん……」
ディアの腕に身を寄せる。
「レイヤ?」
私の様子がおかしいことに気がついたのかディアが顔を覗きこむ。
「何があったの?」
ディアが真剣な眼差しをむける。
言えなかった。
私がもしかしたらあの物語の王女かも知れないなんて…
言えるわけがない。
帝国の皇帝になるディアに、私が国民を虐殺した女王かも知れないなんて…
「少しだけ人に酔ったみたい…」
咄嗟に出た言葉は嘘と呼ぶにはお粗末なものだった。
「……そっか…大丈夫?」
ディアは無理に聞きだそうとはしなかった。
「桑の実だって、初めて見たよ。レイヤは苺が好きだったよね?
苺とあと桑の実も少し買っていこうか?」
ディアは何もなかったふりをして話続ける。
太陽の光を浴びてどどめ色が輝いて見える。
桑の実…桑の実……
ズキズキと頭が痛む。
桑の実…何か大切な事を忘れてしまった気がして思わず息をのむ。
私は何を忘れてしまったのだろう?
よく熟した桑の実から目が離せない。
記憶の奥底で楽し気に笑う声と甘酸っぱい香りがした気がした。
「きゃー!!」
耳をつく悲鳴が私の思考をさえぎる。
ヒヒーン
ヒヒーン
馬の嘶きと共に子供の泣き声が聞こえる。
体が勝手に子供の泣き声の方へとむかう。
路上には子供の母親と思われる女性が頭から血を流したおれている。
女性をひいた馬車は何事もなかったかのように走り去る。
誰も女性や子供に声をかける者はいない。
走り去った馬車を責める人もいない。
怒りと悲しみと不安と焦りが私を支配する。
「レイヤ!!」
ディアが私を後ろから抱き寄せる。
「ここでは駄目だ。」
耳元でディアが囁く。
薬指の指輪が怪しく光る。
「お願いだ。
こらえてくれ…
頼むから…レイヤ…」
ディアが護衛に指示したのか、ディアの護衛騎士達が母親と子供を救助する。
「…行こうか……」
ディアが私の肩を抱いたまま歩きはじめる。
しばらく歩くと小さな宿屋に着く。
騎士が私達を奥の部屋へと案内する。
部屋の外まで子供の泣き声が聞こえる。
ディアが皆に外へ出るよう指示する。
部屋の中には私とディア、そして辛うじて息をする母親。
ディアが私の薬指から指輪を外す。
部屋中が光に満ち溢れる。
目が覚めるとディアの腕の中だった。
「お疲れ様…レイヤ」
「あの人は助かったの?」
ディアが私の額に口づける。
「子供としばらくは宿で休んでもらうつもりだ。レイヤ…」
ディアは私を見つめる。
「なるべくなら、あの力は使わないで欲しい…」
絞り出すように告げたディアの言葉に私は静かにうなずくしかなかった。
10
あなたにおすすめの小説
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
【完結】身代わり皇妃は処刑を逃れたい
マロン株式
恋愛
「おまえは前提条件が悪すぎる。皇妃になる前に、離縁してくれ。」
新婚初夜に皇太子に告げられた言葉。
1度目の人生で聖女を害した罪により皇妃となった妹が処刑された。
2度目の人生は妹の代わりに私が皇妃候補として王宮へ行く事になった。
そんな中での離縁の申し出に喜ぶテリアだったがー…
別サイトにて、コミックアラカルト漫画原作大賞最終候補28作品ノミネート
【完結】一番腹黒いのはだあれ?
やまぐちこはる
恋愛
■□■
貧しいコイント子爵家のソンドールは、貴族学院には進学せず、騎士学校に通って若くして正騎士となった有望株である。
三歳でコイント家に養子に来たソンドールの生家はパートルム公爵家。
しかし、関わりを持たずに生きてきたため、自分が公爵家生まれだったことなどすっかり忘れていた。
ある日、実の父がソンドールに会いに来て、自分の出自を改めて知り、勝手なことを言う実父に憤りながらも、生家の騒動に巻き込まれていく。
酒の席での戯言ですのよ。
ぽんぽこ狸
恋愛
成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。
何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。
そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。
婚約者に好きな人がいると言われ、スパダリ幼馴染にのりかえることにした
みみぢあん
恋愛
子爵家令嬢のアンリエッタは、婚約者のエミールに『好きな人がいる』と告白された。 アンリエッタが婚約者エミールに抗議すると… アンリエッタの幼馴染みバラスター公爵家のイザークとの関係を疑われ、逆に責められる。 疑いをはらそうと説明しても、信じようとしない婚約者に怒りを感じ、『幼馴染みのイザークが婚約者なら良かったのに』と、口をすべらせてしまう。 そこからさらにこじれ… アンリエッタと婚約者の問題は、幼馴染みのイザークまで巻き込むさわぎとなり――――――
🌸お話につごうの良い、ゆるゆる設定です。どうかご容赦を(・´з`・)
私と義弟の安全は確保出来たので、ゆっくり恋人を探そうと思います
織り子
恋愛
18歳で処刑された大公家の令嬢、セレノア・グレイス。
目を覚ますと――あの日の6年前に戻っていた。
まだ無邪気な弟ルシアン、笑う両親。
再び訪れる“反逆の運命”を知るのは、彼女だけ。
――大公家に産まれた時点で、自由な恋愛は諦めていた。だが、本当は他の令嬢達の話を聞くたびにうらやましかった。人生1度きり。もう少し花のある人生を送りたかった。一度でいいから、恋愛をしてみたい。
限られた6年の中で、セレノアは動き出す。
愛する家族を守るため、未来を変えるために。
そして本当の願い(恋愛)を叶えるために。
悪女として処刑されたはずが、処刑前に戻っていたので処刑を回避するために頑張ります!
ゆずこしょう
恋愛
「フランチェスカ。お前を処刑する。精々あの世で悔いるが良い。」
特に何かした記憶は無いのにいつの間にか悪女としてのレッテルを貼られ処刑されたフランチェスカ・アマレッティ侯爵令嬢(18)
最後に見た光景は自分の婚約者であったはずのオルテンシア・パネットーネ王太子(23)と親友だったはずのカルミア・パンナコッタ(19)が寄り添っている姿だった。
そしてカルミアの口が動く。
「サヨナラ。かわいそうなフランチェスカ。」
オルテンシア王太子に見えないように笑った顔はまさしく悪女のようだった。
「生まれ変わるなら、自由気ままな猫になりたいわ。」
この物語は猫になりたいと願ったフランチェスカが本当に猫になって戻ってきてしまった物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる