暴力みたいな恋でした(完結)

回想～過ぎ去りし日々 3～

騎士課の１日は走り込みで始まり走り込みで終わる。
そこには男も女もない。
ただ、ただグラウンドを走るのだ。
汗も涙も鼻水もヨダレも垂れ流したままがむしゃらに走る。
｢確かにこんな姿みたら１００年の恋も覚めるわ（笑）｣
ぐしゃぐしゃになった顔をタオルで隠しその場でしゃがみこむ。
｢少しピッチが早かったぞ｣
大きな手が私の頭をポンポンと叩く。
｢なによ。少しばかり私より走れるからって、偉そうに言わないで！！｣
頭の上の手をふりほどくと
クラスメイトであり、私が騎士爵をとれなかった場合、私に代わって近衛騎士団長になると噂されているテオが笑いながら肩をすぼめる。

肩の所で1つに結ばれた銀髪は走り込んだ後とは思えないほど、乱れることなくキラキラと輝いて見える。
切れ長のシルバーアイに、鼻筋の通った高い鼻、薄い唇はツヤツヤで、細くて長い首筋にはうっすらと汗が輝いている。
｢はいはい。ご機嫌お斜めのようなので退散しますか。アーシャ嬢、もう少し腕を大きく振ってみたら楽に走れますよ。｣
テオは私に走り方のフォームをして見せるとそのまま走り去っていった。

｢嫌なヤツ｣
彼の背中を見つめながら、ポツリとつぶやく。
｢こうかしら？？｣
先程テオがしたように大きく手を振ってみる。

｢おはよう。朝から見せつけてくれるわね～｣
にやけならがらやってくる親友に｢そんなんじゃないわよ！｣と言い返す。
同じく騎士課の同級生であり、
親友でもある辺境伯の1人娘であるシルビアが私に抱きついてくる。
｢もう、妬けちゃうったらありゃしないわ。私のアーシャにチョッカイだすなんて！！｣
まるでマーキングするみたいに、私の頭を撫でまわす。

騎士課は１５歳から２年間学校で学び、終業試験に２年かけて様々な場所で後方支援を行う。
魔物退治だったり、災害時の救助活動、領地戦の仲裁や戦争など、これらの試験にパスしなくては騎士にはなれないのだ。
その上の騎士爵ともなると、何か手柄をあげなくてはなれない。
入学してから半年、５人いた騎士課の女子は気がつくと私とシルビアだけになっていた。
だからだろうか、シルビアは私にべったりだ。
｢さあ、授業に遅れるわよ｣
シルビアは私の手を掴むと走り出した。
｢もう、朝から元気ね｣
私もシルビアの手を握り走り出す。
笑いながら走る私達を見つめる視線に気づきもせずに…