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第11話 あまりにも完璧
扉を開けると、乾いたハーブの香りが鼻をくすぐった。
室内に足を踏み入れると、まず目に飛び込んできたのは、壁一面に並ぶ古びた本棚。
本は色褪せ、少し埃をかぶっているが、目立った汚れは見えない。
さすがに他人の本を許可なく見たりなんてしないけど。
それに天井からは束ねられた薬草が吊るされている。
きっと、ラフタスさんが採った薬草を乾燥させているんだろう。
俺は部屋をぐるりと見渡すと、隣の扉へと手を伸ばした。
扉の先にあったのは、二畳ほどの狭い部屋。
閉じた窓の隙間から差し込む光が、棚に置かれた道具を淡く照らしている。
砂時計、スプーン、空の小瓶、
そして、
「これだ……」
”調合台”
薬草と素材を混ぜたり、煎じたり、抽出したりするための作業台。
薬を作るには欠かせない設備だ。
昨日、ラフタスさんが「薬は後で俺が作って持っていく」って言ってた時から、もしかしたらと思っていた。
今朝、本院に聞いたら予想通りだった。
この家は、薬師のおばあさんが住んでいたそうだが、五年ほど前に亡くなってしまったらしい。
それからはラフタスさんが簡単な薬を作るために使っているそうだ。
でも、これって……、
俺は手に持っていた桶を地面に置き、窓を開けると、部屋の中に光を入れ、改めて調合台を確認した。
吊るされた大釜に蒸留器、それに……魔力抽出器。
やっぱりこれはただの調合台じゃない
”錬金術作業台”だ。
調合台で作れるのは、あくまで薬だけ。
一方、錬金術作業台を使えば、ポーションを作ることができる。
薬とポーションの違いは、簡単に言えば魔石を使っているかどうか。
魔石を使わない薬は、効果が現れるまでに時間がかかり、効果も現実的な範囲でしかない。
それに対して、魔石を使って作るポーションは、今朝使ったもののように、いかにもゲームのような劇的な効果を発揮する。
これは予想外だ、良い意味で。
俺はポーチから持ってきた材料を取り出すと、作業台の上へ置いた。
昨日採ってきたガームショール。
今日、森から帰ってくるときに新しく採ってきた薬草、ミルドブラッド。
おばさんから貰ってきた蜂蜜に、近くの沢で汲んできた水。
それと一応持っておいたベルクの魔石。
材料は完璧だ。
あとは、こぼさないよう慎重に大釜に水を入れて……
「それと、火をつけたいんだけど……」
ラフタスさんが言うには、そばに置いてある火打ち石と鉄片を使って布切れに火をつけて、それを薪に移すらしい。
「……」
難しくないか、これ。
ライター一つで簡単に火をつけられる世界から来た俺に、そんなことできるのか?
とりあえず、俺は傍にあった布切れを大釜の下に置き、火打ち石と鉄片を手に取った。
そして、腕をできるだけ伸ばして体から遠ざけると、慎重に火打ち石を打ち付ける。
「カチッ…カチッ…」
乾いた音だけが部屋に響く。
少しずつ力を入れながら、何度も火打ち石を打ち付けてみるが、火花が散る気配はまるで感じられない。
これ、使い方あってるよな……?
俺は、胸の前で火打ち石の様子を観察しながら、軽くこするように何度も動かした。
打ち付ける場所を変えたり、角度を変えたりして。
その時、
「アッツ―――!!」
いきなり目の前で火花が散り、手元に降りかかった。
反射的に火打ち石を地面に落とすと、両手を水の入った大釜に突っ込む。
あっつ……。
全然力を入れてなかったのに。
というか、そもそもここ異世界だぞ。
火くらい魔法で付けさせてくれよ。
俺は心の中で文句を言いながら、火打ち石を拾い上げた。
今度は布切れのすぐ傍で火打ち石を擦り始める。
さっきみたいに、力任せに打ち付けるんじゃなくて、素早く擦るように……。
「あっつ」
数回こすり合わせると火花が散り、それが布切れに触れると、端から布が赤く染まり始めた。
そっと息を吹きかけながら布についた火を広げると、その上に薪を置き、さらに強く息を吹きかけた。
少しずつ、火が薪に移っていく。
ようやく薪に火を付けた俺は、吊るされた大釜を慎重に下げ、炎が底にしっかりと触れるように調整する。
お湯が沸くまでの間、俺は周囲の道具を確認し、頭の中で手順を繰り返した。
失敗は許されない。材料は限られている。
水がぶくぶくと沸騰すると、大釜を少し上に引き上げ、火が少しだけ大釜に触れるように調節した。
そしてガームショール三つとミルドブラッドを一つ入れ、近くの壁棚に置いてある砂時計をひっくり返した。
このまま十五分間、砂時計の砂がすべて落ちてくるまで弱火で煎じる。
「十五分か……長いな」
しかも、火の調節もしないといけないし。
調合系のスキルがあれば、もっと早くなるんだけど。
俺は火加減を調節しながら、ただひたすら砂時計の砂が落ちきるのを待った。
湯気の香りが少しずつ変わり、薬草の苦味が漂い始めている。
十五分経過すると、大釜を火から外し、蜂蜜を一匙垂らす。
そして、魔石を大釜の上にある魔力抽出器に置き、錘をそっと降ろす。
錘が魔石に触れると、魔石から白色の霧のような煙のようなものが少しずつ溢れる。
それは静かに下に落ちていき、大釜へと溜まっていく。
「……三…四…五」
そして五秒数え終えると、抽出機の錘を引き上げた。
あとは、これをゆっくりかき混ぜながら、大釜に溜まった煙が薬液と混ざり合うのを待つ。
しばらくかき混ぜていると、煙は薬液と混ざり合い、中に残っていた薬草も無くなっていた。
俺は壁棚に無数に置いてあるくすんだ色の小瓶を手に取ると、注ぎ口のついた柄杓を使って、慎重に薬液を注いでいく。
俺は大釜に残った薬液もすべて小瓶に注ぎ、計五本のポーションを完成させた。
完…璧。
リアルで初めて作ったのにも関わらず、火加減、時間、魔力抽出すべてが完璧だ。
もしかしたら、ポーション作りのセンスがあるのかもな。
「どれどれ……」
俺はおもむろにポーションを手に取ると、口元に運び、ゆっくりと小瓶を傾ける。
その瞬間―――
「プーーッ!!」
うん、失敗した。
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