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第1章 神は死んだ。十年前に。
第10話 帰れないと、帰らないは違う
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飛び起きた。
当然ながら檜山たちに虐められていたのは夢の出来事だった。
だけどそういう過去がなかったというわけではない。
類似の出来事はそれこそ毎日のようにあった。
僕は寝汗でびしょびしょになった衣服を脱ぐか迷いながら、本当のところは別のことで悩んでいた。
日本に戻ったところで待っているのはあの日々である。
当初は戻らなければならないと考えていた。
でもそれは常識的に考えた結果だ。
普通ならそう考えるということを後追いしたにすぎない。
現状のこれは虐めから逃げ切れた、と言えるのでは無いだろうか。
つまり『帰らない』という選択肢にようやく僕は思い当たったということだ。
でも僕はこのアーリアで生きていけるだろうか?
生活できるギリギリの額は仕事で稼げるとメルは言った。
だけどそれって普通の人の場合だよね。
ステータスの異様に低い僕だと事情が異なる。
こちらの世界で僕が自活できるかどうかは明日になってみなければわからない。
少なくともこちらの世界もゲームの中でステータスに左右されているのは間違いないのだ。
コンコンと扉がノックされる。
僕はビクリと震えた。
「ひーくん、大丈夫? うなされてるのがこっちまで聞こえてきたよ」
メルの声だ。
僕は安堵の息を吐いた。
起き上がり、鍵を外して扉を開けると仄かに光を放つランプのようなものを持ったメルがいた。
「起こしたならごめん。悪い夢を見てたんだ」
「顔が真っ青だよ。ほら、ベッドに戻って」
メルに促されて僕はベッドに戻る。
ポンポンとベッドを叩かれて、僕はそこに横になった。
「急に別の世界に来たんだもんね。不安になるのもわかるよ」
そういうことではなかったけれど、メルの手が僕の頭を撫でるので、僕はその優しさに浸っていたくて本当のことを言い出せない。
「ひーくん、家族はいる?」
「両親と妹が」
「ひーくんも不安だと思うけど、きっとご家族はそれ以上に心配してるよ」
「あっ……」
僕はなんて自分勝手な人間なんだろうか。
自分のことばかりで、残してきた家族のことを何一つ考えていなかった。
「明日から頑張って早くお家に帰らないとね」
「うん。そうだね」
僕の家族は普通の人たちだ。
つまり普通に家族である僕のことを愛してくれていると思う。
僕が虐められていることも、ダンジョンに入っていることも伝えていないから、家に帰ってこないことを心配しているだろう。
そして僕はダンジョンから出ることなく日をまたぐことになる。
日本のダンジョン入退場は厳密に記録されていて、日をまたぐようなダンジョンアタックをする場合は事前に申請しておくことになっている。
つまり明日になれば僕がダンジョンから出てきていないことが明らかになる。
檜山たちが報告するにせよ、しないにせよ、僕はダンジョン内行方不明者ということになる。
ダンジョン内行方不明は半年で公的に死亡扱いとなる。
もし僕が半年以内に橿原ダンジョンを脱出できなければ、僕は死ぬのだ。日本での扱いとしては。
家族は僕の遺体のない葬式をすることになるだろう。
「半年以内に帰らないと僕は死んだ扱いになってしまう」
「アーリアにも似た制度があるよ。冒険者タグだけが返ってくるか、行方不明のままだと死んだ扱いになっちゃう」
「それよりは早く帰るよ」
「うん。目標ができたね。でもいまはゆっくりと休んだ方がいいよ。大丈夫。寝ちゃうまで私が見ててあげるから」
まるで小さな子どもにするようにメルは僕の頭を撫でながら、聞きなじみの無い曲を穏やかに歌う。
きっとこちらの子守歌なんだろう。
ただただ安心がそこにはあった。
人に優しく触れられているというのはこんなに心地良いものなのか。
僕は抗いきれずに目を閉じた。
もう悪夢は見なかった。
当然ながら檜山たちに虐められていたのは夢の出来事だった。
だけどそういう過去がなかったというわけではない。
類似の出来事はそれこそ毎日のようにあった。
僕は寝汗でびしょびしょになった衣服を脱ぐか迷いながら、本当のところは別のことで悩んでいた。
日本に戻ったところで待っているのはあの日々である。
当初は戻らなければならないと考えていた。
でもそれは常識的に考えた結果だ。
普通ならそう考えるということを後追いしたにすぎない。
現状のこれは虐めから逃げ切れた、と言えるのでは無いだろうか。
つまり『帰らない』という選択肢にようやく僕は思い当たったということだ。
でも僕はこのアーリアで生きていけるだろうか?
生活できるギリギリの額は仕事で稼げるとメルは言った。
だけどそれって普通の人の場合だよね。
ステータスの異様に低い僕だと事情が異なる。
こちらの世界で僕が自活できるかどうかは明日になってみなければわからない。
少なくともこちらの世界もゲームの中でステータスに左右されているのは間違いないのだ。
コンコンと扉がノックされる。
僕はビクリと震えた。
「ひーくん、大丈夫? うなされてるのがこっちまで聞こえてきたよ」
メルの声だ。
僕は安堵の息を吐いた。
起き上がり、鍵を外して扉を開けると仄かに光を放つランプのようなものを持ったメルがいた。
「起こしたならごめん。悪い夢を見てたんだ」
「顔が真っ青だよ。ほら、ベッドに戻って」
メルに促されて僕はベッドに戻る。
ポンポンとベッドを叩かれて、僕はそこに横になった。
「急に別の世界に来たんだもんね。不安になるのもわかるよ」
そういうことではなかったけれど、メルの手が僕の頭を撫でるので、僕はその優しさに浸っていたくて本当のことを言い出せない。
「ひーくん、家族はいる?」
「両親と妹が」
「ひーくんも不安だと思うけど、きっとご家族はそれ以上に心配してるよ」
「あっ……」
僕はなんて自分勝手な人間なんだろうか。
自分のことばかりで、残してきた家族のことを何一つ考えていなかった。
「明日から頑張って早くお家に帰らないとね」
「うん。そうだね」
僕の家族は普通の人たちだ。
つまり普通に家族である僕のことを愛してくれていると思う。
僕が虐められていることも、ダンジョンに入っていることも伝えていないから、家に帰ってこないことを心配しているだろう。
そして僕はダンジョンから出ることなく日をまたぐことになる。
日本のダンジョン入退場は厳密に記録されていて、日をまたぐようなダンジョンアタックをする場合は事前に申請しておくことになっている。
つまり明日になれば僕がダンジョンから出てきていないことが明らかになる。
檜山たちが報告するにせよ、しないにせよ、僕はダンジョン内行方不明者ということになる。
ダンジョン内行方不明は半年で公的に死亡扱いとなる。
もし僕が半年以内に橿原ダンジョンを脱出できなければ、僕は死ぬのだ。日本での扱いとしては。
家族は僕の遺体のない葬式をすることになるだろう。
「半年以内に帰らないと僕は死んだ扱いになってしまう」
「アーリアにも似た制度があるよ。冒険者タグだけが返ってくるか、行方不明のままだと死んだ扱いになっちゃう」
「それよりは早く帰るよ」
「うん。目標ができたね。でもいまはゆっくりと休んだ方がいいよ。大丈夫。寝ちゃうまで私が見ててあげるから」
まるで小さな子どもにするようにメルは僕の頭を撫でながら、聞きなじみの無い曲を穏やかに歌う。
きっとこちらの子守歌なんだろう。
ただただ安心がそこにはあった。
人に優しく触れられているというのはこんなに心地良いものなのか。
僕は抗いきれずに目を閉じた。
もう悪夢は見なかった。
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